はなたけ、びじょう
鼻茸
鼻腔や副鼻腔(鼻腔に隣接した骨の内部にある空洞)の中にできた粘膜の隆起
6人の医師がチェック 77回の改訂 最終更新: 2021.11.30

鼻茸(はなたけ)はどういったことが原因となって起こるのか?

鼻茸と診断された場合には、なぜできたのか不思議に思ったり、鼻の中にしこりができて、腫瘍ではないかと心配になるかもしれません。鼻茸ができる仕組みや、鼻茸の原因になる病気について見ていきましょう。

1. 鼻茸は一体なぜ起こる?

鼻茸は、鼻や副鼻腔の感染やアレルギーを原因として、炎症を起こす細胞が集まることをきっかけにできます。集まった炎症の細胞がどのようにして鼻茸を作るかについては、色々な意見があり、はっきりと決まった説はありません。

鼻の粘膜に集まった炎症を起こす細胞が炎症性の物質を出して、粘膜の水分が多くなり、むくんで突出して鼻茸ができるという説や、炎症性の細胞により直接鼻の粘膜に傷がついて、その部分から鼻茸ができるという説などがあります。このような様々な仕組みが合わさって鼻茸ができるのではないかと考えられています。

いずれも鼻に炎症が起こることが、元々の原因となります。たとえば鼻に炎症を起こすアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎があると鼻茸ができることがあります。

アレルギーについて

鼻に炎症を起こす原因のひとつとしてアレルギーがあります。アレルギーに関与する細胞として好酸球があります。鼻茸を切り取って顕微鏡で見ると、たくさんの好酸球が見つかることがあります。鼻茸の中に好酸球が多くなる病気としては、アレルギー性鼻炎好酸球性副鼻腔炎、また副鼻腔真菌症の一つであるアレルギー性真菌性副鼻腔炎などがあります。

好酸球が鼻にあつまると、様々な物質を作り出して鼻の粘膜のむくみを悪化させると考えられます。むくむことによって、更に好酸球を集めたりむくみを悪化させる物質が放出され、鼻茸ができると考えられています。その他に、鼻の粘膜の細胞の水分バランスを整える部分に異常が起きるという説もあります。様々な仕組みがあわさってむくみが悪化して、鼻茸が大きくなると考えられます。

なお、アレルギー性鼻炎について詳しくは、アレルギー性鼻炎の解説ページもあわせてご覧ください。

慢性炎症について

鼻に慢性の炎症を起こす原因として慢性副鼻腔炎があります。慢性副鼻腔炎では主に好中球という炎症を起こす細胞が集まります。鼻茸の中に好中球が多い病気としては、通常の慢性副鼻腔炎があります。

何らかの刺激を慢性的に受けていると、鼻や副鼻腔の粘膜は、分厚くなったり、分泌物が多くなったり、血管が通常の組織より多くなったりします。さらに、炎症を起こす細胞が粘膜に多く集まります。炎症を起こす細胞から放出された物質により、むくんだり、粘膜が障害されて鼻茸ができると考えられています。鼻茸ができるはっきりとした仕組みはまだ解明されていませんが、様々な仕組みが合わさってできると考えられています。

なお、慢性副鼻腔炎について詳しくは慢性副鼻腔炎の解説ページもあわせてご覧ください。

2. 鼻茸と腫瘍とは違うのか?

鼻茸は腫瘍ではありません。「腫瘍」は腫瘍細胞が勝手にどんどん増殖するものを言います。鼻茸は炎症が起きた粘膜が腫れてできるもので、腫瘍とは異なります。鼻茸は腫瘍細胞がどんどん増えたものではありません。

鼻にできる腫瘍には以下のものがあり、鼻茸と区別する必要があります。

悪性腫瘍は腫瘍細胞が勝手にどんどん増殖するほか、周囲に滲み出るように広がる(浸潤する)とともに、体のいろいろんなところに転移をします。このため鼻茸に似た悪性腫瘍を見逃さないようにすることは特に大切です。そこで検査などを使って区別します。

鼻茸は通常、両方の鼻にできることが多いですが、腫瘍の場合は片方の鼻にのみできることが多いです。

鼻にできる腫瘍の中には、見た目が鼻茸と似ていて、区別がつきにくいものもあります。腫瘍の場合は、通常の鼻茸とは、色、硬さ、出血のしやすさ、大きくなる速度などの違いがあります。見た目のみでは判断がつきにくい場合には、CT検査やMRI検査を行ったり、一部を切り取って病理検査を行って診断を行います。

