だいちょうがん
大腸がん
大腸の粘膜にできるがん。国内のがん患者数がもっと多く、死亡者数も女性において原因の1位
20人の医師がチェック 305回の改訂 最終更新: 2024.01.10

大腸がんの手術法:手術方法ごとの注意点や費用などについて

大腸がんの代表的な治療は手術になります。手術ではがんと一緒に周囲のリンパ節を取り除きます。また、直腸がんの手術では人工肛門を作成することもあります。大腸がんの手術は身体への負担も大きく、あらかじめ手術を受ける前から効果とリスクを知っておくことは重要です。

1. 大腸がんの手術とは?

肛門から口の方へさかのぼっていくと、肛門→直腸→結腸→盲腸→小腸(回腸→空腸→十二指腸)→胃へとつながっています。大腸は結腸と直腸などを併せた総称です。

大腸がんには結腸がんと直腸がんがあります。一口に大腸がんの手術といっても、結腸がんに対する手術と直腸がんに対する手術は異なります。

詳しく説明していきましょう。

結腸がんの手術

結腸がんの手術では、がんから両側10cmの範囲で結腸を切除し、残った部分をつなぎ合わせます。つなぎ合わせることを吻合(ふんごう)と言います。10cmというのは、「がんから10cm以上離れた部分への転移はまれである」という過去の研究を基準にした値です。結腸を切除することに加えてリンパ節郭清を行います。リンパ節郭清に関しては下で詳しく説明します。

直腸がんの手術

直腸がんの手術方法には、大きく分けると、直腸局所切除術、前方切除術、直腸切断術、括約筋間直腸切除術があります。

■直腸局所切除術

直腸がんの周りの部分だけ切り取る手術方法です。手術する場所に道具を届かせるために、肛門から侵入する方法と、お尻の骨(仙骨)の横から侵入する方法があります。切除する部分は、がんから1cm程度離れたところになります。早期の大腸がんに対して行われることが多い手術です。

■前方切除術(高位前方切除術/低位前方切除術)

がんのある直腸を切除する手術方法です。切除後、切除せずに残った直腸と結腸をつなげるための自動吻合器という機械も使われます。

■直腸切断術

肛門に近い直腸にあるがんに対して行う手術です。直腸と一緒に肛門も切除します。肛門を切り取ってしまうため、代わりとなる人工肛門(ストーマ)を取り付ける必要が出てきます。人工肛門から便を排泄するために、袋(パウチ)を取り付けます。

最近では人工肛門の管理が進歩するとともに、人工肛門を作った人にも使いやすい公衆トイレや浴場なども見かけられるようになってきました。慣れてくると、それまでの日常生活に近い生活を送ることができます。

■括約筋間直腸切除術

肛門に近い直腸にあるがんに対して行う手術です。また、比較的早期のがんに対して行われます。肛門付近にできたがんを切り取る際に、肛門括約筋(肛門を開いたり閉じたりする筋肉)の一部を残す手術方法です。肛門括約筋は、内側(内肛門括約筋)と外側(外肛門括約筋)に分かれます。このうちがんに近い内肛門括約筋のみ切り取ります。

肛門を残すことができるという利点はあるのですが、一部の筋肉を切り取ってしまうために肛門機能が低くなることもあります。

また、直腸がんの方が結腸がんよりも再発が多いことが分かっています。以下が再発率の比較の表になります。

【結腸がんと直腸がんの再発の起こる割合の違い】

再発部位 結腸がんの再発割合 直腸がんの再発割合
肝臓 7.0% 7.3%
3.5% 7.5%

局所(がんのあった部位の近く)

1.8% 8.8%

吻合部(がんを切除した断面)

0.3% 0.8%
その他 3.6% 4.2%
合計 14.1% 24.3%

*太字は統計学的に有意差のあった再発部位

大腸癌研究会プロジェクト研究1991−1996年症例を参考に作成)

そのため、手術に慎重になることはもちろんですが、手術後に再発がないかをチェックするために検査も慎重に行っていきます。(手術後の検査スケジュールについてはこちら。)

