間質性膀胱炎とは?症状、診断方法、原因、治療など
間質性膀胱炎は膀胱炎の種類の一つです。
目次
1. 間質性膀胱炎とはどんな病気なのか?
間質性膀胱炎は、治らない頻尿(ひんにょう)、トイレに行った後にもまたすぐ行きたくなる、排尿を我慢するとお腹が痛くなるなどの症状が長く続く病気です。膀胱炎の多くは
参考文献
・難病情報センター
間質とは何のことなのか?
間質は膀胱の壁をつくっている一つの層のことです。膀胱の壁はいくつかの違う層が重なり合って出来ています。尿を溜める内側に接している層を粘膜といいます。粘膜の下の層が間質です。間質の下には筋肉の層があります。筋肉は膀胱を膨らませたり縮ませたりする役割を担っています。間質は粘膜と筋肉の間の層のことです。
2. 間質性膀胱炎と合併しやすい病気は?
間質性膀胱炎と
線維筋痛症(せんいきんつうしょう)
線維筋痛症とは
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は涙や唾液の分泌量が減って、ドライアイやドライマウスの症状が出る病気です。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は検査など明らかな異常が認められないにも関わらず、お腹の不快感・便秘・下痢などの症状が長く続く病気です。腹痛などの症状は排便により良くなりますが、ストレスなどで悪化することが知られています。
3. 間質性膀胱炎の原因は?
間質性膀胱炎の原因は明らかではありません。膀胱粘膜の機能障害や免疫の異常、尿中の物質による刺激などが推測されています。
4. 間質性膀胱炎の症状:血尿・痛み・尿意切迫感など
間質性膀胱炎の人の典型的な症状として、尿が溜まると膀胱の辺り(下腹部)に痛みを感じます。痛みが長引いている人の場合は痛む前にトレイに行くので1日の排尿回数が20回を超える人も珍しくはありません。
以下の様な症状がある人は間質性膀胱炎かもしれません。
- 尿が溜まると下腹部が痛くなる
- 女性で性交時に痛みがある
- 排尿してもまたすぐに尿意をもよおす
- 夜に何度もトイレにいく
- いつも排尿のことが頭から離れない
これらの症状以外でも細菌性膀胱炎と診断されて治療しているにも関わらず症状が良くならない人や頻尿の薬を飲んでも効果がない人は間質性膀胱炎の可能性があります。
5. 間質性膀胱炎の検査は何をするのか
間質性膀胱炎の診断には他に症状の原因となる病気(細菌性膀胱炎など)がないことを確認することが大事です。他の病気の可能性を消していき間質性膀胱炎だけが答えとして残った時に間質性膀胱炎の診断にいたります。このような診断の方法を除外診断といいます。
除外診断のためには様々な検査が必要になり、ここで紹介した以外の検査が予定されることもあります。
問診
症状と経過などを詳細に聞きます。
- 症状はいつからか
- はっきりとではなくてもよいので症状が現れた時期や時間経過と症状の関係(だんだん悪くなってきた、軽くなってきたなど)を伝えてください。
- 尿の色(
血尿 の有無)- 血尿や尿の色の変化などがないかを伝えてください。
- 排尿時痛の有無
- 痛む場合は「出始めが痛い」「終わりに近づくと痛い」などタイミングも伝えると参考になります。
- 排尿回数
- なるべく詳しく、午前中に何回、午後何回、寝た後何回と伝えるとよいです。
- 1日8回以上トイレ(排尿)に行く場合を頻尿とします。
- トイレに行く間隔
- 間質性膀胱炎では間隔は短いことが多いです。
- 症状がひどくなるときはあるか
- 食事や飲酒、睡眠時間などの日常生活が症状の悪化などに影響することがあります。
- 症状が軽くなる時はあるか
- 腹部を温めたりすると症状が軽くなる人もいます。症状を和らげるものがあれば伝えてください。
- 1日の水分摂取量
- 頻尿の原因が水分の取り過ぎであることはよくあります。ほかの病気の症状と関係して水をたくさん飲んでしまう場合もあります。
- 尿失禁の有無
- 答えにくい内容ですが、尿を漏らしたことがあるかどうかは治療方針の決定にも関わります。
- 今までにかかった病気や治療中の病気
- 治療中の病気や使用中の薬、過去に受けた手術が症状の原因になることもあります。
- 他の症状
- 腹痛や腰痛、女性であれば重い生理痛などの症状もあれば伝えてください。
