すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 206回の改訂 最終更新: 2023.05.30

膵臓がんの生存率:ステージごとの生存率や余命を解説

膵臓がんになった場合の余命は、発見されたときの状態、いわゆるステージによって異なります。余命はあくまでも目安ですが、ステージからある程度予測できます。ここではステージと余命、症状の関係などについて解説します。

1. 膵臓がんを早期発見すると生存率は上がるのか

膵臓がんは周りに広がっていない早期の段階で発見できたほうが手術をしやすくなり、その後の生存にもつながると考えられます。早期かどうかの判断には、ステージという分類方法を用います。以下では膵臓がんをステージ別に分けた生存率を紹介します。

膵臓がんの5年生存率

ステージ
(UICC 第7版)
5年生存率(%)
I(1) 53.4
II(2) 22.2
III(3) 6.1
IV(4) 1.5

参照:「がんの統計2022

膵臓がんのステージはI(1)からIV(4)に大きく分類されます。

膵臓がんは進行の早く、そのため悪性度も高いとされます。膵臓がんで完治を可能にする確立された方法は手術です。早期に膵臓がんを見つけることができればがんは大きく広がってはおらず膵臓にとどまっていることも多いです。つまり、早期の方が膵臓の周りの臓器に入り込んでおらず、手術でがんを取り切れる可能性が高くなります。

膵臓がんはステージIで発見した場合でも5年生存率は高くはなく、早期に発見しても必ずしも完治するとは言えません。しかしながら、早期に発見できた方が生存率は高いのも事実なので、膵臓がんはできるだけ小さく早期の状態で発見するのが生存につながると考えられます。

膵臓がんは早期発見できるのか?

病気を早期に発見する方法にスクリーニング検査があります。スクリーニング検査の目的は、症状などがない人に対しても一律に検査をして病気をみつけようとすることです。がんのスクリーニングでは、大腸がんの便潜血検査や乳がんマンモグラフィ検査などがあり早期発見に役立っています。

膵臓がんにもスクリーニングはあるのでしょうか。残念ながら、膵臓がんに対して効果的なスクリーニング検査はないのが現状です。

では、膵臓がんを早期に発見のためにできることはないのでしょうか。膵臓がんを発生する危険性が高い人は膵臓がんの検査を定期的に行うことが「膵癌診療ガイドライン 2019年版」で勧められています。

膵臓がんを発生する危険性が高いと考えられる人は以下の条件を持つ人です。

  • 血縁者に膵臓がんになった人がいる
  • 膵臓がんを発生しやすい遺伝性の病気の持病がある
  • 糖尿病がある
  • 慢性膵炎がある
  • 膵管内乳頭粘液腫瘍がある
  • 嚢胞がある
  • 肥満である
  • 喫煙歴がある
  • 大量飲酒の習慣がある

これらの条件の中で複数にあてはまるものがある場合は、膵臓がんを発生する危険性が通常より高いと考えられるので定期的に超音波検査などを用いた検査をすることが勧められています。

定期的な検査が必要かどうかは自分では判断がつきにくいものです。膵臓がんが心配だと思う理由があるのであればまず医師に相談してみてください。そして定期的な検査の必要性についても相談してみるとよいでしょう。

2. 膵臓がんのステージ

膵がんのステージの決め方を説明します。膵がんのステージは以下の3つの要素で定められます。

  • 膵臓でのがんの進行度
  • 領域リンパ節への転移の有無
  • 膵臓から離れた場所への転移の有無

3つの要素をもとにステージを分類する基準として、UICC(国際対がん連合)や、膵臓癌学会が作った膵癌取扱い規約の分類を使います。

がんの特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。例えば、膵臓がんが肺に転移した場合に、肺のがんは肺がんではなく、膵臓がんの転移といいいます。

がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。

膵臓がん_TNM分類

TNM分類は、原発巣の状態(T分類)、リンパ節転移(N分類)、遠隔転移(M分類)の3点の組み合わせによってがんの状態を分類する方法です。TNM分類を元にしてステージを決定します。以下では膵臓がん学会で作成されたTNM分類について解説します。専門用語を使った表現ですが、「数字が大きいほうが進行している」といった程度の理解でも続きを読むには十分です。

参照:膵癌取扱規約 第7版

T分類とは?

