だいちょうがん
大腸がん
大腸の粘膜にできるがん。国内のがん患者数がもっと多く、死亡者数も女性において原因の1位
20人の医師がチェック 305回の改訂 最終更新: 2024.01.10

大腸がんのステージの決め方

大腸がんのステージ(進行度)はがんがどの程度広がっているかを表します。ステージをもとに治療法を選びます。またステージごとに生存率などの統計が取られています。このページでは大腸がんのステージについて説明します。

1. 大腸がんはどのように進行する?

大腸がんの治療は、がんがどの程度進行しているかで大きく違います。ステージとはがんが進行している度合いのことです。進行度が低いステージ0から進行度が高いステージIVまでに分類されます。

大腸がんが進行していくと、大きく分けて3種類の場所に広がります。

発生した場所から周りの大腸の壁に、さらには隣り合った臓器に食い込んでいく(浸潤)

大腸は図のような構造になっています。

(「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版」をもとに作成)

大腸がんは、大腸の一番内側(消化された食べ物が通る側)の粘膜から発生します。大腸がんは成長するにつれて粘膜より下の層に深く入り込んでいきます。

リンパ管を通ってリンパ節に流れていく(リンパ節転移)

全身の臓器でリンパ液という液体が作られています。リンパ液にはリンパ球などの免疫を担当する細胞も含まれています。大腸からもリンパ液が流れ出しています。

リンパ液の流れの途中途中にリンパ節という塊が存在します。リンパ液に入っている細胞などはリンパ節で一度足止めされます。リンパ節はリンパ液に異物が侵入していないかをチェックする門番のような役割を果たしています。

大腸がんが大きくなると、大腸から出るリンパ液にも侵入していきます。リンパ液に侵入したがん細胞はリンパ節に流れ着いて増殖することがあります。これをリンパ節転移と言います。

正常なリンパ節はCTなどの画像検査では周りの脂肪などとあまり違って見えません。がん細胞が転移したリンパ節は次第に大きくなり、画像でも目立つようになります。

リンパ節転移の特徴は、順々に隣のリンパ節に転移していくことです。遠くのリンパ節にいきなり転移することはあまりありません。そのため、がんからのリンパ液の流れが最初に流れ着くリンパ節(センチネルリンパ節)は、特に転移がないか注意して調べる必要があります。

(「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版」をもとに作成)

リンパ管や血管を通って離れた臓器に流れ着く(リンパ行性転移、血行性転移)、または臓器の隙間に飛び散る(腹膜播種)

血行性転移は、その名の通り血液の流れに乗って離れた臓器にがんが転移することを指します。がんがもとあった場所から離れた臓器に転移することを遠隔転移と言いますが、遠隔転移はおおむね血行性転移によって発生します。

大腸がんが進行すると大腸に流れる血液にがん細胞が侵入し、血流に乗って離れた臓器まで達します。離れた臓器に到達したがん細胞がそこで増殖すると遠隔転移となります。

遠隔転移はいきなり離れた臓器に転移が見つかることが特徴になります。大腸がんが遠隔転移しやすい臓器は肝臓や肺などです。

遠隔転移には、お腹の中(腹腔)にある臓器の隙間にがん細胞が飛び散ってしまった、腹膜播種(ふくまくはしゅ)という状態も含まれます。

図:腹腔(ふくくう)の概念のイラスト。腸の周りに腹腔という空間がある。

図:大腸がんの腹膜播種のイメージ。

2. 大腸がんのステージはどうやって決める?

大腸がんのステージは、がんが大腸の壁にどこまで深く浸潤しているかを表す「深達度」、リンパ節転移の数、遠隔転移の有無によって決定します。

この3点は表のようにステージと対応します。

浸潤の深さ

リンパ節

転移なし

リンパ節転移

3個まで

リンパ節転移

4個以上

遠隔転移

あり

大腸の粘膜内

ステージ0

大腸の固有筋層まで

ステージ I

ステージ IIIA

ステージ IIIB

ステージ IV

大腸の固有筋層よりも深い

または周りの臓器に浸潤

ステージ II

注:腫瘍が粘膜内にとどまっている場合は、リンパ節にも遠隔臓器にも転移しないと考えられています。

ステージ0は、がんが最も浅い部分で止まっている状態です。ステージIとステージIIはより進んだ状態で、どの程度の深さまで入り込んでいるかで区別します。周りのリンパ節に転移があればステージIIIです。肝臓や肺への転移、腹膜播種が見られれば、進達度・リンパ節転移とは関係なくすべてステージIVに分類されます。

TNM分類とは?

