GISTの治療について:外科手術、薬物治療
GISTと診断された場合、
1. 治療が必要なGISTとは?
GISTと診断された場合、原則的に見つかったすべての人に治療が必要です。特に次のような場合には治療を行うべきと言われています。
- 腫瘍に伴う症状(腹痛など)がある場合
- 腫瘍のサイズが5cmを超える場合
- 腫瘍のサイズが2-5cmで、
EUS -FNABによる病理検査でGISTと確定診断された場合 - 腫瘍のサイズが2-5cmで、
潰瘍 がある・形が不整などの悪性を疑うサインがある場合
経過観察を行うのはどのような場合?
日本では検診などで行われる
一方、「胃粘膜下腫瘍」が見つかった人のほとんどは無症状で腫瘍の大きさは2cm未満です。この場合には仮にGISTであっても非常にリスクの低い腫瘍であることが分かっており、またGIST以外の
2. 外科手術
GISTの治療では外科手術が最も優先される治療法です。外科手術では腫瘍を完全に切除することが原則で、腫瘍の大きさや周りの臓器との位置関係によってどのような手術の方法をとるかが決められます。手術後は切除した腫瘍を顕微鏡で観察し、どの程度再発リスクがあるか(リスク分類)を評価した上で、経過観察が行われます。
GISTを完全に切除するとはどういうことか
手術で腫瘍を完全に切除するということは、手術中に目に見えている腫瘍を取り残しなくすべて取り除くということです。腫瘍を完全に含んだ状態で組織を切り取れていれば、その切れ目の部分(断端といいます)には腫瘍が残っていないはずで、このような状態を「肉眼的断端陰性」と呼びます。GISTの手術では肉眼的断端陰性で腫瘍を切除することが大切なポイントになります。これに加えて手術後の病理検査では、顕微鏡を使って細胞レベルでも腫瘍細胞が取り切れているかをチェックします(組織学的断端陰性)。
また、GISTは「偽被膜」という皮のようなものに覆われています。手術中にこの偽被膜を破ってしまうと、中からGISTの腫瘍細胞がこぼれ落ちて手術後にGISTが再発しやすくなることが知られています。そのため、偽被膜を破らずに腫瘍を取り切ることが重要であり、GISTの手術における「完全切除」ということになります。
GISTに対する術式とは
GISTの手術では腫瘍を完全に切除することが重要ですが、一方で腫瘍の周りの臓器を大きく切り取ってしまうと術後にその臓器の働きが損なわれてしまいます。GISTに対する手術は、臓器をなるべく温存するように、かつ腫瘍は完全に取り切れる術式を選びます。
例えば胃のGISTの場合で、胃の一部分だけ切除すれば腫瘍が完全に取り切れるという人では「胃部分切除術(GISTとその周りの胃を部分的に切除する)」という術式が選ばれます。この場合、食べ物を消化するという胃の働きは多少低下しますが、大きく切り取りすぎなければ機能は十分温存されます。一方、胃の機能を最大限温存するために腫瘍の部分だけをくり抜く「核出術」という術式がありますが、この方法は腫瘍の取り残しや偽被膜損傷のリスクがあるためGISTではすすめられません。切除範囲が大きすぎるのは良くありませんが、小さすぎるのも良くないのです。実際には人によって病状が異なるため、GISTの状況に応じて担当医が最適と考えられる術式を選択しています。
GISTの手術ではリンパ節郭清は必要か
GISTではリンパに沿った転移はまれであるということが分かっており、GISTの手術では原則としてリンパ節郭清は不要です。ちなみにGISTの転移で頻度が多いのは、血流にのって肝臓などに転移する「血行性転移」と、おなかの中にGISTの細胞が散らばる「腹膜播種(はしゅ)」です。
腹腔鏡下手術はできるのか
日本においては、腹腔鏡下手術に慣れた外科医が行うのであれば、5cm以下の胃や小腸のGISTは安全に切除できると考えられています。腹腔鏡下手術を行う場合には腫瘍の被膜を損傷しないように慎重に手術操作を行う必要があります。
GISTのリスク分類と術後の経過観察
術後の経過観察は、腹部全体をチェックできる
【GISTのリスク分類】
リスク分類 | 腫瘍の大きさ | 核分裂像の数* |
超低リスク | 2cm未満 | 5個未満 |
低リスク | 2~5cm | 5個未満 |
中リスク | 5cm未満 | 6~10個 |
5~10cm | 5個未満 | |
高リスク | 5cmより大きい | 5個以上 |
10cmより大きい | (数は問わない) | |
(サイズは問わない) | 10個以上 |
*核分裂像の数は、顕微鏡を高倍率(400倍率)にして観察したときの50視野あたりの数
「GIST診療ガイドライン」では次のような頻度でCT検査を受けることが推奨されています。
