かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 79回の改訂 最終更新: 2024.12.20

肝臓がんとは?肝臓がんの診断から治療法まで解説

肝臓がんには主に2つ種類があります。肝細胞がんと肝内胆管がんです。肝細胞がんは肝臓がんの90%以上を占めます。ここでは肝臓がん=肝細胞がんとして解説をします。肝臓がんは肝炎ウイルスによる肝硬変を原因とすることが多いです。 

肝臓は全身の中で最も大きな臓器で、成人では約1kgに及びます。肝臓は右上腹部にある臓器です。肝臓の周りには胃や十二指腸、胆嚢(たんのう)があります。肝臓は常に多くの血が流れています。肝臓には大きな血管が3種類流れています。

  • 門脈

  • 肝動脈

  • 肝静脈

門脈は腸で吸収した栄養を肝臓に届けてくれる血管です。肝動脈は肝臓に栄養や酸素を送り込む血管です。肝臓から出ていく血液は肝静脈に入って心臓に返っていきます。肝臓の中ではこの3種類の血管が複雑に枝分かれして無数の毛細血管になって肝臓全体に張り巡らされています。

肝臓に血管が多いのは肝臓の役割と関係しています。肝臓はたんぱく質をつくったり、体の中で出る老廃物を代謝したり解毒したりする役割があります。肝臓の役割は多様です。

肝臓の特徴として臓器が再生することがあります。肝臓の一部を手術で切除しても肝臓の状態が良好であれば肝臓が再生することが知られています。ただし肝炎がおきて肝臓の機能が低下すると再生能力が落ちます。肝硬変の状態では再生はほとんどできない状態になります。

肝臓は表面上は1つの塊に見えます。肝臓の手術では塊の肝臓の一部を切除します。肝臓の分け方にはいくつか方法があります。いずれも血管の分布を基準にしています。肝臓を分ける方法は手術法につながります。ここでは肝臓の分け方について解説します。少し専門的な内容になるので読み飛ばしても理解の支障にはなりません。

肝臓はカントリー線によって大きく左右に分けることができます。カントリー線は下大静脈と胆嚢を結ぶラインのことです。右の肝臓を右葉、左の肝臓を左葉といいます。肝臓の半分をがんとともに切除する手術の方法を葉切除といいます。

肝臓を4つにわける分類をヒーリー・シュロイの分類といい、4つの部分を区域といいます。区域は後区域(こうくいき)、前区域(ぜんくいき)、内側区域(ないそくくいき)、外側区域(がいそくくいき)に分かれます。区域ごとに切除する肝切除の方法を区域切除といいます。

図:肝臓のクイノー分類。

肝臓を8つにわける分類をクイノー分類といい、8つの部分を亜区域といいます。

肝臓に血液を送り込んでいる門脈という血管は8か所に枝分かれして肝臓の中に入っています。そこで門脈から来る血流の範囲によって肝臓を8つの亜区域に分けることができます。亜区域にはS1からS8までの番号が振り当てられています。

亜区域ごとに切除をする肝切除の方法を亜区域切除といいます。

肝臓は化学工場に例えられるほど多くの役割をもち複雑な働きをしています。

  • 代謝

  • 解毒

  • 胆汁の分泌

肝臓には腸で吸収された栄養が多く含まれた血液が流れ込んできます。肝臓では腸から送られてきた物質を変換して蓄えたり、複雑な物質を合成したり、逆に細かい物質に分解したりしています。この働きを代謝といいます。代謝機能が低下すると体に必要なタンパク質などが減っていきます。

体の中には栄養だけが入ってくる訳ではありません。そのまま体の中に溜まると体にとって毒になるようなものもあります。体にとって害になるものは肝臓で解毒されます。たとえば肝臓はアルコールや薬なども分解します。

胆汁は1日に500-800ml程度の量が肝臓から分泌されています。胆汁の色は濃い茶色です(体内で変質して緑色に変わります)。胆汁は小腸で脂肪が体の中に吸収されるのを助けます。また胆汁にはコレステロールビリルビンを体の外に排出する役割もあります。

