しょうかかんかんしつしゅよう
消化管間質腫瘍(GIST)
消化管の粘膜の下にできる腫瘍の一種
7人の医師がチェック 77回の改訂 最終更新: 2022.10.17

GISTに関してよくある質問

GISTは消化管に発生する悪性腫瘍のうち1%未満と、他のがんに比べてとてもまれな腫瘍です。珍しい病気であるため調べても情報が手に入りにくいこともあると思います。このページではGISTに関するよくある質問について解説していきます。

1. GISTになりやすい人とは?

どのような人がGISTになりやすいかは詳しく分かっていません。

例えば胃がんではヘリコバクター・ピロリ感染症が発がんの原因になると言われていますし、肺がん食道がんでは喫煙ががんのリスク因子であることが分かっています。これに対してGISTでは、特定の生活習慣や病気がGISTの発生と関係があるというデータは報告されていません。今後研究が進むにつれてGISTになりやすい人の特徴が明らかになってくるかもしれません。

またGISTではc-kitやPDGFRという遺伝子に異常が起こることが知られていますが、この遺伝子異常は突然変異によるものがほとんどで、子孫には遺伝することはないと言われています。つまり、親がGISTになったからといって子どもがGISTになりやすいというわけではないということです。(家族性GISTや神経線維腫症1型レックリングハウゼン病)という非常に珍しい病気の人では子孫にも遺伝子異常が遺伝することがあります。)

2. GISTと診断された後の生活上の注意点は?

GISTは消化管にできる病気です。消化管は食べ物の通り道なので、GISTと診断された場合に食事や飲酒について普段通りで良いのか心配になる人もいるかと思います。

日本では検診などで偶然GISTが見つかる人が多く、小さな腫瘍で症状が見られない人では定期的な検査と診察で経過観察を行うことになります。このような場合には生活習慣を特別に変える必要はなく、バランスの良い食事内容や適度な飲酒、適度な運動を心がけるようにします。手術を行うことになった人でも無症状の場合には同様の対応で構いません。

一方、GISTによる腹痛があったり、GISTが胃潰瘍を作っている場合には、消化の良い食事内容にして飲酒は控えるほうがよいでしょう。運動は軽く汗をかく程度にして過度な運動は控えるようにします。

GISTに対する外科手術を受けて胃を切除した人では、胃の働きが低下して食べ物を貯蔵できる量が少なくなっています。食事は小分けにして1回に食べる量を減らすようにしてみてください。

分子標的薬(イマチニブ)による薬物治療を行う人では吐き気や下痢などの副作用が起こることがあるため、症状に応じた食事内容、生活習慣を見つけることが大切です。食欲がないときには麺類などの食べやすいものを選ぶのも良いでしょう。むくみがある場合には塩分摂取量を減らすことでむくみを減らすことができます。運動制限はありませんが、体調に合わせて無理をしすぎない程度の運動が望ましいです。また、薬物治療中には飲酒は控えるようにしてください。

3. GISTの専門医はどこにいる?

GISTは珍しい病気であるため、専門医を見つけるのは他のがんに比べて難しいと思います。以下のホームページではGISTの患者さんを多く診察している専門家のお医者さんや診療実績の豊富な病院を調べることができます。

  • GIST研究会(稀少腫瘍研究会):会員名簿 
    会員医師の所属施設は変更されている場合があるので注意が必要です。
  • 国立がん研究センターがん情報サービス:病院を探す
    がんの種類から「GIST」を選択すると、GISTの診療実績が豊富な医療機関を調べることができます。
  • 国立がん研究センターがん情報サービス:がん相談支援センター
    がん相談支援センターでは、GISTの診療実績が豊富な医療機関についての情報提供が受けられます。

これ以外に、主治医と相談して専門医を紹介してもらうという方法もあります。

4. 治療せずに定期的な検査でよいと言われたが、本当に手術しなくて良いのか?

検診などで小さな胃粘膜下腫瘍が見つかった場合に、「治療せずに定期的な検査を受けてください」と言われることがあります。せっかく小さな段階で見つかったのに手術しなくて良いのか、と思う人もいるかもしれません。これには以下のような理由があります。

  • 胃粘膜下腫瘍にはGIST以外の腫瘍も含まれる
  • EUS-FNABを行うことができる施設が限られている

それぞれについて解説します。

胃粘膜下腫瘍にはGIST以外の腫瘍も含まれる

内視鏡検査を行った場合、見た目でGISTとすぐに診断できることはまれで、多くの場合は「胃粘膜下腫瘍」と診断されます。胃粘膜下腫瘍は表面が正常粘膜におおわれたなだらかな盛り上がりのことで、GIST以外にも平滑筋腫や脂肪腫のう胞などの良性病変が胃粘膜下腫瘍の形をとります。つまり「胃粘膜下腫瘍」には治療の必要がない良性の病気も含まれているということです。また腫瘍サイズが大きいほどGISTなどの悪性腫瘍である可能性が高いと考えられますので、特に2cm未満の小さな胃粘膜下腫瘍では良性腫瘍の割合が高いといえます。ですので、胃粘膜下腫瘍が見つかったからといってすぐに手術を行う必要はありません。

EUS-FNABを行うことができる施設が限られている

胃粘膜下腫瘍がGISTであるかを調べるためには、精密検査に位置づけられる「超音波内視鏡下生検(EUS-FNAB)」で腫瘍細胞を採取して病理検査(顕微鏡の検査)を行う必要があります。EUS-FNABに熟練した医療機関で検査を行えば90%以上の正確性でGISTかどうかを判別することができると言われており、胃粘膜下腫瘍の確定診断をつけるためには行ったほうがよい検査と言えます。

しかし、EUS-FNABはどこの病院でも行える検査ではありません。EUS-FNABに習熟した内視鏡医がいることのみならず、顕微鏡検査を行う病理医や病理検査技師がGISTの診断に習熟している必要があります。このような医療機関の数は限られているため、胃粘膜下腫瘍が見つかった人全員にEUS-FNABを行うことは困難なのが現状です。そのため悪性である可能性がかなり低いと考えられる2cm未満の胃粘膜下腫瘍では、それ以上の精密検査や手術は行わず定期的な画像検査と診察で経過観察を行うことがガイドラインで推奨されています。

治療が必要な胃粘膜下腫瘍とは?

