はなたけ、びじょう
鼻茸
鼻腔や副鼻腔(鼻腔に隣接した骨の内部にある空洞)の中にできた粘膜の隆起
6人の医師がチェック 77回の改訂 最終更新: 2021.11.30

鼻茸(はなたけ)の治療法にはどういったものがあるのか?

鼻茸があると診断された場合は「手術が必要なのか」など心配になると思います。鼻茸の治療は症状の程度と、原因の病気によって異なります。どんな治療があるのかみていきましょう。

1. 鼻茸は治る病気なのか?

鼻茸は鼻の粘膜の炎症が強い場合にできる、鼻の粘膜がむくんで、瘤(こぶ)のように膨らんだものです。鼻の粘膜に炎症を起こすアレルギー性鼻炎慢性副鼻腔炎が原因となって、鼻茸ができます。鼻茸は原因の病気によっては治ります。原因が通常の慢性副鼻腔炎アレルギー性鼻炎の場合には鼻茸を切除すれば治ります。しかし、特殊な副鼻腔炎である好酸球性副鼻腔炎アレルギー真菌性副鼻腔炎が原因の場合は、鼻茸を切除して一旦治っても、その後に鼻茸が高い割合で再発します。

鼻茸を小さくする治療としては鼻噴霧用ステロイド薬などを使いますが、薬で完全に治ることは少ないです。完全に取り除くには手術が必要です。手術後には原因となった鼻の病気の治療を継続することも重要です。

2. 鼻茸は手術が必要なのか?

鼻茸と診断されたからといって、必ず手術しないといけないわけではありません。鼻茸によって鼻づまりの症状が強い場合や、内服や点鼻薬などでの治療効果がない場合には手術を検討します。具体的には下記のような場合には手術治療を検討します。

好酸球性副鼻腔炎やアレルギー性真菌性副鼻腔炎では、薬物治療のみで症状を抑えることは難しいです。長期的な治療を行いやすくするためにも、手術治療と薬物治療を組み合わせて行います。

後鼻孔ポリープは大きな茎を持った鼻茸(ポリープ)で、ポリープの塊の部分が鼻の一番後ろの穴に到達しているものです。鼻の後ろの穴を後鼻孔と呼びます。後鼻孔ポリープの根元は上顎洞にあることがほとんどです。後鼻孔ポリープでは薬物治療の効果はないため、手術での切除を行います。後鼻孔ポリープでは根元を取りきらないと再発するため、手術で根元をきちんと確認して切り取ります。

図:副鼻腔の位置。

通常の慢性副鼻腔炎でも、鼻茸がある場合は薬物治療で治ることが少ないため、慢性副鼻腔炎による症状が続いて辛い場合には、主治医に手術治療の希望を伝えてください。

鼻茸によって鼻づまりが強く、息が苦しい、臭いがしにくくなった、鼻水が多いなどの症状がある場合にも手術治療を検討できます。

3. 鼻茸の治療法:手術

鼻茸は手術で切除できます。鼻茸のできている場所や、原因の病気で行う手術は異なります。局所麻酔でできる手術と、全身麻酔で行う手術があります。

局所麻酔で行う手術には、鼻茸を削り取る鼻茸切除術があります。原因になるアレルギー性鼻炎に対する治療として、レーザー照射やラジオ波凝固を使って、鼻粘膜を小さくさせる方法があります。鼻茸ができるようなアレルギー性鼻炎では、鼻粘膜の腫れが強くいため、レーザー治療やラジオ波凝固を行なうことで、もともとのアレルギー性鼻炎の症状を軽減させることができます。慢性副鼻腔炎に対しての治療は、主に全身麻酔で行いますが、簡単なものでは局所麻酔で行うことができます。

