びーがたかんえん
B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる肝臓の炎症。一部激烈な感染症へと移行するので、感染したことがわかったら定期的な検査が必要となる
5人の医師がチェック 137回の改訂 最終更新: 2022.02.04

B型肝炎に対して行われる治療:核酸アナログ製剤、インターフェロン治療、肝庇護薬など

B型肝炎に対しては治療方法が複数存在しますが、年齢や全身の状況に加えてB型肝炎ウイルスの遺伝子型などによって治療方法が変わってきます。また、状況によっては治療をしないで経過を観察していくこともありえます。

このページではB型肝炎の治療選択の考え方や治療薬の詳細について説明していきます。

1. B型肝炎の治療を行うべき人

B型肝炎患者の誰もが治療を受けることになるわけではありません。一般的にB型肝炎の治療では、インターフェロン療法か核酸アナログ製剤の使用が行われます。これらの薬はB型肝炎ウイルスの増殖を抑える反面、副作用や薬の飲み合わせなどの問題があります。

そこで「治療を行うべきかどうか」や「どういった治療方法を選択するか」に関しては、全身状態やウイルスの状況によって判断されます。具体的な判断軸は以下のものになります。

  • 劇症肝炎である
  • B型肝炎ウイルスの量が多い
  • 肝臓の炎症が治まっていない
  • 肝臓に障害が起こっている

これらに該当する人は治療が検討されます。事前に自分がどういった状態なのか主治医に確認するようにして下さい。後述しますが、治療方法によって副作用や気をつけるべきポイントが異なります。このページの情報をよく読んで参考にして下さい。

治療が開始されると目標を定めて、適宜治療効果の判定が行われます。次の章ではB型肝炎の治療目標について説明します。

2. B型肝炎の治療目標

B型肝炎ウイルスに持続的に感染すると肝硬変肝細胞がんに至ることが分かっています。そのため、B型肝炎は感染が持続しないように治療する必要があります。しかし一方で、上で述べたように治療には副作用などのマイナス面もあるため、全員が治療を受けるべきではありません。治療のメリットが大きい人は受けるべきですが、その治療目標は明確にしていかなければなりません。

B型肝炎の治療の目標は次のように考えます。

【B型肝炎の治療目標】

  • B型肝炎ウイルスが起こす感染によって慢性肝炎や肝硬変肝細胞がんに至らないようにする
  • 生活の質(QOL:Quality of life)を低下させないようにする
  • 生命の危険性を回避する

これらの目標を達成するために治療が行われますが、治療している最中にはその効果が具体的にわかりにくい部分があります。検査を用いながらより具体的に目標を立てることも多く、それは次のような目標になります。(検査の詳細についてはこちらを参照。)

【短期的な目標】

  • HBe抗原が陰性化し、HBe抗体が陽性化する(セロコンバージョン)
  • HBVのウイルス量が低値になる〔参考:HBV DNA量<3.3Log IU/mL(4.0 Log copies/mL)〕
  • ALT(GPT)が正常値になる(参考:ALT≦30 IU/L)

【最終的な目標】

  • HBs抗原が陰性化する

この目標に向かってB型肝炎の治療が行われる際には、さまざまな薬が用いられます。主に行われる治療には以下のものがあります。

  • インターフェロン療法
  • 核酸アナログ製剤
  • 肝庇護薬

次の章からはそれぞれの治療に用いられる薬について詳しく説明します。

3. インターフェロン療法

インターフェロン(IFN)とは

インターフェロン(IFN)とは、ウイルスなどの病原体や腫瘍細胞などの異物に応答して産生されるサイトカインと呼ばれる体内物質のひとつです。元々、ウイルス増殖を抑える因子として発見されたことから、ウイルス干渉因子 (Interference Factor)を由来としてInterferon(略語:IFN)と名付けられた経緯があります。

IFNにはいくつかの種類(ファミリー)に分かれ、IFN-α、β、ωなどのI型IFN、IFN-γのII型IFNなどがあります。IFNは自身の受容体との相互作用を介して抗ウイルス作用(抗ウイルスタンパク酵素産生)、腫瘍増殖抑制作用、免疫活性を制御する作用などをあらわします。

医薬品として使われているIFNは主にIFN-αやIFN-βの製剤で、ヒトの免疫細胞を培養し産生された天然型や遺伝子組換え技術により造られた製剤で、注射によって投与することで体内の免疫応答を増強し、ウイルスなどの異物の働きを抑える効果が期待できます。

