ししついじょうしょう(こうしけっしょう)
脂質異常症(高脂血症)
悪玉コレステロールが多い、または善玉コレステロールが少ない状態。動脈硬化を速め、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする
16人の医師がチェック 139回の改訂 最終更新: 2023.07.16

脂質異常症の検査:血液検査、頸動脈エコー検査、心電図検査など

脂質異常症の検査では身長・体重・腹囲測定、血圧測定、血液検査、心電図検査頸動脈エコー検査、脈波検査などを行います。これらは、脂質異常症の診断、動脈硬化の状態の評価、脂質異常症の治療効果判定などに用いられます。

1. 身長・体重・腹囲測定

脂質異常症は肥満と密接に関わる病気です。肥満が原因の脂質異常症では、肥満自体を改善しないと脂質異常症が良くならないことも珍しくありません。肥満であるかを判定するためには、身長と体重からBMI(ビーエムアイ)を計算します。

  • BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

例えば、体重60kgで身長170cmの人のBMIは60÷1.7÷1.7=20.8になります。正常のBMIは18.5から25であり、BMIが25以上の時に肥満に該当します。

BMIと合わせて、腹囲の測定も重要です。腹囲は内臓についた脂肪(内臓脂肪)の量を反映すると言われているためです。腹囲はへその高さで計測し、男性85cm、女性90cmの時に内臓脂肪の面積が身体の水平断面で100cm2に相当することが分かっています。そのため、腹囲の基準は男性85cm、女性90cmにされており、この基準がメタボリックシンドロームの診断の基準の一つにされています。

次にメタボリックシンドロームの診断基準を示します。以下の必須項目に加えて選択項目2つ以上に当てはまる場合にメタボリックシンドロームと診断します。

  • 必須項目
    • 腹囲 男性85cm以上 女性90cm以上
  • 選択項目
    • 中性脂肪≧150mg/dLかつ/またはHDL<40mg/dL
    • 収縮期(最大)血圧≧130mmHgかつ/または拡張期(最小)血圧≧85mmHg
    • 空腹時血糖≧110mg/dL

脂質異常症は動脈硬化の原因となり、動脈硬化によって狭心症心筋梗塞脳梗塞などを起こすことが問題になります。しかし、動脈硬化を引き起こす原因は脂質異常症だけでなく、他にも肥満、高血圧、高血糖などがあります。そのため、動脈硬化を起こす原因をひっくるめ、動脈硬化を早期から予防するために作られた考え方がメタボリックシンドロームです。メタボリックシンドロームの人は生活習慣の改善のため、医師や保健師・管理栄養士の指導が設けられます。

このように脂質異常症ではBMIや腹囲から肥満や内臓脂肪の評価を行い、方針決定に役立てられます。

2. 血圧測定

脂質異常症の人では血圧管理も重要になります。脂質異常症は動脈硬化を起こすことが問題になりますが、高血圧があると動脈硬化がさらに悪化するためです。

高血圧とは、病院や健診などで測定した血圧(診察室血圧)が、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上(140/90mmHg以上)の状態をいいます。自宅で測定した血圧(家庭血圧)では収縮期血圧135mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上(135/85mmHg以上)を高血圧とします。病院や健診では緊張から血圧が高めに出てしまうため、家庭血圧の基準値は診察室血圧のものから5を引いた値に設定されています。

高血圧は動脈硬化を悪化させ、狭心症心筋梗塞の原因となります。そのため、高血圧は狭心症心筋梗塞危険因子の一つとされています。他にも危険因子には、慢性腎臓病糖尿病、年齢、喫煙などがあります。血液中の脂質の値は管理目標値を目指して治療を行いますが、血液中の脂質の値の中には危険因子の数が多いと管理目標値が厳しくなるものがあります。