局所麻酔の手術では、はじめに鼻の中に、麻酔薬のついた小さなガーゼを入れて麻酔を行います。ガーゼについた麻酔薬を鼻の粘膜に染み渡らせて麻酔を行います。ガーゼは鼻の中をいっぱいに詰めるので、鼻で呼吸ができなくなります。口では呼吸ができます。薬の一部は口の中に回って苦い感じがします。麻酔の効果によって、鼻だけでなく、上の唇や前歯も痺れたような感じがありますが、1時間程度で元に戻ります。

好酸球性副鼻腔炎やアレルギー性真菌性副鼻腔炎の場合には、鼻茸を切り取るだけではすぐに再発してしまうため、副鼻腔炎の手術も同時に行うことが勧められます。再発をふせぐために全ての副鼻腔の手術が勧められます。広い範囲の副鼻腔の手術では手術時に出血することが多いため、全身麻酔での手術をお勧めします。

大まかに手術方法と、原因になる病気をわけると下記のようになります。

原因になる病気 麻酔方法 手術方法
アレルギー性鼻炎 局所麻酔 鼻茸切除術
レーザー照射
ラジオ波凝固
慢性副鼻腔炎 局所麻酔 鼻茸切除術
局所麻酔もしくは全身麻酔 内視鏡下鼻副鼻腔手術
後鼻孔ポリープ 局所麻酔 鼻茸切除術
局所麻酔もしくは全身麻酔 内視鏡下鼻副鼻腔手術
好酸球性副鼻腔炎 全身麻酔 内視鏡下鼻副鼻腔手術
アレルギー性真菌性副鼻腔炎 全身麻酔 内視鏡下鼻副鼻腔手術

以下では手術方法ごとの特徴や注意点などを説明します。

鼻茸切除術

鼻茸の部分を鉗子やハサミなどの道具を使って切り取る手術です。鼻茸を拡大してよく見るため、内視鏡を使って見ながら行うことが多いです。内視鏡は直径約4mmの細い硬いカメラです。

最近では鼻茸を切り取るのに、鼻茸を吸引しながら切り取ることができるマイクロデブリッターという道具を使います。マイクロデブリッターを使うことで、手術時間が短くすみます。

鼻茸は切り取っても痛みを感じることはあまりありません。しかし周りの鼻の粘膜は痛みを感じます。鼻茸を切り取るには周りの粘膜にも硬い道具が当たるため、痛みを感じることがあります。

術後は止血のための綿などを鼻の中に入れます。帰宅後は痛みがでたり、鼻血が出る可能性があります。痛みがでた場合や、出血した場合の対応について、手術を行った病院から帰宅する前に確認しておくと安心です。

血流がよくなる長時間の入浴や、飲酒、激しい運動などは1週間程度控えてください。これらの再開時期については、傷の治り具合によって異なります。手術後に受診したときに、医師に確認してください。

レーザー照射

レーザー照射は、鼻茸を切り取るというより、鼻茸の原因となっているアレルギー性鼻炎に対する治療に主に用います。アレルギー性鼻炎では鼻の粘膜が腫れて空気の通り道が狭くなり、鼻づまりの症状がでます。レーザー照射では鼻の粘膜の表面をレーザーで焼きます。レーザーで焼いた部分の鼻の粘膜が縮んで、空気の通り道が広くなり、鼻づまりが改善します。1回行なうと通常2-3年は鼻づまりに対して効果が続きます。

レーザー治療の方法はまず鼻の麻酔をして、その後に鼻の粘膜をレーザーで全体的に焼きます。麻酔時間を含めて1時間程度で行うことができます。

処置後は、鼻血を防ぐ目的で、血流のよくなる長時間の入浴や、飲酒、運動を避けます。合併症として、鼻血がでることがありますが、上記の点に気を付けていればごく軽度で止められます。処置後は鼻の粘膜表面にかさぶたが多くつき、鼻水や鼻づまりの悪化が1週間程度あります。