肝臓がんの早期には症状がほとんどありません。症状をきっかけにして早期発見することは難しいです。

肝臓がんは慢性肝炎や肝硬変などの慢性的な肝臓の病気の人に発生しやすいことが分かっています。このために肝炎や肝硬変を起こしている人には定期的な検査が勧められています。肝炎や肝硬変の状態やその原因をもとにして肝臓がんを発生する危険性を高危険群と超高危険群の2つに分けます。

図:ウイルス性肝炎の一般的な経過。ウイルス性慢性肝炎や肝硬変は肝臓がんが発生しやすい状態。

高危険度や超高危険度に分類される人は適切な間隔で検査を受けることで肝臓がんを小さな段階で発見することが可能と考えられています。どのように検査をしていくかは次のように提案されています。

  • 高危険群

    • 6ヵ月ごとの腫瘍マーカーの測定、超音波検査

  • 超高危険群

    • 3-4ヵ月ごとの腫瘍マーカーの測定、超音波検査

    • 6-12ヵ月毎のCT/MRI検査

肝臓がんは大きさなどで治療方針が変わります。肝臓がんが小さいうちに治療する方が選択肢が多く治療の効果が高いと考えられています。

肝臓がんの初期には症状があることはほとんどありません。肝臓がんが進行して大きくなると症状が現れます。

  • 右季肋部痛(右の脇腹の痛み)

  • 心窩部痛(みぞおちのあたりの痛み)

肝臓は体の右側の上腹部にある臓器です。肝臓がんが大きくなると右の上腹部を中心に痛みを自覚することがあります。

これに加えて肝臓がんは肝硬変を背景にして発生することが多いので肝硬変の症状が出ることもあります。

くも状血管腫は、上半身を中心にみられるくもの足のような赤い発疹です。手掌紅斑は、「手のひらが赤くなる」ことです。肝硬変では肝臓の機能が低下します。肝臓は様々な物質を代謝しますが、そのうちの一つにエストロゲンがあります。エストロゲンは女性ホルモンの一つです。エストロゲンには血管を拡張させる作用があります。毛細血管が拡張すると皮膚が赤く色づきます。肝臓の機能が低下するとエストロゲンを代謝できなくなり、体の中でエストロゲンの濃度が高くなって手の平が赤くなったり、皮膚にくもの足のような血管腫がでたりすることがあります。

肝臓では様々な物質を代謝して尿や便とともに体の外に出せるようにしています。肝臓が機能しなくなると体にとって不要な物質が溜まっていきます。特に問題になるのがビリルビンとアンモニアです。ビリルビンは役目を寿命の過ぎた赤血球が壊れることででる物質です。ビリルビンを体の外に出せない状況が続くと黄疸(おうだん)が現れます。

黄疸は皮膚や眼球結膜(白眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。原因は、ビリルビンが血液内で多くなることです。見た目で黄疸と診断されるのは血液中のビリルビンがある程度増加してからになります。初期の黄疸では、尿の色が黄色く見えたりすることがあります。

肝硬変が進行して肝不全になると意識状態が悪くなることもあります。アンモニアが原因です。肝不全が深刻でいわゆる末期の状態ではアンモニアが体の中に溜まっていきます。アンモニアが蓄積すると意識状態に影響します。この状態を肝性脳症といいます。

肝臓はたんぱく質をつくる働きがあります。大事なたんぱく質の一つにアルブミンがあります。アルブミンには血管の中に水分をとどめておく作用があります。肝不全になりアルブミンが体の中から減っていくと血管の中の水分が血管の外に出ていきます。血管の外に水分が出て行くと腹腔というお腹の中のスペースに水分が溜まっていきます。

ここで挙げたもの以外にも肝臓がんの症状はあります。肝臓がんは肝硬変を背景とすることが多いのでその症状は多様です。

肝臓がんの生存率はがんの生存率などを網羅的に示した「がんの統計」を元に説明します。

がんの生存率はステージごとに集計されています。ステージはがんを進行度に応じて分類したもので治療法を選ぶ際に役立つものですが、生存率などの統計データの集計にも用いられます。

「がんの統計」では、がんの生存率をステージIからステージIVに分けて集計しています。

ステージ

生存率

I

62.9%

II

45.4%

III

15.9%

IV

4.5%

ここで紹介する数値は「がんの統計」の最新の値ですが、数値のもとになっているのは2012-2013年に肝臓がんと診断された人の生存率です。統計の性質上、今現在の治療による生存率を知ることはできません。がんの治療は日々進歩しています。現在の治療は統計上の生存率を上回ることもありえます。

