サルコペニアの治療:タンパク質の摂取、筋力トレーニングなど
サルコペニアの治療は主に栄養療法と運動療法です。筋肉の原料となるタンパク質を多く摂ることと、適切な運動を継続することで筋肉を増やすことができます。サルコペニアと診断されていない人でも、予防のために運動療法や栄養療法を行うことが勧められています。ここでは具体的な方法について説明します。
1. 栄養療法:タンパク質を摂取しやすい食べ物など
サルコペニアと低栄養は深く関連していると考えられており、低栄養の改善がある程度有効ではないかと言われています。米国のサルコペニアの栄養に関する研究では次の3つが挙げられています。
- 一人ひとりに合わせた十分なエネルギー摂取
- 1.0-1.5g/体重kgを目安としたタンパク質摂取
ビタミンD 欠乏がある場合にはビタミンDの補充
サルコペニアの改善には何よりも筋肉の材料となるタンパク質の摂取が欠かせません。また、十分なエネルギーを摂取しないと、足りないエネルギーを補うために筋肉が分解されてしまいます。バランスよい食事で適切なエネルギーをとることが重要です。
【参考文献】
タンパク質の種類:必須アミノ酸(分岐鎖アミノ酸:BCAAなど)
筋肉を減らさないためには、筋肉の素となるタンパク質を食事からとる必要があります。なかでも、必須
身体を構成するタンパク質は20種類のアミノ酸が組み合わさってできていますが、そのうち9種類は体内で作ることができないので、食べ物から摂取しなくてはなりません。このようなアミノ酸を「必須アミノ酸」といいます(体内で作れるものは非必須アミノ酸(11種類)といいます)。
高齢者では、必須アミノ酸を摂取することで筋肉の
【参考文献】
必須アミノ酸は特に動物性の食べ物に多く含まれています。具体的には肉、魚、卵、乳製品です。高齢者では卵や肉が不足しがちといわれているので、積極的にとることをおすすめします。
そのほかタンパク質が多い食品として、豆腐や納豆などの大豆製品といった植物性の食品もおすすめです。動物性タンパク質は植物性タンパク質より吸収が良いとされていますが、含まれるアミノ酸がそれぞれ異なりますので、どちらかに偏ることなく、バランスの良い食事を心掛けてください。

また、必須アミノ酸の中でもBCCA(Branched chain amino acid:分岐鎖アミノ酸)と呼ばれるロイシン、イソロイシン、バリンを多く含む、ホエイタンパク質の摂取が筋肉量を維持したり増やすのに効果的という報告もあります。ホエイタンパク質は乳清タンパク質とも呼ばれ乳製品に多く含まれています。
また、BCCAの一つであるロイシンが筋肉の合成に有効ではないかという研究もあります。ロイシンが多く含まれるものは、乳製品、卵類、豆類、とびうおや煮干し・かつお・いわし・さばなどの魚類です。
【参考文献】
タンパク質の摂取量
1日に摂取するタンパク質の量は、適正体重1kgあたり1gを目安にすると良いです。適正体重とは、
- 22(BMI) × 身長(m) × 身長(m) = 適正体重(kg)
例えば、身長1.6mの人であれば適正体重は56.3kgです。ここから1日に摂取したいタンパク質量は56.3gとわかります。
【タンパク質含有量の具体例】
- 肉100g、魚100g、豆腐1丁(300g):それぞれ約20gのタンパク質が含まれています
- 牛乳200mL、ヨーグルト1カップ(150g)、卵1個:それぞれ約6gのタンパク質が含まれています
1日3食のうち2食は魚もしくは肉を食べ、1食は卵や豆腐といった食材を食べるとバランスよくタンパク質が摂れるのでおすすめです。
ビタミンD
ビタミンDは、骨の成分になるカルシウムとリンの吸収を良くする効果があります。ビタミンDが不足すると骨粗鬆症になることは知られていますが、最近では骨だけではなく筋肉の減少にも関連するのではないかといわれています。
しかしながら、ビタミンDを摂取することによって、実際の筋肉量や身体機能が改善するのかどうかの結論はまだ出ていません。
日本の研究ではビタミンDが不足すると転倒のリスクが高くなると報告されており、いずれにせよ不足しない食生活を心掛けたほうが良いことには変わりありません。
ビタミンDは鮭などの魚やきのこ類に含まれます。また、日光をあびることで皮膚でも作られるため、積極的に日光をあびるようにしてください。
【参考文献】
2. 運動療法:リハビリなど
運動習慣や豊富な身体活動はサルコペニアの
筋肉量を増やすための筋力トレーニングでは次のようなやり方が効果的と言われています。
- 1回だけ持ち上げることのできる最大重量の70-80%程度の高い負荷で、8-12回の運動を行う(1セット)
- これを1日2-3セット、週に3回のペースで3ヶ月以上続ける
とはいえ、高齢者では高い負荷をかけての運動は難しいかもしれません。少ない負荷(最大重量の40-50%)でも十分な回数を行うことで効果があるとされているので、上記にとらわれずに運動を生活に取り入れてみてください。
【参考文献】
トレーニング例
自分で行う場合には、少しつらいと思う程度を目安に、1日5分でもいいのでトレーニングをしてみてください。動作はゆっくりと10秒程度かけて行うのがポイントです。動作を繰り返す時は力を抜かずに、筋肉の緊張を保ったままにします。回数は心地よい疲労感が残る程度を目安にすると良いです。
