のうこうそく
脳梗塞
脳の血管が詰まる結果、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死する。運動・感覚の麻痺などを起こし、後遺症による寝たきりや死亡にもつながる
21人の医師がチェック 443回の改訂 最終更新: 2024.10.18

脳梗塞とはどのような病気か:発症メカニズム、原因、症状、脳卒中や脳出血との違いなど

脳梗塞とは、脳の血管が詰まって血流が悪くなり、酸素や栄養の不足によって脳細胞がダメージを受ける病気です。脳梗塞はアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞の3つに大きく分けられます。これらの違いや症状、治療、後遺症などについて詳しく説明します。

1. 脳梗塞の種類:アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞

梗塞(こうそく)は、血管が詰まることでその先の組織や細胞が壊死することを指します。脳梗塞とは、脳の血管が詰まるなどして脳への血流が悪くなり、脳細胞が壊死する病気です。脳の細胞は一度死んでしまうと再生することはないので、麻痺(まひ)や喋りづらさなどが後遺症として残ります。

脳梗塞はその発症メカニズムの違いから主に3つの種類に分けられます。

【脳梗塞の種類】

  • アテローム血栓性脳梗塞動脈硬化によって、脳の動脈が狭くなったり血栓が詰まったりして起こる脳梗塞
  • 心原性脳塞栓症:心臓でできた血栓が脳の血管まで流れ着いて詰まることが原因で起こる脳梗塞
  • ラクナ梗塞:0.5mm以下の細い血管が詰まることが原因で起こる脳梗塞

以下で、3種類の脳梗塞について詳しく説明していきます。

アテローム血栓性脳梗塞

動脈硬化が進むことで脳の太めの血管(内頚動脈や中大脳動脈)が詰まって発症するタイプの脳梗塞です。動脈硬化とは、血管の壁が厚くなり、柔軟性が失われて硬くなった状態のことです。血管の内側が狭くなるので、血液の流れが悪くなって血の塊(血栓)ができやすくなります。

心原性脳塞栓症(心原性脳梗塞)

心臓でできた血栓が脳の血管まで流れついて詰まることで起こります。心臓でできる血栓は比較的大きく、太い血管を塞ぎます。そのため、脳へのダメージも大きく重症度が高くなりがちです。手足の麻痺や、言語障害の程度が重く、後遺症も残りやすいタイプの脳梗塞といえます。

心臓に血栓ができる病気には、不整脈心筋梗塞心臓弁膜症などいくつかあるのですが、中でも心房細動という不整脈が原因となることが多いです。このような心臓の病気では心臓内に血流のよどみが生じやすく、そこで血栓が作られます。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞は0.5mm以下の細い血管が詰まることが原因で起こる脳梗塞です。他の脳梗塞に比べると詰まる血管のサイズが小さいので、比較的重症度や死亡率が低いことが知られています。それどころか、ダメージを受ける脳細胞の範囲が狭いことから、脳の重要な場所から外れていた場合は、無症状であることもあります。たまたま撮った脳のMRIで、症状がないラクナ梗塞の跡がたくさん見つかることも珍しくはありません。

これが隠れ脳梗塞と呼ばれることもあります詳しくはこちらの「6. 隠れ脳梗塞とは何か」で説明していますのでご覧ください。

2. 脳梗塞の原因:動脈硬化を引き起こす病気や生活習慣、心臓の病気

脳梗塞の原因として動脈硬化が知られています。特に、アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞は、動脈硬化と密接な関係があります。動脈硬化はある程度の予防が可能なので、完全ではないものの、これら脳梗塞の予防につながります。

動脈硬化を進める主な病気や生活習慣は以下の通りです。

【動脈硬化を進める主な病気と生活習慣】

これらは治療によって改善する可能性があるものです。脳梗塞の原因となりうることを踏まえて、日頃の生活習慣を見直してみてください。

また、心原性脳塞栓症では次のような心臓の病気が関係しています。

【心原性脳塞栓症と関係がある心臓の病気】

これらの持病をきちんと治療することで、脳梗塞発症の可能性を下げることが期待できます。

そのほかの要因としては、次のものがあります。

  • 高齢
  • 男性
  • 家族に脳卒中の人がいる

これら3つのうち2つ以上あてはまる人は脳卒中の危険性が上がると考えられているので、あてはまらない人に比べると、脳梗塞の予防にはより注意を払う必要があります。具体的には、脳梗塞の可能性を高める病気を治療・予防をしたり、生活習慣を正すことになります。