リンパ節郭清

大腸がんの手術を行ううえでリンパ節郭清(かくせい)を行うことがあります。リンパ節郭清は結腸がんでも直腸がんでも行います。

大腸がんは進行するとリンパ節転移を起こします。そこで、大腸がんを取り除くとともに、転移している可能性があるリンパ節を複数まとめて取り除きます。これをリンパ節郭清と言います。

CT検査など事前に行った検査でリンパ節に転移がないように見えても、見えない転移が起こっていることがあります。手術の際、見えないリンパ節転移を取り残してしまうと、再発の原因になってしまいます。そこで、がんの近くにあって転移が起きやすいリンパ節は、がんがある場所と一緒にまとめて取り除きます。

リンパ節郭清を行う範囲は適切である必要があります。本来郭清を行うべき範囲に比べて狭い範囲しか郭清しなければ再発の危険性が上がりますし、本来郭清を行うべき範囲に比べて必要以上に郭清してしまいますと身体の負担が大きくなります。

そのため、事前の検査と手術中の様子を考え合わせて郭清する範囲が決まります。

リンパ節郭清には3段階あり、その程度は以下のとおりです。

  1. D1郭清
    • 大腸の近くにあるリンパ節(腸管傍リンパ節)を切除
  2. D2郭清
    • がんのある大腸に入ってくる血管(栄養血管)に沿ったリンパ節も切除
  3. D3郭清
    • 栄養血管の根元にある血管も切除

上に記したリンパ節郭清のうちD3郭清が最も多くのリンパ節を切除します。実際にどの程度の範囲を郭清することが推奨されているかは下の表をご覧ください。

深達度 郭清の範囲
Tis:粘膜内にとどまる 郭清しない or D1
T1a:粘膜下層(1000μm未満)に達する D2
T1b:粘膜下層(1000μm以上)に達する D2
T2:固有筋層に達する D2 or D3
T3:固有筋層を超えるが漿膜を超えない D3
T4a:漿膜を超える D3
T4b:漿膜を超えて周辺の臓器に達する D3
◎リンパ節転移のある場合 D3

リンパ節転移のない場合は、大腸がんの深達度によって郭清範囲が決まります。大腸がんのリンパ節転移がある場合は、D3郭清が選択されます。つまり、転移しているリンパ節の周囲のリンパ節も転移している可能性があるので疑わしい部分を全て切除するような形になります。

腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術は、腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれる内視鏡の一種を、大腸の中ではなく、大腸の外側の隙間(腹腔)に入れて行う治療です。

図:腹腔の概念のイラスト。腹腔鏡下手術では腹腔の中に器具を入れて操作する。

お腹の数カ所に小さい穴を開けて、ポートと呼ばれる細い筒を入れ、炭酸ガスで腹腔を膨らませます。

ポートの中に腹腔鏡を入れて腹腔の中を映し出します。映った様子を見ながら内視鏡治療のように腹腔鏡用の医療機材を操作して手術を行います。

腹腔鏡下手術のメリットは皮膚につける傷が小さくて済むため、痛みが少ないこと、回復が早いこと、出血量が少ないことが挙げられます。一方、デメリットとしては、お腹を開く手術とは別の高度な技術が必要であること、手術時間が長くなること、手術費用が高くなることが挙げられます。

高齢者でも大腸がんの手術はできる?

高齢者でも手術を受けることができます。一昔前は、高齢者に対して手術を行うと逆に寿命を縮めてしまうという観点から高齢者に対する手術は慎重に考えられていました。しかし、現在は高齢者に対してであっても大腸がんの手術を検討します。その背景には以下のことがあります。

  • 高齢であっても身体が元気な人が多い
  • 大腸がんの治療は手術を行う場合が最も治療成績が良い
  • 腹腔鏡下手術など手術による身体への負担を軽くする努力が実ってきている