ラジオ波凝固

ラジオ波凝固は鼻の粘膜の表面ではなく、粘膜の内部を焼く方法です。レーザー照射を行っても鼻づまりの症状が続く場合にはラジオ波凝固を検討します。

ラジオ波凝固は、鼻茸の治療というよりは、鼻茸の原因になっているアレルギー性鼻炎の治療になります。粘膜の表面は焼かれず、粘膜の内部だけが焼かれて固まることにより粘膜が縮んで、空気の通り道が広くなり、鼻づまりが改善します。

ラジオ波凝固の方法はまず鼻の麻酔をして、次に鼻の粘膜に電極のついた細い針をさして、針からラジオ波を発生させ、鼻の粘膜の内部を焼きます。鼻の粘膜に電極を刺して行なうため、体内にペースメーカーなどの金属が入っているとできないことがあります(使う電極によっても異なります)。体内に金属製品を入れている人は医師に伝えてください。

処置後は、鼻出血を防ぐ目的で、血流のよくなる長時間の入浴や、飲酒、運動を避けます。合併症として、鼻血がでることがありますが、上記の点に気を付けていればごく軽度で止められます。処置後は、鼻水や鼻づまりの悪化が1週間程度あります。鼻の粘膜表面にかさぶたが多くつくこともあります。

内視鏡下鼻副鼻腔手術

直径約4mmの硬い内視鏡を使って行う手術方法です。鼻の穴から内視鏡を入れて、鼻の中を拡大した画面で見ながら手術を行います。

副鼻腔は鼻のまわりにある骨に囲まれた空間で、小さな穴や管(自然口)で鼻の中とつながっています。炎症で粘膜が腫れて鼻茸ができたり、自然口が閉鎖したりすると、鼻内の環境が悪化します。それに対して鼻の粘膜や骨を削る機械や器具を使用して、鼻茸を切り取ったり、副鼻腔と鼻を大きく一つにつなげたりします。

内視鏡下鼻副鼻腔手術は、局所麻酔でできることも、全身麻酔が必要なこともあります。どちらの麻酔方法を使うかはあらかじめ決めます。局所麻酔で行うことができる手術の範囲は、患者さんが痛みにどの程度強いかによります。痛みに弱い方には全身麻酔が向いています。

鼻茸と一緒に頬にある副鼻腔の炎症(上顎洞炎:じょうがくどうえん)も起こしている場合などは、局所麻酔で鼻茸を切り取るとともに、上顎洞と鼻をつなぐ経路を広く広げる手術も合わせて行います。

後鼻孔ポリープの根元が上顎洞の入り口付近などにある場合や、見やすい部位にある時は、局所麻酔での手術が可能です。後鼻孔ポリープは根元から切除しないと再発するため、根元が上顎洞の深い部分にある場合には、根元を切り取る時に痛い場合がありますので、全身麻酔が必要です。

好酸球性副鼻腔炎やアレルギー性真菌性副鼻腔炎の場合には、鼻茸のみを切り取ってもすぐに再発してしまうため、副鼻腔炎の手術もあわせて行います。全部の副鼻腔を手術する必要があることと、手術時に出血しやすいため全身麻酔で手術を行います。

4. 鼻茸の治療法:ネブライザー

炎症を起こしている粘膜や鼻茸に、直接薬を行き渡らせる治療方法は鼻噴霧用ステロイド薬があります。鼻噴霧用ステロイド薬よりも薬をよく行き渡らせる治療方法としてネブライザーがあります。ネブライザーでは、霧状に薬が散布されるため、鼻噴霧用ステロイド薬より、鼻の奥まで薬を到達させることができます。耳鼻咽喉科に受診すると、最後に霧を吸入する治療をされることがあります。これが吸入治療で、ネブライザーというのは霧を吹く機械です。ネブライザーを使えばステロイド薬や血管収縮薬などの数種類の薬を一度に散布することができ、それぞれの薬の作用により鼻通りを良くしたり鼻粘膜の炎症を抑えたりする効果が得られます。

5. 鼻茸の治療法:薬物治療(内服薬、点鼻薬など)

