サルコペニアとは
サルコペニアとは主に加齢の影響で筋肉量が減少し、それにともなって筋力や身体機能が低下した状態です。歩くのが遅くなる、手足が痩せる、握力が低下するなどさまざまな
目次
1. サルコペニア(sarcopenia)とはどんな状態か
サルコペニアという言葉は、ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ」と、減少を意味する「ペニア」をあわせたものです。欧州の学術団体で作られたサルコペニアのワーキンググループ(EWGSOP:European Working Group on Sarcopenia in Older People)が2010年に発表した定義では「筋肉量と筋力の進行性か全身性の減少に特徴づけられる症候群で、身体機能の障害、
サルコペニアの診断基準:筋肉量・筋力・身体機能の低下
日本では、EWGSOPが発表したコンセンサスをもとに、アジア人の体型に合うように調整された診断基準が使用されています(詳しくは「サルコペニアの検査」を参考)。
「筋肉量の減少」があって、さらに「筋力の低下」もしくは「身体能力の低下」がみられた場合にサルコペニアと診断されます。「筋肉量低下」のみが見られる状態は「プレ・サルコペニア」と呼ばれます。また筋肉量の減少、筋力の低下、身体機能の低下の全てがみられる場合は重症サルコペニアと定義されています。
サルコペニア肥満とは
筋肉の量が減ると体重も減ると思う人が多いかもしれません。しかし、サルコペニアの人の中には体重減少を伴わずに筋肉量が減る人がいることがわかってきました。つまり、筋肉が減った分と同等かそれ以上の体脂肪が身体についた状態です。体脂肪が多く筋肉量が低下した状態を「サルコペニア肥満」と呼びます。
ただし、現時点でサルコペニア肥満の診断基準として統一されたものはまだありません。サルコペニア肥満の人には高血圧や脂質異常症、メタボリックシンドローム、
2. サルコペニアの人はどれくらいいるか:男女別、年齢別の有病率
日本で2008年から2010年までに行われた調査によると、60歳以上の男性の8.5%、女性の8.0%にサルコペニアがみられました。ここから日本全国で男性120万人、女性250万人の人がサルコペニアであると推定できます(2010年の人口統計による)。男女で
年齢別の有病率は次の通りです。
年齢 | 有病率(%) | |
男性 | 女性 | |
60歳 | 1.5 | 0 |
65歳 | 0 | 0 |
70歳 | 4.7 | 4.1 |
75歳 | 11.5 | 10.9 |
80歳 | 18.9 | 18.3 |
85歳以上 | 38.9 | 55.6 |
サルコペニアは主に加齢に伴って起きるものであるため、有病率は年齢が上がるとともに高くなります。70歳を超えると有病率が増え始めて、85歳以上では男性の4割弱、女性の半数以上がサルコペニアの状態であることがわかります。
3. サルコペニアの症状
サルコペニアは筋肉量が減少した状態です。筋力の低下や身体機能の低下に伴って次のような症状が起こります。
- 歩くのが遅くなる
- ふらつく、転びやすい
- 階段の上り下りが遅い
- 握力が落ちる
- 痩せる
- 姿勢を保てない
- 食事が飲み込みにくい・むせる
これらの症状は加齢とともに少しずつみられるようになるので、すぐには気がつかないかもしれません。自分の状況と上記の症状を照らし合わせてみて思い当たる節があれば、早めの対策をすることでサルコペニアの進行を抑えることができます。症状について詳しくは「サルコペニアの症状」にて説明していますので、当てはまるものがあるかどうか確かめてみてください。
4. サルコペニアの原因:一次性と二次性
サルコペニアの原因は加齢と加齢以外のものに分類されます。加齢が原因のものを
- 一次性サルコペニア
- 加齢性サルコペニア
- 二次性サルコペニア
- 身体活動性サルコペニア
- 疾患性サルコペニア
- 栄養性サルコペニア
二次性サルコペニアはその原因別にさらに3つに分類されています。活動性の低いことが原因となる身体活動性サルコペニア、病気が原因となる疾患性サルコペニア、栄養不足が原因となる栄養性サルコペニアです。詳しくは「サルコペニアの原因」にて説明しています。
