だいちょうがん
大腸がん
大腸の粘膜にできるがん。国内のがん患者数がもっと多く、死亡者数も女性において原因の1位
20人の医師がチェック 305回の改訂 最終更新: 2024.01.10

大腸がんの統計②:年齢別罹患率と死亡率、男女別、遺伝性の大腸がんについて

多くのがんは年齢が上がると罹患率も死亡率も上昇します。この傾向は大腸がんにも当てはまります。年齢ごとに見ると実際にどのくらいの人が大腸がんにかかっているのでしょうか。

1. 罹患率とは?

罹患率(りかんりつ)とはある期間のうちに特定の病気が発生する人の割合のことを指します。似たような言葉で有病率(ゆうびょうりつ)と言うものがあります。有病率はある時点で特定の病気を持っている人の割合のことを指します。

大腸がんになる人はどれぐらいいる?

生涯罹患率は人間の一生で何%の人が大腸がんを経験するのかを指します。『がんの統計』によると大腸がんの生涯罹患リスクは、男性が10.3%%で女性が8.1%となっています。つまり、男性の10人に1人、女性の13人に1人が死ぬまでに一度は大腸がんになることになります。

一方で、大腸がんの罹患率を年齢ごとに区切ったものを年齢別罹患率といいます。年齢別罹患率は、大腸がんが発生するのは何歳のときが多いかを表します。大腸がんの年齢別罹患率が実際にどういった数字になるのか見ていきましょう。

大腸がんができやすい年齢層は?

大腸がんになりやすい年齢はあります。他のがんと同様に年齢が上がれば上がるほど大腸がんの罹患率は上昇します。つまり、40代の1年間よりも60代の1年間のほうが大腸がんができる確率が高いということです。

「がん情報サービス」で公開されている大腸がんのデータにしたがって、年齢階級別罹患率のグラフを示します。

大腸がんの年齢階級別罹患率・全国推計値(2015)

このグラフを見て分かるように、40代になるころから大腸がんのリスクがしだいに上昇し、その後年齢とともにさらにリスクが高まります。そのため健康診断における大腸がんの検査(便潜血検査)は40歳以上に行われることが多いです。

とはいえ、もちろん39歳以下の人でも大腸がんになることもあります。若い人が大腸がんを心配する必要は基本的にはないと考えて良いですが、家族で若くして大腸がんになった人がいる場合は、大腸カメラ下部消化管内視鏡)で一度精密検査をしても良いと思われます。

2. 大腸がんの年齢別死亡率は?

『がんの統計(2021年のデータ)』によると大腸がんの死亡リスクは、男性が3.3%で女性が2.7%となっています。

つまり、男性の33人に1人、女性の44人に1人が大腸がんが原因で死亡するという意味です。「大腸がんになると3%の確率で死亡する」という意味ではないことに注意してください。

大腸がんの死亡リスクを先ほど述べた生涯罹患リスクと比べた表を下に示します。

【男女別の大腸がん生涯罹患リスクと死亡リスク】

性別

生涯罹患リスク

死亡リスク

男性

10.3%

3.3%

女性

8.1%

2.7%

(『がんの統計'23』を元に作成)

つまり、男性の10.3%が大腸がんになりそのうちの3割ほどが大腸がんで亡くなり、女性の8.1%が大腸がんになりそのうち3割ほどが大腸がんで亡くなっていることになります。男女とも、大腸がんになった人のうち7割近くは、ほかの原因で死亡するまで生き延びることができます。

この死亡リスクは生涯のうちで何%の人が大腸がんで亡くなるかをみています。年齢別に見るとどのくらいの人が大腸がんで亡くなっているのでしょうか。

大腸がんの年齢別死亡率はどの程度か?

大腸がんの罹患率は年齢とともに上昇することを上で述べましたが、大腸がんの死亡率も年齢とともに上昇します。年齢ごとに大腸がんの患者の死亡率をまとめたグラフを下に示します。

大腸がんの年齢階級別死亡率(2021)

このグラフを見ても、高齢者のほうが大腸がんで死亡しやすい傾向が見えます。年齢を重ねると大腸がんになりやすいだけでなく、体力が落ち持病も増えるため、大腸がんにかかると死亡率があがってしまいます。

この「高齢になるほど大腸がんで死亡する人が多い」という事実は、統計データを見るときに覚えておくべき点です。つまり、「昔に比べて大腸がんで死亡する人が増えてきた」という数字を見たときは、「高齢化したからではないか」と考えながら読み解かなければ誤解してしまうかもしれません。

実際には、高齢化が進む一方でがん治療は年々進歩しています。大腸がんは昔ほど怖い病気ではないと言えるかもしれません。このように、年齢構成の変化を除いて大腸がんによる影響の強さを見たいときに適した方法を次に紹介します。

年齢調整死亡率とは?