3. 脳梗塞の症状

脳梗塞の症状は、梗塞が起きた部位やその大きさによって異なります。代表的な症状は下記の通りです。

【脳梗塞の症状】

  • 手足の動かしづらさやしびれ
  • ろれつの回りにくさ
  • 言葉の出づらさ
  • 意識が朦朧(もうろう)とした状態、意識消失

脳梗塞の症状は急に始まることもあれば、数時間をかけてしだいに悪くなっていく場合もあります。これは、血管が詰まってから組織が壊死するまでに時間がかかることがあるためだと考えられます。

また、小さい脳梗塞では症状がない場合もありますし、気付かないまま過ごしていて、ほかの病気の検査などで古い脳梗塞の跡が見つかることがあります。こうした脳梗塞は「隠れ脳梗塞」と呼ばれることもあります。隠れ脳梗塞がある人は、次に新しい脳梗塞を起こさないための対策が勧められますが、古い脳梗塞自体が悪くなるということではありません。

こちらのページで脳梗塞の症状について詳しく説明しています。当てはまる症状があれば、一刻も早く救急車を呼んでください。

4. 脳梗塞の治療について

脳梗塞が起きたらできるだけ早く治療を始めなければなりません。発症から4.5時間以内であれば、rt-PAという血栓を溶かす薬を使って血流の詰まりを解消します。カテーテルという細い管を動脈に入れて血栓を取り除くこともあります。

【発症直後の治療】

  • rt-PA
    • 発症から4.5時間以内の使用で効果が確認されている薬剤。脳の血管に詰まった血栓を溶かすために使われる
  • カテーテル治療
    • 血管内に管を通して血栓を回収する方法。rt-PAが使えないか使っても効果がなかった場合、内頚動脈または中大脳動脈が詰まった時に行われる
  • 抗血小板薬
    • 血小板の働きを弱めることにより、血液をさらさらにして、血栓をできにくくする薬
  • 抗凝固薬
    • 凝固因子の働きを弱めることにより、血液をさらさらにして、血栓をできにくくする薬
  • 脳保護療法
    • フリーラジカルの増加を抑える働きがあるエダラボン(商品名:ラジカット®など)という薬を使う方法
  • 脳浮腫を改善する治療
    • 脳がむくむと脳ヘルニアという危険な状態になる可能性があるため、薬物による抗脳浮腫療法、もしくは外減圧術を行い脳のむくみを予防する

脳梗塞は再発する病気です。そのため、再発の可能性を下げるために以下のような方法を行います。

【再発予防のための治療】

  • 脳梗塞のリスクを高める病気の治療
  • 禁煙
  • 抗血小板薬
  • 抗凝固薬
  • 内頚動脈狭窄症の治療
    • バイパス術・内頚動脈内膜剥離術
    • 頚動脈ステント留置術

詳しくはこちらのページで説明しています。

5. 脳梗塞の後遺症とリハビリテーションについて

一度死んでしまった脳細胞は元どおりにはなりません。そのため、さまざまな症状が後遺症として残ることがあります。後遺症を最小限にとどめ、生きている他の脳の部分で失われた部分の機能を補うためには、できるだけ早くからリハビリテーションを始める必要があります。また、長期間安静にしていると、褥瘡嚥下障害深部静脈血栓症といった合併症を起こすリスクが高まります。これらの合併症予防にもリハビリテーションが役立ちます。

【脳梗塞でみられる主な後遺症】

  • 運動麻痺:手足を動かしにくい
  • 感覚麻痺:熱い、冷たいなどの感覚が鈍くなる
  • 嚥下障害:飲み込みが難しい
  • 排尿障害:尿を出す機能が低下する
  • 視覚障害:見えにくい
  • 注意障害:注意が散漫になり集中できない、一つのことにかかりきりになり他に気が向かない
  • 失行:ハサミが使えないなど、普段の動作ができなくなる
  • 失認:見たり聞いたりしたものがわからない
    • 相貌失認:顔の見分けがつかない
    • 半側空間無視:見えていても片側半分を無視してしまう
    • ゲルストマン症候群:手指失認、左右識別障害、失書、失計算がある
  • 精神障害
    • うつ
    • 性格の変化

