すいぞうがん
膵臓がん
膵臓にできるがんの総称。早期で発見するのが難しく、経過が最も悪いがんの一つ
15人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2025.11.10

膵臓がんの統計:患者数、ステージごとの生存率と余命など

膵臓がんは進行した状態で発見されることが多く、そのために治療が難しいがんの一つです。膵臓がんになった場合の余命は、発見されたときの状態、いわゆるステージによってある程度予測できます。ただしあくまでも目安であり、一人ひとりの状況によって変わってきます。ここでは患者数をはじめ、ステージ別の生存率や症状との関係などについて解説します。

1. 膵臓がんの患者数

膵臓がんは膵臓の膵管(すいかん)の細胞から発生するがんです。治療が難しいことが知られています。この膵臓がんはどのくらいの人に発生しているのか、統計的な数値を「最新がん統計」をもとに説明します。

膵臓がんの罹患者数

膵臓がんの2020年の罹患(りかん)者数は、44,448人(男性:22,557人、女性:21,891人)でした。罹患者数とは病気にかかった人の数のことです。つまり、1年間で新たに膵臓がんと診断された人数をあらわします。がんを部位別に分けて罹患者数で順位をつけたとき、膵臓がんは男性、女性ともに第6位です。

膵臓がんによる死亡者数

2022年の膵臓がんによる死亡者数は、39,468人(男性:19,608人、女性:19,860人)でした。がんの部位別の死亡者数の統計で膵臓がんは男性において第4位、女性において第3位となっています。

膵臓がんが発生しやすい年齢

年齢を重ねるとともに膵臓がんが見つかる人は増加する傾向にあります。この傾向は男性、女性に共通しています。具体的には、50歳頃から膵臓がんを発病する人が増えはじめます。逆に50歳以下の人に膵臓がんが発生することはまれです。

膵臓がんの発生しやすさに性別で差はあるか

10万人あたりに発生する膵臓がんの罹患者数は男性では36.8人、女性では33.8人です。男性のほうがやや膵臓がんが発生しやすい傾向があります。

2. 膵臓がんのステージごとの生存率:早期発見すると生存率は上がるのか

膵臓がんは周りに広がっていない早期の段階で発見できたほうが手術しやすくなり、その後の生存にもつながると考えられます。早期かどうかの判断には、ステージという分類方法を用います。以下では膵臓がんをステージ別に分けた生存率を紹介します。

なお、ステージはローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)を使って表されることが多いですが、本サイトでは読みやすさのためアラビア数字で表記をしていることがあります。

膵臓がんのステージ別生存率

ステージ 5年実測生存率(%)
I(1) 52.0%
II(2) 21.4%
III(3) 5.7%
IV(4) 1.5%

参照:国立研究開発法人国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」膵臓がん2015年5年生存率

膵臓がんのステージは1から4に大きく分類されます。

膵臓がんは悪性度が高く、そのため進行も早いです。膵臓がんの完治を可能にする確立された方法は手術です。早期に膵臓がんを見つけることができれば、がんは大きく広がってはおらず膵臓にとどまっていることも多いです。つまり、早期のほうが手術でがんを取り切れる可能性が高くなります。

膵臓がんをステージ1で発見した場合でも、5年生存率は高いとは言えません。すなわち、早期に発見しても必ずしも完治するとは言えません。しかしながら早期に発見できたほうが生存率が高いのも事実なので、膵臓がんはできるだけ小さく早期の状態で発見することが長期生存につながると考えられます。

ステージの決め方や治療方針について詳しくは「膵臓がんのステージ」で説明しています。

3. 膵臓がんは早期発見できるか

病気を早期に発見する方法にスクリーニング検査があります。スクリーニング検査の目的は、症状のあるなしに関わらず一律に検査をして病気をみつけようとすることです。がんのスクリーニングでは、大腸がんの便潜血検査や乳がんマンモグラフィ検査などがあり早期発見に役立っています。

膵臓がんに対して効果的なスクリーニング検査は、残念ながら今のところないのが現状です。

しかし、膵臓がんになりやすくなる要因についてはいくつかわかっています。膵臓がんを発生する危険性が高い人は膵臓がんの検査を定期的に行うことが「膵癌診療ガイドライン 2022年版」で勧められています。