大腸がんの死亡率を昔と今で比べたいときには、年齢調整死亡率がよく使われます。年齢調整死亡率は、死亡率に対する年齢構成の影響を取り去ったものです。計算のやり方は詳しく説明しませんが、「仮に現代の年齢構成が昭和60年と同じだとすれば全年齢合計の死亡率はいくらか」という計算をします。

年齢調整死亡率を使うことで、高齢化の影響を除いて、大腸がんを持った人がどれぐらい生きられるようになったかという変化を追うことができます。

現代は昭和60年から大幅に高齢化しているので、大腸がんの年齢調整死亡率は単純に現代の人口と死亡者数から計算した死亡率(粗死亡率)と変わってきます。説明のための例として、1995年と2016年の年齢調整死亡率の値を表に示します。

【大腸がんの粗死亡率と年齢調整死亡率(対10万人)】

  全年齢粗死亡率(1995年) 全年齢粗死亡率(2016年) 年齢調整死亡率(1995年)

年齢調整死亡率(2016年)

男性

28.4 44.4 24.4

20.7

女性

22.0 36.0 14.1

12.0

合計

25.2 40.1 18.5

16.0

(国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』を元に作成)

表にある数字から読み取れることを説明します。まず表を読む前提知識として、1995年から2016年の間に高齢化が進んでいます。このため、全年齢粗死亡率を見ると、男女ともに大腸がんで死亡する人の割合は増えていることがわかります。しかし年齢調整死亡率を見ると、1995年から2016年でむしろ数字は減っています。つまり高齢化の影響を除けば大腸がんで死亡する人は減っています。つまり、「高齢化により大腸がんになる人が増えたが、大腸がんになっても助かることが多くなった」と解釈できます。

3. 遺伝による大腸がんとは?

がんに遺伝が関与していることを証明するのは容易ではないですが、すでにがんに関与していることが明らかになっている遺伝子はいくつか分かっています。

大腸がんでは2-3割程度は遺伝的な要因が関与しているとも言われています。中には目に見えて「親も子も高い確率で大腸がんになる」という家系もまれにあります。家族性大腸腺腫症FAP:Familial Adenomatous Polyposis)とリンチ症候群という病気は遺伝的に大腸がんを起こすことが分かっています。

どういった場合に遺伝性大腸がんを疑えばよいのでしょうか?

遺伝性大腸がんを疑うのはどういった場合か?

がんの初期にはたいてい症状がありません。がんを早期発見するのが難しい理由のひとつは症状がないためです。大腸がんも症状がないうちから自分で気付くことは難しいです。このため、大腸がんになりやすい年齢になると定期的に検診を受けることが推奨されるのです。逆に言えば、30代までで目立った症状がある場合、大腸がん以外の原因を優先して疑うべきです。

見つけることの難しい大腸がんですが、遺伝性の大腸がんはある程度予測できます。遺伝性の大腸がんには以下の特徴があります。

  • 若いうちに大腸がんになる
  • がんを治療しても繰り返しがんになる
  • 同時に多くの大腸がんが出現する
  • 大腸以外のがんも出現する

当てはまった人が検査などの結果、遺伝性の大腸がんと確定した場合、家族も同じタイプの大腸がんになる確率を計算できます。そこで、家族に遺伝性の大腸がんが見つかったときには、自分にも大腸がんが発生することを予測して手を打てる場合があります。

たとえば血便が見えたり、下痢や便秘を繰り返したりすることがあった場合、医療機関を受診して原因を追求することが望ましいと言えます。たいていの人では30代までに大腸がんを心配する必要は薄いですが、遺伝性の大腸がんがわかっている人では若いうちから大腸がんを考えに入れるべきです。

診断の結果次第ではその後定期的に通院し大腸カメラ(下部消化管内視鏡)の検査を行って、大腸の中の状態を確認することが必要になるかもしれません。

このように、一人に遺伝性大腸がんが診断されると、家族に大きな影響があります。遺伝による影響をどう受け止め対処するかが大切です。遺伝の影響を正しく理解し意思決定しやすくするために、遺伝カウンセリングを利用することができます。

遺伝性大腸がんを疑った場合は次にどうしたら良いのか?

