びーがたかんえん
B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる肝臓の炎症。一部激烈な感染症へと移行するので、感染したことがわかったら定期的な検査が必要となる
5人の医師がチェック 140回の改訂 最終更新: 2024.05.22

B型肝炎とはどんな病気?治療、検査、症状など

B型肝炎はウイルスによって肝臓に炎症が起こる病気です。炎症が持続すると慢性肝炎になり、だんだんと肝臓の機能が低下します。
このページではB型肝炎が疑われた場合に行われる検査や治療等について知っておくと得する知識を説明します。

1. B型肝炎とはどんな病気?

B型肝炎はウイルスに感染することで起こる肝炎です。全世界では3.5億人以上が感染していると言われており、日本でも100万人以上がB型肝炎ウイルスに感染していると考えられています。

ウイルス感染によって起こる肝炎としてはC型肝炎も有名ですが、原因微生物のタイプによって特徴が異なります。ウイルスの種類について掘り下げていけばいくほど内容が専門的になってしまうので、この章ではB型肝炎を中心にウイルス性肝炎に関するエッセンスを説明します。

原因微生物について

ウイルスによる肝炎はB型肝炎以外にもいくつかあります。代表的なものは以下になります。

B型肝炎はヘパドナウイルス(Hepadnavirus)というウイルスが原因となって感染が起こります。ヘパドナウイルスはDNAを介して増殖するウイルスで、遺伝子の種類によって更に細かく分類(注:この遺伝子の種類はB型肝炎ウイルスの中での遺伝子の違いを表すものです。上のリストにある肝炎ウイルスの違いを表してはいません。)されることがあります。少しややこしいですが、B型肝炎ウイルスの中にもいくつか種類があると覚えておいてください。お医者さんはこの遺伝子の種類を調べて治療方針をアレンジしたりしています。

原因微生物によるウイルス性肝炎の違い

さきほどのリストの中にはB型肝炎の他にもアルファベットのついた肝炎が挙がっています。これはウイルスの種類の違いを表しています。原因となるウイルスが異なれば性質も異なります。これらの特徴を簡単に表にします。

【肝炎の特徴の違い】

  A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎 D型肝炎 E型肝炎
遺伝方式 RNA DNA RNA RNA RNA
糞口感染 する しない しない しない しない
性行為感染 しうる(同性間に多い) する たまにする する しない
血液感染 たまにする する する する しない
感染の慢性化 しない たまにする する たまにする する(免疫不全の人)
肝硬変肝がんへの進行 しない する する する(B型肝炎を合併した人) しない

(Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th editionを参考に作成)

B型肝炎は感染が起こっても慢性化(慢性肝炎)することはあまり多くありません。しかし、B型肝炎ウイルスの感染によって急性に肝炎が起こると、大人になって感染した人の一部では激烈な状態(劇症肝炎)が起こることがあります。この状態は急性肝炎の症状が見られた人の数%程度で起こると考えられていますが、劇症肝炎になってしまうと70%ほどの人が亡くなります。そのため、B型肝炎が疑わしい症状(詳しくはB型肝炎の症状のページを参考にしてください。)が見られた場合には医療機関で詳しく調べてもらうようにしてください。

感染経路について

B型肝炎はうつる病気です。しかし、肺結核のように空気感染をするわけではなく、感染を予防する意味で気をつけるべき経路は限られています。以下が気をつけるべきポイントになります。

【B型肝炎の感染が起こりやすい経路】

  • 母子感染
  • 性行為感染
  • 注射による感染

上に挙げたもの以外でB型肝炎がうつることはほとんどありません。例えばジュースの回し飲みや共同入浴程度ではうつることはまずありませんので、日常生活の中で過度に心配する必要はありません。もし心配が強い人は、B型肝炎の予防接種を受けると安心です。

それでは上の3つの感染経路についてもう少し詳しく説明します。

  • 母子感染

母子感染では出産時にできた傷などから感染がうつります。そのため、お母さんがB型肝炎に感染していることが分かっている場合には、治療によってウイルスの量を抑える場合があります。また、出産時には帝王切開を行い、生まれた子どもには注射(免疫グロブリン製剤とB型肝炎ワクチン)を打つことで母子感染の確率を下げることができます。

