ししついじょうしょう(こうしけっしょう)
脂質異常症(高脂血症)
悪玉コレステロールが多い、または善玉コレステロールが少ない状態。動脈硬化を速め、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする
16人の医師がチェック 139回の改訂 最終更新: 2023.07.16

脂質異常症の症状:動脈硬化が原因で起きる病気やその症状など

脂質異常症は症状が現れにくい病気です。多くの人は何も症状を自覚することなく、動脈硬化が進行していきます。動脈硬化が進行すると狭心症心筋梗塞脳梗塞閉塞性動脈硬化症の原因になります。

1. 脂質異常症の症状

脂質異常症は、血液中の悪玉の脂質であるLDLコレステロール中性脂肪トリグリセリド)が多いか、善玉の脂質であるHDLコレステロールが少ない状態をいいます。実は、脂質の値に異常があっても、何も症状が現れないことが多いです。そのため、脂質異常症は診断が遅れやすい病気であり、また見つかっても治療の必要性を感じにくくなっています。

しかし、脂質異常症は進行すると血管の壁に脂質がくっついて血管を狭くし、血管の弾力を失わせることで様々な病気の原因になります。血管が狭くなったり、弾力が失われたりする状態を動脈硬化と言い、血管が詰まることの原因になります。

動脈硬化は脂質異常症以外にも高血圧や糖尿病によっても進行します。血圧が高い状態や血糖値が高い状態は血管を傷つけるためです。脂質異常症、高血圧、糖尿病による動脈硬化は全身の血管で起こり、もし動脈硬化が心臓や脳の血管に起こると狭心症心筋梗塞脳梗塞などの原因になります。

脂質異常症はなかなか症状があらわれにくい病気ですが、狭心症心筋梗塞脳梗塞の予防の観点からしっかり治療することが重要な病気です。

2. 動脈硬化が原因で起きる病気とその症状

脂質異常症は症状が現れにくい病気ですが、動脈硬化により起こる病気(動脈硬化性疾患)の原因になります。ここでは脂質異常症と関連のある以下の動脈硬化性疾患とその症状について説明します。

これらの病気は心臓や脳などに血液が行き渡らなくなることで起こるものです。最悪の場合、命に関わることもあります。ここで説明する症状の中にいくつか該当するものがある場合には、医療機関で調べてもらうことをお勧めします。

狭心症

狭心症は心臓に栄養や酸素を送る血管(冠動脈)が狭くなることで、胸の痛みや胸が締め付けられる感じといった症状が現れる病気です。心臓は心筋という筋肉でできていて、冠動脈から血液を受け取ることで、全身に血液を送る働きをしています。狭心症は冠動脈から心筋に十分な血液が流れなくなっている状態です。

狭心症の症状は以下のようなものがあります。

  • 胸の痛みや胸が締め付けられる感じ(通常は10分程度でおさまる)
  • 息切れ
  • 冷や汗
  • 肩の違和感や痛み
  • 吐き気

図:冠動脈は心臓を取り巻くように右に1本、左に2本ある。

冠動脈は右に1本(右冠動脈)と左に2本(左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝)存在します。狭心症は冠動脈が狭くなることで心臓に必要な量の栄養や酸素が行き届かなくなることで起こります。そのため、初期の狭心症では運動をした時など、必要な栄養や酸素の量が増えた時に狭心症の症状があらわれることが多く、その症状は10分程度と一時的です。

似た病気に心筋梗塞がありますが、心筋梗塞狭心症がさらに悪くなり、冠動脈の一部で完全に血流が途絶えた状態です。心筋梗塞では心臓への栄養や酸素の供給が完全に途絶えるため、心筋は壊死を起こします。心筋梗塞による壊死の範囲が広いと、心臓がポンプ機能を果たせなくなり、全身へ血液を送れなくなるため、最悪の場合、命に関わります。

狭心症が見つかった場合には、心筋梗塞になる前に治療を行う必要があります。治療法には、薬物療法や、カテーテルという細い管を使って狭くなった冠動脈を拡げる治療(カテーテル治療)があります。