鼻茸による鼻づまりや鼻水の症状などがある場合には薬物治療を行います。鼻茸の原因になる副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に対する薬を主に使います。また鼻茸の治療にはステロイド点鼻薬が有効という報告もあります。どのような薬があるのかみていきましょう。

内服薬:抗ヒスタミン薬

鼻茸の原因となるアレルギー性鼻炎に対する治療の一つが内服薬(飲み薬)です。

アレルギー性鼻炎には、抗ヒスタミン薬を中心としたアレルギーを抑える薬を使います。しかし、抗ヒスタミン薬を使用しても、一度大きくなってしまった鼻茸は小さくはなりません。鼻茸が今の大きさより大きくならないようにすることと、アレルギー性鼻炎の鼻水や鼻づまり、くしゃみを軽くすることが目的の治療です。

抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎の治療で最もよく使用される薬です。ヒスタミンはアレルギー反応をおこしたときに放出される物質で、くしゃみや鼻水を起こします。抗ヒスタミン薬は、放出されたヒスタミンがくしゃみや鼻水を起こす作用を抑える薬です。

抗ヒスタミン薬には第1世代と第2世代があります。「世代」というのは薬が開発された時期を指しています。

現在は第2世代抗ヒスタミン薬が主に用いられますが、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(商品名:ポララミン®など)などの第1世代抗ヒスタミン薬も使われています。第1世代抗ヒスタミン薬は、眠気、胃腸障害、口の渇き、めまい、便秘、尿がでにくいなどの副作用が第2世代抗ヒスタミン薬に比べると一般的に強いため、現在は第2世代抗ヒスタミン薬がよく使われるようになっています。第1世代抗ヒスタミン薬は、緑内障前立腺肥大、気管支喘息の人には特に注意が必要です。

ポララミンが処方される場面の例としては妊娠中があります。ポララミンは昔から使用されている薬で妊娠中に処方された事例も多いため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合には妊娠中にも内服可能です。

第2世代抗ヒスタミン薬は第1世代の改良版で、眠気などの副作用が軽減されています。アレルギー性鼻炎では内服開始後十分な効果がでるのに2週間程度かかりますが、1回内服での効果の持続時間は長いという利点があります。

様々な種類があり、1日1回の内服ですむもの、眠気が少なく運転など機械類の制限がないものなど、それぞれの特徴がありますので、個々にあった薬を使用すると良いでしょう。一般的に眠気が強い薬が効果が高いと思われがちですが、人によって眠気が強くでる薬は異なりますので、担当医と相談して、自分にあう薬を見つけられると良いと思います。

  • 1日1回内服の第2世代抗ヒスタミン薬
    • アレジオン®︎、エバステル®、クラリチン®︎、ザイザル®(子供に対しては1日2回が一般的)、ジルテック®︎、デザレックス®、ビラノア®(空腹時の内服が必要)など
  • 1日2回内服の第2世代抗ヒスタミン薬
    • アレグラ®︎、アレロック®︎、ゼスラン®、タリオン®︎、ニポラジン®︎など
  • 運転などの機械類操作の制限がない第2世代抗ヒスタミン薬
    • アレグラ®、クラリチン®、デザレックス®、ビラノア®

内服薬:抗ロイコトリエン薬

抗ロイコトリエン薬は、鼻茸の原因となるアレルギー性鼻炎好酸球性副鼻腔炎、アレルギー性真菌性副鼻腔炎に対して使われる薬です。

ロイコトリエンはアレルギー反応を起こした時に放出される物質で、鼻づまりなどの症状を起こします。ロイコトリエンは好酸球性副鼻腔炎が起こる仕組みに関わっています。内服開始後に、効果がでるまで1週間程度かかります。アレルギー性鼻炎では抗ヒスタミン薬を使用しても症状が残存する場合に、抗ロイコトリエン薬を合わせて使います。抗ロイコトリエン薬は鼻茸のある人の鼻症状の改善に有効との報告があります。

