2017.08.27 | ニュース

コレステロールを下げる注射は高すぎるのか?費用対効果の推計

PCSK9阻害薬の効果と疫学データから
from JAMA
コレステロールを下げる注射は高すぎるのか?費用対効果の推計の写真
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エボロクマブ、アリロクマブなどのPCSK9阻害薬は、血中のコレステロールを減らす強力な作用がありますが、高価なことでも知られています。アメリカの統計をもとに費用対効果が推計されました。

アメリカの研究班が、統計データを使ってPCSK9阻害薬による効果と費用を推計し、医学誌『JAMA』に報告しました。

 

PCSK9阻害薬は血液からコレステロールを減らす薬です。日本でもエボロクマブ(商品名レパーサ®)、アリロクマブ(商品名プラルエント®)が承認され使用されています。2週間ごとまたは4週間ごと(通常プラルエントは2週ごとのみ)に注射して使います。

PCSK9阻害薬はコレステロールを減らす強力な作用が報告されていますが、高価な薬でもあります。たとえばレパーサは、日本では2週間に1回の注射140mgあたり22,948円の薬価と決められています。同じ量を52週使うと596,648円、うち3割が自己負担とすると178,994円です(実際に支払う際の計算方法と正確には一致しません。また治療法によって用量が変わる可能性があります)。

この研究では、PCSK9阻害薬の費用は年間14,542ドル(約160万円)として計算されました。日本の3倍近い金額ですが、アメリカで流通している金額が参考にされています。

(注:レパーサの価格の例

対して、コレステロールを減らす治療としてはスタチンと呼ばれる種類の薬がより一般的に使われています。アトルバスタチン(商品名リピトール®)などがスタチンに分類されます。リピトールは1日1回20mgを飲むとすると薬価が1日197.2円、365日分では71,978円、うち3割自己負担とすると21,593.4円です(ほかのスタチンを使う場合もあります。またジェネリック医薬品を使用可能な場合もあります)。

PCSK9阻害薬はスタチンで効果が不十分な場合に使うとされているため単純には比較できませんが、PCSK9阻害薬を加えることで8倍以上の費用がかかる可能性があると言えます。

スタチンのほかにエゼチミブ(商品名ゼチーア®)という薬もあります。ゼチーアは1日に10mg使用すると薬価185.3円です。

 

高コレステロール血症は、心筋梗塞脳卒中などの動脈硬化心血管疾患につながる可能性があります。コレステロールを減らす治療の目的は、心筋梗塞脳卒中を減らすこと、さらにそれによる死亡を減らすことです。

研究班は、アメリカの35歳以上の人に起こる心筋梗塞脳卒中や死亡の人数などを統計データから推計した数理モデルを参照しました。また、過去の研究報告をもとにPCSK9阻害薬によって病気や死亡が防がれる割合を計算しました。

効果の指標として「QALY」という単位を使いました。1QALY(quality-adjusted life-year)の効果は「完全に健康な状態で1年間長く生きること」に相当します。研究班は1QALYを増やすために10万ドルという費用対効果を目標に設定しました。

 

推計から次の結果が得られました。

PCSK9阻害薬をスタチンに加えることで、エゼチミブを加える場合に比べてさらに2,893,500件の主要心血管イベントが防がれ、増分費用効果比はQALYあたり450,000ドル[...]だった。PCSK9阻害薬がQALYあたり100,000ドルの基準で効果が費用に見合うためには年間薬剤コストが71%(4,215ドル以下まで)減少する必要があった。

スタチンに加えてPCSK9阻害薬を使って治療すると、心筋梗塞脳卒中・それによる死亡が防がれることにより、エゼチミブを使った場合に比べて1QALYを増やすごとに45万ドルかかると見積もられました。PCSK9阻害薬は、計算に使った価格から71%値下げされなければ、1QALYあたり10万ドル以内の目標に収まらないと計算されました。

 

PCSK9阻害薬の費用対効果の研究を紹介しました。

アメリカでの価格から大幅に下げることが結論されていますが、日本での薬価は目標値を上回るものの、比較的適正に近いと言えるかもしれません。

脂質異常症を治療したいと思うかどうかは個人の価値観にもよります。心筋梗塞脳卒中を予防できなくてもいいので毎月注射を打つのは嫌だという人がいても、治療を強制することはできません。反対に、お金はいくらかかってもいいので予防になることは何でもしたいという人もいるかもしれません。

対して、あまりに高額な薬が多用されると保険制度が維持できなくなるのではないかという議論があります。たとえば抗がん剤のオプジーボ®(一般名ニボルマブ)は「高すぎる」という意見が出ていたことを受け、2017年2月に以前の半額の薬価に値下げされました。この値下げが決定した2016年11月に、日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会は「日本における新薬の研究開発意欲を削ぐことにつながる」「現行ルールを大きく逸脱したものであり、今後二度とあってはならない」とする声明を出しています

 

必要な薬を必要な人に届けるために、高額な治療薬をどう扱うかが世界的に大きな論点となっています。今後も世論が問われる場面がたびたび現れるかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Updated Cost-effectiveness Analysis of PCSK9 Inhibitors Based on the Results of the FOURIER Trial.

JAMA. 2017 Aug 22.

[PMID: 28829863 ]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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