2017.08.17 | ニュース

コレステロールは本当に薬で下げるべき?イェール大学教授の提言

スタチンとその他の薬剤の使用について

from JAMA

コレステロールは本当に薬で下げるべき?イェール大学教授の提言の写真

最後にコレステロール値を測ったのはいつですか?血液中のコレステロールを減らす薬剤は、誰がどの程度使うべきかについて最近も議論が続いています。現在考えられる使い方の提言を紹介します。

イェール大学教授のハーラン・クルムホルツ氏が、医学誌『JAMA』に寄稿した意見文の中で、血液中のコレステロールを減らす治療の方針について、現在示されている研究結果などをもとに提案しました。

コレステロールは動脈硬化との関係が知られています。動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患と総称される病気の主要な原因のひとつです。

その一方でコレステロールは、一部のホルモンの原料となるなど、体にとって必要な役割もあります。また、コレステロールを減らす薬剤を使うことで副作用が現れる場合もあります。

血液中のコレステロールが多い状態(高コレステロール血症)は病気につながる恐れがあると考えられています。治療として、コレステロールを減らすことのできる薬剤があります。ここでは主に3種類の薬剤が話題にされています。

  • スタチン
    • ある種の薬の総称です。アトルバスタチン(商品名リピトール®など)などがスタチンに分類されます。飲み薬です。3種類のうち最も早くから使用され、多くの面から研究された蓄積があります。
  • エゼチミブ
    • 日本では商品名ゼチーア®として使用されています。飲み薬です。海外ではジェネリック医薬品も使用されています。
  • エボロクマブ
    • 注射する薬です。3種類のうちでは最も新しく、アメリカでは2015年に承認されました。日本では商品名レパーサ®として使用されています。日本での使用は、心血管疾患のリスクが高い人に限って、スタチンで効果が不十分な場合にスタチンと同時に使うことと決められています。

現在までに行われた研究で、スタチンは心血管疾患の症状を経験した人の再発予防などに有効であることが示されています。エゼチミブとエボロクマブはコレステロール値を下げる効果がはっきりしていますが、その結果として心血管疾患をどの程度予防できるかについては慎重な意見もあります。

 

一般に、コレステロール値を下げることと病気を予防することは同じではないとわかってきています。薬剤によって違った副作用などもあります。例としてナイアシン(ビタミンB3)は病気を防ぐ効果がなく副作用が出たとする大規模研究などが挙げられています。

このように、薬剤でコレステロール値が下がったとしても、それが病気の予防になるかを知るには別の証拠が必要と考えられています。

エゼチミブについてはIMPROVE-IT試験、エボロクマブについてはFOURIER試験という研究で、それぞれ何らかの病気の予防効果が得られたことが報告されています。

しかし、2016年にアメリカの食品医薬品局(FDA)は、エゼチミブの用途(適応症)を心筋梗塞・脳卒中の予防まで拡大するにはIMPROVE-IT試験の結果では不十分という見解を示しています。

 

クルムホルツ氏は、効果と副作用に加えて費用も重視しています。スタチン・エゼチミブ・エボロクマブの中ではスタチンが最も安価です。エゼチミブは(アメリカでは)安価なジェネリック医薬品を使用することもできます。エボロクマブは最も高価です。

日本で使用可能な製品に当てはめると、アトルバスタチン20mgを1日に使用すると薬価は87円となります(ジェネリック医薬品の薬価)。エゼチミブ(ゼチーア)を1日に10mg使用すると185.3円です。エボロクマブ(レパーサ)は2週間に1回の注射140mgあたり22,948円です。

クルムホルツ氏は、「意志決定はリスク低下についてであり、コレステロール値についてではない」との見かたのもとで、コレステロール値を下げる薬剤治療の考えかたを提案しています。

  1. 動脈硬化による病気のリスクを評価する
  2. 禁煙・食事・運動・適正体重維持など健康的な生活習慣を勧める
  3. 脂質を減らす薬剤の利益とリスク、コストを相談する
  4. 薬剤は高リスクの人には高用量、低リスクの人には低用量で始め、患者がよりリスクを減らしたいと希望すれば増量を考える
  5. 症状をすでに経験していて、さらにリスクを減らしたいと希望する患者には証拠のあるスタチン以外の治療を考える。エゼチミブよりあとにエボロクマブも考えられる
  6. スタチン耐性が軽度または中等度に現れた場合は、スタチン以外の証拠のある治療の前にほかのスタチンを考える
  7. 病気を減らした証拠がない薬剤は、特に安全性の懸念がある薬剤は使用を避ける
  8. アドヒアランス(処方した用法・用量を守って薬を飲んでいること)を計るために脂質の検査をしてもよい
  9. 患者の考え、薬剤治療の方針、薬剤耐性について常に再評価する

 

コレステロールについてアメリカの医師の意見を紹介しました。

この考えによれば、高コレステロール血症の治療中に繰り返しコレステロール値を測らなくてもよく、測るとしてもその目的は「薬が効いているかどうか」ではなく「薬を飲んでいるかどうか」だということになります。

そしてコレステロール値が下がったかどうかは薬を増やしたり替えたりする第一の理由にはならないとも言えます。

 

コレステロール値と治療薬、そして病気の関係は、現在も研究途上です。

検査値が「異常」だから「正常」にしよう…と考えるのは、おかしいことではありません。しかし、数値が絶対ではありません。健康診断などで数値を見ると、自分の健康状態を客観的に評価できているように感じるかもしれませんが、その数値が何を意味するかは注意して解釈する必要があります。

 

いま服薬や検査を続けている人については、主治医がその必要があると考えた結果であり、第三者の主観によって変えるべきとは言えません。

ただ、薬を飲みながら不安な気持ちや納得いかない気持ちを抱えている人がもしいれば、主治医に説明を求めるのは良いことです。自己判断で薬をやめたり、紹介なしに病院を変えたりするのは危険です。自分が望む医療を手に入れるには、主治医との間で人間として話し合える関係を作ることが第一歩です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Treatment of Cholesterol in 2017.

JAMA. 2017 Aug 1.

[PMID: 28738130]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る