歩行がしにくくなった高齢者では、太ももにある大腿四頭筋の萎縮が目立ちます。大腿四頭筋は立ち上がりや歩行、階段の昇り降りに必要な筋肉です。ここでは、この筋肉を中心に鍛えるトレーニング方法をあげますので、2-3種類選んで日替わりで行ってみてください。
◎ハーフスクワット
太ももにある大腿四頭筋を鍛える方法です。
①両足を肩幅程度に開きます
②ゆっくり膝を曲げて膝が直角になるまで腰を落とします
③その後ゆっくり腰をあげて、膝が伸びきらないところまできたら一旦止めます
④再び膝を曲げて、②-③の動作を繰り返します
大腿四頭筋に持続的な緊張がかかる効果的な運動です。不安定で転倒しそうな場合には、椅子の背面や手すりをつかんで行ってください。
◎爪先立ち運動
ふくらはぎのところにある下腿三頭筋を鍛える方法です。
①椅子の背面や手すりに両手でつかまります
②身体をまっすぐに保ったまま、ゆっくりとかかとを上げ下げします
かかとを下げた時に床につけないまま繰り返すとより効果的です。より強い負荷をかけたい時は片足立ちで行うと良いですが、転倒しやすくなるので十分注意をしてください。
◎もも上げ運動
お尻にある大臀筋と腰にある腸腰筋を鍛える方法です。
①椅子の背面や手すりを片手でつかみます
②片足の膝を、ももをあげるようにゆっくり曲げて足をあげます
③ふとももが床と平行になるぐらい上がったら、あげた時と同じようにゆっくりと足を元に戻します
足を下ろした時に床につけないようにして繰り返すと、より効果的です。さらに負荷をかけたい時には足首に重しをつけても良いです。
◎横への足上げ運動
お尻にある中臀筋を鍛える方法です。
①横向きに寝ます
②膝を曲げずに足を天井に向かってゆっくり持ち上げます
③足が一番重く感じる高さまで持ち上げたら、ゆっくりと下ろします
足を下ろす時に、できれば下ろしきらずに浮かせた状態にして繰り返すと効果的です。
◎上への足上げ運動
太ももの大腿四頭筋と腹筋の下の部分を鍛える方法です。
①仰向けに寝ます
②足を真上にゆっくり持ち上げます
③足が一番重く感じる高さまで持ち上げたら、ゆっくりと下ろします
下ろす時にかかとを床につけずに繰り返すとさらに効果的です。
◎ブリッジ運動
お尻にある大臀筋と太ももの裏にあるハムストリングスを鍛える方法です。
①仰向けに寝ます
②膝をたてて、お尻をゆっくり高く持ち上げて下ろす運動を繰り返します
お尻を下ろす時に、できれば床につけずに繰り返すとより効果的です。
サルコペニアでは、栄養療法と運動療法を一緒に行うほうが効果が期待できます。また、筋力や運動機能の低下を抑えて筋肉量を改善させるためには、毎日続けることが大切です。無理なく続けられるように、自分にあった方法について医療機関で相談してみてください。
3. 薬物治療
現時点で、サルコペニアに効果のある薬物治療はありません。
筋肉量を増やすためには
4. 予防療法:筋肉を維持するためにできること
サルコペニアは主に加齢に伴って起こります。自由に動ける身体を保つために、できるだけ早い段階から運動療法と栄養療法を行って、サルコペニアの予防につなげてください。2019年のサルコペニアの診断基準では、サルコペニアの診断にあてはまらなくても、早期に予防の運動や栄養療法を行うことが勧められています。
栄養療法
高齢者では若い人に比べて筋肉が作られにくいです。筋肉で十分なタンパク質が合成されるためには、高齢者では若い人より多くのタンパク質摂取が必要といわれています。
「サルコペニア診療ガイドライン」によると、サルコペニアの発症予防には1日に適正体重1kgあたり1g以上のタンパク質摂取が有効ではないかと考えられています。
【参考文献】
運動療法
運動習慣を持つことはサルコペニアの発症を予防する可能性があるといわれています。いったん運動をやめると速やかに筋肉量が減るため、激しい運動や大きな負荷をかけての筋力トレーニングを時々やるよりは、軽い運動であっても繰り返し継続して行うことをおすすめします。例えば、12週間の運動で筋力や筋肉量が増えても、運動をやめて12週間で増えた分の半分が減り、24週間でほぼ元の状態まで戻ってしまいます。そのため、軽い運動でも継続していくのが良いと考えられます。
運動は、日常生活の延長として取り入れることもできます。例えば、散歩の習慣がある人は距離を少し伸ばして1万歩を目指して歩いてみたり、エレベータやエスカレーターよりも階段を使ったりすると手軽に運動ができます。階段を登るのが大変であれば、下りだけでも効果があります。その他、具体的なトレーニング方法は上記の「運動療法:リハビリなど」を参考にしてください。
5. サルコペニアの診療ガイドラインについて
日本では2017年に世界初のサルコペニア診療ガイドラインが発刊されています。
ガイドラインとはそれまでの研究を総合して、現時点での意見についてまとめた、診断や治療の指針となるものです。実際にはガイドラインを参考にしつつ、一人ひとりに合った治療方法にアレンジして行われます。
サルコペニアの診断基準が2019年に改訂されたことを受けて、今後ガイドラインも改訂される予定です。
【参考文献】
・サルコペニア診療ガイドライン作成委員会「サルコペニア診療ガイドライン」, ライフサイエンス出版, 2017