IFN製剤はB型肝炎(HBV)やC型肝炎HCV)などのウイルス疾患の治療に使われたり、腫瘍細胞の増殖を抑えることにより一部のがん悪性腫瘍)などの治療に使われるものもあります。

B型肝炎ウイルスに対するIFN療法

B型肝炎ウイルス(HBV)に対するIFN療法の開始は1987年まで遡り、当初は4週間(28日間)の限定的投与でしたが、2002年には半年間(24週間)の治療継続が可能になりました。

従来型のIFN製剤は薬剤成分が体内で不安定なため作用の持続性が短く、B型肝炎の治療では一般的に週3回の投与が必要でした。また薬剤成分の血中濃度が上下に変動することで発熱や悪寒(寒気)、頭痛などの副作用があらわれやすいというデメリットもあります。従来型でも、天然型のIFN-α製剤に関しては自己注射が可能なディスポーザブル(使い捨て)製剤があり、例えば「寝る前」などのタイミングで投与(自己注射)し、発熱などの副作用発現に関わる副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の体内変動に適応させることで、副作用の軽減も期待できるとされています。

2011年には、IFNにPeg(ポリエチレングリコール)という物質を結合させたペグインターフェロン(Peg-IFN)がHBVの治療に対しても保険承認されました。Peg-IFNは、Pegを結合させることで注射投与後のIFNの吸収・分解を遅らせ持続性を担保し、週1回の投与を可能にしたIFN製剤です。HBe抗原陽性(一般的にHBVの増殖力が強い状態)・HBe抗原陰性(一般的にHBVの増殖力が弱い状態)のいずれのB型慢性活動性肝炎に対しても1年間(48週間)での治療が可能となり、治療の選択肢が広がるとともに治療成績の向上がはかれています。

B型肝炎の薬物治療ではHBVの遺伝子型(ジェノタイプ)などによって優先される製剤が異なりますが、例えばウイルスの遺伝子型がAやBのタイプではIFN製剤による治療効果が高いとされています。またPeg-IFN製剤の登場により従来型のIFN製剤に比べて治療効果が高められるようになり、従来型のIFNでは治療効果があまり得られないとされていた高齢への投与や肝臓の線維化が進んでいる病態などに対してもPeg-IFN製剤では有用性が考えられるとされています。

IFN療法のメリット・デメリットとは

B型肝炎の薬物治療ではIFN療法と後で解説する核酸アナログ製剤が主な選択肢となりますが、それぞれ作用の仕組みも異なりますし、ウイルスの遺伝子型など病態によって適する薬も異なります。

例えば、IFN療法では核酸アナログ製剤で起こるようなウイルス耐性誘導の懸念がないことや治療反応後には薬剤の継続の必要性がなくなったり治療期間が最長でも48週間と限定されているため、多くの場合、長期に渡って治療が必要となる核酸アナログ製剤と比べるとこれらはメリットと考えられます。

一方で、核酸アナログ製剤が遺伝子型のタイプを問わず抗ウイルス作用をあらわすのに対して、IFN製剤はウイルスの遺伝子型などによって治療効果が変動することがあります。従来型のIFN製剤に比べて治療効果が高いとされるPeg-IFN製剤でも、核酸アナログ製剤のエンテカビルと比べると、例えばALT(肝機能値のひとつ)の正常化などの治療効果の面では劣勢です。また肝硬変(B型代償性肝硬変)の病態には、肝機能を悪化させるなどのデメリットからIFN製剤は使わず、核酸アナログ製剤による治療をすべきとされています。

IFN療法を行う場合、副作用に対しての注意も必要です。IFN製剤に限ったわけではありませんが、薬物治療にはメリットだけでなく少なからず副作用などのデメリットがあり、IFN療法を行う場合、この副作用に対して特に注意が必要とされています。以下はIFN療法で注意すべき副作用例です。

インフルエンザ様症状

発熱、頭痛、倦怠感、関節痛などのインフルエンザにかかった時の様な症状があらわれる場合があります。IFN療法による副作用の中でもよくみられる症状のひとつで、これらの症状を和らげるため、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの薬が使われることがあります。

■血液症状(白血球減少、血小板減少など)