肝臓がんの進行度に基づいてステージが診断された後には、どうしてもその生存率が気になると思います。しかしステージ分類は進行度を大きく4つに分けたものでしかありません。一人ひとりの顔が違うようにがんの状態も一人ひとりで違います。生存率は参考にこそなれど絶対ではありません。大事なことは自分の状態に向き合い日々の生活や治療に前向きに取り組んでいくことです。

「がんの統計2021」までは「肝臓がん」の統計データの中に「肝細胞がん」と「肝内胆管がん」の両者が含まれていました。これらはいずれも肝臓の中にできるがんですが、がん細胞の性質が異なっており治療法も別々です。一般的に「肝臓がん」といった場合には「肝細胞がん」のことを指すことが多いのですが、今までの統計ではこれらがまとめて集計されていたことが問題でした。「がんの統計2022」からはそれぞれのがんの生存率データが別に示されるようになり、より理解しやすくなっています。このページでは今後、主に「肝細胞がん」の説明を行っていきます。肝内胆管がんについて詳しく知りたい人は、「肝内胆管がん(胆管細胞がん)とは?」で解説しているので参考にしてください。

肝臓がんのステージはステージIからステージIVの4つ大きく分けられます。ステージはT因子(肝臓でのがんの状態)、N因子(リンパ節転移の有無)、M因子(遠隔転移の有無)の3つの組み合わせから決められます。下の表に対応を示します。

ステージ

T因子

N因子

M因子

I

T1

N0

M0

II

T2

N0

M0

III

T3

N0

M0

IVa

T4

T1-4

N0

N1

M0

IVb

T1-4

N0-1

M1

以下ではT因子・N因子・M因子について解説します。

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。肝臓でのの状態を示しています。原発性肝癌のT因子は以下の5つの項目から決められます。やや専門的な内容になります。

  • 門脈侵襲

    • vp0:門脈侵襲なし 

    • vp1:3次分枝まで侵襲

    • vp2:2次分枝まで侵襲 

    • vp3:1次分枝まで侵襲 

    • vp4:本幹まで侵襲 

  • 肝静脈侵襲

    • vv0:肝静脈に侵襲なし

    • vv1:末梢静脈まで侵襲 

    • vv2:右・中・左肝静脈まで侵襲 

    • vv3:下大静脈まで侵襲  

  • 肝内胆管侵襲 

    • B0:肝内胆管に侵襲なし 

    • B1:3次分枝まで侵襲 

    • B2:2次分枝まで侵襲 

    • B3:1次分枝まで侵襲 

    • B4:総肝管まで侵襲 

  • 個数 

    • 単発 1個 

    • 多発 2個以上 

  • 腫瘍最大径 

    • 2cm以下 

    • 2cmを超える

門脈、肝静脈は肝臓の中を走る血管です。門脈は腸からの血流が肝臓に流れ込むための血管です。

肝内胆管は胆汁が流れる胆管のことです。胆汁は肝臓で作られて胆管に流れていきます。胆管は次第に合流を繰り返して十二指腸に流れ込んでいきます。

肝臓がんは多発することがあります。多発している方が病気が進行していると考えます。大きさも大きいほど進行していると考えます。

5つの項目をそれぞれ評価してT因子を決定します。T因子の決定には以下の表を用います。

 

単発

多発

最大径≦2cm

2cm<最大径

最大径≦2cm

2cm<最大径

脈管侵襲なし

(vp0、vv0、b0の全てに該当)

T1

T2

T2

T3

脈管侵襲あり

(vp1-vp4、vv1-vv3、b1-b4のいずれかに該当)

T2

T3

T3

T4

Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。N因子はリンパ節転移の程度を評価したものです。肝臓の近くのリンパ節を所属リンパ節といいます。ここでのリンパ節転移は所属リンパ節への転移をさします。所属リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移に入ります。

がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管は全身で網の目のようなつながり(リンパ網)を作っています。

リンパ網にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

  • N0:リンパ節転移

  • N1:リンパ節に転移あり

MはMetastasis(転移)の頭文字です。遠隔転移を評価します。肝臓から離れた臓器に肝臓がんが転移することを遠隔転移と言います。所属リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。「転移」という言葉は、遠隔転移を指し所属リンパ節転移は除くという意味で使われている場合があります。