こうした背景のある中、年齢よりも身体の元気さ(見た目、心機能、肝機能、腎機能など)から総合的に手術の可否を判断します。

高齢者の大腸がん手術について世界消化器学会で発表された日本からのデータがありますので紹介します。このデータではなんと85歳以上の大腸がん患者を対象としています。85歳以上の77人の大腸がん患者(男性27人、女性50人)に対して腹腔鏡下手術を行ったところ、術後合併症として21人にせん妄・術後腸閉塞手術部位感染尿路感染症肺炎が起こりましたが、後遺症として残ることはありませんでした。

このデータは、85歳以上の大腸がん患者であっても手術前に耐術能(手術に耐えるための身体の余力)をきちんと判断し、腹腔鏡下手術を適切に行えば、手術をすること自体は問題ないことを示しています。ここでは、耐術能を評価することと腹腔鏡下手術を適切に行うということがミソになりますが、年齢は単なる参考材料であって身体の状態を最も重要視することが望ましいという考えを後押しする材料になりそうです。

大腸がんの手術の入院期間は?

大腸がんの手術を受ける際に、入院期間と費用に関してあらかじめ知りたいと思う人は多いでしょう。ここでは入院期間に関して考えていきます。費用に関しては下の「手術にかかる費用はどの程度なのか?」でまとめていますので、そちらを参考にしてください。

大腸がんの手術は、内視鏡手術・腹腔鏡手術・開腹手術に分けられます。いずれも手術のやり方も異なれば、入院日数も異なります。ひとつひとつ見ていきましょう。

■内視鏡手術

大腸がんの内視鏡手術では主に内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います。内視鏡手術は大腸カメラ下部消化管内視鏡)を用いて行うため、お腹を切らずに済みます。

身体の負担が軽くなる一方で、細い腸管の中を内視鏡1つで手術するため難易度が高くなります。

内視鏡手術の詳しいことに関しては、「大腸がんの内視鏡治療とは?」を参考にしてください。

内視鏡手術では入院せずに当日に帰宅できることもありますが、手術当日に食事を中止して点滴で栄養をとる場合も多く、大抵は数日くらい入院することになります。

■腹腔鏡手術

腹腔鏡手術ではお腹の数か所に小さい穴を開けて、ポートと呼ばれる細い筒を入れて手術を行います。腹腔鏡に映った様子を見ながら内視鏡治療のように治療していきます。この手術ではお腹を大きく切らなくて済むことがメリットとなります。

一口に腹腔鏡手術といっても、切除する範囲や耐術能の違いによって入院期間は変わってきます。たいていの場合は、1-2週間の入院期間と考えてください。

一方で、腹腔鏡手術は簡単な治療ではありません。主な合併症は、出血・縫合不全(切ったのちに繋いだ部分が離れてしまう)・感染などです。合併症が出現した場合は、それを治療する時間が必要な分、どうしても入院期間は想定よりも長くなってきます。

■開腹手術

開腹手術は文字通り、お腹を切って行う手術のことを指します。上で述べたように、大腸がんの手術では多くの手術法があります。手術の難易度は大腸がんの位置によってもまちまちです。

おおよその目安としては、開腹手術を行うと1-2週間くらいの入院となると考えてください。

2. 大腸がんの手術の後遺症は?

大腸がんの手術では、がんを含めた身体の一部を切り取ります。そのため、それまで正常に機能していたものが手術後には損なわれてしまう場合があります。これを後遺症と言います。

手術の後に起こる困った出来事は合併症と呼ばれます。合併症の中でも手術後も長く残ったものが後遺症となります。

術後合併症の例として上のものがあります。このなかでも下痢や腸閉塞や排尿障害、勃起障害などは後遺症としても残りやすくなります。合併症をうまくコントロールすることは重要です。リハビリテーションや薬を用いることでコントロールしやすくなります。

手術後の問題に関して詳しく知りたい方は、「大腸がんの術後合併症で何が起こる?」の章を参考にしてください。

3. 大腸がんの手術の名医はどこに?