以下の項目が膵臓がんの主なリスク因子です。

  • 血縁者に膵臓がんになった人がいる
  • 膵臓がんを発生しやすい遺伝性の病気の持病がある
  • 慢性膵炎がある
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)がある
  • 嚢胞がある
  • 膵管拡張がある
  • 糖尿病がある
  • 肥満である
  • 喫煙歴がある
  • 大量飲酒の習慣がある

これらの条件の中で複数のものにあてはまる人は、膵臓がんを発生するリスクが高いと考えられるので、定期的に超音波検査などを用いた検査をすることが勧められています。

定期的な検査が必要かどうかは自分では判断がつきにくいものです。膵臓がんが心配だと思う理由があるのであれば、まず医師に相談してみてください。そして定期的な検査の必要性についても相談してみてください。

5. 転移があると言われたら余命はどれくらいか

膵臓から離れた場所に転移がある状態は、ステージ4にあたります。ステージ4の膵臓がんに対しては根治(がんを身体からなくすこと)を目的にした手術を行うことはありません。抗がん剤による治療と症状を緩和する治療を組み合わせて行うことになります。

ステージ4の人の5年生存率は、1.5%とかなり低い結果となっています(国立研究開発法人国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」より)。ただし、これは2015年に診断された人の集計です。膵臓がんの治療は近年抗がん剤などが進歩を遂げています。新しい治療によって、生存率は以前の数値を上回ることも可能だと考えられます。生存率はあくまで数字にすぎません。実際に生きられる期間はそれぞれの患者さんで異なります。統計上の数値は気にしすぎず治療について前向きに取り組んで行くことが重要です。

ステージ4とはどのような状態か

ステージ4と聞くと末期のイメージを抱くかもしれません。しかし、ステージ4でもまだまだできることがある人はいます。

膵臓がんにおけるステージ4とは膵臓から離れた場所に転移がある状態のことです。一口にステージ4と言ってもいろいろな状態がありますので、同じステージ4でも患者さんそれぞれで実際に生き延びる期間は違います。抗がん剤で治療を行うことで余命の延長が望める人もステージ4に含まれます。また、一人一人で体力も違います。このため、ステージをもとに余命を予測しても厳密なものではありません。

例として次の2人はどちらもステージ4にあたります。

  • 例1
    • 膵臓がんの大きさは3cmで周りに浸潤していない
    • 領域リンパ節の転移がある
    • 肝臓に1つ転移がある
  • 例2
    • 膵臓がんは5cm以上の大きさで大血管の周りまで浸潤している
    • 領域リンパ節以外のリンパ節にも転移がある
    • 肝臓には複数の転移があり、肺にも転移がある

やや極端な例を提示しました。同じステージ4でも例1と例2で状態が大きく異なることは想像がつくのではないでしょうか。

膵臓がんが発見されて、ステージを告げられると不安になるかもしれませんし、インターネットなどで調べると厳しい数字を目にすることもあると思います。しかし余命はあくまで目安です。個人個人で身体もがんの状態も異なるため、正確な予測は誰にもできません。

膵臓がんと診断されたら、事実を受け止めることに苦労するかもしれません。時間をかけてもしっかりと向き合い治療に望むことが重要です。

転移がある場合の治療

膵臓から離れた場所に転移がある場合はがんを切除する手術を行うことはなく、抗がん剤による治療が主体になります。その理由は、1か所に転移が見つかっているときは、他の場所にもまだ検査で確認できないレベルで小さな転移が存在していることが予想されるからです。このために全身をカバーできる抗がん剤治療のほうが最善の治療と考えられます。

膵臓がんによって出てくる症状に対してはその都度、対処していきます。膵臓がんは腹部痛や背部痛を伴うことが多いので、痛み止めとして医療用麻薬を使用したり神経ブロックという治療を行うこともあります。また膵臓がんが大きくなり腸が詰まって食べ物の流れを妨げる場合には、バイパス手術や内視鏡を用いたステント治療を行うこともあります。

ステージ4と言われただけで「末期がん」と思い込んでしまうのはまだ早いかもしれません。今の自分がどのような状態なのか主治医の説明をよく聞いて、治療として使える選択肢の中から一番希望に合うものはどれかを考えていくことが大切です。

6. 膵臓がんの余命は症状でわかるのか

膵臓がんの余命を症状から正確に予測することはできません。患者さん個人個人で症状の感じ方に違いがあるので、客観的に評価することが難しいからです。そのため、余命の推定にはステージを手がかりにするほうが信頼できます。