内服薬:ステロイド薬

好酸球性副鼻腔炎や、アレルギー性真菌性副鼻腔炎の症状が悪化した時に使います。症状が落ち着いている時には抗ロイコトリエン薬や鼻噴霧用ステロイド薬などで治療を行いますが、一時的に症状が悪くなった場合には、内服のステロイド薬を使います。たとえばかぜなどの後で、一時的に鼻水や鼻づまりが悪化したり、嗅覚が低下した場合です。1週間程度内服を行って、症状がよくなるかの効果をみます。

ステロイド薬は体の副腎という臓器でもともと作られている副腎皮質ホルモンを元に作られた薬です。副腎皮質ホルモンは副腎皮質ステロイドとも呼ばれます。もともと副腎皮質ステロイドは、免疫を抑えたり、炎症を抑えたり、体の血糖値をあげたり、血圧をあげたりする多様な作用があります。副腎皮質ステロイドを元に作られたステロイド薬も同様のしくみで働きます。

通常は1週間程度しか使用しませんが、長期的に使用する場合には、もともとホルモンが持つ作用が、副作用として強くでることがあります。副作用は高血圧、血糖上昇、骨粗鬆症白内障緑内障、感染にかかりやすくなる、などです。短期間の使用では、ほとんどの場合、大きな副作用は現れません。

内服薬:漢方薬

鼻茸を引き起こす因子としては副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎気管支喘息細菌感染などが考えられます。

薬による治療としては例えば原因が細菌感染であれば抗菌薬抗生物質)、アレルギー性鼻炎であれば抗アレルギー薬など、一般的にそれぞれの原因に対して有用となる薬が選択されます。

この他、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などに対しては漢方薬が有用である場合も考えられます。特に抗アレルギー薬などを使っても症状が改善しづらい場合やなんらかの理由によって抗アレルギー薬などが使いづらい場合などでは漢方薬はより有用となることが考えられます。漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわすことがありますが、一般的にこの証に合わせて適切な漢方薬が選択されています。ここでは鼻茸などの鼻症状を引き起こす副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などに対して効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

◎辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)

一般的に体力が中等度からやや充実していて、鼻閉、頭の重さ、鼻の熱感や疼痛、濃い鼻汁などがみられる場合に適するとされ、鼻閉(鼻づまり)、慢性鼻炎蓄膿症などに使われています。

方剤名にあるように肺の熱をさます清肺湯(セイハイトウ)を加減し生薬の辛夷(シンイ)を加えた漢方薬です。

辛夷は筋弛緩作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用などが期待できる生薬成分とされ、この生薬自体に鼻閉の改善などが期待できます。辛夷清肺湯にはこの他、石膏(セッコウ)などの患部の熱感を改善する生薬が比較的多く含まれ、鎮咳作用も期待できることから咳を伴う症状や慢性の気管支炎などに対しても改善が期待でき、鼻茸や肥厚性鼻炎などに対しても改善効果が期待できるとされています。

◎荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)

体力が中等度程度で一般的に副鼻腔、耳、扁桃などに炎症があり比較的慢性化した状態に使われ、蓄膿症慢性鼻炎慢性扁桃炎にきびなどの改善が期待できるとされています。

鎮痛作用や抗炎症作用などが期待できる生薬の荊芥(ケイガイ)、抗アレルギー作用などが期待できる連翹(レンギョウ)など計17種類の生薬から構成される漢方薬で、粘性のある鼻汁がある、皮膚が浅黒い、腹筋(腹直筋)の緊張などは適する指標とされ、肥厚性鼻炎や皮膚疾患などに対する改善効果も期待できるとされています。

◎葛根湯加川芎辛夷(カッコウトウカセンキュウシンイ)

方剤名からもわかるように、風邪(特に感冒の初期段階)や肩こりなどの治療薬としてよく知られている葛根湯(カッコントウ)に生薬の川芎(センキュウ)と辛夷(シンイ)を加えた漢方薬です。

