さるこぺにあ
サルコペニア
加齢や栄養不良状態により筋肉の量が低下していく症状の総称
3人の医師がチェック 33回の改訂 最終更新: 2020.11.18

サルコペニアの原因:加齢、病気、過度なダイエットなど

サルコペニアは筋肉量が減ることにより身体機能が低下した状態です。筋肉が分解される速度が作られる速度を上回ると筋肉が減っていきます。筋肉が減る原因は加齢だけでなく、身体活動の減少、がんなどの病気の影響、過度なダイエットによる栄養不足などがあります。

1. 筋肉が落ちる・痩せる原因とは

筋肉の合成速度より分解速度が速くなると筋肉は減っていきます。サルコペニアについてより理解を深めるために、筋肉の合成・分解に関わる因子について先に説明しますが、やや難しい説明なので「2. 成因による分類」まで読み飛ばしてもらっても構いません。

筋肉の合成と分解に関わる因子

筋肉は主にタンパク質からできています。タンパク質はアミノ酸が集まってできたもので、筋肉の材料になります。筋肉を合成したり分解を防ぐためには、次のような材料や刺激が必要です。

  • アミノ酸
  • インスリン
  • アンドロゲンエストロゲン
  • 成長ホルモン・インスリン様成長因子(IGF-1)
  • 運動

アミノ酸は筋肉の材料になります。中でも構造が特徴的な分岐鎖アミノ酸は、単に筋肉の材料となるだけではなく、筋肉細胞に直接働いてタンパク質の合成(同化)を誘導する働きもあります。また、インスリンは血糖を調整するホルモンとしてよく知られていますが、筋肉細胞に働きかけてタンパク質の合成を促進する役割もあります。アンドロゲン、エストロゲン、成長ホルモン、インスリン様成長因子なども、筋肉合成や筋肉の量や質の維持に働いています。

運動による刺激も筋肉を増やすためには重要です。運動をすると、筋肉の合成と分解の両方が促進されます。運動後にアミノ酸を上手に摂取すると、筋肉のタンパク質合成が促進されたまま分解が抑制されるため、筋肉量の増加が期待できます。

若年者に比べると緩やかではありますが、高齢者であっても運動後のアミノ酸摂取で、筋肉を増やすことができます。タンパク質合成は特に必須アミノ酸の摂取によって促進されます。

加齢に伴い、筋肉のタンパク質を作るホルモンの分泌とホルモンの刺激を受け止める受容体が減少します。この両者が減る結果、筋肉が合成されるよりも分解される量が上回り、筋肉が痩せると言われています。

また、筋肉の分解を促進するホルモンもあります。副腎皮質ステロイドの一つであるグルココルチコイドというホルモンは筋肉を分解する方向に働きます。そのため、病気の治療で長期間ステロイドを使用している場合には、筋肉が痩せることがあります。

2. 成因による分類

サルコペニアは成因によって2つに分類されています。加齢以外の明らかな原因がないものは一次性サルコペニアもしくは原発性サルコペニアと呼ばれます。

加齢以外に原因があるものを二次性サルコペニアと呼びます。二次性サルコペニアはさらに大きく3つに分けられます。

  • 一次性サルコペニア(原発性サルコペニア)
    • 加齢性サルコペニア
  • 二次性サルコペニア
    • 身体活動性サルコペニア
    • 疾患性サルコペニア
    • 栄養性サルコペニア

それぞれについて詳しく説明します。

3. 一次性サルコペニア(原発性サルコペニア)

一次性サルコペニアは年齢以外に原因がないもので、加齢性サルコペニアとも呼ばれます。骨格筋の面積は、20歳代と比較すると一般的に70歳までに25-30%減少し、筋力は30-40%減少するといわれています。また、50歳を過ぎると毎年1-2%の筋肉が減っていくといわれています。サルコペニアは病気や栄養状態、寝たきりなどの活動量の低下によっても起こりますが、このように加齢のみを原因とすることもあります。

加齢性サルコペニア

加齢に伴う身体のさまざまな変化によって、サルコペニアが起こると考えられています。例えば次のようなものが主な要因と考えられています。

  • 身体活動の低下(運動不足、活動不足)
  • 神経と筋肉の接続部の機能低下
  • 筋肉の血流低下
  • タンパク質を合成する力の低下
  • 栄養(タンパク質)の摂取不足
  • インスリン抵抗性
  • さまざまなホルモンの影響
  • 炎症

◎身体活動の低下(運動不足、活動不足)

歳を重ねると、若い時に比べて身体を動かすのが億劫になる人が多いです。身体活動量が少なくなると筋肉は使われなくなって痩せたり、衰えたりすることがあります。使わないことによって筋肉が落ちることを「廃用」と呼びます。

