ししついじょうしょう(こうしけっしょう)
脂質異常症(高脂血症)
悪玉コレステロールが多い、または善玉コレステロールが少ない状態。動脈硬化を速め、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする
16人の医師がチェック 132回の改訂 最終更新: 2019.07.08

脂質異常症の治療:食事療法、運動療法、薬物療法など

脂質異常症の治療は食事療法、運動療法、薬物療法を主軸に行います。食事療法は脂質やカロリーの摂りすぎなどに気をつけます。運動療法はカロリーを消費することで、脂質異常症を改善します。薬物療法はスタチン系薬などの治療薬を使います。

1. 脂質異常症の治療には何があるか

脂質異常症の治療は食事療法、運動療法、薬物療法を主軸に行います。

コレステロールなどの脂質成分は食事に含まれており、脂質成分の過剰摂取は血液中の脂質の上昇の原因になることが分かっています。また、食事は身体活動のエネルギーの源になりますが、過剰な食事摂取により消費できなかったエネルギーは脂質(脂肪分)として身体に蓄積します。食事療法はコレステロールの摂り過ぎやカロリーの過剰摂取に注意するなど、適切な食事を行うことで脂質異常症の改善を目指す治療法です。

運動療法は消費するエネルギーを増やすことで、身体に蓄積した脂肪を減らし、血液中の脂質を改善します。ジョギングなどの有酸素運動が脂肪の燃焼に優れており、脂質異常症の運動療法として推奨されています。

薬物療法は薬により、コレステロールの合成を抑えることや排泄を亢進させることで血液中の脂質を改善させます。

以下で食事療法、運動療法、薬物療法の内容を詳しく説明します。

2. 食事療法

コレステロールなどの脂質成分は食事に含まれており、脂質成分やカロリーの過剰摂取は血液中の脂質の上昇の原因になることが分かっています。食事と脂質は密接に関わっており、脂質異常症の改善には適切な食事が欠かせません。脂質異常症の食事療法では以下のポイントが重要です。

  • 適切な量のカロリー(エネルギー)を摂取する
  • 主食・主菜・副菜をバランスよくとる
  • 脂質を多く含む食べ物を摂取しすぎない
  • 塩分を摂取しすぎない
  • アルコールを摂取しすぎない

以下ではこれらのポイントについて詳しく説明していきます。

適切な量のカロリー(エネルギー)を摂取する

過剰な食事摂取により消費できなかったエネルギーは脂質として身体に蓄積します。そのため、脂質異常症の食事療法ではカロリーの摂りすぎに注意する必要があります。具体的に1日の目標カロリー摂取量は以下のように計算されます。

  • 目標カロリー摂取量=標準体重×身体活動量
    • 標準体重=身長(m)x身長(m)x22
    • 身体活動量は以下の通り
      • 25(軽い労作、デスクワークが多い)
      • 30(普通の労作、立ち仕事が多い)
      • 35(重い労作、力仕事が多い)

例えば、身長170cmでデスクワークが多い仕事をしている人の1日の目標カロリー摂取量は、1.7x1.7x22x25≒1600kcalになります。このように身長から計算される標準体重と身体活動量をもとに目標カロリー摂取量は計算されます。

主食・主菜・副菜をバランスよくとる

脂質異常症の食事療法ではご飯・パン・麺類などの主食、肉や魚類などの主菜、野菜や海藻類などの副菜をバランスよくとることが重要です。主食や主菜は多めに摂りがちなので注意が必要です。主食の栄養素は炭水化物ですが、摂りすぎた炭水化物は脂肪に変換され身体に貯蓄されてしまいます。主菜は動物性脂質を多く含んでいます。野菜や海藻類などの副菜はカロリーをあまり含んでおらず、動脈硬化を抑える効果も知られています。野菜の中ではニンジンやトマトなどの緑黄色野菜の摂取が良いとされています。また、漬物は塩分を多く含むため、漬物から野菜を摂取する場合は減塩などの対応が望ましいとされています。副菜は一般に不足しやすいため、少し多めにとるようにしてみてください。

