ばせどうびょう(こうじょうせんきのうこうしんしょう)
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
若い女性に多く、甲状腺から過剰に甲状腺ホルモンが分泌される病気。症状は汗、動悸、手の震え、体重減少、下痢が多く、眼球突出は3割ほどの人に起こる
16人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.12.22

バセドウ病の原因は? 年齢、性別、ストレス、タバコなどとの関係

バセドウ病の原因は免疫の異常です。異常な抗体により甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンが過剰に出てしまうことで、目が飛び出る、汗をかくなどの症状があらわれます。バセドウ病になりやすい年齢、性別などとあわせて説明します。

1. バセドウ病の原因は何か

バセドウ病の原因は、甲状腺という臓器の異常です。甲状腺はのど元にあり、バセドウ病では腫れて大きくなります。

甲状腺の場所の画像:甲状腺は首の前側、のどぼとけの下、気管の前面で左右の頚動脈の間にある

甲状腺は甲状腺ホルモンというホルモンを出しています。甲状腺ホルモンは身体を元気にする役割があります。バセドウ病は、甲状腺の異常により甲状腺ホルモンが過剰に作られてしまい、身体が元気になりすぎて動悸や発汗などの症状を起こす病気です。

甲状腺の異常を起こすのは免疫の異常

専門的な話になりますが、甲状腺が異常に働く原因は免疫の異常です。しかし、なぜ免疫の異常が生まれるのかはわかっていません

免疫は血液の中の白血球が担当しています。白血球の一種のリンパ球が、自分自身の臓器である甲状腺を誤って攻撃してしまうことでバセドウ病が起こります。自分の免疫が自分の臓器を誤って攻撃することを自己免疫と言います。バセドウ病は自己免疫による自己免疫性疾患(じこめんえきせいしっかん)のひとつです。

自己抗体が甲状腺を刺激することで甲状腺ホルモンが過剰になる

甲状腺ホルモンは甲状腺刺激ホルモン(TSH)によってコントロールされています。

甲状腺の細胞はTSH受容体(TSHレセプター)を持っています。TSH受容体がTSHと結合することで、甲状腺ホルモンを作るしくみが働きます。

バセドウ病では、このTSH受容体にくっつく抗TSH受容体抗体(TRAb)という抗体が作られています。TRAbはTSH受容体に結合して、常にTSH受容体が刺激された状態にしてしまいます。すると、甲状腺ホルモンを作ろうとする働きが強くなりすぎてしまいます。その結果、甲状腺ホルモンが過剰になり、バセドウ病の症状があらわれます。

2. 食べ物はバセドウ病の原因になるか?

バセドウ病の原因は食べ物ではありません

甲状腺ホルモンを作るには食事に含まれるヨード(ヨウ素)が重要です。食事のヨードが多すぎたり少なすぎたりすると甲状腺に影響があります。しかし、日本人の普通の食事をする限り、食事のヨードが甲状腺に影響するほど多すぎたり少なすぎたりすることはありません。

ヨウ素を多く含む食品を下の表にまとめます。

表 食品100gあたりのヨウ素含有量

食品 ヨウ素含有量
こんぶ 200-300mg
とろろこんぶ 200-300mg
ひじき 30mg
わかめ 10mg
寒天 2mg
味付け海苔 7.5mg
青のり 6.5mg
海苔の佃煮 0.5mg

(「バセドウ病治療ガイドライン2011」より)

ヨウ素の摂取量は1日0.25mgから10mgが適切です。昆布などはヨウ素が多いですが、海藻に含まれるヨウ素はダシを取ったり煮たりするとほとんどダシの中に出て行きます。そのためおでんなどで昆布を食べても身体に入るヨウ素はごく一部です。

セレン不足やビタミンD不足とバセドウ病の関係も研究されていますが、日本人の食事でセレンやビタミンDが不足することはほとんど考えられないので、食事のセレンやビタミンDがバセドウ病の原因につながることもありません。

まとめると、食べ物による甲状腺への影響を心配する必要はありません。逆に食べ物を変えることでバセドウ病が治ることもありません。

3. ストレスはバセドウ病の原因になるか?

ストレスはバセドウ病に関係する場合があると考えられています。

ただし、実際にストレスが関係しているバセドウ病は少数と考えられます。大部分のバセドウ病はストレスと関係なく発生します。

ある研究では、バセドウ病を発症した人のうち、ストレスを受ける出来事から1年以内に発症した人を調べています。対象者のうち薬で治った人と、治療中に悪化した人、治療終了後に再発した人を比べたところ、薬で治った人はストレスを受けた出来事の回数が少なかったという結果が出ています。

参考文献:Lancet. 1991 Dec 14, Endocrine. 2015 Feb

4. タバコはバセドウ病の原因になるか?

