しょうかかんかんしつしゅよう
消化管間質腫瘍(GIST)
消化管の粘膜の下にできる腫瘍の一種
7人の医師がチェック 77回の改訂 最終更新: 2022.10.17

GIST(ジスト)とはどのような病気か

消化管間質腫瘍(GIST)は食道・胃・小腸・大腸などの消化管にできる腫瘍です。いわゆる「がん」とは違うタイプの腫瘍ですが、放置するとサイズが大きくなったり他の臓器に転移することがあるため、「悪性腫瘍」の性質をもっていると言えます。検診などで偶然見つかり無症状であることが多いですが、サイズが大きくなると腹痛などの症状を引き起こします。治療の基本は外科手術です。手術が難しい人には薬物治療を行います。

1. GIST(ジスト)とは

GISTはgastrointestinal stromal tumorの略で、日本語では「消化管間質腫瘍」と呼ばれます。文字通り消化管(食道、胃、小腸、大腸)に発生する腫瘍です。消化管の壁は内側から粘膜、粘膜下組織、筋層、漿膜という四層構造になっています(食道には漿膜はありません)。GISTは筋層の中にある「カハール介在細胞」という特殊な細胞と似通った性質をもっており、カハール介在細胞やその仲間から発生する腫瘍ではないかと考えられています。

GISTとがんは違う病気なのか

GISTとがんは異なるタイプの病気です。胃がん大腸がんなどの「がん」は消化管の粘膜から発生する腫瘍で「上皮性腫瘍」とも呼ばれます。これに対してGISTは消化管の筋層から発生する腫瘍で「非上皮性腫瘍」とも呼ばれ、「がん」とは異なるタイプの腫瘍です。「間質腫瘍(stromal tumor)」「間葉系腫瘍(mesenchymal tumor)」「肉腫(sarcoma)」などと呼ばれることもあります。

発生する層が異なることからGISTはがんと見た目も違います。例えば胃がんイボのようにポコっと盛り上がって見えたり、胃潰瘍のように粘膜表面がただれているように見えたりします。それに対してGISTでは、表面は正常な粘膜に覆われていて、比較的なだらかな丘のような隆起に見えます。このような形の腫瘍を「粘膜下腫瘍」と呼びます。

消化管の構造と消化管間質腫瘍(GIST)のできる場所

一方で、GISTはサイズが大きくなったり、他の臓器に転移する性質をもっており、この点ではがんと共通しています。つまり、GISTはがんとはタイプの異なる「悪性腫瘍」であると考えることができます。

GISTの発生頻度や発生しやすい場所はどこか

GISTをはじめとする間葉系腫瘍は消化管に発生する全悪性腫瘍の約1%と非常にまれな腫瘍です。日本でのGISTの正確な発生頻度は分かっていませんが、10万人に1-2人程度と考えられています。

臓器別に見ると胃のGISTが60-70%と最も多く、小腸20-30%、大腸5%で、食道にはほとんど見られません。胃の中の発生場所にも特徴があり、胃の入口付近(穹隆部、体上部)にできやすく出口付近(幽門部)にはほとんど見られません。

日本で見つかるGISTの特徴とは

日本と欧米ではGISTが発見される状況が異なっています。日本では検診が普及していることから、5cm未満の小さな状態で発見されることが多く、ほとんどの場合は無症状です。一方で欧米では症状が出てから検査が行われるため、10cm以上など大きな腫瘍として発見されることが多いと言われています。

2. GISTの原因は何か

GISTでは特徴的な遺伝子異常が原因になっていることが知られています。遺伝子は細胞や身体の設計図であり、遺伝子に異常があると正常な細胞ができなかったり、細胞がうまく働かなくなってしまいます。

GISTでは約85%の人で「c-kit」と呼ばれる遺伝子に異常があることが知られています。これは生まれつきの異常ではなく、何かのタイミングで突然変異が起きた結果と考えられています。c-kitは「KITタンパク質」という細胞増殖に関わるタンパク質の設計図で、c-kitに異常が起こると異常な働きをするKITタンパク質ができます。この異常なKITタンパク質は無制限に細胞を増殖させ、GISTの原因となります。

c-kit以外に、約10%の人では「PDGFRα」という遺伝子の異常が見られます。

3. GISTで起こりやすい症状とは

日本では検診が普及しているため、内視鏡検査や他の画像検査で偶然GISTが見つかる場合が多いです。このような場合は5cm以下の小さな腫瘍であることが多く、ほとんどの人は無症状です。一方、ある程度大きなGISTがある人では次のような症状が見られます。

【GISTが大きくなってきたときに現れやすい症状】

  • 消化管出血による吐血血便(赤〜黒色の便)
  • 腹痛
  • 腹部の違和感
  • 腹部膨満
  • 吐き気
  • 飲み込みにくさ
  • おなかを押すとしこりが触れる