  • M0:遠隔転移なし

  • M1:遠隔転移あり

肝臓がんは肝炎や肝硬変を背景に発生します。肝炎や肝硬変のほとんどはB型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスの持続感染が原因で起きます。肝炎や肝硬変は多量飲酒によるアルコール性肝炎やアルコールを原因としない肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)もあります。

肝臓に炎症が起こり、炎症が続いて進行すると肝臓の線維化が起きて固くなる肝硬変の状態になります。炎症が長期化すると、肝臓の破壊と再生が何度も起きます。そのぶんだけ肝細胞の遺伝子に傷がつき、肝臓がんが発生する可能性があると考えられます。

他に肝臓がんの発生する危険性を高めるものとしては喫煙、アフラトキシン、肥満糖尿病などが知られています。

肝臓がんの検査には多くの種類があります。主に血液検査と画像検査を使います。ICG15も血液検査の一つになりますが、肝臓の機能を推定する検査なので分けて考えます。よく使う検査の例を挙げます。

  • 血液検査

    • 肝臓の障害や機能などを評価するもの

      • AST(GOT)

      • ALT(GPT)

      • ALP

      • γ-GTP

      • コリンエステラーゼ

      • アンモニア

      • 血小板

      • ビリルビン

      • アルブミン

      • プロトロンビン

    • 肝臓がんの主な腫瘍マーカー 

      • AFP

      • AFPレクチン分画(AFP-L3分画)

      • PIVKA-II

  • 画像検査

    • CT検査

    • 超音波検査(エコー検査)

    • MRI検査

    • 生検

  • その他

    • ICG15

肝臓がんの検査の目的は大きく2つに分かれます。

1つは肝臓がんにできた腫瘍が肝臓がんかどうかです。肝臓がんは初期には症状を現わさないことが多いので画像診断によって発見されることが多いです。その際には肝臓がんかどうかの判断をしなければなりません。CT検査の一つであるダイナミックCTが有効です。他にMRI検査も有用です。肝臓がんであった場合にはCT検査やMRI検査でステージを決めます。ステージも治療法を決めるにあたって重要な要素の一つです。

また画像検査では肝臓がんの病変の数や大きさが測定できます。肝臓がんの治療を選択するうえでは数や大きさは非常に重要です。

肝臓がんの治療には肝臓の機能が非常に重要です。肝臓の機能が低下しているがために手術などができないこともあります。肝臓の機能は血液検査やICG15などの検査を使って推定します。

肝臓がんの治療はステージとともに肝臓の機能が重要になります。ステージが早期と診断されても肝臓の機能が治療に耐えられないと判断される場合もあります。肝臓は生きていく上で欠かせない臓器の一つです。治療をした結果肝臓の機能が低下して命に危険をおよぼすことは避けなければなりません。

肝臓の機能を評価する方法としては肝障害度とChild-Pugh分類の2つがあります。どちらも肝臓の機能を見ていますが、少し調べる項目が異なります。手術が適しているかを判断する場合には肝障害度を用い、焼灼療法や塞栓療法などが適しているかを判断する場合にはChild-Pugh分類を用いることが多いです。肝臓の機能を調べて治療方針を定めます。

肝障害度は肝臓の機能を検査や症状からA、B、Cの3つに分類したものです。肝障害度の評価には以下の5つの項目が用いられます。

  • 腹水

  • 血清ビリルビン

  • 血清アルブミン

  • ICG15

  • プロトロンビン活性値

腹水とはお腹の中の腹腔(ふくくう)という場所にたまった水のことです。肝臓の機能が悪くなくても少量の腹水はありますが肝臓の機能が低下すると腹水が多くなりお腹が張った感じなどの症状がでます。腹水は利尿剤などの薬で良くなることがあります。

ビリルビンは赤血球が壊れた後にできる物質です。ビリルビンは常に体内で作られています。ビリルビンは肝臓で処理され体の外に出されます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンが十分処理されずに体の中に溜まります。

アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。

ICG(アイシージー)はIndocyanine green(インドシアニングリーン)の略です。ICGを注射で体の中に入れると肝臓で代謝されます。正常な肝臓の場合は15分程度でICGは10%以下になります。肝臓の機能が低下している場合はICGを代謝するために時間がかかります。ICGが代謝される時間で肝臓の機能を推測することができます。ICG15の名称はICGを投与してから15分後に検査をすることを由来としています。

プロトロンビンは血液を固める役割をもつ物質です。プロトロンビンは肝臓でつくられるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンの働き(活性値)が低下します。プロトロンビンは他にも表現の仕方があります。プロトロンビン時間(PT)やPT-INRとして検査結果が表示されることもあります。

以上5項目をもとに、次の表に従って肝障害の程度を評価します。

 

肝障害度A

肝障害度B

肝障害度C

腹水

なし

治療効果あり

治療効果少ない

血清ビリルビン(mg/dl)

2.0未満

2.0-3.0

3.0超

血清アルブミン(g/dl)

3.5超

3.0-3.5

3.0未満

ICG15(%)

15未満

15-40

40超

プロトロンビン活性値(%)

80超

50-80

50未満

肝障害度の決め方は5項目について評価をして、2項目以上が該当する分類を肝障害の分類とします。2項目以上該当するものが2つある場合は肝障害度が高い方を採用します。

例えば肝障害度Aに該当するものが4項目、肝障害度Bに該当するものが1項目に該当した場合には肝障害度Aになります。肝障害度Bが3項目、肝障害度Cが2項目の場合は肝障害度はCになります。

Child-Pugh分類は肝臓の機能を検査や症状からA、B、Cの3つに分類する方法です。Child-Pugh分類は以下の5つの項目が用いられます。

  • 血清ビリルビン 

  • 血性アルブミン 

  • 腹水 

  • 精神神経症状(昏睡度) 

  • プロトロンビン活性値(%)

ビリルビンは赤血球が壊れた後にできる物質です。ビリルビンは肝臓で処理され体の外に出されます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンが十分処理されずに体の中に溜まります。

アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。

腹水はお腹の中の腹腔というスペースに水が貯まることです。腹水はアルブミンが低くなると溜まります。

精神神経症状はアンモニアによって現れます。アンモニアは常に体内で生成されていますが、通常は肝臓で処理されて尿として体の外にだされます。アンモニアが体の中に溜まると異常な行動をとるようになったり、意識状態が低下したりします。

プロトロンビンは血液を固める役割をもっています。プロトロンビンは肝臓でつくられるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンが低下します。

以下の表は細かな数値になるので次に進んでも理解の差し支えにはなりません。

  1点 2点 3点
血清ビリルビン(mg/dl) 2.0未満 2.0-3.0 3.0超え
血清アルブミン(g/dl) 3.5超 2.8-3.5 2.8 未満
腹水 ない 少量 中等量
精神神経症状(昏睡度) ない 軽度 重症
プロトロンビン活性値(%) 70超 40−70 40未満
  • A:5−6点
  • B:7-9点
  • C:10−15点

以上の5項目を評価して合計点数によって分類します。例えば7点だった場合Child-Pugh Bとします。ソラフェニブが使える肝機能の状態はChild-Pugh Aと考えられています。

肝臓がんの治療を決めるにはステージも大事ですが、それ以上に重要なのが肝臓の機能です。肝臓にどれくらいの機能があるかが治療を選ぶ上で大事です。肝臓がんの個数や大きさなども治療法を決めるにあたっては重要です。

  • 肝障害度

  • 腫瘍の個数

  • 腫瘍の大きさ

  • ステージ

肝臓がんの治療チャート

肝臓がんの手術は肝切除術という手術です。肝切除術にはいくつか方法があります。肝臓を切り取る範囲でその方法は分けられます。

  • 部分切除 

  • 亜区域切除 

  • 区域切除 

  • 葉切除

肝臓の手術に種類があるのは理由があります。肝臓がんは門脈という血管にそって肝臓の中に転移することが知られています。このために肝臓をできるだけ大きな範囲で切り取る方が治療の効果は高いと考えられています。しかしながら肝臓を大きく切り取ると生命維持に必要な肝臓の機能が弱くなってしまいます。特に肝臓がんが発生する人は肝炎や肝硬変が背景にあり肝臓の機能がよくない場合があります。このために手術の前に手術後の肝臓の機能を推定して、ちょうどいい範囲を切り取れるよう手術の方法などを決めています。