血液中の白血球(好中球など)や血小板などが減少する場合があります。これら血球成分の減少により感染症、出血、貧血などがあらわれやすくなることが考えられるため注意が必要です。例えば、感染症対策として手洗い・うがいなどを心がけるなど、日常生活の中での注意も大切です。

間質性肺炎

頻度は稀とされていますが、IFN療法中に間質性肺炎がおこることも報告されていて、場合によっては重篤な症状があらわれることも考えられます。咳(空咳)、息切れ・息苦しさ、発熱などの症状がみられる場合は医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することが大切です。

■精神神経系症状

うつ(抑うつ)や不眠などの症状があらわれる場合があります。うつの既往歴がある場合などは特に注意が必要とされ、場合によってはSSRIなどの抗うつ薬や睡眠薬などを併用することも考えられます。

甲状腺機能異常

甲状腺機能の亢進や低下があらわれる場合があります。甲状腺機能が障害されることで、動悸、脈の乱れ、ふるえ、体重の増減、倦怠感、疲れやすい、便秘などの症状があらわれる場合があり注意が必要です。

この他、発赤(注射部位反応を含む)などの皮膚症状、食欲低下などの消化器症状、心筋症心不全などの循環器症状、血糖値の変動、網膜症などの眼症状、腎障害などがあらわれる場合があります。これら副作用があらわれる頻度や症状の度合いは使用するIFN製剤の種類や患者の体質や病態などによっても異なります。例えば、Peg-IFN製剤ではインフルエンザ様症状や食欲低下などの副作用が比較的軽度という報告もありますし、心不全などの心疾患や糖尿病などの持病を持つ場合や自己免疫疾患などで免疫治療を受けている場合などはより注意が必要となります。自身の体質や持病などを事前に伝え、医師や薬剤師から副作用などの注意をしっかりと聞いておくことがとても大切です。

IFN製剤と他の薬との相互作用に関して

IFN製剤は自己の免疫応答を強めることで抗ウイルス作用などをあらわす薬です。他の薬との相互作用は比較的少なめですが、なんらかの理由で免疫抑制薬などを使っている場合にはその効果に影響を与える可能性が考えられます。他にもテオフィリンなどの一部の薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要とされています。

IFN製剤との相互作用という点で最も注意すべき薬としては、小柴胡湯(ショウサイコトウ)という漢方薬が挙げられます。小柴胡湯は以前は、肝庇護薬(かんひごやく)として肝炎などの治療によく使われていた薬でしたが、1990年代にIFN製剤との併用した症例において間質性肺炎の危険性が高まるという報告などがあったため、現在ではこの両剤の併用は禁忌(禁止)となっています。漢方薬というと一般的にマイルドに効果をあらわすというイメージがありますが「薬」のひとつであり少なからず副作用はあります。このIFN製剤と小柴胡湯の症例は、漢方薬といえども場合によっては重篤な副作用を引き起こす可能性があることを示す事例でもあります。

4. 核酸アナログ製剤

ウイルスが増殖するには遺伝子情報をもつDNAの複製が必要ですが、B型肝炎ウイルス(HBV)などのウイルスはDNAを複製する際、DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)という酵素が必要になります。

核酸アナログ製剤と呼ばれる薬は主にDNAポリメラーゼを阻害することで抗ウイルス効果をあらわす薬で、インターフェロン療法などと共にB型肝炎治療の主な選択肢になっています。

なお、DNAやRNAのことを核酸と呼びます。エンテカビル、テノホビル、ラミブジン、アデホビルなどの薬がこの核酸(核酸の構成成分)に類似した構造や性質などを有することから、これらの薬は「アナログ=類似の」という言葉を用いて一般的に核酸アナログ製剤と呼ばれています。

■エンテカビル

ラミブジン、アデホビルに次いで登場したB型肝炎に対する核酸アナログ製剤で日本では2006年に承認されています。

エンテカビル(主な商品名:バラクルード®)は、グアノシン(核酸成分のひとつであるグアニンにリボースという物質が結合したもの)と類似した構造をもち、DNAポリメラーゼを阻害することで抗ウイルス効果をあらわします。作用の仕組みをもう少し詳しくみていくと、エンテカビルの登場まで核酸アナログ製剤の主流だったラミブジンが「逆転写」と「HBVのDNAプラス鎖合成」という2種のポリメラーゼ活性を阻害するのに対し、エンテカビルはこの2つに加え「プライミング(複合体形成)」というDNA複製の開始点に対しても作用し、3種のポリメラーゼ活性を阻害するとされています。