いずれも腫瘍がかなり大きい人や、腫瘍による胃潰瘍ができた人に起こりやすい症状です。

4. GISTが疑われたときに行う検査とは

GISTが疑われたときには画像検査でさらにくわしく検査を行い、必要に応じて腫瘍細胞を採取する病理検査を行います。

画像検査

GISTでは、腫瘍の大きさや存在する場所を調べたり、良性か悪性かを区別するために画像検査が重要です。GISTが疑われたときに行う画像検査は以下のようなものです。

  • 上部消化管内視鏡検査
  • 下部消化管内視鏡検査
  • 超音波内視鏡検査EUS
  • CT検査
  • MRI検査
  • PET検査

ただし、見つかったときのサイズが2cm未満の場合には追加検査は行わず、年1-2回の定期的な検査で経過を見ていきます。

病理検査

病理検査は腫瘍から細胞をとって顕微鏡でその特徴を調べる検査です。GISTの細胞をとる方法には、①内視鏡生検、②超音波内視鏡下生検(EUS-FNAB)の2種類があります。これらは口から内視鏡を入れて細胞をとる検査で、比較的身体への負担が少なく安全に行うことができます。GISTは胃粘膜下腫瘍といって表面が正常粘膜におおわれた腫瘍なので、①の内視鏡生検では粘膜の奥にある腫瘍本体の細胞をうまく採取できないことが多いです。正確な診断のためには②のEUS-FNABが必要になることがほとんどです。

採取した細胞は顕微鏡で観察し、核分裂像(細胞増殖が盛んであるというサイン)の数を数えたり、「免疫染色」という特殊な検査を行います。

GISTの悪性度をどのように判断するか

GISTの悪性度は治療後(手術後)にどのくらい再発しやすいかという観点から定められており、これをGISTの「リスク分類」と呼びます。リスク分類は腫瘍の大きさと、腫瘍細胞の増殖の速さを指標としています。増殖の速さは核分裂をしている細胞(核分裂像)の数で判断し、これは顕微鏡で確認することができます。簡単に言うと、腫瘍が大きく核分裂像が多いほどリスクが高い腫瘍とされます。具体的には下のような表で判断します。

リスク分類 腫瘍の大きさ 核分裂像の数*
超低リスク 2cm未満 5個未満
低リスク 2~5cm 5個未満
中リスク 5cm未満 6~10個
5~10cm 5個未満
高リスク 5cmより大きい 5個以上
10cmより大きい (数は問わない)
(サイズは問わない) 10個以上

*核分裂像の数は、顕微鏡を高倍率(400倍率)にして観察したときの50視野あたりの数

このリスク分類は「Fletcher分類」とも呼ばれます。また、この分類を改良した新たな分類もいくつか報告されていますが、基本的な考え方はほとんど同じです。

5. GISTの治療について

画像検査や病理検査によってGISTと診断された場合、腫瘍の大きさや細胞の特徴、身体の中の腫瘍の広がりに応じて治療方針が決められます。GISTの治療では、基本的に外科手術が優先されます。転移があるGISTや、局所進行(サイズが大きい、周りの臓器を巻き込んでいるなどの理由で切除できない)のGIST、また手術後に再発した場合には薬物治療が行われます。

治療が必要なGISTとは?

GISTと診断された場合、原則的にすべての人に治療が必要です。特に次のような場合には治療を行うべきと言われています。

  • 腫瘍に伴う症状(腹痛など)がある場合
  • 腫瘍のサイズが5cmを超える場合
  • 腫瘍のサイズが2-5cmで、EUS-FNABによる病理検査でGISTと確定診断された場合
  • 腫瘍のサイズが2-5cmで、潰瘍がある・形が不整などの悪性を疑うサインがある場合

経過観察を行うのはどのような場合?

日本では検診などで行われる上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)でGISTが見つかることが多いです。GISTは内視鏡検査では「胃粘膜下腫瘍」と診断されます。2cmを超える胃粘膜下腫瘍ではEUS-FNABなどの病理検査が行われ、その結果でGISTと診断されれば上記のように治療が必要になります。

一方、「胃粘膜下腫瘍」が見つかった人のほとんどは大きさが2cm未満で無症状です。この場合には仮にGISTであっても非常にリスクの低い腫瘍であることが分かっており、またGIST以外の良性腫瘍であることも多いです。これらのことを考慮して、2cm未満の小さな胃粘膜下腫瘍ではそれ以上の精密検査を行わないことがあります。そのかわり、画像検査と診察を年1~2回行いながら定期的な経過観察を行って腫瘍が大きくならないかをチェックします。

外科手術

GISTの治療では外科手術が最も優先される治療法です。外科手術では腫瘍を完全に切除することが原則で、腫瘍の大きさや周りの臓器との位置関係によってどのような手術の方法をとるかが決められます。手術後はGISTの再発しやすさの指標となる「リスク分類」に基づき、決められた間隔で経過観察が行われます。

◎腫瘍の完全切除が原則

手術で腫瘍を完全に切除するということは、手術中に目に見えている腫瘍を取り残しなくすべて取り除くということです。また、GISTは「偽被膜」という皮のようなものに覆われていますが、この偽被膜を破ってしまうと中からGISTの腫瘍細胞がこぼれ落ちて手術後にGISTが再発しやすくなることが知られています。偽被膜を破らずに腫瘍を取り切ることがGISTの手術における完全切除ということになります。