  • 性行為感染

B型肝炎は性行為で相手に感染がうつることがあります。また、C型肝炎ウイルスHIVよりも性行為によって感染がうつりやすいことが分かっています。そのため自分だけでなく配偶者やパートナーが感染している場合にも注意が必要です。性行為をする時にはコンドームを用いることで感染を予防できます。

  • 注射による感染

B型肝炎は注射針を介してうつります。我が国でも1980年代より以前では注射器の使い回しによるB型肝炎の感染が問題となりました。また、注射器を共用する違法ドラッグや刺青の経験者の中でも感染の拡大が見られたりもしました。そのため医療現場では、一人に対して使用済みの注射器は必ず廃棄し、使い回しを行わないように徹底されています。

性行為は多くの人にとって生活の一部ですし、医療関係者にとっては注射も日常的に行われる行為です。現在B型肝炎ウイルスに感染していなくても、感染のリスクとなる行為が身近にある人はB型肝炎ワクチンを接種しておくことが特にお勧めされます。

潜伏期間について

B型肝炎ウイルスが体内に入ることで感染が起こってもすぐに発病する(B型肝炎になる)わけではありません。ウイルスが体内で増殖する期間を経て発病します。この期間は特に症状の自覚がないため、潜伏期間と言います。

潜伏期間は感染の原因微生物によって異なります。黄色ブドウ球菌による食中毒は数時間から半日程度で症状が出てきますが、HIVによる感染は数年から十年ほど経たないと症状が出てきません。B型肝炎の潜伏期間は3ヶ月程度と考えられています。これは一つの目安ですので、人によってある程度は期間に幅があります。

2. B型肝炎のキャリアについて

B型肝炎ウイルスが体内に入ると、自分の免疫システムによってこれを排除しようとします。人によっては全く気づかないうちに感染(不顕性感染)し気づかないうちに治癒していることもありますし、急性肝炎としての症状が出た後に治癒することもあります。

一方で自分の免疫システムではウイルスを排除しきれないことがあり、このような人では体内にウイルスが存在する状態が続きます。このような持続感染の状態の人をキャリアといいます。

B型肝炎ウイルスのキャリアの多くは持続感染があるものの症状がない状態(無症候性キャリア)が続きますが、一部では慢性肝炎となり症状が見られるようになります。感染が持続すると、肝硬変肝細胞がんになることもあるため、定期的な通院が必要になります。

【B型肝炎の経過】

3. B型肝炎で起こりやすい症状について

B型肝炎の初期では症状が出ないことがほとんどです。また、初期から出やすい症状は他の病気でも起こりやすい症状でもあるため、体調不良を抱えつつもなかなか原因がわからないということも起こりやすいです。

B型肝炎の初期症状でみられやすいものは以下に挙げるものになります。

B型肝炎の人に出やすい初期症状

B型肝炎の初期症状の中でも代表的なものは以下になります。

  • 発熱
  • 倦怠感(だるさ)
  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐

これらは全身に炎症が生じたときに起こる初期症状です。そのため、風邪急性胃腸炎などの誰もが経験するよくある病気でも見られることに注意が必要です。なんだかおかしいなという症状がしばらく(目安として1週間以上)続く場合には医療機関で原因を調べてもらうようにしてください。

B型肝炎が進行したときや慢性化したときに出やすい症状

B型肝炎が進行してくると、上で述べた症状に加えて肝不全による症状が出てきます。また、この症状は慢性化しつつ小康状態を保っていた肝炎が悪化した際にも出てきます。

次の症状がしばしば見られます。

  • 右季肋部痛(右脇腹の痛み)
  • 黄疸(皮膚の黄色変化)

B型肝炎と言われている人がもしこのような症状を自覚した場合には、医療機関で肝臓の状態を調べてもらってください。

肝炎が劇症化(劇症肝炎)したときに起こる症状

B型肝炎ウイルスに感染すると、まれに劇症肝炎になることがあります。頻度としては肝炎の症状が出る人の中で数%程度といわれていますが、この状態になると肝機能が著しく低下(肝不全)して命の危険性が出てきます。

劇症肝炎が起こったときに出やすい症状には次のものがあります。

  • 口臭(肝性口臭)
  • 羽ばたき振戦
  • 昏睡

ここに挙げた症状が出ている時は、肝不全によって身体バランスが崩れ、脳へ影響が及んでいます。これらの症状が複数見られるような場合には一刻も早く受信する必要があります。

