さるこぺにあ
サルコペニア
加齢や栄養不良状態により筋肉の量が低下していく症状の総称
3人の医師がチェック 33回の改訂 最終更新: 2020.11.18

サルコペニアの人が気をつけるべきこと

加齢とともに増えるサルコペニアは、そのままにしておくと介護が必要になる可能性をはらんでいます。健康寿命を伸ばすためには、予防のための食事や運動を早めに取り入れることが大切です。ここではサルコペニアの予防とともに、サルコペニアと同じく加齢に伴って起こりやすいフレイルやロコモティブシンドロームについても説明します。

1. サルコペニアを放置するとどうなるか

サルコペニアを放置すると寝たきりなどの要介護状態になる可能性があります。

筋肉量や筋力の低下をそのままにしておくと、活動量の低下につながり家に閉じこもりがちになる可能性があります。閉じこもりがちで人に会わない生活を送ると、認知機能の低下、食欲低下、低栄養をきたすことで、身体機能や筋肉量も低下し、いっそうサルコペニアが進行するという悪循環に陥ります。この悪循環に陥ってしまうと、自分一人では生活できない状態となり、寝たきりになる可能性があります。

2. サルコペニアを予防する食事はあるか

サルコペニアを予防するためには筋肉を維持する食事が勧められます。筋肉はタンパク質でできていて、タンパク質はアミノ酸が集まってできています。血液中に十分なアミノ酸がないと筋肉が合成されないため、タンパク質やアミノ酸が多く含まれる食事を摂ることは重要です。

アミノ酸の中でも、身体の中で作り出すことができない必須アミノ酸を主とした栄養療法は、短期的には筋力を回復する効果があるとされています。1日に適正体重1kgあたり1g以上のタンパク質を摂取すると、サルコペニアの発症予防に有効だといわれています。

詳しくは「栄養療法:タンパク質を摂取しやすい食べ物など」を参考にしてください。

3. サルコペニアに予防効果があるサプリメントはあるか

サルコペニア予防のためには筋肉量を維持する必要があります。筋肉のもとになるのはアミノ酸です。アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA)は筋肉の維持に効果的と考えられ、これを配合したサプリメントが市販されています。その他、よく目にするサプリメントとしてHMBやコンドロイチン、グルコサミンなどがありますが、現時点では効果は確認されていません。

分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA)について

筋肉はタンパク質でできており、タンパク質はいくつものアミノ酸が集まって作られています。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類あり、体内で合成できるものは非必須アミノ酸といい11種類あります。一方、体内で合成できず、食べ物から摂取する必要があるものを必須アミノ酸といい、9種類あります。必須アミノ酸の中でも特殊な構造をしている分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA)が筋肉のタンパク質合成に重要といわれています。

BCAAをサプリメントで摂取することで、サルコペニアの予防や治療に一定の効果があるといわれています。ただし、栄養療法のみでは不十分で運動もあわせて行うことが重要です。

β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(beta-hydroxy-beta-methylbutyrate:HMB)について

さらに、分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA)の中でもロイシンが筋肉の維持に有用であるという報告があります。摂取したロイシンは身体の中でβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(beta-hydroxy-beta-methylbutyrate:HMB)に分解されます。そのため、HMBがサプリメントとして販売されていますが、サルコペニアへの有効性は現時点でははっきりと確認されてはいません。

コンドロイチンについて

コンドロイチンは軟骨や粘液に含まれ、皮膚、眼球、軟骨、靭帯、血管などにあります。加齢とともにコンドロイチンの生成量は低下しますが、コンドロイチンの内服しても体内の合成量が増加することは確認されていません。次項のグルコサミンの併用によって、変形性膝関節炎への効果を報告するものもありますが、現時点ではっきりした結論は出ていません。サルコペニアの予防効果に関しても確認されていません。

グルコサミンについて

グルコサミンは関節の軟骨や腱を構成するもので、長期の定期的な摂取によって変形性関節炎の予防や治療に対する効果の報告もあるものの、はっきりした効果に関しては不明です。サルコペニアの予防に関しても効果があるとは言えません。

