手術後に行う抗がん剤治療(補助化学療法):行ったほうがいい人、始める時期、使う薬など
手術は大腸がんを根治できる唯一の治療です。手術を行った後に
目次
1. 手術後に化学療法を行うといい人は?
『大腸がん治療
- R0切除が行われたステージ3の大腸がん(結腸
がん 、直腸がん) - パフォーマンスステータス(PS)が1以下である
- 主要臓器機能が保たれている
骨髄 :好中球 ≧1,500/mm3かつ血小板 ≧10,000/mm3- 肝機能:総ビリルリン値<2.0mg/dlかつASTとALT<100IU/l
腎機能 :基準値上限以下
- 適切な
インフォームドコンセント がなされて患者が文書による同意を示している - 大腸がんによる重い
合併症 (腸閉塞、下痢、発熱など)がない
R0とは、手術で切り取った臓器を顕微鏡で調べる検査(病理検査)をした結果、切り取った面(断端)にがん細胞が見えないことを指します。病理検査で切り取った面にがん細胞が見えた場合はがんを取り切れていない可能性が高いため、術後
また、ステージ2の大腸がんでも再発のリスクが高いと判断された場合は、術後化学療法を行う場合があります。一方で、ステージ4の大腸がんに対して手術を行った場合では、手術後の化学療法の効果や安全性が分かっていないため術後化学療法は行わないことが多いです。
2. 術後化学療法で用いられる抗がん剤はどれ?
術後化学療法はどんな
以下が術後化学療法に用いられる抗がん剤の組み合わせの例です。
- フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナート(LV)
- テガフール・ウラシル(UFT)+レボホリナート(LV)
- カペシタビン(Cape)
- FOLFOX(5-FU+レボホリナート(LV)+オキサリプラチン(OX))
- CapeOX(カペシタビン(Cape)+オキサリプラチン(OX))
- S-1
これらのどれを使うのかは身体の状態を考えて決めます。そのため各々の薬でどういった特徴があるのかを押さえておくことは大切です。
それぞれの抗がん剤の特徴について述べていきます。
3. 術後化学療法で用いられる抗がん剤の特徴は?
上のリストにあるように、術後化学療法で用いられる抗がん剤は限られています。
- フルオロウラシル(5-FU)
- レボホリナート(LV)
- オキサリプラチン(OX)
- テガフール・ウラシル(UFT)
- S-1
- カペシタビン(Cape)
これらがしばしば用いられる抗がん剤になります。各々の特徴に関して述べていきましょう。
フルオロウラシル(略号・商品名:5-FU)
大腸がんに使う抗がん剤の中でも基本となる薬剤です。
がん細胞の
もう少し詳しく作用の仕組みを説明します。
フルオロウラシルは、細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こす作用によりがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させます。
現在では単剤で(ほかの抗がん剤を同時に使うことなく)使うことは少なく、他の抗がん剤もしくは5-FUの効果を増強する薬剤(主に活性型葉酸製剤)と併用されます。
大腸がんの化学療法では、5-FUにレボホリナート(l-ロイコボリン)とオキサリプラチンを併用した治療法をFOLFOX療法、5-FUにレボホリナートとイリノテカンを併用した治療法をFOLFIRI療法と呼び、切除不能の進行再発大腸がんの標準治療の一つになっています。
また5-FUは大腸がん以外にも、乳がんのCEF療法、食道がんのFP療法など多くのがん化学療法のレジメンで使われている薬剤の一つです。
5-FUで注意すべき副作用は吐き気や下痢、食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制、
ホリナート及びレボホリナート(略号:LV)
ホリナート(dl-ロイコボリン:dl-LV)及びレボホリナ−ト(l-ロイコボリン:l-LV)は活性型葉酸製剤と呼ばれます。LV自体は抗がん剤ではありませんが、大腸がんの化学療法で中心となる5-FUの抗
レボホリナートはホリナート(dl体)と異なり、生物活性を有するl体のみからなる製剤であり、ホリナートが
大腸がんの化学療法ではLVを含むFOLFOX(5ーFU+LV+OX)療法やFOLFIRI(5-FU+LV+IRI)療法などが標準治療となっていることから重要な薬剤の一つとなります。
LV自体は
オキサリプラチン(略号:OX、L-OHP)(商品名:エルプラット®など)
オキサリプラチンは細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合し、DNAの複製及び転写を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす抗がん剤です。オキサリプラチンは化学構造の中にプラチナ(Pt)を含むことからプラチナ製剤と呼ばれる種類の薬に分類されます。
オキサリプラチンは他のプラチナ製剤の薬剤(シスプラチンなど)とは異なる化学構造を持っていることなどから特に大腸がんの細胞に対して高い抗腫瘍活性を示す性質があります。
オキサリプラチンはFOLFOX療法(5-FU+LV+OX)やFOLFOXIRI(5-FU+LV+OX+IRI)、XELOX療法(Cape+OX)など、大腸がん化学療法における多くのレジメンで使われています。