特に鼻茸と紛らわしい腫瘍の例として、副鼻腔乳頭腫について次に説明します。

鼻茸と区別がつきにくい腫瘍:副鼻腔乳頭腫(ふくびくうにゅうとうしゅ)

副鼻腔乳頭腫は良性の腫瘍です。副鼻腔乳頭腫には、外に向かって大きくなる外反性乳頭腫(がいはんせいにゅうとうしゅ)と、内側に向かって増殖する内反性乳頭腫(ないはんせいにゅうとうしゅ)があります。内反性乳頭腫は稀に悪性化してがんになることがあります。

見た目は鼻茸と似ていますが、鼻茸より表面がもこもこと増殖するような形になります。鼻茸でももこもことした形のこともあり、確定診断のためには一部を切り取って調べる必要があります。治療は手術で完全に切り取ることです。手術で取り残すとその部分から再発します。

3. 鼻茸を起こす病気:副鼻腔炎(蓄膿症)

鼻茸の原因は鼻に持続する炎症と言えます。持続的な炎症により鼻茸を起こす病気に副鼻腔炎があります。副鼻腔炎と呼ばれる病気の中にはいくつかの種類があります。慢性副鼻腔炎蓄膿症という呼び名でも馴染みがあるかもしれません。副鼻腔炎で鼻茸ができるものは下記があります。

  1. 慢性副鼻腔炎
  2. 好酸球性副鼻腔炎
  3. アレルギー性真菌性副鼻腔炎

鼻茸ができる原因は鼻の粘膜の炎症です。慢性副鼻腔炎では細菌感染が長引くことで鼻に持続的な炎症が起こります。好酸球性副鼻腔炎や、アレルギー性真菌性副鼻腔炎では、好酸球というアレルギーに関連した細胞が鼻に集まることで炎症を起こします。慢性副鼻腔炎より、好酸球性副鼻腔炎や、アレルギー性真菌性副鼻腔炎の鼻茸は再発しやすく治りにくい傾向があります。それぞれについて説明します。

慢性副鼻腔炎

<原因>

慢性副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎が繰り返した時に、細菌感染が残存することで起こります。細菌感染が長引くと、副鼻腔の粘膜が傷ついたり、むくむことで、分泌液が過剰に出ます。すると分泌液が副鼻腔にたまり、炎症をおこします。

<症状>

慢性副鼻腔炎では以下のような症状があります。

  • 粘っこい鼻水・色のついた鼻水
  • 鼻づまり
  • 鼻漏:鼻水がのどの奥に流れる症状
  • 痰がらみの咳
  • 頭痛や頰の痛み
  • 臭いの感じにくさ
  • 鼻茸

慢性副鼻腔炎では、副鼻腔の粘膜が傷ついたり、むくむことで分泌液が増えます。増えた分泌液は粘っこい鼻水や色のついた鼻水になります。分泌液は鼻に留まることで鼻づまりを起こします。分泌液が鼻からのどに流れることで、後鼻漏の症状を起こしたり、痰がらみの咳を起こします。分泌液が副鼻腔にたくさん溜まることで頭痛や頬の痛みがでます。鼻の粘膜の炎症で臭いが低下したり、鼻茸ができます。

症状は人によってもさまざまです。薬で症状を抑えますが、症状が長引く場合には手術で完治できることもあります。

<検査>

一般的な慢性副鼻腔炎は、鼻の診察とCT検査を使って診断できます。

  • 鼻の診察:鼻の穴に光をあてて覗いてみたり、ファイバースコープ検査や内視鏡検査を行い、鼻茸や鼻水を確認します。
  • CT検査:副鼻腔炎があるかを確認します。

<治療>

症状に応じて薬を用いて治療を行い、症状が長引く場合には手術を行います。

薬による治療では日本では少量マクロライド療法が広く行われています。現在、抗菌薬の不適切使用が問題となっており、下痢などの副作用や、耐性菌の増加を考える必要があります。これらの副作用と、抗生物質の使用による症状の改善のメリットを比べて、抗生物質使用のメリットが大きい場合は使用します。