エンテカビルはそれまで核酸アナログ製剤の主流だったラミブジンと比べてHBVのDNA陰性化率や肝機能値の正常化率という面で高い効果が期待できるだけでなく、ラミブジンに比べて耐性ウイルスの出現率がかなり低いという特徴があります。

これらの特徴から現在(2018年9月時点)、エンテカビルは核酸アナログ製剤を使用する場合において、優先的に使われる薬のひとつになっています。

エンテカビルで注意すべき副作用には、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、下痢などの消化器症状、倦怠感、鼻咽頭炎脂肪肝などがあります。

またエンテカビルは服用するタイミングにも注意が必要です。食事によって薬剤成分の吸収率が低下するなどの懸念があるため、エンテカビルは通常「空腹時」に服用します。具体的には「食事2時間以降かつ次の食事の2時間以上前に服用すること」とされていて「空腹時」の他には「朝食後2時間以上あけて服用」などの指示が出されることが一般的です。

エンテカビルの1日の投与量としては主に0.5mg錠を1錠(1日量として0.5mg)服用する場合と0.5mg錠を2錠(1日量として1mg)服用する場合に分かれます。エンテカビルを1日量として1mgを服用するケースとしては、それまでのラミブジンによる治療で効果不十分であったりラミブジンへの耐性ウイルスがあるなどの病態です。また腎機能の状態などによっては(1日の服用量はそのままに)1日おきで服用するなどの減量が考慮されることもあり、「空腹時に服用」ということも含めて医師や薬剤師から服用方法に関する説明をしっかり聞いておくことが大切です。

■テノホビル(テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩/テノホビル アラフェナミド)

B型肝炎治療における核酸アナログ製剤としてはラミブジン、アデホビル、エンテカビルに次いで承認された薬で、体内で代謝された後、DNAポリメラーゼを阻害したりDNAに取り込まれることで抗ウイルス効果をあらわします。

2014年にテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)(商品名:テノゼット®)がB型肝炎治療薬として承認され使われてきましたが、血液(血漿)中での安定性などを改善したテノホビル アラフェナミド(TAF)(商品名:ベムリディ®)が2016年に承認されています。

テノホビルの作用の仕組みやTDFとTAFの違いを少し詳しくみていくと、TDFとTAFは共に標的となる細胞内でテノホビル二リン酸という物質に代謝された後、DNAポリメラーゼの阻害作用などをあらわすことで遺伝情報をもつDNAの複製を阻害します。TAFは血漿中でより安定であるという特徴によって標的細胞内においてより高い濃度で活性代謝物であるテノホビル二リン酸を産生することが可能です。これにより、TAFはTDFに比べてより少ない用量(治療用量としてTAFはTDFと比較しておよそ90%低く抑えることが可能)で、TDFの治療用量を投与した際と同等の抗ウイルス効果が期待できます。TAFはTDFに比べ用量を少なく抑えられるメリットをもつことで、TDFで懸念となる腎障害や骨密度の低下などの低減が期待できるとされています。TDFによる治療中に腎障害や骨粗鬆症などがみられた場合にはTAFへの切り替えが推奨されていますが、長期的な副作用出現の可能性を考慮しての切り替えなども治療の選択肢となっています。ちなみに、テノホビル自体はHBVだけでなくヒト免疫不全ウイルスHIV)感染症の治療薬としても使われていますが、HIVの治療においてもTDFを含む製剤(商品例:スタリビルド®配合錠)からTAFを含む製剤(商品例:ゲンボイヤ®配合錠)への切り替えが行われてきています。

テノホビルは抗ウイルス薬による治療において問題点のひとつとなる薬剤耐性がある病態に対しても有用です。特にB型肝炎治療ではラミブジン(商品名:ゼフィックス®)やアデホビル(商品名:ヘプセラ®)に対しての薬剤耐性が問題となり、複数の抗ウイルス薬に対して耐性を示す多剤耐性例もみられます。テノホビルには多剤耐性ウイルスに対する抗ウイルス効果も期待できると考えられていて、B型肝炎治療における重要な選択肢となっています。