【主なリハビリテーション】

  • 歩く練習
  • 基本動作の練習
    • 寝返る
    • 座る
    • 立ち上がる など
  • 日常生活動作の練習
    • トイレで排泄をする
    • 入浴する
    • 着替える
    • 食事をする
    • 階段の昇り降りをする  など
  • 話す、聞く、摂食・嚥下の練習
  • バランス練習

これらの基本的なリハビリテーションに、トレッドミル(ランニングマシーン)などの器具を使った運動、電気刺激療法、装具療法を組み合わせることがあります。

後遺症を抱えて退院し、家庭や社会に復帰するためには、リハビリテーションを根気よく続けることが肝心です。脳梗塞を発症した場合、全身の状態が許す限り、なるべく早くリハビリを始めるようにし、退院後も可能な範囲で続けてください。

6. 脳卒中、脳出血、くも膜下出血との違い

脳卒中、脳出血、くも膜下出血と似たようなイメージを抱くかもしれませんが、それぞれ異なるものです。病気の内容を中心に説明します。

脳卒中について

脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの、脳の血管が破れたり詰まったりする病気の総称です。

脳出血は、脳の中の血管が破れる病気です。高血圧や加齢が原因で血管がもろくなるのが原因です。

くも膜下出血も脳出血と同じく、脳の血管が破れる病気ですが、破れる血管の種類が異なります。脳出血が「脳の中の血管」であるのに対して、くも膜下出血では主に「脳の表面に存在する血管」が破れます。

脳出血は高齢者に多いのですが、近年では若年者の脳出血の割合も増えています。

脳出血について

脳出血の症状としては次のものが挙げられます。

  • 頭痛
  • 吐き気や嘔吐
  • 手足の動かしづらさやしびれ
  • ろれつの回りにくさ
  • しゃべりづらさ
  • 意識がもうろうとしている、意識を失っている

出血する部位や出血の量によってあらわれる症状は異なります。また、一般的には脳出血の症状は突然始まる場合が多いとされます。

病気が起こって間もない急性期では、主に薬を使って、血圧を下げる治療が行われます。

命の危険がある場合は手術が行われます。手術では、血の塊を取り除いたり、止血したりしますが、出血の部位によっては手術が難しいことがあります。

くも膜下出血について

くも膜下出血とは、脳を包む「くも膜」という膜の内側で出血することです。脳の表面にある血管が破れることが原因になります。40歳-60歳代で発症することが多く、脳出血や脳梗塞よりも若い人が発症するという特徴があります。

くも膜下出血では、3分の1の人が死亡、3分の1の人が大きな後遺症が残り、残った3分の1が退院して社会や家庭に復帰できます。

■くも膜下出血の原因について
くも膜下出血の原因として最も多いのが、脳の血管にできた動脈瘤(どうみゃくりゅう)の破裂です。動脈瘤は正常な血管より破れやすくなっており、特に大きな動脈瘤は破裂の危険が高いと考えられています。

動脈瘤以外の原因として動静脈奇形が挙げられます。動静脈奇形は、脳の血管の一部が生まれつき異常な形になっているものです。

ほかにも頭の外傷(けが)が原因でくも膜下腔の血管が破れるとくも膜下出血となります。外傷性くも膜下出血と言います。

■くも膜下出血の症状について
くも膜下出血の症状は次の通りです。

  • 突然の激しい頭痛(今までの経験した頭痛の中でも最強レベルであることが多い)
  • 吐き気、嘔吐
  • 意識がもうろうとしている、意識を失っている

この中でも「突然の激しい頭痛」が特徴的です。くも膜下出血でなくても、その他の重い病気が隠れている可能性があるので、ただちに医療機関を受診してください。

くも膜下出血を起こした動脈瘤は再破裂する危険性が高く、再破裂は命に関わります。再破裂を防ぐために手術(クリッピング術)やカテーテル治療(コイル塞栓術)が行われ、集中治療室に入って全身管理しながら治療が行われます。