だいちょうがん
大腸がん
大腸の粘膜にできるがん。国内のがん患者数がもっと多く、死亡者数も女性において原因の1位
20人の医師がチェック 305回の改訂 最終更新: 2024.01.10

大腸がんの検診: 便潜血検査の方法、陽性・陰性の意味、費用などについて知っておきたいこと

大腸がんは近年国内で増加しているがんです。早期に治療するためにがん検診が重要と考えられています。大腸がんのがん検診ではどういったことを行うのでしょうか。

1. 大腸がんの検診を受けるべき年齢は?

大腸がんは30代まではほとんど発生しないのですが、40代になって急速に罹患率が上昇します。そのため大腸がんの検診では40歳以上の人に便潜血検査を行います。というのも、もともと罹患数の少ない40歳未満の人に検診を行っても検査の精度が悪いからです。少し難しい話になりますが詳しく説明しましょう。興味のない方は次の章(検査の頻度はどれくらいにすべき?)まで飛ばし読みしていただいて構いません。

便潜血検査の実際

大腸がん検診がどれぐらい頼りになるかを数字で見ていきます。実は、がんが見つかる確率の低い人が検診を受けると、検査結果はあまり頼りにならないものになってしまいます。

検査には、感度特異度という指標があります。感度とは病気を持った人に検査を行うと陽性結果の出る割合のことを指し、特異度は病気のない人に検査を行ったところ陰性結果の出る割合のことを指します。感度も特異度も高いほうが良い検査と言えます。

大腸がん検診で行う便潜血検査に当てはめると、感度と特異度は以下のことを意味します。

  • 感度:大腸がんのある人が便潜血陽性となる割合
  • 特異度:大腸がんのない人が便潜血陰性となる割合

便潜血検査の感度は30-92.9%で特異度は88-97.6%と言われています。

感度と特異度は同じ検査なら一定という特徴があります。対して、実際に検査をするときに知りたいのは大腸がんがある確率です。検査陽性のときに大腸がんの確率が高く、検査陰性のときに大腸がんの確率が低いほど、検査をする価値が大きいと言えます。

同じ検査結果でも誰を調べたかによって大腸がんの確率は違います。大腸がんの確率があまりに低い人が検査をすると、結果を見ても大腸がんの確率があまり変わらないということが起こります。

言葉で説明すると長くなるので数字でシミュレーションしてみましょう。

検査の性能は、およその平均を取って感度60%・特異度95%とします。

■大腸がん患者が多い集団(有病割合1%)で便潜血検査した場合

とある市で100万人に対して便潜血検査を行った場合を考えてみましょう。100万人の中に大腸がんのある人が1万人いて、検査は感度60%・特異度95%と仮定します。

検査をしなければ大腸がんの確率は誰でも1%ですから、「大腸がんがあるかもしれないから詳しく調べよう」と思うか、「たぶん大腸がんはないから放置しよう」と思うかは微妙なところです。

そこで便潜血検査をすると結果はどうなるでしょうか。以下の表をご覧ください。

【便潜血検査の精度】

 

検査陽性

検査陰性

合計

大腸がんあり

6,000

4,000

10,000

大腸がんなし

49,500

940,500

990,000

合計

55,500

944,500

1,000,000

仮定を当てはめると表の検査結果になります。このとき検査結果を見て大腸がんがあるかないかはわかるでしょうか。

検査が陽性の人のうち、実際に大腸がんがある人の割合を陽性的中率と言います。検査が陰性の人のうち実際に大腸がんがない人の割合を陰性的中率と言います。陽性的中率と陰性的中率が高いほど正しく診断できることになります。

表から陽性的中率と陰性的中率は次のとおり計算できます。

陽性的中率:6,000÷55,500=10.8%

陰性的中率:940,500÷944,500=99.6%

この数字は、検査で陽性となった人のうち11%ほどに大腸がんがあるという意味です。もし「あなたに大腸がんがある確率は11%です」と言われたら、「もう少し調べてほしい」と思うのではないでしょうか。そこで、陽性の結果が出た人は精密検査に進むという判断ができます。

一方、検査が陰性ならば大腸がんがある確率は0.4%ほどですから、「おそらく大丈夫」と判断することができます。

それではもっと大腸がん患者の少ない場合はどうなのでしょうか。

■大腸がん患者が少ない集団(有病割合0.01%)で便潜血検査した場合

人口100万人のうち大腸がんは100人しかいない集団で便潜血検査を行ったとします。今度は検査をしなくても大腸がんの確率は0.01%ですから、検査をしないで放置したとしても大丈夫である確率が高いです。