大腸がんは40代以降にできやすいがんです。通常は40歳未満の人に発生することはほとんどありません。しかし、遺伝性大腸がんの家系にいる人は若くして大腸がんになりやすいことが分かっています。

家族が遺伝性大腸がんと診断された場合は、まずは医療機関にかかることです。医療機関では次の検査を行うことになります。

【大腸がんの検査】

  • 問診・身体診察
  • 腫瘍マーカーのチェック
  • 胸部・腹部CT検査
  • 大腸内視鏡検査下部消化管内視鏡検査

この結果を踏まえて自分も遺伝性大腸がんの可能性が高いと判断された場合は、その後定期的な検査を受けていきます。治療に関しては、家族性大腸腺腫症やリンチ症候群に適した方法が取られます。

それではこの2つの病気に関して詳しく説明していきます。

4. 家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス:FAP)とはどんな病気か

家族性大腸腺腫症は、大腸ポリープ(大腸腺腫)が多発する病気です。多数のポリープはがんに変化する可能性があります。治療しなければ60歳代までにほぼ全員が大腸がんになります。原因の遺伝子異常は親から子に50%の確率で遺伝します。

家族性大腸腺腫症はまれな病気です。ある報告(人類遺伝誌1981;26:19-30)では日本人の17,400人に1人の割合で家族性大腸腺腫症が起こるとされています。

原因遺伝子について説明します。やや専門的なので大まかに理解したい方は次の章に進んでください。

家族性大腸腺腫症の原因は、第5番染色体上にあるAPC遺伝子の異常です。家族性大腸腺腫症常染色体優性遺伝をします。「常染色体優性遺伝」という言葉は大切なので意味を説明します。

染色体は全身の細胞の中にある微小な構造物です。染色体は遺伝子を運ぶ媒体です。ひとつの細胞には46個の染色体が入っています。46個のうち44個は、2個ずつ22組のペアになるものです。残りの2個は性染色体と言って性別の決定に関わっています。性染色体を除く44個の染色体を常染色体と言います。常染色体は第1番から第22番までの番号で区別されます。第5番染色体も常染色体のひとつです。

ペアになる染色体には同じ遺伝子が書き込まれています。同じ遺伝子でも、どちらか一方に異常がある場合や、両方に異常がある場合があります。遺伝子による病気で、2個の染色体のうち1個が異常でももう1個が正常なら発病しないものを劣性と言います。どちらか1個に異常があるだけで発病するものを優性と言います。

家族性大腸腺腫症は常染色体優性です。つまり、常染色体である第5番染色体に原因遺伝子があり、どちらか一方にでも原因の異常があれば発病します。

ペアになる常染色体は2個のうち1個が子どもに受け継がれます。親が2個の染色体のうち1個に異常を持っている場合、異常のある染色体は50%の確率で子どもに受け継がれます。2個ともに異常がある場合はきわめてまれなので計算上無視できます。このため、優性の遺伝子異常による病気を親が発病していたとき、子どもは50%の確率で原因の遺伝子異常を持っていると言えます。

家族性大腸腺腫症は常染色体優性遺伝することがわかっているので、親に見つかった時点で子どもに50%の確率で遺伝していることが予測できます。

次に家族性大腸腺腫症ではどういった症状が出るか見ていきましょう。

家族性大腸腺腫症になるとどういった症状が出る?

家族性大腸腺腫症は放置するとほぼ100%の人に大腸がんが発生すると言われています。実際、40歳代には約半数が大腸がんになり、60歳代になるとほぼ全員が大腸がんになります。

家族性大腸腺腫症になると以下の症状が出ることがあります。

しかし、これらの症状も家族性大腸腺腫症にだけ特徴的というわけではありません。現実的には症状から家族性大腸腺腫症を疑うことは難しいです。

家族性大腸腺腫症はどうやって診断する?