膵臓がんに限らず、がんが発見されるとCT検査やMRI検査などの画像診断を用いてステージを決めることになります。ステージを定める最大の目的は、最適な治療法を選択することです。同時に、ステージから余命をある程度推定することもできます。

基本的にはステージと症状は対応しません。ただし、腹水黄疸が出ているときはある程度の目安になります。次に説明します。

腹水とは何か

膵臓がんが進行したときに現れる症状のひとつに腹水があります。腹水の原因は大きく2つに分かれます。

一つはがん細胞が引き起こす炎症によるものです。膵臓がんが進行すると、がん細胞がお腹の内側にある腹腔(ふくくう)というスペースの壁に広がっていく〔播種(はしゅ)する〕ことがあります。このがん細胞が炎症を起こし、腹水という体液がたまるようになります。

もう一つは栄養状態の悪化によるものです。膵臓がんが進行すると食欲がなくなり栄養状態が悪化していきます。すると血液の中のタンパク質の量が減っていきます。このタンパク質のうちアルブミンと呼ばれるタンパク質には血管内に水分を保つ働きがあるので、アルブミンの量が減少すると血管内から水分が出ていきます。血管内から出ていった水分の行く先はお腹の中の腹腔(ふくくう)というスペースです。腹腔は大きなスペースなので、ここに水が溜まっていきます。

膵臓がんによる腹水を治すのは難しく、腹水を完全になくす治療法はありません。利尿剤と呼ばれる、尿の量を増やして体内から水分を減らすための薬が使われることもあります。また、症状が強くなれば針を刺して腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。腹水によるお腹の張りなどの症状は、麻薬性鎮痛剤で和らげることができます。

腹水が出たら余命はどうなるか

腹水が出るのは初期の症状ではありません。特にがん細胞が原因となる腹水が出ている場合には、それ自体が膵臓がんの転移した状態と考えられ、ステージ4と診断されます。つまり、腹水が出ている場合の余命はステージ4の余命とほぼ同じであると考えられます。

腹水がたまる状況は体力もかなり落ちている状況です。食欲もかなり落ち込み、動くことがままならない人もいます。全身の健康状態やその他の臓器への進行具合はひとりひとり異なるために一概には言えませんが、確実に言えることとして、その日その日をより大事にすることをお勧めします。少しでも有意義に過ごせるように、ご家族、医療者ともに力を合わせて取り組んでみてください。何も特別なことをする必要はありません。少しだけでもよいので、今まで話せなかったことやできなかったことなどをしてみることを提案します。

黄疸とは何か

膵臓がんで黄疸(おうだん)が出ることもあります。黄疸があるだけでは余命は推定できません。

黄疸とは皮膚や眼球結膜(白眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。ビリルビンという物質が血液内で多くなると黄色く見えます。軽度の黄疸は見た目では気付きにくいですが、尿の色が濃くなったりすることがあります。見た目で黄疸と診断されるのはある程度ビリルビンが上昇してからになります。黄疸を示す症状には次のようなものがあります。

  • 尿の色が黄色くなる
  • 皮膚や眼球粘膜が黄色くなる
  • 身体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感) 
  • 皮膚がかゆくなる 
  • 風邪のような症状 
  • 微熱

黄疸の原因はやや複雑なので次の項で説明します。

黄疸の原因

黄疸を起こすビリルビンについてまず説明します。

ビリルビンは、古くなり役目を終えた赤血球が破壊されたときに発生する物質です。発生したビリルビンは肝臓で処理され、ビリルビンがグルクロン酸という物質とくっつく(抱合する)ことによって、身体の外に排泄できる状態になります。ビリルビンがグルクロン酸と抱合した後は、消化液である胆汁に含まれて胆管という通り道を経て十二指腸に流れ出します。

以上のように、健康な身体ではビリルビンがうまく排出されるので黄疸にはなりません。ビリルビンの処理がどこかでうまくいかないと、ビリルビンがたまり、黄疸になります。医学的には黄疸を原因によって分類します。

  • 赤血球が異常に多く破壊されることによる黄疸:溶血性黄疸
  • 胆汁の流れが悪いことによる黄疸:閉塞性黄疸
  • グルクロン酸抱合ができないことによる黄疸:肝細胞性黄疸