【リスク分類ごとの定期検査の頻度】
リスク分類 | CT検査の頻度 |
高リスク | 術後3年間:4-6か月ごと 術後5年まで:6か月に1回 術後10年まで:1年に1回 |
中リスク・低リスク・超低リスク | 術後5年間:6-12か月ごと 術後10年まで:年に1回 |
これ以外に、腫瘍破裂(被膜損傷)や他臓器浸潤(GISTが周辺の臓器まで及んでいること)などがあった場合には、高リスクの場合と同等かそれ以上の綿密な検査が必要と考えられています。
術後に再発した場合の治療法とは
手術後にGISTが再発することがあります。胃のGISTでは、低リスクでは数%、中リスクでは5-10%、高リスクでは30%以上の頻度で再発が起こることが知られています。
再発した場合の治療は、原則的に薬物治療です。具体的には、イマチニブを1日1回400mg内服します。
再発が一部分に限局している場合(局所再発)や、1個から数個の肝転移で手術から2年以上経過している場合には、再度外科手術を行うことがあります。ただし、再発したGISTに対する外科切除では完治は難しく、その後の再発率が非常に高いことが知られています。そのため、再発したGISTを切除した後も、再々発をできる限り早く発見するために定期的な検査が欠かせません。また、場合によってはイマチニブ治療を併用することもあります。
手術後の再発を予防するための薬物治療(術後補助化学療法)とは
外科手術でGISTを切除した人は再発を予防する目的でイマチニブの内服を行うことがあります。これを「術後補助
1日1回400mgのイマチニブ内服を術後3年間続けることで、GIST再発が少なくなったというデータが報告されています。
3. 薬物治療
GIST治療では外科手術が第一に検討されますが、手術が困難な条件がある場合には薬物治療を行います。また、手術後に再発した場合にも薬物治療が行われることがあります。薬物治療ではイマチニブ(商品名グリベック®)という薬が用いられます。
薬物治療はどのような人に行われるのか
薬物治療の対象となるのは、外科手術によるGISTの切除が困難な人です。具体的には以下のようなGISTが当てはまります。
- 局所進行のGIST:腫瘍が周囲の臓器や血管に広く及んでおり、手術では完全に腫瘍を切除できない状態
- 転移のあるGIST:GISTが、できた元の臓器以外に腫瘍が広がっている状態。転移が起こりやすい場所は肝臓、腹膜、皮膚、肺、骨など
- 初回の手術後に再発したGIST
これらの条件に当てはまる場合は、仮に手術を行ったとしても腫瘍を完全に切除できないことが予想されたり、再発のリスクが高いために、薬物療法が選択されます。
イマチニブとはどんな薬か:服用方法、作用機序
イマチニブ(商品名:グリベック®)はチロシンキナーゼ阻害薬というタイプの薬剤です。「分子標的薬」という薬のグループに分類されることもあります。イマチニブはもともと慢性骨髄性白血病に対して開発された薬でした。その後の研究でGISTにも効果があることが分かり、日本では2003年にGISTに対する
イマチニブは1錠100mgの錠剤で、1日1回4錠(400mg)を食後に内服します。
ここからは少し専門的な内容になるので、興味のある人は読んでみてください。
チロシンキナーゼとは、細胞に対して命令(シグナル)を伝える働きをするタンパク質です。例えば、「細胞を増やせ」という命令のことを増殖シグナルと言いますが、この増殖シグナルはいくつかのタンパク質を伝言ゲームのように伝わって、最終的に細胞が増えるという現象が起こります。増殖シグナルの伝言ゲームで重要な役割を果たしているのがチロシンキナーゼというタンパク質なのです。
GISTでは、異常なKITタンパク質が細胞の増殖を促すために腫瘍細胞が増えてしまっています。そして、この異常KITタンパク質が実はチロシンキナーゼの一種ということが分かっています。つまり、チロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブには、GISTの原因である異常KITタンパク質を攻撃して働けなくすることでGISTの増殖を防ぐという効果があるのです。
イマチニブの副作用とは
イマチニブは「分子標的薬」といって特定の腫瘍細胞を狙ってはたらく薬です。そのため多くの
骨髄 抑制(白血球 、赤血球 、血小板 の数が減る)- 出血(脳出血、
消化管出血 など) - 腫瘍出血(GISTから出血が起こる)
- 消化管
穿孔 (消化管に穴があく) - 間質性肺炎(薬による特殊な肺炎)
- 皮膚症状(
発疹 や皮膚炎) - 吐き気、下痢
むくみ - 発熱、頭痛
- 筋肉痛
イマチニブの治療中にいつもと体調が違うと感じた場合には、思わぬ副作用が起こっている可能性もありますので担当のお医者さんに相談するのがよいでしょう。