家族性大腸腺腫症の診断には、大腸カメラ(下部消化管内視鏡)の検査でポリープの存在を確認したうえ、ポリープを内視鏡で切り取って顕微鏡で調べる組織診断を行います。また、遺伝子検査を行うこともあります。そして、血縁に家族性大腸腺腫症の人がいるのかどうかも重要な判断材料になります。実際にどういった形で診断するのか下に示します。

家族性大腸腺腫症の診断】

  • 大腸に100個以上のポリープが存在する
  • 大腸にあるポリープは100個未満であるが、親族に家族性大腸腺腫症の人がいる
  • APC遺伝子の変異が存在する

上の3つのいずれかに該当する場合は家族性大腸腺腫症と診断されます。家族性大腸腺腫症の疑いで100個以上のポリープが見つかった人の中でも、APC遺伝子の変異がなかった人が2-4割程度存在したことが報告されています(JAMA. 2012 August 1; 308(5): 485–492.)。また、この報告ではポリープが20個未満の場合でもAPC遺伝子の変異が数%で見られています。診断には総合的な判断が必要となります。

家族性大腸腺腫症はどうやって治療する?

家族性大腸腺腫症は時間が経つと確実に大腸がんになることが分かっていますので、がんになる前に大腸を切除することが治療になります。20歳代のうちに大腸の切除を行うことが標準とされています。

手術の方法は主に3つあります。

家族性大腸腺腫症に対する手術方式】

  • 大腸全摘+回腸人工肛門造設術
  • 大腸全摘+回腸嚢肛門管吻合術
  • 結腸全摘+回腸直腸吻合術

これらの治療法には長所と短所がありますので、簡単に説明します。

  • 大腸全摘+回腸人工肛門造設術
    • 長所:合併症が少ない、大腸がんを完全に予防できる
    • 短所:人工肛門(ストマ)の管理が大変である
  • 大腸全摘+回腸嚢肛門管吻合術
    • 長所:大腸がんの予防効果が高い、肛門の機能を温存できる
    • 短所:手術が難しい、肛門の粘膜にがんが発生することがある
  • 結腸全摘+回腸直腸吻合術
    • 長所:手術が容易で合併症が少ない、肛門の機能が保たれる
    • 短所:残存した直腸にがんが起こることがある

どの治療法が取られるのかはポリープのある位置や数などにもよるため、どの方法が優れているかを一概に言うことはできません。ただ、どの治療を選ぶかの決定権は患者さん自身にありますので、ここに挙げた長所と短所をよくよく理解して主治医と相談することが望ましいです。

家族性大腸腺腫症から大腸がんに至った場合は、大腸がんに対する標準治療を行います。がんの状態と身体の状態を鑑みて、手術や化学療法放射線療法などから適した治療法を選択します。

家族性大腸腺腫症は大腸以外にも病気をもたらす?

家族性大腸腺腫症は大腸にポリープができる病気ですが、大腸以外にも病気を併発することが分かっています。

家族性大腸腺腫症患者が亡くなった原因疾患を数えたデータがありますので、下の表に示します。

家族性大腸腺腫症の患者の死因(1990年-2003年)】

大腸がん

43人

デスモイド腫瘍

7人

胃がん

2人

十二指腸/乳頭部がん

4人

小腸がん

1人

膵がん

1人

食道がん

1人

肺がん

4人

子宮がん

1人

甲状腺がん

1人

心筋梗塞/心不全

2人

脳卒中

2人

その他の疾患

2人

合計

71人

(『遺伝性大腸がん診療ガイドライン2016』を元に作成)

上の表にあるように家族性大腸腺腫症の方で大腸がんで亡くなった人は6割程度になり、その他の病気で亡くなった人も多いです。そのため、大腸切除術を行ったあとも、特に消化管(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸)にがんが出現しないかは定期的に検査すると良いかもしれません。

家族性大腸腺腫症の家族がいる方へ

家族性大腸腺腫症は常染色体優性遺伝の病気ですので、患者さんのみならずその家族にも関わる病気です。そのため、家族の誰が家族性大腸腺腫症なのかを把握することは重要です。時間の経過とともに大腸がんへと移行する病気ですので、家族にもしっかりと診断をつけて大腸がんへと至らないように予防する必要があるのです。

そこで、もし遺伝カウンセリングを受けるのであれば家族も一緒に受けることが望ましいです。少なくとも親・子・兄弟は可能な限りカウンセリングに同席するようにしてください。また、今後子どもを作る予定がある方も不安が大きいと思います。ご自身の遺伝子の状況によっては子どもへの遺伝の可能性が変わる場合もありますので、カウンセリングを受ける際に不安な点を残さず聞いておくことをおすすめします。

