だいちょうがん
大腸がん
大腸の粘膜にできるがん。国内のがん患者数がもっと多く、死亡者数も女性において原因の1位
20人の医師がチェック 305回の改訂 最終更新: 2024.01.10

抗がん剤の副作用を抑える薬:制吐剤(吐き気止め)、漢方薬など

抗がん剤治療化学療法)の際にもちいられる薬は抗がん剤だけではありません。なにか副作用が起こったときの症状緩和としても、副作用が起こる可能性が高い時の予防としても用いる薬があります。

1. 吐き気や嘔吐はなぜ起こるか

吐き気や嘔吐は患者にとってつらい症状の1つです。生活の質(QOL)に影響しますし、抗がん剤治療に対して前向きになれない要因にもなります。しかし、新しい吐き気止めの薬や治療法の進歩により、以前に比べてかなり抑えられるようになりました。

ここでは抗がん剤によって生じる悪心・嘔吐の分類と、どのようにしてそれらが引き起こされるのかをみていきます。

まず、抗がん剤によって生じる悪心・嘔吐は次のように分類されます。

  • 急性悪心・嘔吐
    • 抗がん剤の使用後、数時間以内に起こり24時間以内に消失するもの
  • 遅延性悪心・嘔吐
    • 抗がん剤の使用後、24時間以降に起こり、数日間続くもの
  • 予期性悪心・嘔吐
    • 以前に抗がん剤治療や放射線治療を受けた際に悪心・嘔吐を経験した場合、その不快な感情や記憶、治療への不安などによって次回以降の抗がん剤による治療の際、条件反射的に誘発されるもの
  • 突発性悪心・嘔吐
    • 適切な催吐予防の管理にもかかわらず、突然あらわれるもの

この分類は、悪心・嘔吐の症状が生まれる原因の違いに対応しています。原因に対応する薬を使うことで、効果的に治療ができます。

例えば、急性悪心・嘔吐の多くは、NK1(ニューロキニン1)受容体という物質を介して、脳に刺激が伝わるしくみで引き起こされます。ほかにも、体内で生産されるセロトニンが5-HT3受容体という物質と結合することで起こる悪心・嘔吐があります。

そこでNK1受容体の作用を抑えるアプレピタントや、5-HT3受容体の作用を抑える5-HT3受容体拮抗薬を使うことで症状が抑えられます。

また近年では、NK1受容体拮抗薬のアプレピタント(イメンド®)や、ホスアプレピタントメグルミン(プロイメンド®)などの、新しい吐き気止めが治療に使われています。さらに、薬の組み合わせを工夫して、例えば抗不安薬を併用するなどにより、遅延性の悪心・嘔吐や予期性の悪心・嘔吐もかなり抑えられるようになってきています。

2. 抗がん剤の悪心(吐き気)・嘔吐の予防について

抗がん剤の催吐性(吐き気をもよおす作用)の程度は薬剤によって異なり、催吐性リスクと呼ばれます。一般的に、催吐性リスクが中等度以上の抗がん剤を使用する場合には、複数の制吐薬を用いた制吐療法が行われます。

高度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法

高度催吐性リスクの主な抗がん剤はシクロホスファミド、シスプラチンなどです。

高度の催吐性リスクの抗がん剤に対しては、主に次の3つの薬剤が使われます。

  • アプレピタント(ホスアプレピタントメグルミン)
  • 5-HT3受容体拮抗薬
  • デキサメタゾン(ステロイド薬の一種)

急性の悪心・嘔吐の予防にはこの3剤を併用し、遅延性の悪心・嘔吐の予防にはアプレピタント(ホスアプレピタントメグルミン)とデキサメタゾンの2剤を併用することが推奨されています。

中等度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法

中等度の催吐性リスクの主な抗がん剤はイリノテカン、カルボプラチンなどです。

主に次の薬剤が使われます。

  • 急性の悪心・嘔吐の予防で使われる主な薬剤
    • 5-HT3受容体拮抗薬
    • デキサメタゾン
  • 遅延性の悪心・嘔吐の予防に使われる主な薬剤
    • デキサメタゾン

ここで示したのはあくまでも推奨とされる例です。化学療法で使う薬剤の組み合わせによっては抗がん剤を単剤で使うより強い悪心・嘔吐があらわれる場合もあります。患者の体質やその時の体調によっても悪心・嘔吐の度合いは異なる場合があり、中等度催吐性リスクの抗がん剤に対しても高度催吐性リスクの制吐療法が検討されることもあります。

またここで紹介した薬以外にも、患者の状況に応じて薬を用いることもあります。

悪心・嘔吐に使われるそのほかの薬

悪心・嘔吐の中でも心理状態が大きく関与する予期性の悪心・嘔吐の予防にはアルプラゾラム(商品名:コンスタン®、ソラナックス®など)やロラゼパム(商品名:ワイパックス®など)といった抗不安薬が使われています。

抗がん剤によって起こる食欲不振や胸やけなどが吐き気を伴う場合もあり、これらの症状を和らげるため、胃酸分泌を抑えるH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬といった薬の使用が考慮されます。

その他、吐き気や消化管の運動などの改善が期待できるプロクロルペラジン(商品名:ノバミン®)、メトクロプラミド(商品名:プリンペラン®など)、ドンペリドン(商品名:ナウゼリン®など)などの薬が用いられることもあります。

日常生活の中でできる工夫

日常の生活においても配慮が必要です。例えば吐き気がある時の対処として、室内の換気を行う、氷など冷たいものを口に含んでみる、などが有効の場合もあります。逆に芳香の強い花や香水などは吐き気を助長する可能性があります。

抗がん剤の悪心・嘔吐に対しては、薬による管理のほか、日常生活における工夫や対処方法について担当医や薬剤師などとよく相談しておくことが大切です。

3. がん化学療法に使う漢方薬とは?