TはTumor(腫瘍)の頭文字をとったものです。膵臓でのがんの状態を表しています。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T分類は原発巣の評価です。膵臓がんのT分類は比較的早期なもの(T2まで)に関しては大きさが重視され決定されます。進行しているもの(T3、4)は血管との関係によって決められます。

  • TX:膵局所進展度が評価できないもの
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:非浸潤
  • T1:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mm以下である
    • T1a 最大径が5mm以下の腫瘍  
    • T1b 最大径が5mmをこえるが10mm以下の腫瘍
    • T1c 最大径が10mmをこえるが20mm以下の腫瘍
  • T2:腫瘍が膵臓に限局しており、最大径が20mmをこえている
  • T3:腫瘍の浸潤が膵をこえて進展するが、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ばないもの
  • T4:腫瘍の浸潤が腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ぶもの

N分類とは?

N分類ではリンパ節転移を評価します。Nはリンパ節(lymph node)を示す、Nodeの頭文字です。

がんは時間とともに大きくなり、リンパ管や血管などの壁を破壊し侵入していき、全身へ広がっていきます。リンパ管は全身のいたるところに存在します。リンパ管の途中にリンパ節という関所があり、がんを一時的にせき止める働きをしています。

がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。がんがリンパ節へ転移すると1cmを超え、硬くなるなどの特徴があります。

膵臓がんの細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば、膵臓がんと同時に領域リンパ節を切除することで、がんを体からなくす可能性があります。領域リンパ節以外のリンパ節に転移がある場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身化学療法抗がん剤)が検討されます。治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査やMRI検査が使われます。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明である
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1:領域リンパ節転移を認める
    • N1a:領域リンパ節に1-3個の転移を認める
    • N1b:領域リンパ節に4個以上の転移を認める

M分類とは?

M分類は遠隔転移の評価を行います。MはMetastasis(転移)の頭文字です。膵臓から離れた場所にがんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節への転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。

遠隔転移がある膵臓がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした抗がん剤治療(全身化学療法)を行います。

  • M0 遠隔転移を認めない
  • M1 遠隔転移を認める

ステージの決め方

TNM分類を元にして表のようにステージの分類を行います。

ステージ0 Tis N0 M0
ステージIA T1(T1a、T1b、T1c) N0 M0
ステージIB T2 N0 M0
ステージIIA T3 N0 M0
ステージIIB T1(T1a、T1b、T1c)、T2、T3 N1(N1a、N1b) M0
ステージIII T4 Any N M0
ステージIV Any T Any N M1

3. ステージごとの生存率はどれくらいか

膵臓がんのステージごとに生存率の統計が取られています。ステージごとの生存率を表に示します。

ステージ
(UICC 第7版)
5年生存率(%)
I(1) 53.4
II(2) 22.2
III(3) 6.1
IV(4) 1.5

参照:「がんの統計2022

ステージは大きく4つに別れ、数字が大きくなるほど進行していることを示しています。進行したステージほど生存率が低下しています。膵臓がんは最も早期のステージI(1)でも、5年生存率は高いとは言えないので早期の膵臓がんと診断されても決して楽観はできません。

しかしながら余命はあくまでも確率の問題です。統計上の数字が厳しいものであることは否定できませんが、数字が小さいからといって希望がないとは言えません。今、ご自身が置かれた状況をしっかりと捉え、できることは何かを主治医と一緒に考えることが重要です。

4. 転移があると言われたら余命はどれくらいか

膵臓から離れた場所に転移がある状態は、ステージIVにあたります。ステージIVの膵臓がんに対しては根治(がんを体からなくすこと)を目的にした手術を行うことはありません。抗がん剤による治療と症状を緩和する治療を組み合わせて行うことになります。ステージIVの生存率を再掲します。

ステージ
(UICC 第7版)
5年生存率(%)
IV(4) 1.5

参照:「がんの統計2022」

ステージIVの人の5年生存率は、1.5%とかなり低い結果となっています。ただし、これは2012年から2013年に診断された人の集計です。膵臓がんの治療は近年抗がん剤などが進歩を遂げています。新しい治療によって、生存率は以前の数値を上回ることも可能だと考えられます。生存率はあくまで数字にすぎません。実際に生きられる期間はそれぞれの患者さんで異なります。統計上の数値は気にしすぎず治療について前向きに取り組んで行くことが重要です。

ステージⅣは末期がんか?