4. サルコペニアを予防する運動

運動習慣を持つことや、身体活動に富んだ日常生活を送ることはサルコペニアの発症を予防する可能性があると言われています。強い負荷をかける必要はなく軽い負荷でも良いので、継続して行うことが効果的です。いったん運動をやめると、それまでに増やした筋肉量が速やかに減ります。例えば12週間の運動で筋力や筋肉量が増えても、運動をやめて12週間で半分、24週間でほぼ元の状態まで戻ってしまいます。そのため、強めの運動を始めて途中で挫折してしまうよりは、たとえ軽い運動であっても継続していくほうが良いと考えられます。

手軽に取り組むには、日常生活の動作の中で少しの負荷をかけると効果的です。具体的には、日常の外出でできるだけ歩く場面を増やして一日1万歩以上を目指したり、エレベータやエスカレーターではなく階段を使ったりすることです。階段の上りが辛い人は、下りだけでも効果があります。「運動療法:リハビリなど」でいくつかトレーニング方法を紹介していますので参考にしてください。

5. サルコペニア肥満とは

サルコペニアは主に加齢が原因で筋肉が減少した状態です。サルコペニアでは必ずしも体重減少が起こらず、筋肉のみが減少する人がいることがわかってきました。体重が多い状態のまま筋肉量が低下している状態を「サルコペニア肥満」と呼びます。サルコペニア肥満独自の症状や病気との関連も報告されています。

定義

サルコペニア肥満は、サルコペニアに肥満もしくは脂肪の増加を伴う状態です。サルコペニアは筋肉量の低下で定義され、肥満はBMIが25以上もしくは体脂肪率が適正値以上、ウエスト周囲長さが正常値以上などで定義されています。しかし、サルコペニア肥満の診断基準として統一されたものはまだありません。

原因

サルコペニア肥満の原因はサルコペニアの原因と同様です。しかし、サルコペニア肥満では、筋肉量の低下にともなって基礎代謝量が減ることで肥満が進行し、ますます身体活動が低下し、筋肉量がさらに減るという悪循環に陥りやすくなります。

また通常のサルコペニアよりインスリンの作用がききにくい状態(インスリン抵抗性の増加)になって、糖尿病になりやすいという特徴があります。

治療:食事など

サルコペニア肥満も運動療法と栄養療法が中心の治療になります。ただし、ダイエットのためにカロリー摂取を減らそうとするのは誤りです。カロリー摂取が十分でない場合、身体は足りないエネルギーを補おうと筋肉を分解してしまうため、かえって筋肉量が減少してしまいます。必要なカロリーを摂取したうえで運動することで、筋肉量を維持したまま脂肪を落とすことができます。具体的な運動については「運動療法:リハビリなど」を参考にしてください。

6. サルコペニアと関連する状態:フレイル(虚弱)とは

サルコペニアによく似た言葉にフレイルがあります。フレイルとは健常な状態と日常生活に支援が必要な状態の中間の状態をさします。フレイルはサルコペニアやロコモティブシンドロームなどと関連していますが、もう少し大きな概念です。フレイルの状態で適切に対策をすることで要介護状態になることを防げます。

フレイル(虚弱)とは

フレイルとは要介護状態にいたるリスクが高い状態で、身体的フレイル・精神的フレイル・社会的フレイルの3つの要素を含んでいます。WHOの健康の定義には「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない」とあります。この3つの要素にそれぞれ問題が起きて要介護状態に陥りそうな状態がフレイルです。

サルコペニアやロコモティブシンドロームはこのうちの身体的フレイルに含まれます。運動機能の低下から転倒しやすくなり、骨折などの怪我がきっかけで要介護状態になり、健常な状態に戻りにくくなることがあります。精神的フレイルには認知機能の低下やうつ病などの状態が含まれ、社会的フレイルには独居や社会的なつながりの減少、経済的な問題などが含まれます。

サルコペニアをきっかけに、フレイルの悪循環が起こることが知られています。サルコペニアが起きると活動量が低下し、家に閉じこもりがちになります。閉じこもりで人と会わない状態になると認知機能が低下し、食欲が低下したり、食事の認識が乏しくなることで低栄養を引き起こすことがあり、さらに筋肉量の減少が起こるという悪循環です。サルコペニアを改善することで、フレイルの悪循環を断ち切ることができると考えられます。

フレイルの診断基準やスクリーニング方法

フレイルの確立した診断基準はありません。現在、世界的に最も広く用いられているのは次の5つの項目での評価です。

  1. 体重の減少
  2. 疲労感
  3. 身体機能の低下
  4. 歩行速度の低下
  5. 筋力低下

このうち3つ以上に当てはまる場合にフレイルと診断されます。日本で行われたフレイルの研究では上の項目をそれぞれ評価しやすくするために、次のような質問が用いられました。