肝臓がんの手術には他に肝移植もあります。肝移植はやや特殊なので別に説明します。

肝臓がんで手術をしない場合は以下の条件が考えられます。

  • 肝臓がんが肝臓の外に転移している

  • 肝臓の機能が良くない 

  • 肝臓がんの個数が多い(4個以上)

以上の場合は原則として積極的には手術が勧められません。もちろん例外はあります。

手術は肝臓がんの大きさはあまり関係がありません。例えば7cmのがんが一つの場合、焼灼療法などでは根治が難しく手術が適しています。

肝臓がんはがんの部分だけを焼き切る焼灼療法(しょうしゃくりょうほう)でも根治することが可能です。

現在は焼灼にラジオ波を使うラジオ波焼灼療法(RFA)が広く普及しています。

焼灼療法は、肝障害度がAまたはBで肝臓がんの数が3cm以内、かつ3個以内の場合に勧められます。しかし現在はより大きながんや多くの個数を焼灼療法で治療することも多くなっています。焼灼療法は手術をするには肝臓の機能が十分ではない人などに考慮されます。体への負担が少なく繰り返して治療ができる点などで優れています。

血管に詰めものをして血流をなくすことを利用した治療が塞栓療法です。

塞栓療法には肝動脈塞栓療法(TAE)と肝動脈化学塞栓療法(TACE)があります。

TAEは肝臓がんに流れてくる血流を遮断することによって治療効果を発揮します。TACEはTAEをする前に抗がん剤造影剤を混ぜた薬品をカテーテルを使って肝臓がんに直接送り込みます。抗がん剤を注ぎ込んだ後に塞栓物質を送り込みがんに栄養を送り込んでいる血管を塞ぎ血流を絶ちます。TACEはTAEに抗がん剤を併用することでその効果が高まることが期待できます。

塞栓療法はカテーテルという細い管を使った治療です。多くの場合は右足の付け根に針を刺してそこからカテーテルを血管の中に入れます。カテーテルは血管の中を進んで行くことができ、カテーテルから造影剤を注入するとがんが映り込みます。血管造影を繰り返していきがんに栄養を与えている血管を特定します。その血管に塞栓物質をカテーテルの先から送り込み塞ぎます。

外科手術や肝移植、焼灼療法、塞栓療法の対象とならない人では抗がん剤治療(薬物療法)が行われます。具体的には次のような場合です。

  • 門脈などの太い血管にがんが入り込んでいる 

  • 肝臓がんがかなり大きい 

  • 肝臓の外に転移がある

手術や局所治療では治しきることのできない比較的進行した肝臓がんが抗がん剤治療の対象となるとも言えます。

肝臓がんに対して効果のある抗がん剤治療は次のようなものです。

1. 一次治療

まず最初の治療として行われる抗がん剤治療を一次治療と言います。

  • 免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブと血管新生阻害薬ベバシズマブの併用療法

  • 分子標的薬(ソラフェニブ、レンバチニブ)

2. 二次治療

一次治療の効果が不十分となった場合、二次治療が行われます。

  • 分子標的薬(ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブ)

肝臓の機能は薬の働きにも影響します。薬の中には主に肝臓で代謝されることにより体からなくなっていくものがあります。肝臓がんがある人は肝硬変などで肝臓の機能が落ちている場合があります。肝臓の機能が落ちた状態では、薬の代謝ができずに薬の毒性が強く出てしまうことがあります。毒性の例として白血球や血小板が減少することがあります。肝硬変の人はもともと白血球や血小板が減少していることが多いので抗がん剤の副作用によって深刻な事態に陥ることも懸念されます。

肝動脈注入化学療法とは抗がん剤を直接肝動脈に注入する治療法です。似た治療に肝動脈化学塞栓療法(TACE)があります。決定的な違いは肝動脈を塞ぐか否かです。肝動脈注入化学療法では肝動脈を塞ぐことはしません。

肝動脈注入化学療法は、カテーテルを使って肝動脈に直接抗がん剤を流し込みます。方法には2つあります。1つは抗がん剤を流し込むためのリザーバーという器具を体に埋め込む方法です。リザーバーは皮膚の下に埋め込むので、日常生活への影響は少ないです。リザーバーの大きさは500円玉くらいです。リザーバーを埋め込む場所は足の付根もしくは鎖骨の下とすることが多いです。