ステージIVと聞くと末期のイメージを抱くかもしれません。しかし、ステージIVでもまだまだできることがある人はいます。

実は、がんの末期には厳密な定義がありません。

膵臓がんにおけるステージIVとは膵臓から離れた場所に転移がある状態のことです。膵臓の状態やリンパ節への転移の有無は問いません。ステージIVにはいろいろな状態があります。抗がん剤で治療を行うことで余命の延長が望める人もステージIVに含まれます。

同じステージIVでも患者さんそれぞれで実際に生き延びる期間は違います。ステージIVと呼ばれる中にもいろいろな細かい段階があります。また、一人一人で体力も違います。このため、ステージをもとに余命を予測しても厳密なものではありません。

例として次の2人はどちらもステージIVにあたります。

  • 例1
    • 膵臓がんの大きさは3cmで周りに浸潤していない
    • 領域リンパ節の転移がある
    • 肝臓にも1つ転移がある
  • 例2
    • 膵臓がんは大血管の周りまで浸潤している
    • 領域リンパ節以外のリンパ節にも転移がある
    • 肝臓には複数の転移があり、肺にも転移がある

やや極端な例を提示しました。同じステージIVでも例1と例2で状態が大きく異なることは想像がつくのではないでしょうか。

膵臓がんが発見されて、ステージを告げられると不安になるかもしれませんし、インターネットなどで調べると厳しい数字を目にすることもあると思います。しかし余命はあくまで目安です。個人個人で体もがんの状態も異なるため、正確な予測は誰にもできません。

膵臓がんと診断されたら、事実を受け止めることに苦労するかもしれません。時間をかけてもしっかりと向き合い治療に望むことが重要です。

転移がある場合の治療

膵臓から離れた場所に転移がある場合はがんを切除する手術は行うことはなく、抗がん剤による治療が主体になります。その理由は、1か所に転移が見つかっているときは、他の場所にもまだ確認はできないレベルで小さな転移が存在していることが予想されるからです。このために全身をカバーできる抗がん剤治療のほうが最善の治療と考えられます。

膵臓がんによって出てくる症状に対してはその都度、対処していきます。膵臓がんは腹部痛や背部痛を伴うことが多いので、痛み止めとして医療用麻薬の使用や神経ブロックという方法を行うこともあります。また膵臓がんが大きくなり腸が詰まって食べ物の流れを妨げる場合には、手術や腸を内側から広げるステント療法を行うこともあります。

ステージIVと言われただけで「末期がん」と思い込んでしまうのはまだ早いかもしれません。今の自分がどのような状態なのか主治医の説明をよく聞いて、治療として使える選択肢の中から一番希望に合うものはどれかを考えていくことが大切です。

本当に「末期」の状態になっても、治療によって得られるものはあります。

ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。

膵臓がんの末期には、がんが肝臓、肺、骨などに転移して体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増します。

末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和ケアで症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ過ごしやすい雰囲気を作ることも大事です。

緩和ケアはがんと診断されたときから考えるべきことです。がんが転移したときや末期に近付いたときには、緩和ケアがいっそう重要になります。

5. 膵臓がんの余命は症状でわかるのか

膵臓がんの余命を症状から正確には予測できません。症状は患者さん個人個人で感じ方に違いがあるので、客観的に評価することが難しいからです。そのため、余命の推定にはステージを手がかりにするほうが信頼できます。

膵臓がんに限らず、がんが発見されるとCT検査やMRI検査などの画像診断を用いてステージを決めることになります。ステージを定める最大の目的は、最適な治療法を選択することです。同時に、ステージから余命をある程度推定することもできます。基本的にはステージと症状は対応しません。

ただし、腹水が出ているときはある程度の目安になります。次に説明します。

腹水とは?

膵臓がんが進行したときに出る症状に腹水があります。

腹水の原因はいくつかに別れます。

膵臓がんが進行するとがんがお腹の中に飛び散る(播種(はしゅ)する)ことがあります。お腹の中にがんが飛び散ると、がんが炎症を起こし腹水という水を出すようになります。

膵臓がんが進行すると食欲もなくなり栄養状態が悪化していきます。栄養状態が悪化すると体の中からアルブミンが減っていきます。アルブミンには血管内に水分を保つ働きがあるので、減少すると血管内から水分が出ていきます。血管内から出ていった水分の行く先はお腹の中の腹腔(ふくくう)というスペースです。腹腔は大きなスペースなので、ここに水が溜まっていきます。腹水を治すための有力な治療法はほとんどありません。症状が強くなれば腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。腹水によるお腹の張りなどは麻薬性鎮痛剤などを用いても症状を和らげることができます。

腹水が出たら余命は?