評価の項目 評価の基準
体重の減少 「半年で2-3kg以上の(意図しない)体重減少がありましたか?」に「はい」と回答した場合
倦怠感 「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」に「はい」と回答した場合
活動量の低下 「軽い運動・体操(農作業も含む)を1週間に何日くらいしていますか?」および「定期的な運動・スポーツ(農作業も含む)を1週間に何日くらいしていますか?」の2つの質問にいずれにも「していない」と回答した場合
通常歩行速度の低下 測定区間の前後に1mの助走区間を設けて、測定区間5mの時間を計測したときの歩行速度が1m/秒未満の場合
握力の低下 利き手の握力が男性26kg未満、女性18kg未満の場合

上記の3項目以上が該当した場合にはフレイルと診断され、1-2項目に該当した場合にはプレフレイルといわれます。フレイルは身体的、精神的、社会的な要因が絡み合って起こりますが、上記では身体的フレイルに重点が置かれています。

【参考文献】

長寿医療研究開発費 平成26年度 総括報告書:フレイルの進行に関わる要因に関する研究

フレイルの予防方法

フレイルの予防にはサルコペニアの改善を行うとともに、社会的にも精神的にも健康な状態を維持することが大切です。

高齢者の中には意欲が低下して、外出したり集まりに顔を出すのが面倒だと感じる人もいます。日本で行われた「柏スタディ」の結果によると、サルコペニアに加えてこのような精神的な落ち込みなどの問題を抱えている人はフレイルになりやすいことがわかっています。また、社会的に孤立することはサルコペニアにも関連しており、例えば1日の食事3食全てを一人で食べる人は、1日1回でも誰かと食事をする人と比べて栄養状態が悪く、歩行速度が遅い傾向にあるといわれています。

サルコペニアはフレイルの悪循環を担っており、運動や食事療法でサルコペニアを改善することで、フレイルを予防・改善することができます。加えて、社会とのつながりを維持するために、家に閉じこもらないで地域の集まりや趣味の会などに参加するとよいでしょう。

7. サルコペニアと関連する状態:ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは

サルコペニアに関連する概念としてロコモティブシンドロームがあります。手足などの運動器が衰えて、立ったり、歩いたりといった移動の機能が低下し、介護が必要になる手前の状態をさします。略して「ロコモ」とも呼ばれます。

ロコモティブの意味など

ロコモティブとは英語で「運動の」という意味です。骨や関節、靭帯、筋肉や腱、神経など身体を支えたり動かしたりする身体の器官をまとめて「運動器」と呼びます。

ロコモティブシンドロームは日本整形外科学会が2007年に提唱した概念で、「運動器の障害」によって移動能力を中心とした身体機能の低下を起こし、介護が必要な状態(要介護状態)の一歩手前のことを表します。

要介護になる原因には、認知症脳卒中、加齢による老衰に続いて、骨折や転倒、関節の病気があります。運動器の病気が全体の約1/4を占めていることから、健康寿命を伸ばすためにはロコモの段階で介入することが重要と考えられています。

ロコモティブシンドローム・フレイル・サルコペニアの関係

フレイルは身体的・精神的・社会的な3つの要素を含んでいますが、ロコモはこの中の、身体的フレイルに含まれる概念です。一方、サルコペニアはロコモティブシンドロームの一部で、運動器の中でも筋肉量低下に伴う状態を指します。

ロコモには、サルコペニアに加えて、変形性関節症脊柱管狭窄症、骨粗鬆症などの病気が含まれます。

ロコモティブシンドロームのスクリーニング検査:ロコチェック

ロコモティブシンドロームの可能性が自分で簡単にわかる「ロコチェック」が、日本整形外科学会から発表されています。次の7つの項目が自分に当てはまるかチェックしててみてください。

【ロコチェック】

  • 片足立ちで靴下が履けない(バランス機能の低下)
  • 家の中でつまずいたり滑ったする(転倒の危険性)
  • 階段をあがるのに手すりが必要(筋力の低下)
  • 家の中のやや重い仕事が困難(筋力の低下)
  • 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難(筋力の低下)
  • 15分くらい続けて歩くことが困難(移動能力の低下)
  • 横断歩道で青信号の間に渡りきれない(移動能力の低下)