◎神経と筋肉の接続部の機能低下

筋肉を動かすためには運動の指令を伝達する神経の働きが必要です。年をとると神経と筋肉の接続部分の機能が低下するため、筋肉に神経からの刺激が届きにくくなって筋肉が痩せていきます。

◎栄養(タンパク質)の摂取不足

食事で摂取したタンパク質は腸管でアミノ酸に分解されて血液中に取り込まれます。タンパク質の分解・吸収の機能は加齢では低下しないと言われていることから、タンパク質の摂取量減少が筋肉量の減少につながると考えられています。

◎インスリン抵抗性

筋肉合成にはインスリンが必要ですが、高齢になるとインスリン作用の低下が起こり、筋肉細胞で十分なタンパク質の合成が行われにくくなります。

他にもホルモンや炎症の影響など、加齢に伴うさまざまな要因があると考えられています。

4. 二次性サルコペニア

加齢以外の原因によって起こるサルコペニアです。活動量、疾病、栄養に関連して起こります。

身体活動性サルコペニア:活動量の低下に関連

活動量の低下を原因としたサルコペニアです。具体的には次のようなことが原因になります。

  • 不活発な生活習慣
  • 体調不良であまり動かない状態
  • 無重力状態

高齢者に限らず、運動習慣がない、デスクワークであるなど、もともとあまり動かない生活習慣の人は筋肉を使うことが少なく、筋肉量が減少します。また、体調不良で自宅療養をしていたり、病気で入院して長期間横になっている状態が続いたりすることも原因になります。

また、特殊な状況ではありますが、無重力下では筋肉に刺激が加わらず筋肉量が低下します。そのため、宇宙飛行士は対策として筋肉を維持する運動を行います。

疾患性サルコペニア:疾病が関連

疾患性サルコペニアは病気に関連して起こるもので、次のような病気が要因になります。

それぞれの病気とサルコペニアの関係について説明します。

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームの人ではサルコペニアの有病率が高いことがわかっています。メタボリックシンドロームの中でも特に、高血糖がある人はサルコペニアになりやすい傾向にあります。高血圧とサルコペニアの関係性ははっきりしていません。

なお、肥満の人で筋肉が少ない状態をサルコペニア肥満と呼びます。体格しっかりしているように見えても実は筋肉量が少ないということがありますので注意が必要です。

◎内分泌疾患:糖尿病など

2型糖尿病の人ではサルコペニアの有病率が高いです。また、糖尿病がある人はない人に比べて数年早くサルコペニアになる傾向があります。糖尿病では、インスリンの分泌が悪いことや高血糖が持続すること、筋肉細胞のインスリンに対する反応が低くなることが筋肉量減少につながると考えられています。

◎消耗性疾患:慢性閉塞性肺疾患COPD)、がん、慢性腎臓病など

病気によって常に身体に炎症が起きている状態では、消耗によって筋肉量が徐々に減っていきます。60歳以上のサルコペニアの有病率は8%程度ですが、慢性閉塞性肺疾患の人のサルコペニアの有病率は14.5%、慢性腎臓病透析期の人で12.7-33.7%と多くなります。がんなどの悪性腫瘍では筋肉量の減少をきたしている人の割合は11-74%と特に高いです。

◎運動器疾患:骨粗鬆症関節リウマチなど

骨粗鬆症関節リウマチ変形性関節症などの運動器疾患がある人ではサルコペニアを合併することが多いです。

◎神経疾患:神経変性疾患、認知症など

重い認知症があるとサルコペニアの有病率が上がることがわかっています。しかし、このような認知症がある人は高齢であることが多く、サルコペニアが認知症の影響によるのかどうかははっきりしていません。

栄養性サルコペニア:過度なダイエットなど栄養が関連

栄養を体内にうまく吸収できなかったり、食べる量が少なくエネルギーやタンパク質が不十分なことで起こるサルコペニアです。

  • 摂食不良(十分な食事が摂れない状態)
  • 食思不振(食欲がない状態)
  • 吸収不良(消化管での栄養吸収が低下している状態)

病気などで食事量が減ったりすると、筋肉を作るための十分なタンパク質が摂取できずに筋肉が減ります。過度なダイエットも同様にサルコペニアの原因になります。消化管の病気で栄養が腸で十分吸収できない場合も栄養性サルコペニアに含まれます。

参考文献

Buford TW, et al. Models of accelerated sarcopenia: critical pieces for solving the puzzle of age-related muscle atrophy. Ageing Res Rev. 2010 Oct;9(4):369-83.

Park SW, et al. Decreased muscle strength and quality in older adults with type 2 diabetes: the health, aging, and body composition study. Diabetes. 2006 Jun;55(6):1813-8.