大腸がんを含むがんの進行度の判断材料としてTNM分類というものがあります。

細かい専門的な点ですが、ステージの決め方は2種類あります。国際的には国際対がん連合(UICC)によって制定されたTNM分類が用いられます。また、国内には大腸癌取扱い規約というものがあり、これもステージの分類を規定しています。この2つが規定する分類は多少異なる部分もありますが、根本的には大きな相違はありません。国内の大腸がん治療では、大腸がん取扱い規約を用いている場合が多いです。

TNM分類ではT因子・N因子・M因子の3要素から腫瘍の進行度を判断します。T因子は腫瘍の深達度を指し、N因子はリンパ節転移の程度を指し、M因子は遠隔転移の有無を指します。もう少し詳しく見ていきましょう。

TMN分類(大腸がん)

腫瘍の深達度(T因子)とは?

大腸がんの腫瘍深達度(T因子)は、大腸がんが出現した場所から周りの組織にどれだけ深く入り込んでいるかという意味です。深達度の決め方の前に大腸の構造について少し説明します。

大腸は管になっており、内側から粘膜→粘膜筋板→粘膜下層→固有筋層→漿膜下層→漿膜といった多重の構造になっています。

大腸がんは、大腸の一番内側(消化された食べ物が通る側)の粘膜から発生します。大腸がんは成長するにつれて粘膜より下の層に深く入り込んでいきます。

大腸がんの深達度とは、がんが大腸のどの部位まで至っているのかを評価したものです。深達度は以下の表のようにT因子として表現されます。

【大腸の深達度評価】

T因子

深達度

Tis

粘膜内にとどまる

T1a

粘膜下層(1000μm未満)に達する

T1b

粘膜下層(1000μm以上)に達する

T2

固有筋層に達する

T3

固有筋層を超えるが漿膜には達しない

T4a

漿膜を超える

T4b

漿膜を超えて周辺の臓器に達する

μmはマイクロメートルと読みます。1,000μmは1mmと同じです。

大腸がんは比較的浅い層で水平に広がっている場合や、狭い範囲でも深い層まで進んでいる場合があります。T因子は大きさではなく深さを判定しています。

リンパ節転移の数(N因子)とは?

リンパ節は全身にたくさんあります。大腸がんの細胞が周囲にあるリンパ節に侵入して増殖していることをリンパ節転移と言います。

全身の組織の中でリンパ液という液体が流れています。リンパ液の流れの途中途中にリンパ節が存在し、異物が侵入すると一時的に捕まえておく門番のように機能しています。大腸の周りにもたくさんのリンパ節があります。大腸からリンパ節に向かってリンパ液が流れています。

大腸がんが大きくなる過程で、がん細胞はもとの場所を離れてリンパ液にも侵入していきます(リンパ行性転移)。リンパ液に侵入したがん細胞はリンパ節で増殖することがあり、これをリンパ節転移と言います。

リンパ節転移はもともとのがんの位置から隣のリンパ節に順々に広がっていきます。遠くのリンパ節にいきなりリンパ節転移が発生することはありません。

リンパ節転移の位置や数によってN因子を決めます。

遠隔転移の有無(M因子)

遠隔転移とは、がん細胞がもとあった場所から離れた臓器に侵入して増殖することです。遠隔転移があるかないかでM因子を決めます。

大腸がんの遠隔転移は主に血行性転移と呼ばれる仕組みで起こります。大腸がんが進行する過程で、がん細胞は血管に侵入します。がん細胞は血流に乗って離れた臓器まで到達します。流れ着いた先の臓器でがん細胞が増殖すると遠隔転移となります。

遠隔転移は、リンパ節転移と異なり順々と隣に転移していくのではなく、大腸から肝臓や肺などの離れた臓器にいきなり転移するのが特徴です。

TNM分類による大腸がんのステージ

大腸がんのステージは、腫瘍の深達度(T因子)・リンパ節転移の数(N因子)・遠隔転移の有無(M因子)で決まります。ステージの決め方を表に示します。

【ステージの分類】

ステージ

深達度

リンパ節転移

遠隔転移

0

Tis

なし

なし

T1,T2

なし

なし

T3,T4a,T4b

なし

なし

ⅢA

状態を問わず

3個まで

なし

ⅢB

状態を問わず

4個以上

なし

状態を問わず

状態を問わず

あり

例えば、次の場合はステージⅠです。

  • 固有筋層に腫瘍が達している(T2)
  • リンパ節転移はない
  • 遠隔転移はない

一方、次の場合はステージⅢBです。

  • 腫瘍は固有筋層を超えているが漿膜には達していない
  • リンパ節転移が5個ある
  • 遠隔転移はない

ステージの分類は治療の方針を決定するのに重要な判断材料になります。大腸がんと診断された際には治療に入る前にステージ分類を行います。ステージに従って治療方針を決めることになります。