腹水が発生する原因は2つあります。一つはアルブミンが減少すること。もうひとつは、膵臓がんが、お腹の中に飛び散ってしまいその結果、がん細胞により炎症などが引き起こされることです。

腹水が出るのは初期の症状ではありません。腹水が出ていたら、かなり深刻な状態になっている可能性があります。正確には全身の健康状態やその他の臓器への進行具合などがひとりひとり異なるために一概には言えません。

確実に言えることとして、その日その日をより大事にすることをお勧めします。腹水がたまる状況は体力もかなり落ちている状況です。食欲もかなり落ち込み動くこともままならない人もいます。

少しでも有意義に過ごせるようにご家族、医療者ともに力を合わせて取り組んでみてください。何も特別なことをする必要はありません。少しだけでもよいので今まで話せなかったことやできなかったことなどをしてみることを提案します。

黄疸とは?

膵臓がんで黄疸(おうだん)が出ることもあります。黄疸があるだけでは余命は推定できません。

黄疸とは皮膚や眼球結膜(白眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。ビリルビンという物質が血液内で多くなると黄色く見えます。見た目で黄疸と診断されるのはある程度ビリルビンが上昇してからになります。軽度の黄疸は見た目では気付きにくいですが、尿の色が濃くなったりすることがあります。黄疸は他にも症状を伴います。

  • 皮膚や眼球粘膜が黄色くなる
  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感) 
  • 皮膚がかゆくなる 
  • 風邪のような症状 
  • 微熱
  • 尿の色が黄色くなる

黄疸の原因はやや複雑なので後述します。

黄疸の原因は?

黄疸を起こすビリルビンについてまず説明します。黄疸はビリルビンが血液中で多くなることで現れます。

ビリルビンは常に体内で生成されています。古くなり役目を終えた赤血球を破壊するときにビリルビンが発生します。

ビリルビンは肝臓で処理されます。肝臓でビリルビンがグルクロン酸という物質とくっつく(抱合する)ことによって、体の外に排泄できる状態になります。

ビリルビンがグルクロン酸と抱合した後は、胆汁として流れていきます。胆汁は胆管という通り道を経て小腸に流れ出します。

以上のように、健康な体ではビリルビンがうまく処理されるので、黄疸にはなりません。ビリルビンの処理がどこかでうまくいかないと、ビリルビンがたまり、黄疸になります。医学的には黄疸を原因によって分類します。

  • 赤血球が異常に多く破壊されることによる黄疸:溶血性黄疸
  • グルクロン酸抱合ができないことによる黄疸:肝細胞性黄疸
  • 胆汁の流れが悪いことによる黄疸:閉塞性黄疸

ある種の病気では溶血(ようけつ)という現象が起こり、古くなっていない赤血球が破壊されてしまいます。赤血球の破壊が多いと、ビリルビンが多く発生します。発生量が肝臓で処理できる範囲を超えてしまうと、ビリルビンは血液の中にたまり、溶血性黄疸を起こします。

また、肝臓の機能が低下している場合に、ビリルビンの処理が行なえず、血液中にビリルビンがたまってしまうことがあります。これは肝細胞性黄疸です。

ほかに、腫瘍によって胆管が塞がるなどして、胆汁の流れが滞ることがあります。胆汁が出て行けないのでビリルビンは血液の中にたまり、黄疸を生じます。これは閉塞性黄疸と言います。

黄疸が出たら余命は?