脂質を多く含む食べ物を摂取しすぎない

食事に含まれる脂質は体内に取り込まれます。そのため、食事から摂取する脂質の量を減らすことは脂質異常症の改善を目指す上で大事なアプローチです。以下にあげるものは脂質の含有量が多いです。

  • 肉の脂身
  • ラード
  • 乳製品(牛乳、クリーム、バターなど)
  • 臓物類(ホルモン、モツ、レバー)
  • 卵類(鶏卵、魚卵など)

脂質異常症の食事療法ではこれらの食材を摂り過ぎないようにします。

塩分を摂取しすぎない

塩分の摂り過ぎは血圧を上昇させ、結果として動脈硬化を促進します。そのため、脂質異常症の人では、塩分の摂り過ぎにも注意することで、動脈硬化を抑える必要があります。塩分摂取を減らすための工夫としては減塩食品を用いる方法があります。減塩食品について日本高血圧学会がリストで比較説明しています。他にも塩分摂取を減らすコツとしては以下のようなものがあります。

  • コショウ、七味、生姜など塩分以外の調味料を用いる
  • 新鮮な食材の持ち味を活かして、薄味で調理する
  • 外食や加工食品を控える
  • 漬物を控える(食べる場合は浅漬けにして、少量にする)
  • 調味料は味付けを確かめてから使う
  • 麺類は汁を残す

これらの工夫をしながら、減塩を行うことも脂質異常症の食事療法では重要です。

アルコールを摂取しすぎない

アルコールは少量であれば、脂質異常症の改善効果があるとされています。一方で、摂りすぎるとトリグリセリド中性脂肪)を増やしてしまい、脂質異常症を悪化させてしまいます。具体的にアルコールは1日20-25g程度が良いとされています。20-25gのアルコールは以下に相当します。

  • ビール中ビン1本(500ml)
  • ウイスキーのダブル1杯(60ml)
  • ワイングラス2杯(200ml)
  • 日本酒1合(180ml)
  • 焼酎0.5合(90ml)

飲酒量が多い場合には、上記のアルコール量を参考にしながら、飲みすぎないようにしてみてください。

栄養指導

栄養指導(栄養指導外来)では、食事療法を行う上で目標とする摂取カロリー、栄養素の量などの説明を病院やクリニックで受けることができます。栄養指導は栄養に関する専門知識を持つ管理栄養士により行われます。栄養指導を受けることで、どのような食事を摂取したら良いか、具体的な献立の説明も受けることができ、食事療法をより効果的に行うことができます。栄養指導のご希望がある方は担当の医師と相談してみてください。

3. 運動療法

脂質は身体のエネルギー源の一つなので、運動によりエネルギー消費量を増やすことで、血液中の脂質の改善効果を期待できます。

脂質異常症の改善に特に有効とされる運動は有酸素運動です。有酸素運動とは十分な呼吸で酸素を取り込みながら行う運動のことです。有酸素運動の一例を以下に挙げます。

  • ジョギング
  • 速歩
  • 水泳
  • エアロビクス
  • サイクリング

有酸素運動は長時間継続可能な強度の運動です。有酸素運動は脂肪燃焼効果が高い運動であるとされています。一方、ウエイトトレーニングのように運動をした後に手足がぱんぱんになる運動は無酸素運動と言います。無酸素運動は脂肪燃焼効果が低いため、脂質異常症の改善にはあまり適していません。もし、運動をした後に手足がぱんぱんになる場合には運動強度として強すぎる可能性があります。

有酸素運動は1日合計30分以上の運動を週3回以上行うことが勧められています。通勤に徒歩や自転車を利用する工夫もあります。

4. 薬物療法

脂質異常症の薬物療法は食事療法、運動療法のみで十分な改善が期待できない場合や、心筋梗塞脳梗塞閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患を発症した場合に検討されます。具体的に脂質異常症の薬物療法で用いられる薬剤は以下の通りです。