新しい抗がん剤の開発、副作用の予防法や対処法の進歩などによって、抗がん剤による副作用はかなり抑えられるようになってきています。しかしそれでも副作用が全く出ないということはありませんし、副作用の出方には個人差もあります。

がん治療を行っていくにあたって、つらい症状を減らし、生活の質(QOL)を維持することは非常に大切です。近年では漢方薬によって抗がん剤の副作用を軽減する治療も注目を集めてきています。ここではいくつかの例を紹介します。

口内炎や下痢に対する半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

抗がん剤による口内炎は、抗がん剤が口腔粘膜の細胞に作用し細胞死を引き起こした結果、粘膜表面の層が破壊されて潰瘍となった状態です。口内炎ができることにより食欲低下が起こるなど、様々な好ましくない影響が考えられます。

半夏瀉心湯は元々、口内炎保険適用をもつ漢方薬ですが、最近では口内炎への作用の仕組みがわかってきました。

粘膜組織が障害される原因の一つに細菌などの口腔内感染症があります。抗がん剤によって免疫力が低下すると口腔内の感染症も起こりやすくなります。半夏瀉心湯は口腔内の細菌への抗菌作用を現すとされています。また体内の炎症を抑える作用や、細胞に障害を与える活性酸素の抑制、細胞修復機能の促進と、いくつかの作用によって口内炎を治療することができるとされています。

半夏瀉心湯は吐き気・食欲不振・軟便傾向の状態に適するとされる漢方薬です。口内炎以外にも吐き気や下痢などの消化器症状が現れる抗がん剤に対して、半夏瀉心湯が有効な治療の一つとなっています。

肺がん以外にも多くのがん治療に使われるイリノテカン(CPT-11)(商品名:カンプト®、トポテシン®など)の主な副作用には下痢があります。そこでイリノテカンと一緒に下痢を抑えるロペラミド(商品名:ロペミン®など)などの薬が使われます。イリノテカンの下痢には早期性の下痢と遅発性の下痢の2種類がありますが、半夏瀉心湯は速効性と持続性の両面の作用により、どちらの下痢にも有効であるとされています。

食欲不振への六君子湯(リックンシトウ)

食欲不振は抗がん剤の副作用によって起こる場合も、がんそのものによって引き起こされる場合もあります。食欲不振があると生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、食欲不振による栄養状態の悪化などの好ましくない影響を与える可能性もあります。

六君子湯の特徴は消化管の運動機能やそれに伴う食欲の改善が期待できるところです。最近では、食欲を高めるホルモンであるグレリンの働きを増強する作用により食欲不振を改善することがわかってきました。また六君子湯には胃の機能の改善や抗ストレス作用もあるとされ、食欲低下や胃もたれや膨満感などが現れる機能性ディスペプシア(FD)などの状態を改善する効果が期待できます。

末梢神経障害(筋肉痛)への芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)

抗がん剤によるしびれなどの症状は末梢神経(まっしょうしんけい:体の各部分に分布している神経)への影響によるものと考えられていますが、はっきりと解明されてない部分もあります。

抗がん剤による末梢神経障害では筋肉痛のような症状が現れる場合もありますが、芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)によって症状軽減ができることもあります。構成生薬である芍薬(シャクヤク)の主要成分(ペオニフロリン)によるカルシウムイオンの細胞内流入抑制作用や甘草(カンゾウ)の主要成分であるグリチルリチンによるカリウムイオンの細胞外流出促進作用などによって筋肉の痙攣(けいれん)やそれに伴う疼痛などを改善させると考えられています。実際にパクリタキセルなどのタキサン系微小管阻害薬による筋肉痛や関節痛などに対して芍薬甘草湯が有用とされています。

漢方薬の副作用は?

もちろん比較的安全性が高い漢方薬も「薬」の一つですので、副作用が起こる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬で起こる可能性がある間質性肺炎などがあります。これらの副作用が起こる可能性は非常にまれと考えられていますが注意は必要です。例えば間質性肺炎では、発熱、咳嗽、呼吸困難(息切れ)、動作時の呼吸困難や微熱など、初期症状を見逃さないようにすることが大切です。

先ほどの半夏瀉心湯の例をみてもわかるように漢方薬は複数の症状に効果が期待できるため、複数の副作用が起こる可能性があるがん治療に対しては非常に有用な薬と言えます。

ここで紹介した薬の他にも、全身倦怠感への補剤(十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)や補中益気湯(ホチュウエッキトウ)など)、術後や麻痺イレウスに対する大建中湯(ダイケンチュウトウ)など多くの漢方薬ががん治療に使われています。