膵臓がんによる黄疸が発生する場合は2つあります。

  • 膵臓がんが大きくなり胆汁の流れを妨げる(閉塞性黄疸)
  • 膵臓がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われる(肝細胞性黄疸)

この2つについてそれぞれ解説します。

■膵臓がんが大きくなり胆汁の流れを妨げた場合

膵臓がんの多くはかなり進行するまで症状がありません。膵臓は沈黙の臓器とも言われます。がんが大きくなり、胆汁の流れを妨げると黄疸が出現します。つまり、がんが閉塞性黄疸を起こします。黄疸をきっかけに膵臓がんが見つかることもあります。

閉塞性黄疸は膵臓がんがほかの臓器に転移していなくても起こります。黄疸があっても転移がなければ、膵臓がんの手術により黄疸を解消するとともに膵臓がんの治療効果が望める場合も想定されます。余命は手術によってがんを取りきれるかどうかにかかってきます。

膵臓がんのステージにかかわらず、閉塞性黄疸自体が緊急の対処を必要とします。黄疸で膵臓がんが発見されると、落ち着いて考える暇もなく黄疸に対する処置が行われたりして、状況を正確に把握するのが難しい所があると思います。しかしながら、黄疸は必ずしも手術できない状態を意味するわけではありません。まずご自身の状況を落ち着いてしっかりと把握することが大事です。

■膵臓がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われた場合

膵臓がんが転移しやすい臓器の一つとして肝臓がんがあります。黄疸は肝臓の機能が低下すると出現することがあります。膵臓がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われ黄疸が出現した場合は、ステージIVのなかでも特に深刻な状態と考えられます。余命は予測しにくいものですが、楽観はできません。

肝臓の機能が低下していると抗がん剤による治療は制限されます。治療の目的は症状を少しでも軽くすることに重点が置かれます。

膵臓がんにより肝臓の機能が低下しているときは、全身の状態がかなり落ち込んでいる可能性があります。生活時間のほとんどをベッド上で過ごしているような状態なら、看病している方から見ても憔悴しているかもしれません。。黄疸によってかゆみなどの症状も強く出ているかもしれません。しかし、適切な緩和ケア(かんわケア)によって症状を和らげることができます。緩和ケアは重要です。

6. 高齢者が膵臓がんになったら余命はどれくらいか

高齢者が膵臓がんになっても、高齢者ではない人と対応は変わりません。

まず膵臓がんの確定診断のためにいくつかの検査を行い、その後手術ができる状態と確認されれば手術を行う方法が標準的です。手術が適していない場合には全身化学療法を行います。

現在の高齢者の定義は年齢が65歳を超えた人です。高齢者といっても体は非常に若々しい人が大勢います。たしかに一般的には高齢者の方が身体的な問題を抱えている確率は高いとは言えます。次のような問題に当てはまる人は膵臓がんの治療中にも気を付けることが増えます。

  • 身体的な衰え
  • 認知症などの精神疾患がある
  • 他にも病気を抱えている
  • 他の病気の治療で複数の薬を飲んでいる

しかし、身体的な問題がなく元気な人は、たとえ高齢であっても、膵臓がんの治療を積極的に勧められます。

ほかのがんでは年齢によって治療方針を変える場合もあります。たとえば前立腺がんが75歳以上の人にはじめて見つかった場合、根治目的の手術はしないという選択肢があります。前立腺がんは進行が遅く、年齢を考えたときに手術を行う利益が少ないと予想できるためです。

しかし、膵臓がんはがんのなかでも悪性度が高いがんです。膵臓がんが見つかった人の多くは、膵臓がんによって余命が決まります。このため年齢に関わらずしっかりとした治療を行うことが重要です。

たしかに、高齢者ががんの治療するのは大変なことが多いです。医療者の立場からみても、手術にしても抗がん剤にしても注意する点が多くあります。高齢だからという理由で治療に消極的になる人もいらっしゃいます。しかし、年齢という数字だけの問題で治療に対して消極的になることはもったいないという考え方もできます。高齢者でも根治を目指す治療を行うことは可能ですし、緩和治療も受けられます。

主治医から必要な情報を十分聞いたうえで、よく相談して治療方針を決めてください。

7. 膵臓がんが再発したら余命はどのくらいか

膵臓がんが再発した時点での状態は人によって大きく異なるので、再発してからどれくらい余命があるのかを推定するのは困難です。

膵臓がんは手術後にも再発が多いことが知られています。再発とは一度肉眼的にがんが見えない状態まで治療を行った後にがんが再び肉眼的に確認できる状態で現れることです。再発の状態は一人ひとりで異なります。肝臓だけに再発することもあれば、全身にいくつもの再発箇所を認めることもあります。再発してからの余命については再発した場所や再発までの期間などが参考になるとい考えもありますがそれも推測にしかなりません。