オキサリプラチンの注意すべき副作用は過敏症、骨髄抑制、間質性肺炎、視覚障害、消化器症状などです。また手足や口(口唇)周囲の感覚異常、咽頭絞扼感(喉がしめつけられる感覚)などの末梢神経障害があらわれる場合があります。冷たいものにできるだけ手で触れないなど日常生活の中での予防も大切です。
テガフール・ウラシル(略号:UFT)(商品名:ユーエフティ®)
テガフール・ウラシル(UFT)はテガフールとウラシルの2種類の薬を配合した製剤です。
テガフールはフルオロウラシル(5-FU)のプロドラッグで体内で徐々に5−FUに変換され抗腫瘍効果をあらわします。一方ウラシルは5-FUを分解するDPD(ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ)という
がんの種類によってはUFT単剤で使われることもありますが、大腸がんではUFTとホリナート(商品名:ユーゼル®など)を併用した治療法が一般的です。
UFT・ホリナート療法は通常、内服での治療となるため口腔粘膜障害などがあらわれている場合には飲みにくさが生じることなどが想定されます。また食事の影響を受けるため、通常食事の前後1時間(場合によっては食事の前後2時間)を避けて服用します。また「28日服用した後、7日間休薬」などの休薬期間が指示されることが多いため、事前に処方医や薬剤師から服薬に関する注意事項などをしっかりと聞いておくことも大切です。
UFTで注意すべき副作用は5-FUと類似していて、下痢や食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制、
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(略号:S-1)(商品名:ティーエスワン®など)
S-1はテガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムという3種類の成分からできている配合剤です。
中心となるのはテガフールです。テガフールが体内で5-FUに徐々に変換されることで抗腫瘍効果をあらわします。他の2種類の成分はテガフールを補助する役割を果たします。
ギメラシルは5-FUを分解するDPDという酵素の活性を阻害することで5−FUの血中濃度を高めて抗腫瘍効果を増強する役割を果たします。
オテラシルカリウムは5-FUの主な副作用である消化器症状(
S-1は元々、胃がんの抗がん剤として承認を受けました。のちに頭頸部がん、大腸がん、肺がん(非小細胞肺がん)、乳がん、膵がんといったがんに対しても追加承認されました。大腸がんではS-1単剤での治療の他、イリノテカン(IRI)との併用によるIRIS療法、オキサリプラチン(OX)との併用によるSOX療法などが選択肢となっています。
休薬期間を設ける場合も多く「28日間服用後、14日間休薬」であったり、IRIS療法における「(S-1を)14日間服用後、14日間休薬」などの服薬スケジュールが指示される場合があります。処方医や薬剤師から服薬方法などをしっかりと聞いておくことも大切です。
S-1の副作用として、オテラシルカリウムによって負担が軽減されているとはいえ食欲不振、吐き気、下痢、口内炎などの消化器症状には注意が必要です。他に骨髄抑制、肝機能障害、間質性肺炎などにも注意が必要です。
また、皮膚や爪などが黒くなる
S-1は
カペシタビン(略号:Cape、CAP)(商品名:ゼローダ®)
カペシタビンは、5-FUなどと同じピリミジン拮抗薬に分類される抗がん剤です。
体内に吸収された後、肝臓や腫瘍組織で代謝され5−FUに変換され抗腫瘍効果をあらわします。5-FUの腫瘍内での濃度を高め、腫瘍組織以外での副作用を最小限に抑える目的で開発された経緯を持ち、元々は乳がんの抗がん剤として承認され、その後大腸がんの抗がん剤としても承認されました。
カペシタビンは単剤で使う他、オキサリプラチンとの併用によるXELOX(CAPOX:CapeOX)療法などが行われています。カペシタビンは「14日間服用後、7日間休薬」など、休薬期間を設ける場合が多い抗がん剤ですので、服用方法などに関して処方医からしっかりと説明を聞いておくことも大切です。
カペシタビンは骨髄や消化管で活性体になりにくいため副作用は比較的軽減されているとも考えられますが、下痢などの消化器症状、手足症候群、肝機能障害、骨髄抑制などには注意が必要です。またXELOX療法においてはカペシタビンと併用するオキサリプラチンによる末梢神経障害が比較的高頻度であらわれるとされ注意が必要です。
4. 手術してからいつくらいに化学療法を行うべきなのか?
ここまで術後化学療法で用いる抗がん剤の種類と特徴について述べてきました。ここでは手術してからどの程度の期間で化学療法を行うべきなのかを述べていきます。
術後化学療法は手術で取り切れなかった肉眼では見えないがん細胞が成長しないようにする目的で行います。そのため、がん細胞が成長する前に投与することが望ましいです。
手術を行うと身体は疲弊していますし、すぐに食事を摂れなかったりして体力は思いの外落ちてしまいます。しかし、いつまでも化学療法を行わずに経過すると、潜んでいたがん細胞が大きくなってしまう可能性があります。そこで、手術から体力が回復した段階から直ちに化学療法を始めることが望ましいです。
術後化学療法のベストなタイミングは、手術を受けてから4-8週間経ったころと考えられています。この時期で化学療法を行うことが可能と判断される状態になったらすぐに行うことになります。
また、抗がん剤の投与期間は6ヶ月が基本になります。この間にもし体力が落ちてしまった場合や強い副作用が出てしまった場合は中止することがあります。