2019.05.28 | コラム

高血圧症の薬は一生飲み続けないといけないのか?

減塩以外にも高血圧症を改善できる生活習慣があります

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「高血圧」と聞くと、対策として「減塩」を思い浮かべる人が多いと思います。筆者が外来診療をしていると、減塩については知っている人が多いものの、それ以外に取り入れると良いライフスタイルについて知っている人はあまりいません。

 

減塩以外の方法として「食事療法」、「肥満の解消」、「有酸素運動」が高血圧症の改善には効果的です。高血圧症の薬は飲み続けることになる人が多いのですが、これらを生活に取り入れることで、健康的に薬を減らしたり中止したりできることがあります。

 

1. 高血圧のガイドライン改定で目標血圧が厳しくなった

高血圧症になっても症状が出ることはあまりありません。しかし、血圧が高い状態が続くと動脈硬化が進んでいき、脳出血、脳梗塞、慢性腎臓病、心筋梗塞などにつながることがわかっているので、高血圧を放置しないことが大切です。どのくらいまで血圧を下げると良いかの目標値は、日本高血圧学会が作成する「高血圧治療ガイドライン」が目安にされます。2019年4月にこのガイドラインが約5年ぶりに改定され、最新の知見を踏まえて血圧の目標値が以前より厳しく設定されました

血圧の目標値は、年齢や高血圧症以外にかかっている病気によって変わります。たとえば、75歳未満で持病が高血圧症のみである人が診察室で血圧を測ったときの目標の値は、これまでは140/90mmHg(収縮期血圧/拡張期血圧)であったのが、今回の改定で130/80mmHgに下げられました。(収縮期血圧はいわゆる上の血圧、拡張期血圧は下の血圧といわれるものです。)

この改定により、高血圧症で医療機関を受診している人は、処方される高血圧の薬が増える可能性があります。薬が増えると、嫌気がさして飲まなくなってしまうこともあるため、内服量に関してはお医者さんも苦心してます。そこで重要になるのが生活習慣の改善です。生活習慣を変えて血圧を良い状態に保つことができれば、高血圧症の薬を減らしたりやめたりすることも可能です。

 

2. 高血圧症の改善に効果がある生活習慣とは?

高血圧症の人に減塩が重要であることはよく知られています。治療では1日の食塩摂取量の目標を6g未満にすることが勧められます。日本人の1日あたりの食塩摂取量の平均は20歳以上で9.9g(2017年国民健康・栄養調査報告より)なので、意識して減らさなければいけない人が多いと考えられます。

ある研究では、高血圧症の人が1日あたりの食塩摂取量を平均で4.6g減らすと、収縮期血圧が平均5.0mmHg低下したと報告しています。減塩は降圧効果が期待でき治療に欠かせない方法ではありますが、薬が減らせるほど血圧が下がらない人もいます。そこで、減塩に加えて取り入れると良い食事療法の「DASH食」や肥満の改善、有酸素運動を紹介します。

 

高血圧症に有効なDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertention)とは何か

DASH食とは高血圧症の改善を目的にアメリカで開発された食事です。カリウムやカルシウム、マグネシウム、食物繊維といった栄養素に富んだ食材を増やして、飽和脂肪酸の摂取を減らすことで血圧を下げる効果が期待できます。DASH食で摂取を増やす食品と減らす食品に分けて、下記に列記します。

 

  • DASH食で摂取を増やす食品
    • 野菜
    • 果物
    • 豆類
    • 低脂肪乳製品
    • 全粒穀物(玄米やオートミールなど)

 

  • DASH食で摂取を減らす食品
    • 牛肉・豚肉
    • スナック菓子や甘い菓子
    • 飽和脂肪酸の多い食品(卵、チーズや生乳などの高脂肪乳製品など)

 

ある研究では、DASH食を提供された高血圧症の患者さんは、DASH食ではない食事を提供された患者さんと比べて、収縮期血圧が平均11.4mmHg低下しました。また高血圧症の患者さん自身が食事を用意して行った研究でも、DASH食を摂ることで、4.3mmHg程度の血圧低下がみられました。このような研究結果から、DASH食は高血圧症の改善に有効であると考えられています。

ただし、高血圧症以外の病気がある人の中には、DASH食を避けたほうがよい人もいます。たとえば、カリウムの摂取制限が必要な「腎臓の機能が低下している人」では野菜や果物を増やさないほうがよいですし、「糖尿病の人」では果物や全粒穀物は増やしすぎないほうがよいです。高血圧症以外の病気がある人は、DASH食を摂ってよいかどうかお医者さんに相談してください。

 

肥満の改善でどのくらい血圧が下がるか

肥満を指摘されている人は減量が降圧に有効な方法です。ある研究では、体重を平均4.0kg減らした人たちで、収縮期血圧は4.5mmHg程度下がりました。

では、体重の目標値をどのように決めたらよいのかを説明します。目標値はBMI(Body mass index)という数値を参考に決めます。BMIは体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められる値です。「高血圧治療ガイドライン2019」では、肥満で高血圧症がある人は、BMIを25未満に維持することを推奨しています。

 

  • BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
  • BMI25の体重(kg)=25×身長(m)×身長(m)

 

たとえば筆者は体重84kg、身長1.69mなのでBMIは84÷1.69÷1.69=29.4となります。もし私と同じ身長であれば、BMI25の体重は25×1.69×1.69=71.4kgとなり、BMI25未満を目標にするならば、あと12.6kgの減量が必要ということになります。

とはいえ体重の減らしすぎや急激な体重減少は健康を損ねる可能性があります。減量の仕方についてわからないことがあれば、お医者さんや栄養士さんに相談してみてください。

 

有酸素運動でどのくらい血圧が下がるか

ある研究の報告によると、高血圧症の人が30-60分の有酸素運動をすることで、4.6mmHg程度の血圧低下が見込まれるといわれています。血圧を下げるためには、毎日30-60分程度の有酸素運動をするとよいです。ただし高血圧症の治療が不十分である人や、高血圧症以外の病気がある人は運動を控えたほうがよいこともあるので、かかりつけのお医者さんに確認のうえで取り入れることをお勧めします。

 

このコラムによって減塩以外にも高血圧症に効果的な方法があることを知って、生活改善にチャレンジしてもらえることを願っています。

参考文献

・He FJ, et al.Effect of modest salt reduction on blood pressure:a meta-analysis of randomized trials. Implications for public health. J Hum Hypertens. 2002;16:761-770.

・Semlitsch T, et al. Long-term effects of weight-reducing diets in people with hypertension. Cochrane Database Syst Rev.2016:CD008274.

・Appel LJ, et al. A clinical trial of the effects of dietary patterns on blood pressure.DASH Collaborative Research Group.1997;336:1117-1124.

・Appel LJ, et al. Effects of comprehensive lifestyle modification on blood pressure control: main results of the PREMIER clinical trial. 2003; 289:2083-2093.

・Dickinson HO, et al. Lifestyle interventions to reduce raised blood pressure :a systematic review of randomized controlled trials. 2006;24:215-233.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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