動脈硬化の予防のためには、脂質異常症と並行して血圧管理も行っていく必要があります。

3. 血液検査

血液検査では血液中の脂質の値を調べることができます。脂質異常症の診断は血液中の脂質の値によってなされるため、診断のためには血液検査が必要です。

健診や診療で測定される血液中の脂質の測定値には以下の4種類のものがあります。

  • LDLコレステロール(LDL-C)
  • HDLコレステロール(HDL-C)
  • 中性脂肪(TG)
  • 総コレステロール(TC)

脂質異常症は以下のいずれかを満たす時に診断されます。

LDLコレステロール

140mg/dL以上の時(高LDLコレステロール血症)

HDLコレステロール

40mg/dL未満の時(低HDLコレステロール血症)

中性脂肪

150mg/dL以上の時(高トリグリセリド血症

Non-HDL コレステロール

170mg/dL以上の時(高Non-HDLコレステロール血症)

Non-HDLコレステロールの値は総コレステロールの値からHDLコレステロールの値を引いたものです。脂質異常症は高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症、高Non-HDLコレステロール血症のいずれかを満たした状態です。

以下で詳しく説明していきます。

LDLコレステロール(LDL-C)

コレステロールは細胞の膜を構成しているほか、胆汁酸という消化液やホルモンの材料ともなる物質です。コレステロールは身体の様々な場所で必要とされる栄養素であり、LDLコレステロールという形で、肝臓から血管を介して必要な場所に送り届けられます。しかし、LDLコレステロールは多すぎると血管にくっつき、動脈硬化の原因となることがわかっています。このことから、LDLコレステロールは動脈硬化を進行させる悪いコレステロールとして「悪玉コレステロール」と呼ばれることもあります。

LDLコレステロールが140mg/dL以上の時、高LDLコレステロール血症と判定されます。LDLコレステロールの管理目標値は、狭心症心筋梗塞になったことがあるかや危険因子をいくつ持っているかによって決められます。

具体的にLDLコレステロールの管理目標値は以下のようになります。

(専門的な内容になるので読み飛ばしていただいても構いません)

【LDLコレステロール管理目標値】

狭心症心筋梗塞になったことがあるか

狭心症心筋梗塞のリスク

管理目標値

ない

低リスク

LDL < 160mg/dL

中リスク

LDL < 140mg/dL

高リスク

LDL < 120mg/dL

ある

いずれの場合も右記

LDL < 100mg/dL

ここで「低リスク」「中リスク」「高リスク」とある分類は以下の基準で決めます。

狭心症心筋梗塞のリスク分類の仕方】

糖尿病慢性腎臓病、非心原性脳梗塞末梢動脈疾患があるか

性別

年齢

危険因子の個数

リスク分類

ある

いずれの場合も右記

高リスク










 

ない




 

男性

 

40-59歳

0個

低リスク

1個

中リスク

2個以上

高リスク

 

60-74歳

0個

中リスク

1個

高リスク

2個以上

高リスク




 

女性

 

40-59歳

0個

低リスク

1個

低リスク

2個以上

中リスク

 

60-74歳

0個

中リスク

1個

中リスク

2個以上

高リスク

※危険因子は以下の通り

  • 喫煙
  • 高血圧
  • 低HDLコレステロール血症
  • 耐糖能異常
  • 男性55歳未満、女性65歳未満で狭心症心筋梗塞になった親子・兄弟がいる

上記の狭心症心筋梗塞のリスク分類は大阪府吹田市の調査(J Atheroscler Thromb. 2014; 21: 784-98)のデータをもとに決められています。ほかの方法として、危険因子の数ではなく、危険因子のそれぞれを得点化し、合計点で狭心症心筋梗塞のリスク分類やLDLコレステロールの管理目標値を決める方法(吹田スコア)もあります。これらの方法によるLDLコレステロールの管理目標値の算出は複雑ですが、日本動脈硬化疾患のホームページで管理目標値の算出ツールも提供されています。

参考文献:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版, 日本動脈硬化学会, 2017

HDLコレステロール(HDL-C)

血管壁についたコレステロールはHDLコレステロールという形で肝臓へと回収されていきます。HDLコレステロールの値は血管壁についたコレステロールがどれだけ回収されているかの指標となり、高い方が動脈硬化を抑えるように働いていると考えることができます。そのため、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれ、値が低いことが動脈硬化のリスクとなります。