タバコはバセドウ病に関係していると考えられます。

喫煙者ではバセドウ病の発生が多く、バセドウ病の治療後の再発も多いことが医学研究で指摘されています。

2016年に出された、ヨーロッパの学術団体によるバセドウ病眼症のガイドラインでは、喫煙がバセドウ病眼症を悪化させる要因とされ、すべての患者に禁煙が勧められています。

参考文献:Clin Endocrinol (Oxf). 2013 Aug, Eur Thyroid J. 2016 Mar

5. 放射能はバセドウ病の原因になるか?

放射能はバセドウ病の原因にはなりません。

バセドウ病のアイソトープ治療では、普通の環境にある量の数万倍程度の放射性物質を飲んで身体の中に入れます。放射性物質の作用によってバセドウ病が治療されます。放射性物質の量が足りなければ治療効果は得にくいと考えられます。

日本の環境で身体に入る放射能の量は、治療に使う量の数万分の1程度です。ごく微量なので、バセドウ病を治療する効果はなく、バセドウ病を引き起こすことも考えられません。

6. 妊娠はバセドウ病の原因になるか?

妊娠はバセドウ病の原因にはなりません。

ただし、妊娠初期(7-15週)は、甲状腺ホルモンが増えることがあります。妊娠初期に甲状腺ホルモンが増えるのはバセドウ病ではなく、正常な身体の変化です。

甲状腺ホルモンは妊娠初期に増え、だんだん減ってきて出産前には正常より少なく、出産後は多くなります。

7. バセドウ病で眼球突出するのはなぜか?

バセドウ病で過剰になった甲状腺ホルモンは眼球を動かす筋肉を太く肥大させたり眼球の後ろに脂肪を蓄積させたりするため、目が飛び出す眼球突出の症状が現れます。

また、バセドウ病になると、実際に目が飛び出していなくても飛び出しているように見えることがあります。それは過剰な甲状腺ホルモンがまぶたの筋肉を緊張させる、つまり常に目を見開いた状態にしてしまうことが原因です。目を大きく開いているので、目が飛び出ていなくても目が飛び出ているように見えたりします。

8. バセドウ病になると何が危険?

バセドウ病はきちんと治療すれば命に関わるようなことのない病気です。動悸や息切れの症状はつらいですが、薬や手術で治まります。

ただし、まれな危険性として、心臓に悪影響が出る場合や、甲状腺クリーゼと言って甲状腺が極端に破壊される場合があります。こうしたまれな重症の状態は命に関わります。

バセドウ病で仕事はできる?

バセドウ病は若い人に多い病気なので、仕事の妨げになることもよくあります。個人差はありますが、バセドウ病で仕事を休む必要が出たり、退職してしまう人も中にはいます。症状が軽ければ、薬を飲みながら働ける人もいます。反対に命に関わる状態に陥って入院してしまう人もいます。

治療法を選ぶのにも仕事の都合が関係します。手術や放射線治療を行うためには最低限の休みの期間が必要です。一方で、手術をすれば効果はすぐに現れます。このサイトの情報などを参考にして、上司や同僚に病気の危険性をよく説明し、理解してもらってください。

バセドウ病が悪化したときの症状は?

バセドウ病と診断されたあとに次の症状が出たら、状態が悪化しているかもしれません。かかりつけのお医者さんに相談してください。

  • 動くといつもより明らかに息切れがする
  • いつもよりひどい動悸がする
  • 38℃以上の高熱が出現する
  • 意識がもうろうとする
  • なにをやっていても眠くなる

バセドウ病の危険な状態は、のど元をぶつけたり、感染にかかっていたり、手術を受けたりした時に多いこともわかっています。

甲状腺クリーゼは治療しなければ命に関わります。ただし、現代では甲状腺クリーゼによる死亡はごくまれです。

バセドウ病でも妊娠できる?

バセドウ病の治療中でも妊娠は可能です。

妊娠中にバセドウ病にかかってしまっても、治療して赤ちゃんへの影響を最小限に抑え、無事に出産する人は大勢います。

しかし、妊娠中のバセドウ病に危険はあります。妊娠中にバセドウ病の状態が続くことは、赤ちゃんにとってもお母さんにとっても危険です。元気な赤ちゃんを産むためには、バセドウ病を慎重に治療する必要があります。

非常に重いバセドウ病があり、妊娠すると危険性が高いと予想された場合、手術によって甲状腺ホルモンを適正に戻せるまで、妊娠は勧められません。

妊娠中のバセドウ病の危険性は?

バセドウ病を治療しないで甲状腺ホルモンが多い状態が続いた場合、次のような危険性があります。

バセドウ病は遺伝する?

お母さんがバセドウ病になっても、子どもはバセドウ病にならないことがほとんどです

バセドウ病の人が家族や親戚にいない子どもでも、ある程度の確率でバセドウ病になります。

バセドウ病でないお母さんよりはバセドウ病のお母さんの方が、子どもがバセドウ病になる確率が少し高そうだということが、現在までの医学研究で言われています。しかし、確率が少し違うだけなので、気にするほどではありません。