サルコペニアの検査:診断基準など
筋力もしくは身体機能の低下があり、筋肉量の低下もある際にサルコペニアと診断されます。ここでは具体的な検査の方法や診断基準、セルフチェックなどについて説明します。
目次
1. サルコペニアの診断方法
サルコペニアになりやすい高齢の人や持病がある人、サルコペニアが疑われる
スクリーニング検査 問診 - 身体診察:下腿周囲長(ふくらはぎの太さ)の測定
- 筋力の測定
- 握力測定
- 身体機能の測定
- 5回椅子立ち上がりテスト
- 6m歩行速度 など
- 筋肉量の測定
まず、スクリーニング検査でサルコペニアの可能性について調べた後、筋力や身体機能の低下がないかどうか検査します。これらの検査でサルコペニアの可能性があると判断された人は、筋肉量の測定を行うことがあります。筋肉量の測定には特殊な医療機器が必要となるため、専門の医療機関を紹介されることがあります。
上記は2019年に改訂されたサルコペニアの診断基準に則っています。この診断基準の改訂により、特別な測定機器がない施設でもサルコペニアの可能性の有無を判断できるようになりました。高齢者が増えている日本では健康寿命の延伸が重要です。サルコペニアの可能性がある人を早く見つけることで、早期に運動療法や栄養療法を行い寝たきりになることを防ぐ目的があります。
2. スクリーニング検査:問診・身体診察
スクリーニング検査では、問診と身体診察を通じてサルコペニアの可能性が高いかどうかを判断します。また、サルコペニアに似ている他の病気でないかどうかも調べます。
問診
サルコペニアのスクリーニング検査では次のようなことを質問されます。
- 4.5kgくらいのものを持ち上げたり、運んだりするのはどのくらい難しいですか?
- 部屋の中を歩くことはどのくらい難しいですか?
- ベッドや椅子から立ち上がることはどのくらい難しいですか?
- 10段くらい階段をのぼるのはどのくらい難しいですか?
- 過去1年間に何回程度転びましたか?
(SARC-F日本語版)
これらの動作に対して「全く難しくはない(0点)」「少し難しい(1点)」「とても難しい(2点)」の3段階で回答します(転んだ回数については「なし(0点)」「1-3回(1点)」「4回以上(2点)」)。この合計点からサルコペニアの可能性が高いかどうかが推定されます。
身体診察:下腿周囲長(ふくらはぎの太さ)の測定
サルコペニアのスクリーニング検査として下腿周囲長の測定が行われます。下腿周囲、つまり、ふくらはぎの太さを測ることで筋肉量が少なくなっているかどうかを推定します。診断基準では男性で34cm未満、女性で33cm未満の人は、サルコペニアの可能性があるとされます。
3. 筋力の測定
サルコペニアは筋力低下が診断基準の一つです。握力は全身の筋力の目安になることから、サルコペニアでの筋力の評価として使われています。また、握力が弱いと日常生活動作(ADL:Activity of Daily Living)の障害が起こりやすいといわれています。
診断基準では、握力が男性で28kg未満、女性で18kg未満の場合に筋力低下と判断されます。
4. 身体機能の測定
サルコペニアでは筋肉量の減少に伴って、身体機能の低下が起こります。身体機能を評価するために次のような検査を受けます。
- 5回椅子立ち上がりテスト
- 6m歩行速度
- 簡易身体能力バッテリー(SPPB)
広く行われているのは、簡単に行いやすい5回椅子立ち上がりテストです。医療機関によっては、6m歩行速度の測定や簡易身体能力バッテリーといった検査が行われます。それぞれの検査でどのようなことをするのか説明します。
5回椅子立ち上がりテスト
このテストでは椅子から立ったり座ったりの動作を5回行うのにどのくらい時間がかかるかを調べます。12秒以上かかる人は身体機能が低下していると判断されます。
6m歩行速度
この検査では6mを歩くのにかかる時間を測り、歩行速度を計算します。秒速1m以下の人は身体機能の低下が起きていると判断されます。
簡易身体能力バッテリー(Short Physical Perfomance Battery:SPPB)
簡易身体能力バッテリー(SPPB)は身体機能を総合的に評価する検査です。バランステスト、歩行テスト、椅子からの立ち上がりテストの3つの検査を受けます。それぞれの検査では次のようなことを行います。
- バランステスト
- 両足を横並びにくっつけた状態で10秒立っていられるか
- 足を半分ずらした状態で10秒立っていられるか
- 足のつま先とかかとをくっつけた縦並びの状態で10秒立っていられるか
- 歩行テスト
- 8フィート(約2.4m)歩くのにどのくらいの時間かかるか
- 椅子からの立ち上がりテスト
- 椅子から立ったり座ったりの動作を5回行うのにどのくらい時間がかかるか
この5つの項目に対して点数をつけて、身体のバランス、歩行、強さ、持久力が判断されます。生活に欠かせない身体機能を反映する有用な検査ですが、検査項目が多いため他の検査で代替されることが多いです。
5. 筋肉量の測定
スクリーニング検査、筋肉量や身体機能の測定からサルコペニアの可能性がある人では、筋肉量を測定する検査が行われることがあります。診断基準にも用いられており、よく行われる2つの方法を説明します。
二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)
二重エネルギー
生体インピーダンス解析(BIA)
生体インピーダンス解析(Bioelectrical Impedance Analysis:BIA)では、脂肪はほとんど電気を通さないが筋肉は電気を良く通す、という特性を利用して、身体の電気抵抗値から筋肉量を割り出します。体脂肪や筋肉量が測れる家庭用体重計も同様の原理を用いています。DXA法よりも簡単に検査を行うことができます。
6. サルコペニアのセルフチェック:脚の筋肉量と筋力を簡単に調べる方法
筋肉量や筋力が低下しているかどうか、自分で簡単にできるチェック方法があります。以前より歩くのが遅くなった、ペットボトルの蓋が開けにくくなったなどの症状に心当たりのある人はチェックしてみてください。もしサルコペニアが疑わしい人は、かかりつけの医療機関で相談してみてください。
*検査をする際には転倒しないように注意して、安全な場所で行ってください。
指輪っかテスト:ふくらはぎの太さを測る方法
両手の親指と人差指で作った輪っかで、ふくらはぎの一番太い部分を囲みます。囲んだ指と足の間に隙間ができる人は筋肉量の低下が疑われます。
片脚立位
片足立ちで靴下をスムーズに履けない人、あるいは片足立ちを60秒間キープできない人はサルコペニアが疑がわれます。
片脚立ち上がり
腕組みしたまま椅子から片足のみで立ち上がります。左右とも立ち上がれない人はサルコペニアの可能性があります。検査のときには転倒しないように、動かない椅子を使用して行ってください。
【参考文献】