5. リンチ症候群とはどんな病気か

リンチ症候群とはあまり聞き慣れない病気かも知れません。以前は遺伝性非ポリポーシス性大腸がん(HNPCC; Hereditary Non-Polyposis Colorectal Cancer)とも呼ばれていた常染色体優性遺伝の病気です。

主にミスマッチ修復遺伝子が変異することが原因と考えられています。ミスマッチ修復遺伝子が変異してしまうと、体内のDNAを複製する過程で異常な物ができてもこれを見つけて修復することができなくなります。そのため、正常細胞からがん細胞ができても止めることができなくなり、がんができやすくなります。

全大腸がんの2-4%程度はリンチ症候群(HNPCC)が原因によるものと考えられています。さらにリンチ症候群は大腸がんだけでなく多くのがんを起こしやすいことも分かっています。

リンチ症候群になるとどういった症状が出る?

リンチ症候群には特に右側結腸(上行結腸)にがんができやすいという特徴があります。しかし、結腸以外の様々な臓器にも悪性腫瘍を起こすことが分かっていますので、出てくる症状は多種多様です。出現する主な症状は以下になります。

  • 下痢
  • 血便
  • 便秘
  • 嘔吐
  • 腹痛
  • 背部痛
  • 黄疸
  • しびれ
  • 倦怠感
  • 発熱

これ以外にも症状が出てくる可能性もあります。また、これらの症状はリンチ症候群以外でも出現する症状ですので、当てはまる症状が出てきたと思っても他の病気の可能性があることに注意してください。

リンチ症候群はどうやって診断する?

リンチ症候群の診断を簡単に説明します。リンチ症候群は以下の3つのステップで診断します。

  1. アムステルダム基準Ⅱあるいは改定ベセスダガイドラインを満たす
  2. 腫瘍組織のマイクロサテライト不安定性(MSI)検査あるいは原因遺伝子産物に対する免疫組織学的検査を行い、高頻度MSIまたは免疫染色でミスマッチ修復タンパク質の消失を確認する
  3. ミスマッチ修復遺伝子の変異を確認する

これらの詳細を覚える必要はありません。しかし、ポイントとして、血縁者の3人がリンチ症候群と診断されている人はアムステルダム基準Ⅱという基準などに当てはまる可能性があるため、要注意と考えてください。

リンチ症候群の大腸がんはどうやって治療する?

リンチ症候群による大腸がんは可能であれば手術で治療します。主に行われる手術の方式は以下の3つになります。

  • 散発性大腸がんと同等の手術範囲(がんの存在範囲から必要と思われる手術範囲を超えては切除しない)
  • 結腸全摘術
  • 大腸全摘術

手術の方式選択はがんの進行度や身体の状況によって判断されます。また、家族性大腸腺腫症と違って、予防的に大腸を切除するべきなのかは明らかになっていません。

また、リンチ症候群による大腸がんに対する化学療法の有用性は明らかになっていません。

リンチ症候群は大腸以外にも病気をもたらす?

リンチ症候群は大腸がんだけでなく子宮内膜がん子宮体がん)、卵巣がん胃がん、小腸がん、肝胆道系がん、腎盂・尿管がんなどの発症リスクが高まる疾患です。実際にどの程度の割合でがんが発生するのかを下の表で示します。

【リンチ症候群関連腫瘍が70歳までに発症する確率】

がんの種類

70歳までに発症する確率

男性の大腸がん

54-74%

女性の大腸がん

30-52%

子宮内膜がん

28-60%

胃がん

5.8-13%

卵巣がん

6.1-13.5%

小腸がん

2.5-4.3%

胆道がん

1.4-2.0%

膵がん

0.4-3.7%

腎盂・尿管がん

3.2-8.4%

脳腫瘍

2.1-3.7%

(『遺伝性大腸がん診療ガイドライン2016』より)

リンチ症候群では非常に多種多様ながんが発生することが分かっていますので、定期的な検査と自覚症状のある時の受診は行うべきと考えられます。

リンチ症候群の家族がいる方へ

リンチ症候群は家族性大腸腺腫症と同じく遺伝性疾患です。遺伝形式も同じく常染色体優性遺伝になります。

そのため、リンチ症候群という病気は患者さん自身だけでなく家族にも関わってきます。家族にもしっかりと診断をつけて様々ながんへと至らないようにしっかりと検査を行っていく必要があるのです。