筆者が診察するときに問診する内容の一例を挙げてみました。
排尿に関する話題は恥ずかしい気持ちからなかなか伝えにくいことも多いと思います。しかしありのままにできるだけ具体的に伝えてもらうことで正確な診断に早く辿りつくことができます。恥ずかしさは忘れてしっかりと伝えることが大事です。
尿検査
尿検査では血尿の有無や尿に
尿培養検査(にょうばいようけんさ)
尿の中に細菌がいるかを検査で調べます。細菌性膀胱炎などと区別するのに有用な検査です。細菌が増殖するのを待たなければならないので、検査結果が出るまでに2−3日の時間を必要とします。
尿細胞診(にょうさいぼうしん)
間質性膀胱炎は膀胱がんとの区別が難しいときがあります。
超音波検査(ちょうおんぱけんさ)
膀胱鏡検査(ぼうこうきょうけんさ)
膀胱鏡検査は外尿道口(尿の出口)から
間質性膀胱炎では膀胱の中に小さな点のように見える出血(点状出血)やハンナ
膀胱水圧拡張術(ぼうこうすいあつかくちょうじゅつ)
膀胱水圧拡張は間質性膀胱炎の診断に重要な検査で、診断基準の一つである点状出血をみることができます。膀胱水圧拡張術を行うと間質性膀胱炎の症状が和らぐ効果もあり診断と治療の両方の意味を持ちます。膀胱水圧拡張術は、入院して麻酔をして行うことが多いです。以下では膀胱水圧拡張術の方法の手順と様子について説明します。
- 膀胱を内視鏡で観察します。水圧拡張する前の膀胱は異常を指摘できないことが多いです。
- 内視鏡検査のあとに膀胱に水(生理食塩水)を注入して水圧拡張術を行います。膀胱水圧拡張術は、恥骨より80cm高い位置から自然に落ちるスピードで膀胱内に生理食塩水を注入します。
- 水圧拡張により膀胱は勢い良く広がります。
- 水圧拡張のあと膀胱の中を内視鏡で観察すると細かな点状の出血をみることができます。これが点状出血です。正常な膀胱ではこのような反応が起きることはありません。
どのようにして効果が起きているかは不明ですが膀胱水圧拡張術を行うと間質性膀胱炎の症状(頻尿や膀胱痛など)が改善することも知られています。このため膀胱水圧拡張術は診断的治療とも呼ばれることがあります。
6. どうなったら間質性膀胱炎と診断されるのか:ハンナ潰瘍
日本間質性膀胱炎研究会が間質性膀胱炎の診断基準を提示しています。この基準では以下に当てはまる人が間質性膀胱炎と診断されます。
- 頻尿、尿意亢進、尿意切迫感、膀胱不快感、膀胱痛などの症状がある
- 膀胱内にハンナ
病変 または膀胱拡張術後の点状出血を認める - 上記の症状や
所見 を説明できる他の疾患や状態がない
間質性膀胱炎の症状は、頻尿や尿意亢進、尿意切迫感、膀胱不快感、膀胱痛などです。これらの症状は間質性膀胱炎の診断には必須です。ただし間質性膀胱炎と同じ症状は他の病気でも現れることがあります。症状の原因が他の病気かどうかを調べることも間質性膀胱炎の診断をするうえで大事です。
ハンナ病変と点状出血は間質性膀胱炎で観察できる膀胱の壁の変化です。
ハンナ病変はハンナ潰瘍(かいよう)とも言います。膀胱粘膜がベルベット状にひび割れた様子をハンナ病変と言います。ハンナ病変は内視鏡検査により確認できます。また病気の部分を内視鏡でつまみ出して顕微鏡で観察すると血管が増えている様子や
点状出血は膀胱水圧拡張をした後に膀胱に点状の出血が現れることです。
間質性膀胱炎を診断するにはハンナ潰瘍があるまたは点状出血があるどちらかがあれば間質性膀胱炎の診断に至ります。
ハンナ病変の有無でさらに間質性膀胱炎は2つに分けることができます。
- ハンナ型間質性膀胱炎:ハンナ病変を有するもの
- 非ハンナ型間質性膀胱炎:ハンナ病変はないが膀胱拡張時の点状出血を有するもの
ハンナ型間質性膀胱炎の方が重症度は高いことが多いと考えられています。重症度が高い場合はより積極的な治療が必要になるので両者を区別することは重要です。
またハンナ型間質性膀胱炎は指定難病とされています。指定難病の人は医療費助成制度などを使えることがあるので医療機関で制度の活用について相談してみてください。詳細は「難病情報センター」のウェブサイトを参考にしてください。
参考文献
・日本間質性膀胱炎研究会
・難病情報センター
7. 間質性膀胱炎の治療方法は?
間質性膀胱炎の治療は膀胱水圧拡張術を始めとして独特の方法が使われます。ここでは間質性膀胱炎の治療法について解説します。
膀胱水圧拡張術とは?