辛夷は先ほどの辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)にも含まれる生薬で鼻閉などの鼻症状の改善が期待できます。また川芎は頭痛やのぼせなどに対して有用とされる生薬です。葛根湯自体も急性の鼻症状などに対して使われることがありますが、葛根湯加川芎辛夷は一般的に葛根湯が適する証に比べて風邪による頭痛や鼻みず、鼻づまりなどが続くような症状に対して適すると考えられ、頭重感を伴うような鼻づまり、蓄膿症慢性鼻炎、肥厚性鼻炎などに対しても改善が期待できるとされています。

◎小青竜湯(ショウセイリュウトウ)

一般的に水様の鼻水や痰、鼻閉、くしゃみ、咳などがある風邪や鼻炎などに対して使われている漢方薬です。抗アレルギー作用や抗炎症作用などをあらわし、アレルギー性鼻炎の治療薬としても有用です。

鼻アレルギーに対する漢方薬としては最初に使われることも多く、アレルギー症状を引き起こす体内物質であるヒスタミンなどの働きを抑える効果も期待できると考えられています。花粉症などのアレルギー性鼻炎の治療薬としては抗ヒスタミン薬が一般的によく使われていますが、抗ヒスタミン薬は少なからず眠気や口渇などの副作用が懸念となります。小青竜湯ではこれら副作用に対しての懸念が少ないこともあり、抗ヒスタミン薬と併用したり抗ヒスタミン薬の代替薬として使われることもしばしばです。

◎その他の漢方薬

その他の漢方薬として、例えばアレルギー性鼻炎を起因とする場合には麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)、苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)などが適することも考えられます。

麻黄附子細辛湯は小青竜湯(ショウセイリュウトウ)にも含まれる生薬の麻黄(マオウ)や細辛(サイシン)と冷えなどを改善する附子(ブシ)から構成される漢方薬で体力がやや不足していて寒気などがある状態における呼吸器症状や神経痛などに対して効果が期待できます。また苓甘姜味辛夏仁湯は貧血や冷えなどがあり喘鳴や咳などを伴う場合に適するとされ構成生薬として半夏(ハンゲ)、五味子(ゴミシ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、細辛(サイシン)といった小青竜湯と共通の成分を多く含む漢方薬でもあります。

この他、鼻粘膜に熱を伴う場合などに対して越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)などの漢方薬が適する場合もあり、一般的にそれぞれの証や病態の変化などに合わせた漢方薬の使用が考慮されます。

◎漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。ただし、これらの副作用がおこる可能性は比較的稀とされ、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

小青竜湯(ショウセイリュウトウ)や葛根湯(カッコントウ)などに含まれる麻黄(マオウ)は交感神経を興奮させるエフェドリンなどの成分を含む生薬で、動悸などの心血管症状、吐き気や食欲不振などの消化器症状などがあらわれる場合もあり、狭心症不整脈などの循環器系の持病や胃腸虚弱の体質がある場合などではより注意が必要です。

ただし、何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

点鼻薬:鼻噴霧用ステロイド薬

鼻噴霧用ステロイド薬は、ステロイド薬を霧状もしくは粉状にして鼻に噴霧する薬です。鼻茸の縮小に効果があるとの報告があります。鼻粘膜の炎症を抑える働きにより効果を発揮します。鼻茸に対する治療にも、鼻茸の原因となるアレルギー性鼻炎好酸球性副鼻腔炎の治療にも用いられます。

ステロイド薬には様々な副作用がありますが、鼻噴霧用ステロイド薬では、体内に吸収されるステロイドは微量であり、全身での副作用がほとんどみられない利点があります。

現在アレルギー性鼻炎などの治療によく使われるものとして、1日1回のみの使用で効果を発揮する鼻噴霧用ステロイド薬があります。鼻噴霧用ステロイド薬は数種類ありますが、効果はほぼ同じなので、においや使用感などが自分にあったものを使用しましょう。

参考文献
Rudmik L, Soler ZM. Medical Therapies for Adult Chronic Sinusitis: A Systematic Review JAMA. 2015 Sep 1;314(9):926-39.