もし遺伝カウンセリングを受けるのであれば家族も一緒に受けることが望ましいです。少なくとも親・子・兄弟は可能な限りカウンセリングに同席すると良いでしょう。また、今後子どもを作る予定がある場合はカウンセリングを受けるようにしてください。病気の状況や遺伝子の状況を踏まえながら説明をしてもらえます。カウンセリングを受ける際に不安な点を残さず聞いておくことをおすすめします。

6. 若くても大腸がんになる? 20代で大腸がんになる確率とは

年齢の若い人にもできるがんはごく一部だけです。しかし、若いからといって絶対がんにならないわけではないので注意が必要です。

20代で大腸がんになる確率は高くありません。およそ1万人に対して0.1-0.2人程度の罹患率と考えられています。そのため、20代の人はあまり大腸がんを恐れる必要はありません。例外は血縁に家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の人がいる場合です。

また、以下のことは大腸がんのリスクを高めることが分かっています。

  • 飲酒
  • 偏った食事(高脂肪食、食物繊維不足)
  • 喫煙

実際にどういった食事をすると良いのかについては、「大腸がんの原因とは?」で説明していますので参考にしてください。

7. 男性のほうが大腸がんになりやすい? 男女の違いはあるのか?

がんは日本で最も死亡者数の多い病気です。2015年の統計では年間でがんによっておよそ37万人が亡くなり、そのうちの5万人ほどが大腸がんで亡くなっています。女性では、がんによる死因の第1位が大腸がんです。

1年間で大腸がんが見つかる人、大腸がんで死亡する人の数を表にまとめます。

【大腸がんの予測罹患数(2022年)】

性別 罹患数(全がん中の順位)
男性 89,500人(3位)
女性 68,700人(2位)
総計 155,400人(1位)

(『がんの統計 '23』を元に作成)

【大腸がんの予測死亡数(2022年)】

性別 死亡数(全がん中の順位)
男性

28,500人(2位)

女性 25,500人(1位)
総計 54,000人(2位)

(『がんの統計 '23』を元に作成)

大腸がんは女性のがんのうち死亡数第1位、男性でもがんのうち死亡数第2位となっています。また、死亡者の絶対数をよく見ると、男性は28,500人で女性は25,500人と、男性のほうが多くなっています。この数字をもう少し詳しく見てみます。

大腸がんの男女の差異を考えます。まずは、一生の間に大腸がんにどの程度の割合で罹患するのか、またどの程度の割合で大腸がんで死亡するのかを男女別にまとめた以下の表を見てください。

【男女別の大腸がん生涯罹患リスクと死亡リスク】

性別 生涯罹患リスク 死亡リスク
男性 10.3% 3.3%
女性 8.1% 2.7%

(『がんの統計 '23』を元に作成)

この表を見ると、大腸がんは男性のほうが罹患しやすく死因になりやすいことがわかります。また、この傾向は大腸がんの中でも特に直腸がんで顕著であることがわかっています。

【男女別の結腸がん生涯罹患リスクと死亡リスク】

性別 生涯罹患リスク 死亡リスク
男性 6.5% 2.1%
女性 5.9% 2.1%

(『がんの統計 '23』を元に作成)

【男女別の直腸がん生涯罹患リスクと死亡リスク】

性別 生涯罹患リスク 死亡リスク
男性 3.8% 1.1%
女性 2.3% 0.6%

(『がんの統計 '23』を元に作成)

上の表のように結腸がんでは男女差が目立ちませんが、直腸がんでは生涯罹患リスクも死亡リスクも男性の方が女性の2倍近くになっています。とはいえ、生涯罹患リスクや死亡リスクの数字自体は結腸がんの方が大きいものとなっていますし、大腸がんは男性だけが気をつけるべき病気というわけではありません。

大腸がんの原因は様々ですので、どうして男女差が出るのかは明確になってはいません。男性のほうが喫煙率が高いことが関係しているかもしれませんし、男女の食生活の傾向の違いが影響しているのかもしれません。しかし、食事(赤肉・加工肉、高脂肪食、低食物繊維食)やアルコールによってどの程度の男女差が生まれているのかを判断するのは容易ではありません。全ての原因による影響を総合的に判断しなくてはならないので、がんの原因の調査は難しいのです。

これは大腸がんに限らず言えることですが、偏った食事や過度の飲酒、喫煙などを避けるようにして、バランスの良い生活を心がけることが健康のためには望ましいです。