以上までB型肝炎で見られやすい症状について簡単に説明しました。もっと詳しく知りたい人は「B型肝炎でよくある症状について:発熱、倦怠感、吐き気、腹痛、口臭など」を参考にしてください。

4. B型肝炎が疑われたときに行われる検査

B型肝炎が疑われたときには、問診(状況を確認する質問のやりとり)と身体診察を経て次のような検査が行われます。

  • 血液検査
    • 抗原検査
    • 抗体検査
    • ウイルス量検査
    • ウイルスの種類の検査(ジェノタイプ)
    • 肝機能検査
  • 画像検査
    • 超音波(エコー)検査
    • CT検査

抗原検査や抗体検査はB型肝炎を診断する上でとても重要ですが、複雑な判断が必要です。ここでは詳しく説明しませんが、もっと詳しく知りたい人は「B型肝炎が疑われたときに行われる検査:抗原検査、抗体検査、ウイルス検査、画像検査など」を参考にしてください。

また、例えばMRI検査など、ここに挙げた検査以外にも行われることがありますので、検査についてわからないことがあったら医療者に質問してみてください。

5. B型肝炎の治療

B型肝炎ウイルスに感染すると免疫システムがこれを排除するように働きます。排除できた場合には感染が治癒しますが、排除しきれなかった場合には急性肝炎や慢性肝炎が起こることがあります。一方で、体内にウイルスがいても特に症状がない人もいます。

B型肝炎の治療を行うべき人

一般的にB型肝炎の治療では、副作用や薬の飲み合わせなどに注意が必要です。そのため、B型肝炎患者の中でも、治療することでウイルスによる影響を軽減したほうが良い人だけが治療を受けることになります。

そこで「治療を行うべきかどうか」や「どういった治療方法を選択するか」に関しては、全身状態やウイルスの状況によって判断されます。具体的な判断軸は以下のものになります。

  • 劇症肝炎である
  • B型肝炎ウイルスの量が多い
  • 肝臓の炎症が治まっていない
  • 肝臓に障害が起こっている

これらに該当する人は治療が検討されます。予め自分がどういった状態なのか主治医に確認するようにして下さい。

B型肝炎の治療目標

B型肝炎ウイルスに持続的に感染すると肝硬変肝細胞がんに至ることが分かっています。そのため、B型肝炎の治療においては次のような目標を立てます。

【B型肝炎の治療目標】

  • B型肝炎ウイルスが起こす感染によって慢性肝炎や肝硬変肝細胞がんに至らないようにする
  • 生活の質(QOL:Quality of life)を低下させないようにする
  • 生命の危険性を回避する

これらの目標を達成するために、主に以下の治療が行われます。

  • インターフェロン療法
  • 核酸アナログ製剤
  • 肝庇護薬

ここでは詳しく説明しませんが、これらの薬には予め知っておくべき事柄があります。もっと詳しく知りたい人は「B型肝炎に対して行われる治療:核酸アナログ製剤、インターフェロン治療、肝庇護薬など」を参考にしてください。

6. B型肝炎のガイドラインはどんなものか?

B型肝炎の治療にはガイドラインが存在します。ガイドラインとは過去のデータをもとに最も良いであろうと考えられる診療を指示するものです。もちろん患者の状況は一人ひとりで異なりますが、ガイドラインではそれを状況ごとに切り分けて記載しているものが多いです。

B型肝炎に関するガイドラインは国内外に存在します。国内では日本肝臓学会が「B型肝炎治療ガイドライン」を出しており、さまざまなデータを根拠に、検査や治療薬の選択、難しい状況下での治療について言及しています。

また、海外でも多くのガイドラインが存在します。米国肝臓学会の出している「Hepatitis B Guidance」はその一つです。海外と国内では医療の状況も患者の背景も違いますが、最も適した治療を探す上で参考になります。

お医者さんはこうした国内外のガイドラインを踏まえながら、患者に最も適した治療を探しています。また、場合によってはガイドラインと異なる治療を提案されることがあるかもしれませんが、主治医は状況を鑑みて治療をアレンジしてると考えられます。もし疑問に思うようなことがあれば、自分の状況と治療方針について主治医に確認するようにしてください。

【参考】

・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
国立感染症研究所 「B型肝炎とは」
B型肝炎治療ガイドライン(第3版)
AASLD 2018 Hepatitis B Guidance(米国肝臓学会)