鼻うがいや鼻噴霧用ステロイド薬のみでも症状が軽くなるという報告もあります。

手術は顔に傷をつけずに、鼻の中から内視鏡を使って行います。鼻茸がある場合にはきれいに鼻茸を取り除き、副鼻腔と鼻の通り道を大きく広げる手術を行います。

慢性副鼻腔炎について詳しくは慢性副鼻腔炎の解説ページもあわせてご覧ください。

好酸球性副鼻腔炎

鼻の中に多発する鼻茸を特徴とする副鼻腔炎です。好酸球の炎症により鼻茸や粘っこい鼻水などの症状がおこり、再発しやすく治りにくい副鼻腔炎です。気管支喘息アスピリン喘息を伴うことが多いです。好酸球性副鼻腔炎は厚生労働省により指定難病(難病)とされています。

<原因>

鼻や気管、肺などにアレルギー反応に関連する物質(Th2サイトカイン)が出ると、好酸球というアレルギーを起こす細胞が増えます。好酸球は副鼻腔や気管支の粘膜でアレルギー性の炎症を起こします。その結果、鼻茸ができたり、鼻水が増えます。

<症状>

好酸球性副鼻腔炎の症状は主に、鼻茸と臭いを感じづらくなることです。好酸球を多く含む粘っこい鼻水が多く出ます。鼻茸と粘っこい鼻水の影響で鼻づまりを感じるとともに、臭いを感じにくくなります。症状だけでは見分けにくく、検査値などの診断基準に従って診断します。

<検査>

好酸球性副鼻腔炎は以下のような検査を行ったうえ、診断基準に従って診断します。

  • 鼻の診察:鼻の穴に光をあてて中を覗いたり、ファイバースコープ検査や内視鏡検査を行い、鼻茸や鼻水を確認します。
  • CT検査:両側の鼻の間の副鼻腔(篩骨洞)の副鼻腔炎を確認します。副鼻腔は4箇所(上顎洞、前頭洞、篩骨洞、蝶形骨洞)にありますが、好酸球性副鼻腔炎では頰の副鼻腔(上顎洞)よりも目の間にある篩骨洞の影が多いのが特徴です。
  • 血液検査:好酸球が多いことを確認します。
  • 病理検査:鼻茸を一部切り取って、内部に好酸球が多いことを確認します。

検査結果をスコアで表し、総合して好酸球性副鼻腔炎かどうかを判断します。

<治療>

アレルギーの薬や鼻噴霧用ステロイド薬を使用しますが、症状が改善しないことも多いです。症状が悪化した場合には経口(飲み薬)のステロイド薬を使用すると、一時的に症状は改善します。症状が改善しない場合には、全身麻酔で手術を行います。手術は顔に傷をつけずに、鼻の中から内視鏡を使って行います。手術で鼻茸を切り取ったり、副鼻腔と鼻をつなぐ経路を大きく削って広げて鼻の中の構造を広げます。手術後も再発が多いため、定期的な通院と、投薬による治療が必要です。

好酸球性副鼻腔炎については慢性副鼻腔炎について書いた中の「好酸球性副鼻腔炎とは?」のページに詳しく書いてありますので、参考にしてみてください。

アレルギー性真菌性副鼻腔炎

副鼻腔真菌症の一つで、真菌(カビ)に対してアレルギー反応を起こして、好酸球が集まって鼻に炎症をおこす病気です。鼻茸や好酸球を多く含んだ粘っこい鼻水が特徴です。好酸球性副鼻腔炎と似て、手術をしても再発しやすく治りにくい副鼻腔炎です。

<原因>

真菌(カビ)に対してアレルギー反応を起こして起こる副鼻腔炎です。空気中から鼻に吸い込んだ真菌(カビ)が副鼻腔に入って増殖することをきっかけに、体が真菌に対してアレルギー反応をおこして副鼻腔炎になります。

<症状>

アレルギー性真菌性副鼻腔炎の症状は主に鼻茸と粘っこい鼻水です。好酸球を多く含む粘っこい鼻水が多く出ます。鼻茸と粘っこい鼻水の影響で鼻づまりを感じます。

<検査>

アレルギー性真菌性副鼻腔炎では以下のような検査を使います。鼻の診察:鼻の穴に光をあてて中を覗いたり、ファイバースコープ検査や内視鏡検査を行い、鼻茸や鼻水を確認します。

  • CT検査:副鼻腔炎を確認します。左右両方の副鼻腔に副鼻腔炎が起こっているもの(両側性)が3割、片側性が7割です。
  • MRI検査:真菌のある部分が黒く写ります。
  • 病理検査:鼻茸を一部切り取ることと、副鼻腔にたまった粘っこい鼻水を検査し、内部に好酸球が多くいることと、真菌がいることを確認します。