狭心症について詳しくは「狭心症の詳細情報」でも説明しています。脂質異常症と言われている人で、上記の症状がある場合には医療機関で調べてもらうことをお勧めします。

心筋梗塞

心筋梗塞は心臓に栄養や酸素を送る血管(冠動脈)の血流が完全に途絶えることで胸の痛みや冷や汗、吐き気などの症状が現れる病気です。狭心症と症状は似ていますが、違いとして胸の痛みやしめつけの持続時間があります。狭心症の胸の痛みやしめつけの症状は30分以内(通常10分程度)でおさまるのに対し、心筋梗塞は30分たってもおさまらないことが多いです。

心筋梗塞は冠動脈の血流が完全に途絶えることで心筋の壊死が起こります。一度、壊死した心筋はもとに戻らず、また発症後、時間経過と共に壊死の範囲が広がっていくため、心筋梗塞は見つかり次第早急に治療を行う必要があります。心筋梗塞の治療としては薬物療法やカテーテル治療、手術(冠動脈バイパス術)を行います。

心筋梗塞狭心症から進行してなることも多いです。狭心症の中でも胸の痛みやしめつけなどの症状が安静時にある場合や、その症状の頻度が増えてきている場合は不安定性狭心症と呼ばれ、心筋梗塞になりかけている状態であると考えられています。そのため、このような不安定性狭心症の症状がある場合や、胸の痛みやしめつけの症状が30分経ってもおさまらない場合には、すぐに医療機関で調べてもらうことをお勧めします。

心筋梗塞について詳しくは「心筋梗塞の詳細情報」で説明しています。

脳梗塞

脳梗塞は脳の血管の一部が詰まり、脳に必要な栄養や酸素が行き届かなくなることで脳細胞が壊死する病気です。以下のような症状があらわれた場合には脳梗塞の可能性があります。

  • 突然片方の手や腕、足に力が入りにくくなった
  • まっすぐ歩いているつもりなのに、片側へ寄ってしまう
  • 文字がうまく書けなくなった
  • 突然、手でものを落とすようになった
  • よだれがこぼれるようになった
  • 顔の半分が歪んで、左右差が出てきた

脳細胞は一度壊死するともとには戻らないため、脳梗塞を起こすと運動や感覚の麻痺が残ります。また、重症な脳梗塞では、寝たきりになることや、命に関わることもあります。脳細胞の壊死の範囲は発症後、時間経過と共に広がっていくため、脳梗塞は見つかり次第早急に治療を行い、壊死の範囲が最小限になるようにします。脳梗塞の治療は薬物療法やカテーテル治療などがあります。脳梗塞について詳しくは「脳梗塞の詳細情報」で説明しています。

上記の症状が現れた場合には、すぐに医療機関を受診するようにしてください。

閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)

閉塞性動脈硬化症は手足につながる血管が動脈硬化により狭くなることで、以下のような症状が現れる病気です。

  • 手足の冷えがひどい
  • 手足がしびれる、痛む
  • 手足の指の色が青色に変化し、進行すると壊死して黒くなる
  • 手足の傷の治りが悪い
  • 歩くと足がしびれたり痛くなったりするが、少し休むとまた歩けるようになる

閉塞性動脈硬化症は命に直接関わる病気ではないですが、手足の痛みやしびれの原因になり、最悪の場合、指が壊死することもあり、生活の質を大きく下げます。そのため、脂質異常症の治療を行い、閉塞性動脈硬化症の予防をすることは非常に重要です。

閉塞性動脈疾患の治療では、カテーテル治療により狭くなった血管を広げることや、手術により「バイパス」という血管の迂回路を作ることで、血流が行き届くようにします。しかし、たとえ血管を広げたり、迂回路を作ったりしたとしても、脂質異常症の管理が悪いと血管の再閉塞の原因になります。そのため、カテーテル治療や手術を行った後も脂質異常症の治療もしっかり行い、動脈硬化の進行を抑える必要があります。