  • スタチン系薬
  • 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)
  • フィブラート系薬
  • 陰イオン交換樹脂(コレスチミド、コレスチラミン)
  • EPA・DHA製剤
  • プロブコール
  • ニコチン酸誘導体
  • PCSK9阻害薬
  • 漢方薬

これらの薬剤のうち、脂質異常症の程度により複数種類の薬を使用することもあります。

それぞれの薬剤の特徴や副作用については以下で詳しく説明していきます。

スタチン系薬

スタチン系薬はLDLコレステロールをもっとも効果的に低下させる薬剤の一つで、脂質異常症治療の第一選択薬になります。スタチン系薬はコレステロールの合成酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害することでコレステロール合成を抑制します。

スタチン系薬は主にコレステロール低下の度合いによってスタンダードスタチン系薬とストロングスタチン系薬に分けられます。用量や体質などによっても異なりますが、LDLコレステロール値の低下作用はスタンダードスタチン系薬が15%前後、ストロングスタチン系薬では30%前後下げる効果が期待できるとされています。

主なスタンダードスタチン系薬にはプラバスタチン系薬(主な商品名:メバロチン®)、シンバスタチン系薬(主な商品名:リポバス®)、フルバスタチン系薬(主な商品名:ローコール®)があり、主なストロングスタチン系薬にはアトルバスタチン系薬(主な商品名・リピトール®)、ピタバスタチン系薬(主な商品名:リバロ®)、ロスバスタチン系薬(主な商品名:クレストール®)があります。

スタチン系薬の注意すべき副作用としては消化器症状、しびれなどの末梢神経障害肝機能障害などがあります。また横紋筋融解症という副作用がまれにあらわれる場合があり注意が必要です。横紋筋融解症は何らかの原因で筋肉の細胞が壊れることで、全身の筋肉の痛みや赤茶色の尿が出る病気です。赤茶色の尿は筋肉の細胞内にあるミオグロビンという物質が血液中を大量に流れ、腎臓から尿として排泄されることで現れ、腎障害の原因にもなります。スタチン系薬を内服中に、手足などの筋肉が痛む、手足に力がはいりにくい、全身がだるい、尿の色が赤褐色になる、などの症状がみられた場合はこの副作用が生じている可能性があるため、医師や薬剤師に連絡するようにしてください。

スタチン系薬は他の薬との飲み合わせに注意が必要な場合もあります。飲み合わせに注意すべき薬として一部の免疫抑制薬や抗ウイルス薬などがありますが、個々の薬剤によっても特徴が異なるため、他に治療薬を服用している場合には事前に医師や薬剤師に相談するようにしてください。

スタチン系薬の中でアトルバスタチン系薬には、血圧を下げる薬であるアムロジピンとの配合製剤(主な商品名:カデュエット®配合錠)があります。脂質異常症と高血圧症をひとつの製剤で治療できるメリットがあります。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)

エゼチミブ(商品名:ゼチーア®)はスタチン系薬などの従来の治療薬とは異なる作用の仕組みによってコレステロールを下げる作用をあらわす薬で、日本では2007年に承認され使われています。

食事などで摂取したコレステロールは主に小腸で吸収されますが、この吸収にはコレステロールを輸送する運び屋の物質(NPC1L1:小腸コレステロールトランスポーター)が深く関わっています。エゼチミブはNPC1L1のコレステロール輸送機能を阻害することで、小腸からのコレステロールの吸収を低下させます。

エゼチミブは他の脂質異常症の治療薬とは異なる仕組みで効果を発揮するため、スタチン系薬など他の脂質異常改善薬と一緒に使われることも多いです。

注意すべき副作用としては消化器症状、横紋筋融解症、肝機能障害などがあります。横紋筋融解症の頻度に関しては非常にまれとされていますが、エゼチミブを内服中に手足などの筋肉が痛む、手足に力がはいりにくい、全身がだるい、尿の色が赤褐色になる、などの症状がみられた場合はこの副作用が生じている可能性があるため、医師や薬剤師に連絡するようにしてください。