◎できるだけ臓器は温存

GISTの手術では腫瘍を完全に切除することが重要ですが、一方で腫瘍の周りの臓器を大きく切り取ってしまうと術後にその臓器の働きが損なわれてしまいます。GISTに対する手術は、臓器をなるべく温存するように、かつ腫瘍は完全に取り切れる術式を選びます。

リンパ節郭清は基本的に行わない

GISTではリンパに沿った転移(リンパ行性転移)はまれであるということが分かっており、GISTの手術では原則としてリンパ節郭清は不要とされています。ちなみにGISTの転移で頻度が多いのは、血流にのって肝臓などに転移する「血行性転移」と、おなかの中にGISTの細胞が散らばる「腹膜播種(はしゅ)」です。

腹腔鏡下手術は慣れた外科医であれば可能

腹腔鏡下手術は、おなかに小さな穴をいくつかあけてそこからカメラや手術道具を差し込み、ビデオ画面を見ながら手術を行う方法です。開腹手術に比べて傷が小さく術後の痛みが少なかったり、入院期間が短くなるなどのメリットがあると言われています。

日本においては、腹腔鏡下手術に慣れた外科医が行うのであれば、5cm以下の胃や小腸のGISTは安全に切除できると考えられています。

◎術後はCT検査で経過観察

術後の経過観察は、腹部全体をチェックできるCT検査を主に用いて行われます。経過観察の間隔は腫瘍のリスク分類に基づいて次のように推奨されています。

  • 高リスクのGIST:術後3年間は4-6か月ごと、術後5年までは6か月に1回、術後10年までは1年に1回
  • 中リスク・低リスク・超低リスクのGIST:術後5年間は6-12か月ごと、術後10年までは年に1回

経過観察中に再発が見つかった場合には、基本的には再手術ではなく薬物療法によって治療を行います。

薬物治療

腫瘍が大きすぎて取り切れない、離れた臓器に転移病変がある、といった理由から手術が困難な場合や、手術後に再発した場合には薬物治療が行われます。薬物治療ではイマチニブ(商品名:グリベック®)という薬が用いられます。イマチニブはKITタンパク質を標的とした分子標的薬というタイプの内服薬です。

◎イマチニブについて

イマチニブ(商品名:グリベック®)はもともと慢性骨髄性白血病に対して開発された薬で、その後の研究でGISTにも効果があることが分かりました。

イマチニブは1錠100mgの錠剤で、1日1回400mgを食後に内服します。

治療の効果が見られているうちはずっと内服を継続します。

◎イマチニブの副作用

イマチニブには重いものから軽いものまでいくつかの副作用があることが知られています。具体的には以下のような副作用があります。

  • 骨髄抑制(白血球赤血球血小板の数が減る)
  • 出血(脳出血、消化管出血など)
  • 腫瘍出血(GISTから出血が起こる)
  • 消化管穿孔(消化管に穴があく)
  • 間質性肺炎(薬による特殊な肺炎
  • 皮膚症状(発疹皮膚炎
  • 吐き気、下痢
  • むくみ
  • 発熱、頭痛
  • 筋肉痛

ただしこれらの副作用がすべての人に起こるわけではありませんし、副作用の感じ方には個人差がありますので、過度に心配しすぎる必要はありません。

◎治療効果の判定

薬物治療の治療効果はCT検査で判定します。イマチニブの内服を開始してから1ヶ月以降にCT検査による効果判定を行い、明らかな悪化がなければ以後は3か月ごとにCTを撮影しながら治療を続けていきます。治療効果がある場合には、腫瘍のサイズが縮小したり、CT画像で腫瘍内部の色調が変化したりします。

◎イマチニブが効かなくなった場合の治療法

イマチニブをはじめとした分子標的薬と呼ばれる薬は、続けているうちに効かなくなってくることがあります。イマチニブが効かなくなったGISTでは、スニチニブ(商品名スーテント®)が使われます。さらに、スニチニブに対して耐性となったGISTにはレゴラフェニブ(商品名スチバーガ®)やピミテスピブ(商品名ジェセリ®)が使用されます。

すべての薬に耐性ができてしまうことがありますが、そのような時には、新規薬剤の治験が行われていれば治験への参加を検討することもできます。また、治療のどの段階であっても、肉体的・精神的なつらさがあるのであれば、緩和ケアで取り除いたり、軽くしたりすることができます。何か不安や苦痛に感じることがあれば、いつでも医療者に相談をしてください。

参考文献

・日本治療学会:がん診療ガイドライン(GIST)
GIST研究会ホームページ
・国立がん研究センター希少がんセンター:GIST(消化管間質腫瘍)
・Morgan J, Raut C P, Duensing A, et al. Epidemiology, classification, clinical presentation, prognostic features, and diagnostic work-up of gastrointestinal stromal tumors (GIST). UpToDate (最終更新2020/7/14)