医師の言葉で治療を助ける
アメリカのブリガム&ウィメンズ病院精神科のアーサー・バースキー医師が、医学誌『JAMA』に寄稿した意見文で、医師が患者にかける言葉が治療を助ける可能性についての考察を述べています。
患者の思考が症状を強く感じさせる?
バースキー氏は、同じ病気でも人によって症状は大きく違うことから、症状を強くしたり弱くしたりする可能性がある要素として、患者の考えや信念に注目しています。
例としていくつかの研究報告を挙げています。
- 薬の副作用に疲労感などあいまいで特定しにくいものがあることを知っている人では、知らない人よりもそのような副作用を感じることが多かった
- 高血圧の治療のためにβ遮断薬を処方された人の中で副作用として勃起不全の可能性を説明された人では、説明されなかった人よりも実際に勃起不全が現れる割合が増えた
- スタチン(血中のコレステロールを減らす薬)の研究で、対象者がスタチンを飲んでいるかどうか知らされていなかった時期よりも、全員がスタチンを飲んでいることを知らされた時期のほうが筋肉関連有害事象が増えた
これらの例をもとに、患者の思考や医師からかけられる言葉によって症状をより重く感じてしまい、悪循環となるしくみを次のように説明しています(概要)。
ひどくないが不快な身体感覚・特定できる病気の症状が現れる
↓
医師から情報を伝えられる
↓
医学的に深刻かもしれないと考える・原因を考え直す・心配が高まる・さらに深刻な説明をされる(認知のシフト)
↓
注意が偏る・より症状に注意するようになる・体が過敏になる・予期したとおりの症状があると印象に残る・不安が増す
↓
症状の強さ・回数・不快さをより強く感じ、深刻なものではないかという疑いが強まる(認知のシフトを繰り返す)
こうした仕組みで症状を悪く感じてしまう悪循環に対抗するために、バースキー氏は医師から患者へどんな情報をどのように伝えるかの工夫を提案しています。
- 症状について患者の考えを尋ね、心配していることに答える
- 症状を悪く感じてしまう仕組みを説明する
- 悪い結果があるのではないかという心配を減らすような説明をする
- 痛みを伴う処置では痛みを軽くするために何をするかを強調する
- 薬の副作用については副作用が現れない人の割合を説明し、薬の利益の情報と強く結びつける
- 副作用はあらかじめ説明し注意を促すが、重要でない副作用を必要以上に数え上げることはしない
どうすれば安心して治療を続けられるのか?
不安によって症状を強く感じてしまう循環と、それに対抗する言葉について、アメリカの医師の意見文を紹介しました。
この意見文はデータを厳密に検証する種類のものではなく、あくまで著者の意見として提示されたものですが、考えさせられる点も多いのではないでしょうか。
もちろん、個別の主張については違う考えの人もいるでしょう。たとえば軽い副作用まで含めて詳しく教えてもらえるほうが安心できるという人もいるかもしれません。一般に患者と医師の間で話し合うことは個々の状況によって大きく違います。有益なアドバイスがあったとしても、全ての人に当てはまるとは限りません。
とはいえ、患者の不安な気持ちに重みがあること、そこに医師の言葉が強く影響することは間違いありません。
もし副作用が出ないか不安だと強く感じた経験があれば、その気持ちを医師にうまく伝えることが、大切な相談のきっかけになるかもしれません。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。