テノホビルで注意すべき副作用には、吐き気や腹痛などの消化器症状、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、乳酸アシドーシス脂肪肝などがあります。またテノホビル製剤の主流となってきているTAFでは前述したように腎障害や骨量減少などの低減が期待できますが、これら副作用への懸念がゼロというわけではなく注意は必要です。テノホビルに限ったことではありませんが核酸アナログ製剤によるB型肝炎の治療は一般的に長期に渡ることが多いため、副作用を含め治療中の注意点などを医師や薬剤師からしっかりと聞いておくことがとても大切です。

■ラミブジン

ラミブジン(商品名:ゼフィックス®)はB型肝炎ウイルス(HBV)の増殖に必要なDNAポリメラーゼを阻害する作用(競合的拮抗作用)やDNA伸長停止作用によって抗ウイルス効果をあらわす薬です。

ラミブジンは元々はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の抗ウイルス薬として開発された経緯をもちます。詳しくは割愛しますが、HBVのDNA複製過程はHIVなどのレトロウイルスと呼ばれるウイルスの複製過程とよく似ていて、この点からラミブジンなどのHIVに対して開発された抗ウイルス薬のHBVへの有用性が考えられ、実際にラミブジンがB型肝炎の治療薬として承認された経緯があります。

経口(内服)のB型肝炎治療薬としてはプロパゲルマニウム(商品名:セロシオン®)という薬が90年代に承認されていますが、これは主に免疫反応を増強することでいわば間接的にウイルスの増殖を抑えるという薬で、HBVに対して直接的に作用する薬の開発が待たれていた経緯があります。ラミブジンはHBVに対して直接的に作用し抗ウイルス効果をあらわす内服薬(飲み薬)という意味では最初に登場した薬で、日本では2000年に承認されています。

ラミブジン自体は長期投与によって耐性ウイルスが出現しやすくなったことにより、現在ではウイルスへの耐性誘導が少ないエンテカビル(主な商品名:バラクルード®)などが優先的に使われる薬になっています。

現在、B型肝炎治療でラミブジンが使われているケースとしては、ラミブジンに対して耐性がみられたためラミブジンとアデホビルを併用しているケースなどが考えられます。

ラミブジンで注意すべき副作用には、頭痛などの精神神経系症状、腹痛や下痢などの消化器症状、筋肉痛、倦怠感などがあります。また頻度は稀とされますが血小板減少などの血液症状があらわれることも考えられます。ラミブジン自体はB型肝炎治療に使われている核酸アナログ製剤の中でも一般的に安全性が高い薬とされていますが、ウイルス耐性出現や副作用などに対する注意は必要です。

■アデホビル

アデホビル(商品名:ヘプセラ®)はラミブジンに次いで登場したB型肝炎に対する核酸アナログ製剤で、日本では2004年に承認されています。

アデホビルは核酸の構成成分のひとつであるアデニンのアナログ(アデニン誘導体)で、標的細胞内でDNAの複製に必要なDNAポリメラーゼを阻害したり基質としてDNAに取り込まれDNA鎖を遮断することによって抗ウイルス作用をあらわします。

アデホビルはラミブジン耐性ウイルスに対して長期的効果が期待できる薬です。アデホビルは単独で使うというよりもラミブジンとの併用で使われることが多い薬で、これはラミブジンからアデホビルへ切り替えるよりも、ラミブジンとアデホビルを併用した方がより高い抗ウイルス効果を得られることが確認されているからです。またラミブジンとアデホビルの併用の方が耐性ウイルス出現率が低いというメリットが考えられることも理由のひとつです。

アデホビルで注意すべき副作用には腎障害、血液中のリンが低下することによる骨軟化症発疹などの皮膚症状、吐き気などの消化器症状などがあります。また高血圧症糖尿病などを合併している場合には腎障害があらわれやすくなるとされていて、持病でこれらの病気を持つ場合はより注意が必要です。

5. 肝庇護薬(かんひごやく)

肝臓の機能を保つ薬を肝庇護薬(かんひごやく)と呼ぶことがあります。

その名前の通り、肝臓を庇護する(かばって守る)薬で肝臓の炎症や線維化を抑えることで肝炎や肝硬変などの症状進展を抑える効果などが期待できると されています。

主な肝庇護薬としてウルソデオキシコール酸(主な商品名:ウルソ®)やグリチルリチン製剤(主な商品名:強力ネオミノファーゲンシー®グリチロン®)などが治療の選択肢となっています。