5. サルコペニアの検査
サルコペニアは筋肉量の減少と、それにともなう筋力の低下もしくは身体機能の低下がある時に診断されます。これらの有無を調べるために次のような検査が行われます。
スクリーニング検査 問診 - ふくらはぎの太さの測定
- 筋力の測定
- 握力測定
- 身体機能の測定
- 5回椅子立ち上がりテスト
- 6m歩行 など
- 筋肉量の測定
はじめに行われるスクリーニング検査では、問診とふくらはぎの太さの計測が行われます。この検査でサルコペニアが疑われる人では、追加で筋力や身体機能の低下があるかどうかが検査されます。身体機能を調べる検査では、椅子から5回繰り返して立ち上がる時間を測ったり、6m歩くのにかかる時間を測ったりします。以上の検査で筋力、身体機能ともに低下していると判断された人はサルコペニアの可能性が高いと判断されます。筋肉量を測定するために、専門の医療機関を紹介されることもあります。
詳しい検査方法を知りたい人は「サルコペニアの検査」を参考にしてください。
6. サルコペニアの治療
サルコペニアの主な治療方法は、筋肉量を増やすことを目的とした栄養療法と運動療法です。
栄養療法では筋肉を作るために必要なタンパク質や、
運動療法では、いわゆる「筋トレ」から連想されるような強い負荷は必要ありません。少ない負荷でも運動を継続することで効果が得られます。少しつらいと思う程度を目安に、1日5分でも日替わりでトレーニングしてみてください。
栄養療法や詳しいトレーニング内容は「サルコペニアの治療」を参考にしてください。
7. 加齢によって起こるサルコペニアに近い状態
人の身体は加齢に伴ってさまざまな変化を起こします。特別な病気がなくとも年齢に伴う変化のみでサルコペニアになる可能性がありますが、似たように加齢に伴い起こりやすくなるものにロコモティブシンドロームとフレイルがあります。
ロコモティブシンドローム(ロコモ):筋肉、関節、骨の機能低下
運動器の衰えによって移動の動作が難しくなり、介護が必要になる、あるいはなりそうな状態を「ロコモティブシンドローム」と呼びます。略して「ロコモ」とも呼ばれます。運動器とは、骨、関節、
サルコペニアはロコモティブシンドロームの中の筋肉や神経活動の低下に関連しており、ロコモの原因の1つとも言えます。ロコモティブシンドロームの詳しい説明は「サルコペニアと関連する状態:ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは」にもあります。
フレイル:身体的、社会的、精神的な活動性の低下
フレイルは、「健常な状態」と「要介護状態」の間の状態をさしています。フレイルはサルコペニアやロコモティブシンドロームよりもやや大きな概念で、運動器の機能低下に限らず、加齢に伴って生じるさまざまな身体的・精神的・社会的な要因を含んでいます。
多くの人は、サルコペニアやロコモティブシンドロームを経てフレイルになります。フレイルの人では、適切な治療や支援を行うことで健康な状態に戻ることができます。しかし、怪我や病気などきっかけに、急激に日常生活が困難になったり独居困難となったりするリスクをはらんでいます。そのため、フレイルの時期に健康な状態に戻れるように介入することが健康寿命を延ばすためには重要です。
フレイルの詳しい説明は「サルコペニアと関連する状態:フレイル(虚弱)とは」にもありますので読んでみてください。
8. サルコペニアの人が気をつけること
サルコペニアと近い概念に、上記で説明したフレイルやロコモティブシンドロームがありますが、健康寿命を伸ばすためには、この3つの状態が進行する前に生活を見直すことが大切です。バランスの良い食事や毎日の運動習慣が介護予防につながります。詳しい説明は「サルコペニアの人が気をつけるべきこと」に書いてありますので、読んでみてください。
【参考文献】
・Rosenberg IH. Sarcopenia: origins and clinical relevance. J Nutr. 1997 May;127(5 Suppl):990S-991S.
・J Phys Fit Sports Med. Volume 4 (2015) Issue 1