これらに1つでもあてはまる場合にはロコモティブシンドロームの可能性があります。さらに詳しくロコモかどうか知りたい場合には、「ロコモ度テスト」が有用です。

ロコモティブシンドロームの診断基準:ロコモ度テスト

日本整形外科学会から簡単にロコモかどうかわかる「ロコモ度テスト」が発表されています。こちらの「立ち上がりテスト」、「2ステップテスト」「ロコモ25」の3つのテストを行なって、ひとつでも該当すればロコモといえます。テストをするときは無理をしてバランスを崩したり、転んだりしないように注意してください。また膝や腰などに痛みが起きた場合には中止してください。

ロコモティブシンドロームの原因

ロコモティブシンドロームの原因は大きくわけて「運動器の病気」と「加齢」の2つです。

運動器自体の病気が原因で、立ったり歩いたりといった動作機能が低下することがあります。痛みや筋力低下などから、バランス機能の低下、筋力の低下、移動能力の低下などをきたします。

一方、特に運動器の病気がなくても、加齢によって筋力低下、持久力低下、バランス機能の低下などが起こり、ロコモティブシンドロームになることがあります。

加齢はロコモティブシンドロームを進行させるの大きな要因ではありますが、運動習慣の欠如、活動量の低い生活、不適切な栄養摂取などによってもロコモが進行すると考えられています。これらの3つを改善に取り組むことでロコモの進行を防ぐことができると考えられています。

ロコモティブシンドロームの治療と予防:運動と食事

ロコモティブシンドロームの治療や予防の方法は、サルコペニアと同様に運動と食事が重要です。

  • 習慣的な運動
  • 適切な栄養摂取
  • 活動的な生活
  • 運動器の病気の予防や治療

◎習慣的な運動

運動は毎日継続することが重要です。身体に強い負荷をかける必要はなく、弱い負荷であっても繰り返し毎日続けることで、運動器の機能低下を予防することができます。詳しい運動についてはサルコペニアの「運動療法:リハビリなど」を参考にしてください。

◎適切な栄養摂取

適切な栄養摂取に関しては次のようなことが重要です。

  • エネルギーを適量摂取する
  • さまざまな食材をバランスよく食べる
  • 特に次のような栄養素をとるようにする
    • タンパク質とアミノ酸
    • カルシウム
    • マグネシウム
    • ビタミンD
    • ビタミンK

エネルギー摂取量は多すぎても少なすぎてもよくありません。重すぎる体重は脊椎や足の関節への負担が大きくなり、過度な痩せは筋肉量の減少や骨粗鬆症につながってロコモの原因になります。70歳以上の人では食事の量が減ってエネルギー摂取不足になりがちなので、特に注意が必要です。

健康のために必要な栄養素は炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルの5大栄養素です。筋肉の維持や合成にはタンパク質が欠かせませんが、タンパク質の合成にはその他にも必要な栄養素があります。多くの種類、多くの食品をバランスよくとることで効率よく筋肉を維持、合成することができます。

5大栄養素を含む食品として次のものをとることが勧められます。

  • 魚、肉、野菜、いも類、果物、卵、大豆、海藻、油、牛乳

これらの食品を毎日の食事の中でバランスよくとるように心がけてください。1日で摂りきれない場合には、1週間の中で多くの食材を食べるように心がけてください。サプリなどもありますが、まずは食事からきちんと栄養素をとることが重要です。

◎活動的な生活

家に閉じこもりがちになると、身体を動かさなくなるので身体機能の低下につながります。また、動かないことから食欲が低下し十分な栄養がとれにくくなります。定期的に外での運動や、地域の集まり、趣味の会への参加などにトライしてみてください。

◎運動器の病気の予防と治療

ロコモティブシンドロームの原因となる運動器の病気には変形性膝関節症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症などがあります。このような病気を適切に予防したり、治療したりすることでロコモティブシンドロームの進行を食い止め、寝たきりになることを防ぎます。

【参考文献】

Fried LP. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001 Mar;56(3):M146-56.

長寿医療研究開発費 平成26年度 総括報告書:フレイルの進行に関わる要因に関する研究

・日本整形外科学会:ロコチェック

・日本整形外科学会:ロコモ度テスト