ここで便潜血検査を行ったとします。検査の性能はさきほどと同じ感度60%/特異度95%とします。すると検査結果は表のとおりになります。

【便潜血検査の精度】

 

検査陽性

検査陰性

合計

大腸がんあり

60

40

100

大腸がんなし

49,995

949,905

999,900

合計

50,055

949,945

1,000,000

表から陽性的中率と陰性的中率は次のとおりです。

陽性的中率:60÷50,055=0.12%

陰性的中率:949,905÷949,945=99.996%

(説明のため有効数字の扱いを不統一にしています)

検査が陰性ならば大腸がんのない可能性が非常に高いと言えます。しかし、検査前から大腸がんの確率は非常に低いことがわかっていたので、検査をしたことによって判断は変わりません。

一方、検査が陽性だった場合、大腸がんがある確率は0.12%です。「0.1%でも見逃したくない」と思う人はいるかもしれませんが、その考えは検査前の「0.01%」のときとあまり変わっていないのではないでしょうか。

つまり、もともと病気が隠れている確率が非常に低いとわかっている場合は、検査結果が陽性だろうと陰性だろうと、判断を変える力が弱くなるのです。

このようにどんなに検査の精度が優れていても、検査する対象にほとんど有病者(病気を持っている人)がいない中で検査すると頼りにならないものになってしまいます。

実は、40歳未満の人が大腸がんを持っている割合は0.01%以下です。検査で陽性と出ても全く信用のできない検査になってしまいます。

不適切な検査は当てにならないだけでなく害があります。検査をするためのお金と時間は確実にかかります。また、本当は大腸がんがないのに陽性の結果が出てしまうと、不安になってしまいます。上の計算で言うと100万人中5万人近くが「陽性」という結果を告げられます。確率は低いと数字で理解していても、やはり「検査で陽性だった」と言われると怖くなるのではないでしょうか。実際は年を取ってから検査で陰性だったときのほうが大腸がんの確率は高いにもかかわらず、若いうちから「私は大腸がんかもしれない」と思わされてしまうのは得策ではありません。

もし40歳未満で便潜血検査をする機会があり、結果が陽性で「経過観察」と言われたとしても、あまり心配することはありません。もちろん医学に絶対はないので、「絶対に大腸がんではない」とも言い切れませんが、40歳未満の人はたとえ便潜血陽性だったとしても大腸がんがある確率は非常に低いと言えます。

こうした理由で、40歳未満の人には便潜血検査による検診を行わないことになっています。

2. 検診の頻度はどれぐらいにすべき?

大腸がんの検診は便潜血検査を行います。便潜血検査は1年ごとに受けることが推奨されています。

便潜血検査で陽性になった時には次のステップの検査を行います。次のステップの検査では多くの場合、下部消化管内視鏡大腸カメラ)を使います。大腸カメラの検査では大腸の中を見ることができるため、もちろん診断の難しい場合があるとは言え、大腸がんがあった場合はほぼ見落としなく見つけることができます。

便潜血検査は陰性であれば非常に高確率で大腸がんがないと判断できます。便潜血検査が陽性であった場合は、大腸カメラの検査を行って白黒をつけることになります。大腸カメラでがんが見つかった場合は治療を開始しますし、がんのなかった場合は大腸がんはないと結論づけることになります。

大腸がんのない状態からすぐに進行した大腸がんが出現することはあまりなく、ある程度の期間を経て目に見えるがんができると考えられています。そのため、検査でがんがないという結果が出てきてからしばらくの期間は検査をしなくても大丈夫であろうと言われています。その期間がおよそ1年くらいとされているため、検診は1年毎に受けることが推奨されています。

3. 大腸がんの検診方法とは?問診と便潜血検査について解説

大腸がんの検診の便潜血検査は大腸がんを早期発見できます。陽性なら大腸内視鏡検査などの精密検査で確かめます。大腸がんは症状が出にくいので検診が大切です。大腸がんの検診の結果から決められる方針について説明します。

問診ではどんなことが聞かれるの?

基本的には、大腸がんの症状である便の状態(下痢、便秘、細い便の有無など)や、お腹の状態(腹痛、お腹の張りなど)について質問されます。また、家族の中に大腸がんを発症した人がいないか聞かれることもあります。

便潜血検査はどんな検査?

検便の方法

便潜血検査は、便の中に血液が含まれているかどうかを見る検査です。大腸がんの組織はもろいため、便が通る際の刺激で出血しやすくなります。便潜血検査は、そうした「大腸がんの多くは便に血が混じる」という特徴を利用した検査です。検査自体は、専用の検査キットを使います。この専用キットは自宅で使用することも可能です。便の表面をこすってキットに含まれている容器に保管し、医療機関に提出すると一定の期間を経て検査結果が出ます。

検査で陽性だった場合どうなるの?