■ウルソデオキシコール酸

ウルソデオキシコール酸は生薬の熊胆(ユウタン:「くまのい」とも呼び、動物であるクマの胆汁を乾燥させたもの)を起源に持ち、現在ではコール酸という原料から合成される薬剤成分で、肝機能の改善やコレステロール系胆石の溶解などが期待できます。

作用の仕組みを少し詳しくみていくと、胆汁分泌を促進する作用(利胆作用)、肝細胞への障害を軽減する作用、炎症を引き起こす物質(サイトカインなど)の産生抑制や炎症細胞の浸潤抑制作用などにより、肝炎や胆汁性の肝硬変による肝機能を改善する効果が期待できます。また小腸切除後などの消化不良を改善する効果なども期待でき、特に消化器領域で有用となっている薬のひとつです。一般的に安全性も高いとされている薬ですが、下痢などの消化器症状などには注意が必要です。

■グリチルリチン製剤

生薬の甘草(カンゾウ)に含まれる成分であるグリチルリチン(グリチルリチン酸)は主に抗炎症作用をあらわし、これはグリチルリチン酸が持つ細胞障害の抑制作用、細胞膜の保護作用、抗酸化ストレス作用、副腎皮質ホルモンへ関わる作用(グルココルチコイドやミネラルコルチコイドの代謝に関わる酵素を阻害する作用)などに起因するとされています。

病態などによっては肝炎などの肝疾患の選択肢になることも考えられる他、皮膚疾患などに対しても使われることもあります。多くのグリチルリチン製剤にはグリチルリチン酸に加え、グリシンなどのアミノ酸成分が配合されていてこれらのアミノ酸は主成分であるグリチルリチン酸によっておこる尿量やナトリウム排泄量の減少を軽減するなどの役割を果たしています。

グリチルリチン製剤の注射剤(主な商品名:強力ネオミノファーゲンシー®)や内服薬(主な商品名:グリチロン®配合錠)があり、一般的に内服薬よりも注射剤の方が肝機能の指標となるALT改善効果などが高いとされています。

一般的な安全性は高いとされる薬ですが、体内でグリチルリチン酸が過剰になることで偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)という副作用があらわれる場合があります。これはグリチルリチン酸の作用により、あたかも副腎皮質ホルモンのひとつであるアルドステロンが過剰な状態に類似した状態を引き起こし、低カリウム血症、血圧上昇、脱力感、浮腫などの症状があらわれることがあります。通常、これらが起こる頻度は稀とされますが、なんらかの治療で甘草を含む漢方薬を服用している場合などにはグリチルリチン酸の摂取量が過剰となることも考えられ、より注意が必要です。

■肝庇護作用が期待できる漢方薬

漢方薬の小柴胡湯(ショウサイコトウ)も肝庇護作用をあらわす薬で肝炎や肝硬変などへの有用性も考えられている薬です。しかし、頻度は非常に稀ながら小柴胡湯などの漢方薬によって間質性肺炎(初期症状として息苦しさ、空咳、発熱など)が引き起こされる危険性が報告され、それ以後、肝庇護目的で小柴胡湯が使用されるケースはかなり少なくなりました。

また肝炎治療薬のひとつであるインターフェロン(IFN)製剤による治療中に小柴胡湯を併用すると間質性肺炎の危険性が高くなると考えられています。1990年代にこの危険性に対する報告がされ、それ以降、両剤の併用は禁忌(禁止)となっていることからも肝炎などの治療で小柴胡湯が選択されるケースはかなり限られると考えられます。

◎漢方薬と間質性肺炎について

間質性肺炎への懸念がある漢方薬は小柴胡湯に限ったことではなく、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)などの柴胡剤、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)などの瀉心湯類といった漢方方剤においても間質性肺炎への注意は必要とされています。これら間質性肺炎への懸念がある漢方方剤には生薬の黄芩(オウゴン)を含むものが多く、注意すべき副作用のひとつになっています。

一般的に安全性が高いとされている漢方薬も「薬」のひとつであり、特に症状や体質に合わない場合などでは重篤な副作用があらわれることも考えられるため、服用中になんかしらの体調変化があった場合には医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することが大切です。

【参考】

・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
国立感染症研究所 「B型肝炎とは」