アレルギー性真菌性副鼻腔炎と診断が決まれば、薬などの治療を検討します。

<治療>

アレルギーの薬や鼻噴霧用ステロイド薬を使用しますが、症状が改善しないことも多いです。症状が改善しない場合には、全身麻酔で手術を行います。手術は顔に傷をつけずに、鼻の中から内視鏡を使って行います。手術で鼻茸を切り取ったり、鼻の中にある副鼻腔をきれいに削って、鼻の中の構造を広げます。手術後も再発が多いため、定期的な通院と、投薬による治療が必要です。

4. 鼻茸を起こす病気:アレルギー性鼻炎

鼻茸を起こす病気のひとつで、鼻にアレルギーによる炎症を起こすのがアレルギー性鼻炎です。一年中症状が起こるものを通年性アレルギー性鼻炎といい、ある特定の季節のみに症状が起こるのが季節性アレルギー性鼻炎です。季節性アレルギー性鼻炎の主な原因が花粉で、花粉によるものは花粉症とよびます。

鼻茸を起こしやすいアレルギー性鼻炎は主に通年性のアレルギー性鼻炎です。

<原因>

アレルギーとは体に入った物質(アレルゲン)を異物と認識して排除しようとする働きから起こる症状です。アレルギー性鼻炎では、鼻から入った特定の物質を排除しようとして、色々な症状がでます。通年性アレルギー性鼻炎の原因となる物質は、ハウスダスト、ダニ、ペットの体から出るもの、カビなどです。

<症状>

アレルギー性鼻炎の主な症状は以下のものです。

  • くしゃみ
  • サラサラした水のような鼻水
  • 鼻づまり
  • 鼻血
  • 眼のかゆみ

典型的な症状があるかどうかはアレルギー性鼻炎の診断では特に大切です。アレルギー検査とあわせて判断します。

<検査>

アレルギー性鼻炎であるかの診断は、典型的な症状があることと、アレルギー検査で中等度以上の反応があることが根拠になります。アレルギー性鼻炎の典型的な症状は、鼻水、鼻づまり、くしゃみの3つです。診察では、鼻の中をみて、鼻水や鼻の粘膜の腫れや色などを観察します。

日常診療では、典型的なアレルギー性鼻炎の症状を確認し、血液検査で調べることのできる、血中好酸球数、血中IgE数などを測定して診断を行います。アレルギー性鼻炎の原因を調べるための検査も血液検査であわせて行うことが多いです。

『鼻アレルギー診療ガイドライン』に従った検査では下記のものがあります。アレルギー性鼻炎であるかどうかの検査を行った後に、原因を特定する検査をおこないます。

  • アレルギー性鼻炎かどうかを調べる検査
    • 鼻水の検査:鼻汁好酸球数検査
    • 血液の検査:血中好酸球数、血中IgE値
  • アレルギー性鼻炎の原因を調べる検査
    • 血液の検査:血清特異的IgE抗体検査
    • 皮膚の検査:皮膚テスト(皮内テスト、スクラッチテスト
    • 鼻の検査:鼻粘膜誘発テスト

原因がわかったら、症状を軽くする治療とともに、原因となる物質に触れないようにすることや、その物質に触れてもアレルギー反応を起こしにくいようにする治療が検討できるようになります。

<治療>

アレルギー性鼻炎の治療で中心に使われるものは、抗ヒスタミン薬の内服です。その他に、内服の抗ロイコトリエン薬や、鼻噴霧用ステロイド薬などを組み合わせて使用します。投薬治療で改善しない場合には、免疫療法や手術治療を検討します。

免疫療法は、アレルゲン免疫療法、減感作療法(げんかんさりょうほう)などともよばれます。アレルゲンを少しずつ投与することで、免疫を変化させて、アレルギーを起こしにくくする治療方法です。

手術治療は、鼻通りを良くする手術と、鼻水を出にくくする手術があります。外来で局所麻酔で行うことのできる簡単な手術にレーザー治療や高周波ラジオ波治療などがあります。鼻茸も、外来で局所麻酔を使った手術で、切り取ることができます。局所麻酔での手術で改善が無い場合には、全身麻酔での手術を検討します。

アレルギー性鼻炎について詳しくは、アレルギー性鼻炎の解説ページもあわせてご覧ください。