誰でも大腸がんの手術を受けるならば、上手な医師に切ってほしいと思うことでしょう。自分の身体を預ける相手が経験の浅い医者であれば不安になるのも無理はありません。

手術の名医はどこにいるのか知りたいと思うのは自然な気持ちです。仮に遠く離れた病院であっても、名医が見てくれるなら遠方の病院で入院することも辞さないと思う方は多いです。

しかし、ここで注意しなくてはならないのは、手術は日々工夫されており日進月歩であるということです。また、医師もよりうまく手術を行おうと日々努力しているということです。

つまり、極端な話ですが、昨日まで名医でなかった医師も努力次第では明日にも名医になっているかもしれないということです。また、手術方式(術式)が大きく変わったら、名医もほかの医師と同じように練習を必要とする可能性もあります。もちろん手術における基礎的な技は術式が変わろうと失われることはありませんが、手術から離れることがあれば技量が落ちていってしまうこともありえます。

手術件数の少ない病院では1人の医師にとってもなかなか手術の経験を積めないという傾向があります。もちろん手術件数が少なくても手術技量の高い医師はいますが、病院ごとの手術件数は1つの参考材料となります。厚生労働省は「DPCデータ」というデータについて病院ごとの手術件数を公表していますので参考にしてください。

とは言え、本当の名医は手術の腕だけで決まりません。手術以外にも多くの要素が考えられます。

  • 手術がうまい
  • 経験が豊富
  • 知識が豊富
  • 人当たりがよい
  • なんとなく馬が合う
  • 患者の状況を察知して案じてくれる

こうした項目の中でどれを重視するかは患者によっても違います。つまり、ある患者にとっての名医がほかの患者にはそうでないといったことも、その逆もあります。詳しくは「大腸がんの名医はどこにいる?病院の選び方とセカンドオピニオン」をあわせてご覧ください。

4. 手術にかかる費用はどの程度なのか?

大腸がんの手術を受ける場合、身体への負担やその後の生活が気になります。経済的な負担に関しても気になることでしょう。ここでは手術を行うと一体どの程度のお金が必要になるのかを解説します。

大腸がんの手術費用の例を挙げます。保険診療の範囲内で、自己負担が3割のときの自己負担額の目安です。

  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR):5万円から6万円
  • 開腹手術:30万円から60万円
  • 腹腔鏡下手術:40万円から60万円

いずれも入院した場合です。入院中にかかる費用を含めています。

以上の費用はあくまで目安です。実際には人によって手術の前後に必要な検査や治療が違うため、目安の範囲から外れる場合もあります。

また、自己負担の割合によって支払う金額は変わります。さらに高額療養費制度によって、決まった限度額を超えた分は数か月後に払い戻しを受けられる場合があります。限度額適用認定証を利用することで、高額療養費制度による払い戻しに相当する額をあらかじめ減らしておける場合もあります。ほかにも利用できる助成などがあるか、医療機関や保険の相談窓口で相談してください。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

保険診療の自己負担とは?

保険によって行われる検査や治療を保険診療と言います。保険診療では、検査や治療などのひとつひとつに診療報酬点数が決められています。診療報酬点数をもとに、患者が払う自己負担額が計算されます。

自己負担の割合は年齢によって違います。

  • 小学校入学前:2割
  • 小学校入学後70歳未満:3割
  • 70歳以上:2割

※70歳以上でも現役並み所得者は3割負担です。

最初に示した費用目安は3割負担で計算しています。2割負担の人では3分の2程度の自己負担額となります。

高額療養費制度とは?

月初めから月末までの1ヶ月に世帯で支払った医療費が高額になる場合、年齢や収入に応じた一定の負担額の上限を超えた医療費があとから払い戻される制度です。保険が適用される医療費であれば、通院・入院・在宅療養問わず制度の対象となります。入院時の差額ベッド代や食事代、先進医療にかかる費用などは対象外となります。

申請に必要な書類は、加入されている医療保険(お手持ちの健康保険証に保険者名称が記載されています)の窓口でご確認ください。申請の際に、病院の領収証などが必要となる場合もあるので、失くさないようにまとめておきましょう。請求から支給までに通常3ヶ月程度かかります。