もう一つの方法はリザーバーを埋め込まない方法です。この場合は治療のたびにカテーテルを使って抗がん剤を肝動脈に流し込みます。

肝移植は肝臓を全て取り除いて代わりに他の人の肝臓を移植することです。

肝移植は、肝臓の機能が低下していて肝切除などの治療ができない人にも高い根治性が期待できる治療法です。治療後は免疫抑制薬などの内服薬での治療が必要になります。

肝移植には生きた人から肝臓を分けてもらう生体肝移植のほかに、脳死判定された人から肝臓をもらう脳死肝移植があります。日本では生体肝移植がほとんどを占めています。「肝移植症例登録報告」によると2015年は生体肝移植を受けた人は391人であったのに対して脳死肝移植を受けた人は57人でした。肝移植を受けた人のうち87.2%が生体肝移植で治療されています。

移植のためには肝臓を提供する人(ドナー)が必要です。生体肝移植ではドナーの安全が前提となります。そのためにドナーの肝臓の機能も手術の前に慎重に調べます。肝臓は再生能力がある臓器です。健康なドナーであれば移植のために肝臓の一部を提供してもその後肝臓は再生して生活には大きな影響がないと考えられています。

肝臓がんに対して肝移植が適しているかどうかを判断するためにはミラノ基準という基準を使うことが多いです。ミラノ基準は以下のすべてを満たす場合に肝移植が適していると判定します。

  • 腫瘍は単発で5cm以下もしくは3個以下ですべて3cm以下

  • 血管浸潤を認めない

  • 遠隔転移を認めない

ミラノ基準は肝移植に際しては理想的な条件だと考えられています。しかしながら、かなり進行した状況で肝移植以外の治療が難しくなる場合もあります。このため新たに設けられた新基準では、「腫瘍の大きさが5cmいないかつ5個以内かつAFPが500ng/ml以下」の状態も移植の適応と考えられています。

肝移植によるメリットは肝臓の機能が低下している人でも根治性の高い治療が受けられることです。

肝臓がんの治療では肝臓の機能が非常に重要です。肝臓がん自体は小さくて個数が少なくても肝臓の機能が悪くて手術ができないことも有り得る話です。肝臓がんは肝硬変などを背景にして発生します。つまり、肝臓がんを取り除いても、残った肝臓から新しく肝臓がんができやすい状態になっている場合があります。肝硬変になった肝臓を摘出して肝硬変ではない肝臓を移植すると再発の可能性は低いと考えられています。

一方で肝移植にはデメリットもあります。まず肝移植の手術自体が難しい手術であり、そのため手術後に合併症が起きる可能性があります。合併症の中でも肝臓が機能しなくなる肝不全は重い合併症の一つで命に危険がおよぶこともあります。

また肝移植後は拒絶反応を抑えるために免疫抑制薬を飲む必要があります。免疫抑制薬は生涯にわたって飲み続けます。

一方で肝臓を提供するには手術で肝臓の一部を切り取る必要があります。肝臓を切り取る手術は体への負担がかなり大きいです。提供する側にも手術による合併症がおきる可能性があります。

肝臓がんの再発は治療後1年以内に最も多いのですが、時間が経って再発が確認されることもあります。肝臓がんは肝炎や肝硬変を背景として発生します。肝臓がんを手術や焼灼療法で一度完全になくすことができてもその後に新しくがんができる可能性はつきまといます。特に肝硬変の場合は、その状態を劇的に良くすることは難しいです。

このために肝臓がんが何回もできてしまいそのたびに手術などの治療が必要になる人も多くいます。再発の不安を抱えながら検査を受け続けるのはつらいことです。しかし肝臓がんは再発してもまた治療ができます。諦めず根気よく治療しながら生活を続けることができます。

再発なく何年も無事に過ごす人もいます。再発なく何年か過ぎると「もう完治した」と思えるかもしれませんが、常に再発する可能性はあります。このために定期的な診察を受けることは大切です。

【参考文献】

肝癌診療ガイドライン 2021年版

原発性肝癌取扱い規約 第6版

N Eng J Med.1996;334:693-699.

日本肝移植研究会・肝移植症例登録報告