ステージの分類はがんの状態を反映している一方で、枠組みが大きくアバウトな側面もあります。つまり、同じステージⅣの大腸がんを持った人の中にも、元気に生活している人もいれば、全く動けずにベッドの上で生活している人もいるのです。

そのため、ステージの数字だけにこだわりすぎないように気をつける必要があります。自分がどういった状況なのかは、がんの状態(がんのステージ)と身体の状態の両側から見る必要があります。

病院にかかって大腸がんの治療方法を決める時は、医者は多くの場合にステージに従って判断します。しかし、医者は本当にこの方法でいいのかと常に自問自答しています。こういった場面では、ぜひ遠慮せずにご自身の思いと意見を伝えてください。

治療を受けるのは医者ではなくて患者さんです。ぜひ納得した医療を受けるために、話し合ってみるようにしてください。その際に、全く知識のない状態で話し合っても良いものになりません。このサイトや他の多くの有用な情報の書いてあるサイトを参考にして、事前勉強した上で話し合いに臨んでください。どんなに時間がなくてもその努力は無駄になりません。こうした努力は、きっと納得できる状態に近づけてくれます。

自覚症状で大腸がんのステージはわかるか

自覚症状で大腸がんのステージを判断することはできません。「下痢が出たらステージ2で血便が出たらステージ3」というように症状で区別されることはありません。とはいえどうしてこういった症状が出ているのかを考えることは重要です。

  • 便秘
  • 下痢
  • 血便・下血
  • 腹痛
  • 腹部膨満
  • 腹部腫瘤(お腹に触れる固い塊)
  • 悪心(吐き気)
  • 嘔吐(吐くこと)
  • 体重減少
  • ふらつき(貧血や脱水などで生じやすい)

大腸がんではこのような多種多様な症状が出ることがあります。

例えば大腸がんの方が便秘になったら、色々なことが原因として考えられます。

  • 大腸がんが大きくなって腸管を塞いでしまった
  • 大腸がんが腹膜播種して、大腸の機能が落ちてしまった
  • 治療で用いる薬の副作用が出てしまった
  • 手術の影響が出てしまった
  • 大腸がんとは関係なく便秘になった

これらは、原因が何かによって対応が変わってきます。

大腸がんが大きくなっているか腹膜播種しているのであれば、大腸がんが進行しているので治療法の変更を考えなければなりません。また、薬の副作用が原因なのであれば、原因となっている薬を突き止めて中止しなければなりません。

このように大腸がんの患者になにか症状が出た場合、考えられる原因は多様です。しかし、原因が分からなければ治療しようがありませんので、原因を突き止める作業をおろそかにしてはいけないのです。

「ステージ」と「グループ」は別?

ステージと紛らわしい言葉に「グループ」というものがありますが、意味はまったく違います。

身体から組織を取り出して顕微鏡で観察する「病理検査」では、結果としてがんの疑いがあるかどうかをグループという言葉で表すことがあります。グループ1なら取り出した標本ががんである疑いがない、グループ5なら明らかにがんである、といった言い方をします。

グループという言葉は、「がんか、がんではないか」を判定する段階で使われます。対してステージは、「すでにがんと確定したものがどの程度の進行度にあるか」を指しています。ステージIVの大腸がんは、上で説明したように危険性が高い状態です。対して大腸がんの検査で「グループ4」という結果が出たとすると、その結果は「がんかもしれないが、がんではないかもしれない」という意味があり、「グループ4だから末期がんではないか?」というのは誤解です。

3. どのステージなら完治する?

通常がんの治療において、完治するための治療には手術が選択されます。大腸がんに対しても手術によって完治を目指します。手術の他にも全身化学療法抗がん剤治療)などの治療法はありますが、大腸がんを根治するには至っていないのが現状です。つまり、根治するには手術が必要になります。

全ての大腸がんに対して手術は可能なのか?

大腸がん以外のがんでは一般的に、がんが進行していて遠隔転移が存在する場合は、手術を受けられないことがほとんどです。なぜなら、遠隔転移のある状態は、がん細胞が全身に広がっている可能性が高く、全てのがんを手術で取り去ることはできないと考えられているからです。実際に遠隔転移のある状態(ステージ4)で手術をすると、取り切れなかったがん細胞が勢いづいてしまい、結局寿命を縮めることが多いのです。

しかし、大腸がんではステージ4でも手術を行うことがあります。肝転移があっても、肺転移があっても、大腸にあるがんと転移先のがんを両方とも切除することがあるのです。

実際にそれで治療のうまくいくことも多く、肝転移のある人に対して手術を行った場合の3年生存率が52.8%で5年生存率が39.2%という報告(Dis Colon Rectum. 2003 Oct;46(10 Suppl):S22-31.)があります。