溶血(ようけつ)とはまだ古くなっていない赤血球が破壊されてしまう現象のことです。赤血球の破壊が多いとビリルビンが多く発生し、肝臓で処理できる範囲を超えるため、ビリルビンが血液の中にたまり溶血性黄疸を起こします。自己免疫性溶血貧血発作性夜間ヘモグロビン尿症遺伝性球状赤血球症などが溶血性黄疸の原因となります。

結石や腫瘍によって胆管が塞がり胆汁の流れが滞ることがあります。胆汁が十二指腸に排出されないのでビリルビンは血液の中にたまり、黄疸が生じます。これを閉塞性黄疸と言います。

また、肝臓の機能が低下している場合にビリルビンの処理が行えず、血液中にビリルビンがたまってしまうことがあります。これを肝細胞性黄疸と呼びます。

黄疸が出たら余命はどうなるか

膵臓がんによって黄疸が発生する場合は2つあります。

  • 膵臓がんが大きくなり胆汁の流れを妨げる(閉塞性黄疸)
  • 膵臓がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われる(肝細胞性黄疸)

この2つについてそれぞれ解説します。

■膵臓がんが大きくなり胆汁の流れを妨げる場合 膵臓がんの多くはかなり進行するまで症状がありません。そのため、膵臓は沈黙の臓器とも言われます。がんが大きくなり、胆汁の流れを妨げると黄疸が出現します。つまり、がんが閉塞性黄疸を起こします。黄疸をきっかけに膵臓がんが見つかることもあります。

閉塞性黄疸は膵臓がんがほかの臓器に転移していなくても起こります。黄疸があっても転移がなければ、手術で膵臓がんを切除することにより黄疸を解消できる場合もあります。黄疸があるかどうかは余命に直結せず、手術によってがんを取りきれるかどうかにかかってきます。

膵臓がんのステージにかかわらず、閉塞性黄疸は緊急の対処を必要とします。放置すると黄疸が進行して肝不全につながることがあるからです。閉塞性黄疸が見つかった場合には緊急入院をすすめられ、内視鏡を使ったドレナージ治療が行われることが多いです。落ち着いて考える暇もなく処置が行われる場合もあり、そのような時には状況を正確に把握するのが難しいこともあると思います。しかしながら、閉塞性黄疸は必ずしも手術できない状態を意味するわけではありません。まずご自身の状況を落ち着いてしっかりと把握することが大事です。

■膵臓がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われた場合

膵臓がんが転移しやすい臓器の一つとして肝臓がんがあります。膵臓がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われた場合には肝細胞性黄疸が出現することがあります。肝細胞性黄疸が出現した場合は肝不全と似たような状況と考えられますので、ステージ4のなかでも特に深刻な状態と考えられます。余命は予測しにくいものですが、楽観はできません。

膵臓がんにより肝臓の機能が低下していると抗がん剤による治療は制限されます。全身の状態がかなり落ち込んでいる可能性があり、生活時間のほとんどをベッド上で過ごしているような状態なら、看病している人から見ても憔悴しているかもしれません。黄疸によってかゆみなどの症状も強く出ているかもしれません。このような場合には症状を少しでも和らげる緩和ケア(かんわケア)治療に重点が置かれます。

7. 高齢者が膵臓がんになったら余命はどれくらいか

高齢者が膵臓がんになっても、高齢者ではない人と対応は変わりません。

まず膵臓がんの確定診断のためにいくつかの検査を行い、その後手術ができる状態と確認されれば手術を行う方法が標準的です。手術が適していない場合には全身化学療法を行います。

現在の高齢者の定義は年齢が65歳を超えた人です。たしかに一般的には高齢者のほうが身体的な問題を抱えている確率が高いと言えます。次のような問題に当てはまる人は膵臓がんの治療中にも気を付けることが増えます。

  • 身体的な衰えがある
  • 認知症などの精神疾患がある
  • 他にも病気を抱えている
  • 他の病気の治療で複数の薬を飲んでいる

一方、高齢者といっても身体は非常に若々しい人が大勢います。身体的な問題がなく元気な人は、たとえ高齢であっても、手術や抗がん剤治療などの膵臓がんの治療を行うことができます。

ほかのがんでは年齢によって治療方針を変える場合もあります。たとえば前立腺がんが75歳以上の人にはじめて見つかった場合、根治目的の手術はしないという選択肢があります。前立腺がんは進行が遅く、年齢を考えたときに手術を行う利益が少ないと予想できるためです。