大腸がん検診でもし「陽性」であった場合、その後の検査の流れは以下の図のようになります。

(「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版」を参考に作成)

検診が陽性だからと言って、必ずしも「大腸がんである」とは診断されません。病院で精密検査を行い、その後、確定診断が行われます。しかし、検診の結果が「陰性」であったとしても「大腸がんではない」とは言い切れません。どのような検査にも「見逃し」があるため、たとえ陰性であったとしても油断せず、定期的に(1年に1回)検診を受けることが非常に大事です。

痔があると便潜血の結果が変わる?

痔がある人は便潜血検査と相性が悪いと言えます。痔と言っても医学的には痔核痔瘻裂肛に分類されるのですが、便潜血検査との関係はおおむね同様なのでまとめて説明します。

大腸がんは出血しやすいという性質があります。便潜血検査は便の中にある血液成分を見る検査ですので、大腸がんから出血があればそれを拾うことができます。

痔は肛門周囲にできる病気でたびたび出血します。痔があるだけで便に血が混じる原因となります。そのため、痔があるとたいていの場合便潜血が陽性となってしまいます。すると、便潜血陽性となった原因が、大腸がんによるものなのか痔によるものなのかの判断がなかなかつきません。どちらが原因であろうとも、結局は大腸カメラを行って原因をはっきりさせることになります。

痔の人は便潜血検査をしなくてよいのではないか、と思えるかもしれません。しかし、痔があっても便潜血検査が陰性なら大腸がんではなさそうだと言えます。そのため全員にいきなり負担の大きい大腸カメラを行うのではなく、やはり便潜血検査を最初に使います。

生理でも大腸がんの検診はできる?

生理のときは出血していますので、便検査を行うと便の中に血液が混じります。痔の場合と同じく、便潜血陽性となった原因が大腸がんによるものなのか生理によるものなのかの判断がなかなかつきませんので、生理中の検査は極力避けたほうが良いでしょう。あらかじめ決められた検診日に生理になってしまったあるいは生理になりそうな方は、検査する自治体や医療機関に相談してみてください。

大腸がん検診の結果の意味は?

便潜血検査が陽性でも実際に大腸がんである確率は低いですが、決して無視できるものではありません

上の「便潜血検査の実際」という項目で説明した表をご覧ください。仮に100人に1人が大腸がんという割合の高いグループに対して便潜血検査を行っても、陽性的中率は11%と低い値になります。つまり、便潜血検査が陽性となっても、実際に大腸がんである可能性は11%ということになります。

通常の検診が行われる場合は100人に1人よりも低い割合になりますので、便潜血陽性となっても大腸がんである確率は低いと考えて良いです。

「検査陽性」という言葉に驚いて「私はがんだったのか?」と考えすぎることはありません。続けて大腸カメラで調べれば、だいたいの人は「大腸がんではなかった」という結果になりますので、慌てず精密検査を受けてください。

とはいえ、便潜血検査で陽性だったときに「どうせがんではないから、確かめるまでもない」と考えるのは検査の受け方として適切ではありません。より詳しい検査に進むべきかどうかを選ぶために便潜血検査があるので、陽性の結果を無視すると意味がなかったことになってしまいます。

推定される確率が低いとはいえ、陽性の結果は、ほかの人よりは大腸がんの確率が高いことを意味しています。事実として大腸がんがあるなら自分にとっては100%です。心配すべき程度を合理的に判断するために検査が役に立ちます。

特に以下の症状がある場合は大腸がんである確率が上昇するので気をつけなければなりません。

  • ずっと下痢である
  • ずっと便秘である
  • 便が赤い
  • 便が黒い
  • 便秘や下痢を繰り返す
  • 原因もなく痩せていく

これらの症状があっても、一時的に起こっただけの場合や、若いころからずっと続いている場合は、様子見しても大丈夫な場合が多いです。しかし、数か月以内に突然症状が現れた上に持続している場合は要注意です。大腸がん以外に炎症性腸疾患などの可能性も考えられるので、医療機関にかかって精密検査を受けたほうが良いでしょう。

4. そもそも大腸がん検診は有効なのか?

大腸がん検診で陽性となっても、実際に大腸がんである確率は非常に低いです。しかし、検診は診断を確定させることではなく、さらに検査すべき人を見つけることに役割があります。

仮に100人に1人が大腸がんという有病割合の高いグループに対して便潜血検査を行っても陽性的中率(検査陽性の場合に実際に病気のある割合)は11%と低い値になります。10,000人に1人が大腸がんというグループに対して便潜血検査を行った場合には陽性的中率0.12%と非常に低い値になります。

すると、良くても89%は的中しない検査に意味があるのでしょうか?