また、肺転移切除後の5年生存率は大腸がん研究プロジェクトの発表では46.7%です。切除しなかった場合の5年生存率は3.9%とされています。肺転移を切除できた場合のほうが好成績です。つまり、肺転移があっても手術は大きな切り札になります。

遠隔転移のない大腸がん(ステージ0-3)はたいていの場合で手術を受けることができます。また、ステージ0あるいはステージ1の場合は内視鏡的治療を受けることもできます。内視鏡治療は大腸カメラ下部消化管内視鏡検査)を用いて行うので、お腹を切らなくていいというメリットがあります。

図:腹腔の概念のイラスト。

そこで、手術と内視鏡治療の両方を選べる場合には、どちらが自分の状態に適しているのか慎重に判断する必要があります。内視鏡的治療に関して詳しくは「大腸がんの内視鏡治療とは?」を参考にしてください。

大腸がんを根治するために手術あるいは内視鏡的治療が必要であることをお話ししました。全身化学療法などの治療ではがんを根治することは難しいので、大腸がんの治療を行うときには手術が可能なのかどうかを考えることが重要です。とはいえ、手術は身体への負担も大きく、全員に行える治療法ではありません。全身状態やがんの進行度を考えて手術の可否が決まります。

4. 大腸がんのステージごとの治療法は?

大腸がんの治療は、手術(外科的治療)や内視鏡的治療や全身化学療法、放射線療法などがあります。どういったことが基準となって治療法が決められるのでしょうか。

大腸がんのステージごとの治療法の選択

大腸がんの進行度はステージは0から4に分類されます。ステージに全身状態が加味されて治療法が決まるのですが、その判断の上でもっとも重要なことは、「治療を受ける本人にとって最も効果的な治療を選ぶ」ということです。つまり、ステージだけで画一的に治療法が決まるのではなく、がんの状態や全身状態といった要素によって効果的と考えられる治療は変わってきます。

ステージ0からステージ4のそれぞれに対して選択可能な治療法があります。その中から最も効果的なものを選びます。

大腸がんを根治するには、手術か内視鏡的治療のいずれかを行う必要があります。しかし、全身状態やがんの進行度によってはこれらを行えない場合もあり、その場合は他の治療を選びます。

大腸がんステージ0から3の場合の治療法

内視鏡治療は大腸カメラを用いて行います。この治療を行えるのは、ステージ0またはステージ1で軽度浸潤のものです(浸潤:大腸の壁のどこまで深くがんが到達しているか)。内視鏡治療はがんを完全に切除することを目的に行うのですが、腫瘍の存在する場所や状態によっては手術を行う場合があります。また、ステージ1の大腸がんでも浸潤が大きい場合は、手術で治療するのが普通です。

大腸がんのステージ1はリンパ節転移も遠隔転移もない状態を指しますが、検査でステージ1と判定されても実はリンパ節にがん細胞が隠れている可能性が10%程度はあると言われています。がん細胞が取り残されてしまうと、そこから大腸がんが再発する原因になります。このため、がんがある部分の大腸だけでなく、その周りにあるリンパ節をまとめて切除すること(郭清)も含めて検討されることになります。

ステージ2、ステージ3でも手術が主な治療になります。

加えて、ステージ2のうち特に再発の可能性が大きいと見られる場合やステージ3では、手術後の再発をできるだけ防ぐことを目的に術後補助化学療法(術後に行う抗がん剤治療)を行うことが勧められます。体力が落ちてしまって化学療法を受けられない状態であれば、手術のみという選択肢もあります。化学療法の詳細については、「大腸がんの抗がん剤治療とは?」をご覧ください。

大腸がんステージ4の場合の治療法

大腸がんが他の臓器に遠隔転移していれば、ステージ4になります。ステージ4では、元の大腸がん(原発巣と言います)と転移によってほかの臓器にできたがん(転移巣と言います)が両方とも切除できる場合は手術で切除します。手術が難しい場合は、放射線治療や化学療法を行うことになります。

痛みなどの症状を軽くする緩和ケアも大切です。以下のような場合は特に緩和ケアに重点が置かれます。

  • 放射線治療や化学療法を行っても効果があまり見られなかった場合
  • 治療に耐えられないほど体が弱っている場合
  • 重症で治療による延命効果が期待できない場合
  • 本人や家族の希望があった場合

ここで大切なのは、緩和ケアはがんの末期だけの治療ではないということです。どんなステージであっても苦痛を和らげてくれる緩和ケアは重要です。ステージ4の大腸がんで緩和ケアを勧められても末期の状態とは限りません。苦痛を感じる場合は、我慢をせずに主治医に相談してください。

緩和治療に関して詳しく知りたい方は、「緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?」をご覧ください。