しかし、膵臓がんはがんのなかでも悪性度が高いがんです。膵臓がんが見つかった人の多くは、膵臓がんによって余命が決まります。このため年齢に関わらずしっかりとした治療を行うことが重要です。

たしかに、高齢者ががんの治療を受けるのは大変なことが多いです。医療者の立場からみても、治療にあたって注意すべき点が多くあります。高齢だからという理由で治療に消極的になる人がいるのも理解できないことではありません。しかし、年齢という数字だけの問題で治療をあきらめてしまうのはもったいないという考え方もできます。身体の状態に問題がなければ高齢者でも根治を目指す手術を行うことは可能ですし、抗がん剤治療も受けられます。もちろん緩和ケア治療を行うことも可能です。

お医者さんから必要な情報を十分聞いたうえで、ご家族ともよく相談して治療方針を決めてください。

8. 膵臓がんが再発したら余命はどのくらいか

膵臓がんは手術後も再発が多いことが知られています。再発とは、手術でがんを切除して肉眼的にがんが見えない状態になった後に、再びがんが肉眼的に確認できる状態であらわれることです。膵臓がんが再発した状態はステージ4と同等と考えられており、ステージ分類による余命のデータを参考にすることができます。

一方、膵臓がんが再発した時点での状態は人によって大きく異なります。肝臓だけに再発することもあれば、全身のいくつもの箇所に再発が見つかることもあります。そのため、再発したら余命がどのくらいかと正確に予測するのは困難です。再発してからの余命については再発した場所や再発までの期間などが参考になるという考えもありますが、それも推測にしかなりません。

医師から再発したと告げられると余命が気になる心境は理解できます。再発したと告げられたときには、まず気持ちを落ち着けて、自らの状態を把握することと治療について落ち着いて聞いて理解することが大切です。

9. 膵臓がんで余命を告知されたら

まずはじめに、余命の告知は必ずしも正確ではないことに気を付けてください。

特にステージを元にした余命予測の多くは正確ではありません。なぜならば、一人ひとりで顔が異なるように、がんになっても状況が全く同じことなどはありえないからです。

膵臓がんが見つかったとき、手術によって効果を期待できる状況であれば、余命をはっきりと伝えられることは多くないと思われます。手術がうまくいくかどうかによってその後の見通し(予後)は大きく変わり、手術をやってみなければその先はわからないからです。

余命を告知されるのは、手術が行えない場合、手術後に再発した場合の2通りが考えられます。これらの場合にはステージ分類によるデータに基づいて、一般論として余命がどのくらいかという説明が行われることが多いです。一方、病気の状況は個々人で異なるため、余命の数値はあくまで参考にする程度と考えた方がよいでしょう。同じ「ステージ4」だった場合でも、肝臓に転移が一つある場合と複数個ある場合で状況は全く異なります。

月並みな言い方になりますが、余命を告知されたときに考えてほしいことは、1日1日を大事に生きることです。

まずはご自分の病気の状態をよく知ることが大事です。確かに簡単にできることではありません。臨床医としての経験からも、膵臓がんを冷静に受け止めることの難しさは実感します。少しずつでもいいので、病気について知り、どのように過ごせばいいのか、どのような治療が残されているか主治医に質問してください。同じことを繰り返し尋ねることになっても遠慮する必要はありません。あらかじめ質問を紙に書いておくと答えやすいかもしれません。ほかの医師の意見(セカンドオピニオン)を聞きたいときも、まず主治医に希望を伝えてください。

がんを患うとつらい状況に陥ります。それは皆同じです。がんに対して魔法のような治療はないのです。がんと向き合うことは簡単ではありませんが、前向きにできることは何かを考えていくことが重要なことです。痛みなどの症状を軽くする緩和ケアも、抗がん剤などと同時に考えるべき大切な治療です。

自分で情報を調べるとどんどん怖い情報が出てくると思います。怖い情報の中には、がんとは戦うなという意見もあります。確かに、全身の消耗が激しいときに強力な抗がん剤治療を無理に行うことなどは勧められません。しかし、治療の選択肢が残っているうちからあまりに早く消極的になるのはもったいないと感じます。

まずは主治医からご自分の状況についてしっかりと話を聞き、家族と情報を共有し気持ちをしっかりと整えることをお勧めします。一人で闘うわけではありません。家族、医療者とあなたを支えてくれる人は大勢います。怖がらずに、まず知ることから始めてみるのがいいと思います。