ただしこれらの副作用がすべての人に起こるわけではありませんし、副作用の感じ方には個人差がありますので、過度に心配しすぎる必要はありません。
イマチニブ治療の効果には個人差がある:治療効果の判定について
薬物治療の効果の出方は人によって異なります。そのため、イマチニブの服用を始めたら、定期的に検査をしてどのくらいの効果があるかを確認します。
治療効果はCT検査で判定します。具体的には、イマチニブの内服を開始してから1ヶ月以降にCT検査による効果判定を行い、明らかな悪化がなければ以後は3か月ごとにCTを撮影しながら治療を続けていきます。治療効果がある場合には腫瘍のサイズが縮小したり、CT画像で腫瘍内部の色調が変化したりします。
また腫瘍が小さくならない場合でもサイズが変わらない状態であれば、「治療効果あり」と判断します(このような状態を「Stable disease: SD」と呼びます)。GISTは無治療であればどんどん大きくなるということを考慮して、「腫瘍の増大を抑えている」という効果があると判定されるのです。
特にGISTは通常のがんと比べて、薬物治療の治療効果があっても腫瘍サイズの変化が見られにくいという特徴があります。そのため、サイズ変化のみならず腫瘍の色調の変化などを注意深く見ていく必要があります。
イマチニブはいつまで飲み続けるのか
イマチニブによる治療を行う人は、転移があるGISTや手術後に再発したGISTなど「進行したGIST」の人です。イマチニブはGISTに対して有効な薬ではありますが、進行したGISTを完全に消してしまうほどの治療効果はないと言われています。これまでの研究では、イマチニブの内服を中断するとほとんどの場合で腫瘍が大きくなってしまうことが分かっています。そのため、治療効果が得られている間はイマチニブの服用を続けるべきであると考えられています。
イマチニブが効かなくなった場合の治療法には何があるか
イマチニブによる治療を続けているとGISTの細胞が変化してイマチニブが効きづらくなることがあります。これを薬剤
イマチニブに対して耐性となったGISTには、次のような薬物治療が行われます。
◎スニチニブ
スニチニブ(商品名:スーテント®)はイマチニブに耐性のGISTに対して2008年に保険適用となった、マルチキナーゼ阻害薬というタイプの薬剤です。1日1回50mgの内服を4週間継続したのちに2週間休薬をする、計6週間のサイクルで治療が行われます。特徴的な副作用として、
◎レゴラフェニブ
スニチニブに対して耐性となったGISTではレゴラフェニブ(商品名:スチバーガ®)を使用します。レゴラフェニブはマルチキナーゼ阻害薬というタイプの薬剤で、2013年からGISTに対して保険適用となりました。1日1回160mgの内服を3週間継続、1週間休薬の計4週間サイクルで治療を行います。レゴラフェニブは食事によって影響を受ける薬剤なので、高脂肪食(あぶらっこい食事)を食べた後や空腹時には服用を避けるようにしてください。特徴的な副作用として、手足症候群、高血圧、下痢、肝障害などが見られることがあります。
◎ピミテスピブ
ピミテスピブ(商品名:ジェセリ®)は2022年6月に保険適用となった薬剤で、ヒート
日本でGISTに対して保険適用となっている薬はイマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブの4種類です。治療を続けているうちに、すべての薬に耐性ができてしまうことがあります。そのような時には、新規薬剤の治験が行われていれば治験への参加を検討することもできます。また、治療のどの段階であっても、肉体的・精神的なつらさがあるのであれば、緩和ケアで取り除いたり、軽くしたりすることができます。何か不安や苦痛に感じることがあれば、いつでも医療者に相談をしてください。なお、緩和ケアについてはこちらの記事「緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?」で詳しく説明しています。
参考文献
・日本
・GIST研究会ホームページ
・国立がん研究センター希少がんセンター:GIST(消化管間質腫瘍)
・Morgan J, Raut C P, Duensing A, et al. Epidemiology, classification, clinical presentation, prognostic features, and diagnostic work-up of gastrointestinal stromal tumors (GIST). UpToDate (最終更新2020/7/14)