医師から再発したと告げられると余命が気になる心境は理解できます。ただ再発=治らないということでは無いこともあります。少ない例ですが、局所再発(小さな再発)で全身状態がよく、手術によって再発したがんを摘出できる可能性が高い場合は手術が検討されることもあります。再発したと告げられたときにはまず気持ちを落ち着けて自らの状態を把握することと治療について落ち着いて聞いて理解することが大切です。

8. 膵臓がんで余命を告知されたら

膵臓がんが見つかったとき、手術によって効果を期待できる状況であれば、余命をはっきりと伝えられることは多くないと思われます。手術がうまくいくかどうかによってその後の見通し(予後)は大きく変わり、手術をやってみなければその先はわからないからです。

余命を告知されるのは、手術が行えない場合、手術後に再発した場合の2通りが考えられます。

まず始めに、余命の告知は必ずしも正確ではないことに気を付けてください。

特にステージを元にした余命予測の多くは正確ではありません。なぜならば、一人ひとりで顔が異なるように、がんになっても状況が全く同じことなどはありえないからです。

余命を告知される場合は、診断時に転移のあるステージIVもしくは手術後に再発した場合と考えられます。ステージIVといっても肝臓に転移が一つある場合と複数ある場合で状況は全く異なります。

月並みな言い方になりますが、余命を告知されたときに考えてほしいことは、1日1日を大事に生きることです。

まずはご自分の病気の状態をよく知ることが大事です。確かに簡単にできることではありません。臨床医としての経験からも、膵臓がんを冷静に受け止めることの難しさは実感します。少しずつでもいいので、病気について知り、どのように過ごせばいいのか、どのような治療が残されているか主治医に質問してください。同じことを繰り返し尋ねることになっても遠慮する必要はありません。あらかじめ質問を紙に書いておくと答えやすいかもしれません。ほかの医師の意見(セカンドオピニオン)を聞きたいときも、まず主治医に希望を伝えてください。

がんを患うとつらい状況に陥ります。それは皆同じです。がんに対して魔法のような治療はないのです。がんと向き合うことは簡単ではありませんが、前向きにできることは何かを考えていくことが重要なことです。痛みなどの症状を軽くする緩和ケアも、抗がん剤などと同時に考えるべき大切な治療です。

自分で情報を調べるとどんどん怖い情報が出てくると思います。怖い情報の中には、がんとは戦うなという意見もあります。確かに、全身の消耗が激しいときに強力な抗がん剤治療を無理に行うことなどは勧められません。しかし、治療の選択肢が残っているうちからあまりに早く消極的になるのはもったいないと感じます。

まずは主治医からご自分の状況についてしっかりと話を聞き、家族と情報を共有し気持ちをしっかりと整えることをお勧めします。一人で闘う訳ではありません。家族、医療者とあなたを支えてくれる人は大勢います。怖がらずにまず知ることから始めてみるのがいいと思います。

余命1年と言われたらどうする?

余命1年と言われたらどうするべきかに唯一の答えはありません。そもそも余命を告知されても、ほとんどの場合は正確ではありません。

これには理由があります。余命が告知される状況として考えられるのは、膵臓がんを診断された時点ですでに膵臓から離れた場所に転移があり手術が行えない場合、もしくは、手術を行ったものの再発した場合です。手術可能な状態であれば、余命は手術結果によって変わるため、余命を告げられることはほとんどないと思います。

手術後に再発した場合は、余命は1年以内、場合によってはもっと短いと言われるかも知れません。診断時に転移がある場合はさらに条件が厳しく、1年生存率は45%前後とされています。かなり厳しい数字です。しかしながら、これはあくまでも数字の問題なので、「45%」と聞いて「1年は生きられない」と悲観してしまうのは必ずしも正しくありません。

ステージIVだと診断されても、状態は一人ひとりで異なります。わずかに肝臓に転移がある場合でも全身に転移がある状態でもステージIVとされます。余命はあくまで目安に過ぎません。残された時間が限られていると思うと時間を大事に過ごせるという考えもありますが、余命に考えがとらわれてしまうのはもったいないことです。一番大事なことは、自分の状態をしっかりと受け止め、目の前の治療や日々の生活を大事にすることです。