膀胱水圧拡張は間質性膀胱炎の診断に重要な検査ですが治療として使うこともあります。膀胱水圧拡張術を行うと間質性膀胱炎の症状が和らぐ効果もあり診断と治療の両方の意味を持ちます。水圧拡張術の効果は数週間から数ヶ月継続しますが、多くの人は症状が現れて再び水圧拡張術が必要になります。
間質性膀胱炎の治療薬
間質性膀胱炎は
また膀胱の中に局所麻酔薬や、
膀胱訓練(ぼうこうくんれん)
膀胱訓練は間質性膀胱炎の治療として有効です。特に道具を必要せず自分でできるので日常生活の中にも取り入れやすいです。
膀胱訓練はトイレに行きたくなったら少し我慢することです。コツが3つほどあります。
- 尿を我慢するときは肛門にも力をいれる
- 深呼吸をして排尿以外のことを考える
- 最初は5分でもよいので少しずつ時間を伸ばしていく
排尿を我慢することで膀胱が少しずつ広がっていき症状の改善、特に排尿間隔がながくなる効果があります。膀胱訓練は自分でできる水圧拡張術というイメージです。排尿日誌をつけると効果的です。
焼灼術(しょうしゃくじゅつ)
間質性膀胱炎でハンナ潰瘍が出来ている場合はハンナ潰瘍をレーザーや電気メスで焼き切ると症状が改善します。外来でできることもありますが入院して水圧拡張術と同時に行うことが多いです。
手術
間質性膀胱炎がかなり進行すると膀胱にほとんど尿が溜められなくなることがあります。膀胱に尿を溜めることができないと尿の回数がかなり多くなり日常生活への支障は大きいです。このような状態では膀胱の機能はほとんどないに等しいといえるかもしれません。重症の間質性膀胱炎に対しては手術で膀胱を摘出(膀胱全摘)したり膀胱の壁を腸で置き換えて(膀胱拡大術)膀胱に尿が溜まるようにしたりすることを検討することがあります。
膀胱全摘も膀胱拡大術も身体への負担はかなり大きいので慎重に検討します。間質性膀胱炎で手術が必要になるのはまれです。
8. 間質性膀胱炎になったときに気をつけるべき生活:食事、水分摂取など
間質性膀胱炎の症状は食事などの日常生活による影響があるとされています。食事によって症状の変化が現れる人がいます。
参考文献
・排尿プラクティス.2013;21:43-50
・Interstitail cystitis association(ICA)
・ICAからの食事に関する意見(2011年3月版)
間質性膀胱炎では食事に気をつけるのはなぜ?
間質性膀胱炎の人の症状は食事により悪化したり改善したりするという意見があります。ICA(間質性膀胱炎学会)によると以下の様な食品が間質性膀胱炎の症状を悪化させる可能性があります。
- カフェイン
- アルコール飲料
- 炭酸飲料
- トマト
- 唐辛子を含む食事
- 人工甘味量
- パイナップル/パイナップルジュース
- ホースラディッシュ
- 酢
- ニシンの酢漬け
ICAでは特にコーヒーや紅茶、炭酸飲料、アルコール、パイナップルジュース、人工甘味料などが間質性膀胱炎の症状を悪化させる食品であるとしています。
これらの食品を完全にやめれば症状が良くなるわけではありません。食事と症状の関係にはかなり個人差があることも知られています。
自分の症状と関係のある食品をみつけるには排尿状態と食事の内容を記録することから始めてみてください。記録した結果、症状と関連する食品が明らかになればその食品を避けることで症状が改善するかもしれません。
食事療法については自分でもできそうと思うかもしれませんが、開始するときには医師に相談して栄養士などの助言を得てからの方が望ましいです。適切な助言のもとあなたにあった食事を探してみてください。
9. 間質性膀胱炎は自然治癒するのか?
間質性膀胱炎が自然
間質性膀胱炎の人の中には膀胱訓練などの日常生活の中での工夫で症状が改善する人がいます。その一方で症状が重く何度も水圧拡張術が必要になったり手術で膀胱を摘出することを検討する人も中にはいます。
膀胱訓練などで症状が改善し日常生活に困らないような状態になれば自然治癒と言えるかもしれませんが全員には当てはまりません。間質性膀胱炎と診断されたら定期的に医療機関を受診してそのときに適切な検査や治療を受けることが大事です。
10. 間質性膀胱炎は何科を受診したらよいか?専門医の診察が必要か?
間質性膀胱炎は泌尿器科で治療します。
泌尿器科医の中でも間質性膀胱炎の診療を専門とする医師は多くはありません。間質性膀胱炎を専門とする医師については、間質性膀胱炎研究会のウェブサイトにある「診療に応じる医師」のリストは受診する医療機関を選ぶ上で参考になると思います。
また泌尿器科は医療機関によっては検査が十分にできない施設もあるので事前に膀胱鏡などの検査ができるかも確認しておいた方がいいと思います。せっかく勇気をもって受診したにも関わらず診察や検査が受けられないと治療を開始する時期も遅くなり時間がもったいないと思います。医療機関の診察・検査の状況は医療機関が作成したウェブサイトなどで確認するといいでしょう。