HDLコレステロールは40mg/dL未満の時、低HDLコレステロール血症と判定されます。HDLコレステロールの管理目標値は40mg/dL以上です。

中性脂肪(TG)

中性脂肪は身体を動かすエネルギー源となる脂質です。トリグリセリドとも呼ばれます。中性脂肪は多いと肥満脂肪肝、動脈硬化の原因になります。中性脂肪は150mg/dL以上の時、高トリグリセリド血症と判定されます。中性脂肪の管理目標値は150mg/dL未満です。

総コレステロール(TC)

コレステロールにはLDLコレステロールやHDLコレステロールに加えて、レムナント様リポタンパク(RLP)コレステロールがあり、これらコレステロールの総量を表すのが総コレステロールの値です。総コレステロールは善玉であるHDLコレステロールも含むため、総コレステロールの値からHDLコレステロールの値を引いたNon-HDLコレステロールの値を重要視します。悪玉コレステロールはLDLコレステロール以外にもあることがわかってきており、LDLコレステロール以外の悪玉コレステロールも含んだ値として、Non-HDLコレステロールの値が計算されます。Non-HDLコレステロールは170mg/dL以上の時、高Non-HDLコレステロール血症と呼ばれます。Non-HDLコレステロール血症の管理目標値は以下の通りです。

狭心症心筋梗塞になったことがあるか

狭心症心筋梗塞のリスク

管理目標値

ない

低リスク

Non-HDL < 190mg/dL

中リスク

Non-HDL < 170mg/dL

高リスク

Non-HDL < 150mg/dL

ある

いずれの場合も右記

Non-HDL < 130mg/dL

これらの管理目標値を目指して脂質異常症の治療は行われます。

Friedewald(フリードワルド)の式とは

日本では血液中のLDLコレステロールの値を直接測ることができます(直接法といいます)。一方、海外では以下のFriedewaldの式を用いてLDLコレステロールの値を計算することが多いです。

LDLコレステロール(mg/dL)=総コレステロール(mg/dL)-HDLコレステロール(mg/dL)-中性脂肪(mg/dL)/5

例えば、総コレステロールが210mg/dL、HDLコレステロールが50mg/dL、中性脂肪が150mg/dLの場合には、LDLコレステロールは210-50-150/5=130mg/dLと計算されます。

LDLコレステロールが動脈硬化性疾患のリスクになることは、海外の研究でも示されていることですが、この時のLDLコレステロールはFriedewaldの式から求められたものを用いていることが多いです。そのため、LDLコレステロールを直接法で調べず、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の値から計算する医療機関もあります。

4. 心電図検査

脂質異常症は動脈硬化によってさまざまな病気の原因になりますが、中でも怖いのは狭心症心筋梗塞です。脂質異常症では狭心症心筋梗塞を早期に見つけるため、定期的に心電図検査を行います。

心電図検査は心臓が動くために発する電気信号を調べる検査です。電気信号は機械の画面上や紙の上に折れ線の心電図として表されます。心電図検査にはいくつか種類がありますが、よく使われるのは12誘導心電図検査というタイプです。12誘導心電図検査は胸6か所と手足に1か所ずつ合計10か所に測定器を装着します。合計10か所の測定器を用いることで、心臓を上下左右のあらゆるポイントから観察することができます。狭心症心筋梗塞により心臓の動きが悪くなると、心電図にも変化が現れます。12誘導心電図検査では狭心症心筋梗塞の種類や発生した時期、心臓の動きが悪くなっている場などを推定することができます。

5. 頸動脈エコー検査

エコー検査は超音波を出す小さな装置を使って身体の中を画像に映し出す検査です。頸動脈エコー検査では頸動脈と呼ばれる首の血管を調べます。頸動脈の動脈硬化の程度は全身の血管の状態を反映すると言われていることから、頸動脈エコー検査は全身の動脈硬化の程度を調べる検査として広く用いられています。