「外れが多いから意味がない」と思えてしまうかもしれませんが、「89%は的中しない」という言い方は偏っています。検診は意味があるからこそ行われているのです。どういった意味があるのか考えていきましょう。

まず有病割合が1%のグループに対して便潜血検査を行った場合を考えてみましょう。以下の表の結果になります。

【便潜血検査の精度】

 

検査陽性

検査陰性

合計

大腸がんあり

6,000

4,000

10,000

大腸がんなし

49,500

940,500

990,000

合計

55,500

944,500

1,000,000

陽性的中率:6,000÷55,500=10.8%

陰性的中率:940,500÷944,500=99.6%

ここで注目すべきことは陰性的中率は99.6%と非常に高い数字になっていることです。つまり、便潜血検査では「大腸がんではなさそうだ」という結果が的中する確率は非常に高いのです。これは検診で行う検査としては大きなメリットがあります。

検診で行う検査にはポイントがあります。

  • 検診は診断を確定させる検査ではない
  • 次に検査を行うべき人を絞り込む検査である

つまり、全員に精密検査を行うと、非常に手間がかかりますし負担も大きくなります。大腸がんの検診で次に診断を確定させる検査は大腸カメラです。大腸カメラは診断するためには非常に有用な検査である一方で、患者さんの負担が大きい検査になります。もとから大腸がんの確率が非常に低い人が行うことはおすすめできません。そのため、検診で便潜血検査を行うのは大腸がんの確率の高い人を探すためにふるいにかける意味があります。

100人に1人が大腸がんであるグループに検診を行わずにいきなり大腸カメラを行うと考えてみましょう。すると99%の人が苦しい検査をしたのにがんが見つからないことになってしまいます。しかし、先立って便潜血検査を行うことで、苦しい思いをする人が5%あまりにまで減っています。便潜血検査という簡便な検査を挟むことで検査の効率があがっているのです。

5. 大腸がん検診を行うことで人は助かるのか?

大腸がんの検診を行うことで、大腸カメラが効率化されることは上で説明しました。しかし、実際のところ大腸がんの早期発見や死亡率の低下に貢献しているのでしょうか。

今現在よく用いられる免疫法便潜血検査がどれほど死亡率を減らしているのかをまとめた研究(Int. J. Cancer 1995;61:465-9)があります。この研究では、40-79歳の方に便潜血検査を行ってから1年、2年、3年以内における大腸がんによる死亡数の変化を調べています。

【便潜血検査を行ってからの時間と大腸がんによる死亡】

検査後の時間経過

大腸がんによる死亡への影響(オッズ比)

1年以内

60%減

2年以内

59%減

3年以内

52%減

上の表の通り大腸がんによる死亡が格段に減ったことが報告されています。

このように、対象年齢の人は、大腸がん検診で行う便潜血検査を受けることで、大腸がんによる死亡率を下げられると考えられます。

6. 大腸がんの検診費用について

気になる大腸がんの検診費用は一体どれぐらいなのでしょうか?

症状がない場合のがん検診は健康保険の適用外となります。保険適用外の検査は自由診療となり、費用は一律に決められていません。

検診費用は、お住まいの市区町村やお勤めの職場によって異なります。無料の場合もありますが、1,000円程度の費用がかかることが多いようです。自治体で検診を受ける場合の実施時期や具体的な費用などはお住まいの市区町村のがん検診ホームページや検診担当窓口でお問い合わせください。

また、郵送された検査キットを利用して自宅で検査を行う場合の費用は様々ですが、2,000円程度で行えるものもあります。

7. 大腸がんの検査を受けられる病院はどうやって探す?

最後に、大腸がんの検査が行える病院について簡単に紹介します。大腸がんに限ったことではないと思いますが、「検査ができる病院はどこ?」と思ったときに、何科に行けば良いのか、どこに聞けばよいのかと迷うことがあると思います。大腸がんの診察や検査は、内科、胃腸科、消化器科など、さまざまな診療科で行っていることがあるため、この診療科を受診するのが正しいと一概にいうことはできません。

このサイトの病院検索ページ「大腸がんの検査に関連した診療科がある病院」では、当てはまる診療科のある病院を探せますが、掲載されているすべての病院で大腸がんの検査が行えるわけではありません。病院によって、その診療科で大腸がんを専門に診ているか、検診を受けられるかなどは違います。また、この情報は常に最新とは限りませんので、詳しくは各医療機関にお問い合わせください。