それでは、どのような胃粘膜下腫瘍で治療が必要なのでしょうか? 特に次のような場合には治療を行うべきとされています。

  • 腫瘍に伴う症状(腹痛など)がある場合
  • 腫瘍のサイズが5cmを超える場合
  • 腫瘍のサイズが2-5cmで、EUS-FNABによる病理検査でGISTと確定診断された場合
  • 腫瘍のサイズが2-5cmで、潰瘍がある・形が不整などの悪性を疑うサインがある場合

また、2cm未満の小さな腫瘍でも次のようなサインがあれば治療を考慮します。

  • 腫瘍に伴う症状(腹痛など)がある場合
  • 経過観察中に腫瘍が大きくなってきた場合
  • 潰瘍がある・形が不整などの悪性を疑うサインがある場合
  • EUS-FNABによる病理検査でGISTと確定診断された場合

胃粘膜下腫瘍と診断された人は心配になることもあると思いますが、無症状で小さな腫瘍であればGISTを含めた悪性腫瘍の可能性は低いと考えてよいです。大切なのは腫瘍の変化を見逃さないように定期的な検査を受けながら経過観察を行うことです。

5. GISTは治るのか?

GISTは外科手術で腫瘍を完全に取りきることができれば完治が期待できる病気です。①腫瘍が完全に取りきれて、②その後再発しなければ、GISTが完治したということができます。

「腫瘍を完全に取りきる」とは?

腫瘍を完全に取りきるとは、次の3つの条件を満たした場合のことです。

  • 目に見える腫瘍をすべて切除すること
  • 手術後の病理検査(顕微鏡の検査)で腫瘍がすべて切除できていることが確認されること
  • GISTを覆う偽被膜を破らずに腫瘍を摘出すること

これらを全てクリアした場合に腫瘍が完全切除できたと考えます。

再発しやすい腫瘍とは?

手術後の再発しやすさを判断するには、手術後の病理検査で腫瘍のサイズと核分裂像数(腫瘍の増えやすさの指標)をチェックします。サイズが大きく、核分裂像の数が多いほうが再発しやすい腫瘍であると言えます。下の表は、手術で完全切除できたGISTの再発リスクを分類したものです。

リスク分類 腫瘍の大きさ 核分裂像の数* 再発率
超低リスク 2cm未満 5個未満 ほぼ0%
低リスク 2~5cm 5個未満 約2%
中リスク 5cm未満 6~10個 約4~15%
5~10cm 5個未満
高リスク 5cmより大きい 5個以上 約10~85%
10cmより大きい (数は問わない)
(サイズは問わない) 10個以上

*核分裂像の数は、顕微鏡を高倍率(400倍率)にして観察したときの50視野あたりの数

このリスク分類は「Fletcher分類」とも呼ばれます。それぞれのリスク分類に対する腫瘍の再発率は表の一番右の列に示されています。再発リスクが高い人では手術後の経過観察をこまめに行う必要があります。

6. GISTと診断されたら余命はどのくらい?

日本におけるGISTの余命を示すデータはありませんが、アメリカではGISTの生存率についてのデータが発表されています。このデータは「5年生存率」という数値で示されています。「5年生存率」とは、GISTと診断されてから5年後に生きている人の割合を%で表したものです。

  • GISTが見つかった人全体での5年生存率:83%

この中にはさまざまな進行度の人が含まれているので、それぞれの進行度に分けた生存率も示されています。この進行度はGISTと診断された時点での進行度です。

  • GISTの広がりが周辺の臓器に及んでおらず、離れた臓器への転移もない場合の5年生存率:94%
  • GISTが周りの臓器に広がっているが、離れた臓器への転移はない場合の5年生存率:82%
  • GISTが離れた臓器へ転移している場合の5年生存率:52%

5年生存率の数字を見るときに注意しなければいけないのは、この数値はあくまで平均の値であって各個人にあてはまるかどうかは分からないということです。また5年以上前に診断された人のデータを集計した数値なので、当時と現在の治療法に違いがあることにも気を付けなければなりません。さらに、住んでいる国によってGISTの発見されやすさが違ったり、使用できる治療薬に違いがあったりします。

生存率や余命のデータは参考になる数値ではありますが、絶対的なものではありません。楽観しすぎたり悲観しすぎたりせず、自分自身の病状に向き合うことが大切です。

7. GISTのガイドラインはある?

日本治療学会からGISTのガイドラインが発表されています。その他、GIST研究会ホームページ国立がん研究センター希少がんセンターのホームページにも参考になる情報が掲載されています。

参考文献

・日本癌治療学会:がん診療ガイドライン(GIST)
GIST研究会ホームページ
・国立がん研究センター希少がんセンター:GIST(消化管間質腫瘍)
・Morgan J, Raut C P, Duensing A, et al. Epidemiology, classification, clinical presentation, prognostic features, and diagnostic work-up of gastrointestinal stromal tumors (GIST). UpToDate(最終更新2020/7/14)
・Cancer.Net Gastrointestinal Stromal Tumor - GIST: Statistics. (2020/7/26閲覧)