頸動脈エコー検査での代表的な評価項目は以下の二つです。

  • 血管内プラークの有無
  • 血管の壁の厚さ

以下で詳しく説明していきます。

血管内プラークの有無

血管内プラークとは血管が詰まる原因となるふくらみのことを言います。血管内プラークはコレステロールなどの脂質が壁にくっつくことでできます。頸動脈は脳につながるため、頸動脈に血管内プラークがあると、血管内プラークが崩れて脳に流れていき、脳梗塞の原因になる恐れがあります。また、プラークの大きさや性状を調べることで、血管内プラークが飛ぶことによる脳梗塞のリスクを予想することができます。頸動脈エコー検査の結果から脳梗塞を起こすリスクが高いと予想される場合には、予防のための治療が必要になる場合もあります。

血管の壁の厚さ

血管の壁の厚さを調べることで、動脈硬化の状態を把握することができます。血管は内膜、中膜、外膜の3層から構成されますが、頸動脈エコー検査による血管の壁の厚さの評価では内膜と中膜の厚さの合計(内膜中膜複合体厚)を調べます。内膜中膜複合体厚が厚いほど、動脈硬化が進行していると考えられ、また血管内プラークもできやすくなります。

このように頸動脈エコー検査では血管内プラークの有無や血管の壁の厚さを調べ動脈硬化の程度を把握していきます。

頸動脈エコー検査は痛みを伴うこともなく、X線検査CT検査のように放射線に被曝することもありません。検査は15-30分程度で終了します。

6. 脈波検査

脈波検査は血圧計を用いて動脈硬化や血管の詰まりの程度を把握する検査です。血圧脈波検査と呼ばれることもあります。動脈は太くなったり細くなったりして、脈をうつことで血液を送り出す役割があります。しかし、動脈硬化が進み、血管の壁が硬くなる(弾力がなくなる)と、動脈の太くなったり、細くなったりがうまくできなくなります。脈波検査ではこの変化を捉えることで、動脈硬化の程度を推定することができます。

脈波検査は両手、両足の4箇所に血圧計を巻いて、手足の血管の状態を調べます。脈波検査で調べる動脈硬化や血管の詰まりの指標には以下のようなものがあります。

  • PWV(脈波伝播速度)
  • CAVI(心臓足首血管指数)
  • ABI(足関節上腕血圧比)

以下でこれらの指標について詳しく説明していきます。

PWV(脈波伝播速度)

心臓の収縮により押し出された血液は、動脈が太くなったり細くなったりすることで、全身へ送られていきます。この血管が太くなったり、細くなったりする変化を私たちは「脈」として捉えています。

全身へ血液がスムーズに送られるためには、血管の弾力性が保たれている必要があります。動脈硬化が進み、血管の弾力性が失われると、脈の伝わる速度に変化があらわれます。PWVはこの原理を応用し、脈の伝わる速度を調べることで動脈硬化の程度を把握するものになります。ただし、PWVは測定した時の血圧の値に検査結果が影響を受けるという弱点があります。

CAVI(心臓足首血管指数)

PWVは動脈硬化の程度を調べられますが、大きな弱点として、測定した時の血圧の値に検査結果が影響を受けるというものがありました。そこで、血圧の値の影響を受けない指標として考案されたのが、CAVIになります。

CAVIもPWVと同様、脈波の伝わる速度から動脈硬化の程度を算出していますが、計算法が異なり、血圧の値の影響を受けないような工夫がされています。

ABI(足関節上腕血圧比)

ABIは左右の手足の血圧を比べることで、血管の細さを推定する指標です。動脈硬化が重度になり、血管が狭くなった場所や詰まった場所があると、そこの部位は、他のところと比べて血圧が低くなります。ABIはこの原理を応用し、左右の手足の血圧を比較することで、狭くなっている血管を予想することができます。

脈波検査ではこれらの指標を参考にしながら、動脈硬化や血管の詰まりを評価していきます。脈波検査は痛みを伴うようなことはなく、検査は10-15分程度で終了します。