フィブラート系薬

フィブラート系薬はトリグリセリド(中性脂肪)の分解促進作用のある薬です。フィブラート系薬はLDLコレステロールを下げる作用もありますが、特徴的なのはトリグリセリドを下げる効果が高い点です。そのため、脂質異常症の中でもトリグリセリドが高い人に使われることが多いです。

フィブラート系薬にはクリノフィブラート(商品名:リポクリン®)、ベザフィブラート(主な商品名:ベザトール®SR)、フェノフィブラート(主な商品名:トライコア®、リピディル®)などがあります。2017年には新規のフィブラート系薬であるペマフィブラート(商品名:パルモディア®)が承認されています。

注意すべき副作用としては横紋筋融解症、肝機能障害、発疹などの皮膚症状などがあります。横紋筋融解症の頻度に関しては非常にまれとされていますが、フィブラート系薬を内服中に手足などの筋肉が痛む、手足に力がはいりにくい、全身がだるい、尿の色が赤褐色になる、などの症状がみられた場合はこの副作用が生じている可能性があるため、医師や薬剤師に連絡するようにしてください。

陰イオン交換樹脂薬(コレスチミド、コレスチラミン)

身体の中のコレステロールは肝臓で胆汁酸という物質に変換され、腸の中に排泄されます。この腸に吸収された胆汁酸は腸で再吸収され、身体の中で再利用されるようになっています。陰イオン交換樹脂薬はこの胆汁酸の再吸収を阻害することで、コレステロールの上昇を抑える薬です。陰イオン交換樹脂薬にはコレスチミド(商品名:コレバイン®)、コレスチラミン(商品名:クエストラン)などがあります。

副作用としては便秘腹部膨満といった消化器症状があります。飲み合わせの悪い薬はスタチン系薬、ワーファリン、サイアザイド系利尿薬、甲状腺製剤などで、これらの薬剤がインイオン交換樹脂薬に吸着されるといったことが報告されているため、これらの薬と一緒に内服する場合は、服用間隔をあけるなどの対応が必要であるとされています。他の薬と一緒に内服する場合は、医師や薬剤師に確認するようにしてください。

EPA・DHA製剤

魚油に多く含まれるイコサペント酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ-3脂肪酸エチルにはトリグリセリドを下げる作用があることがわかっていました。そのEPAやDHAを医薬品化したものがEPA・DHA製剤です。

EPA・DHA製剤にはイコサペント酸エチル(主な商品名:アロテパン®︎カプセルなど)やオメガ-3脂肪酸エチル(商品名:ロトリガ®︎)があります。

EPA・DHA製剤は脂質異常症の改善作用以外にも抗血小板作用(血が固まりにくくなる作用)や抗炎症作用による動脈硬化予防効果も期待されています。主な副作用は下痢などの消化器症状です。また、抗血小板作用があることから、出血を助長させる可能性が指摘されています。EPA・DHA製剤を内服中に、血便などで出血が疑われる場合には、担当の医師や薬剤師に対応を相談するようにしてください。

プロブコール

プロブコール(主な商品名:シンレスタール®︎)はコレステロールの胆汁への排泄を促進することで血液中のコレステロール値を下げる薬です。ただし、プロブコールは悪玉コレステロールであるLDLコレステロールだけでなく、善玉コレステロールであるHDLコレステロールをも下げてしまう特徴があります。そのため、プロブコールは、スタチン系薬など他の薬剤が副作用などにより継続できない場合や、他の薬剤だけではコレステロールが十分に下がらないといった状況で使われることが多いです。

副作用には、消化器症状、肝機能障害、発疹、不整脈などがあります。

ニコチン酸誘導体

ニコチン酸誘導体(主な商品名:ペリシット®︎)はLDLコレステロール、トリグリセリドを下げる薬です。ただし、LDLコレステロールを下げる作用はスタチン系薬と比べると弱いので、スタチン系薬で効果不十分な場合に使用されることが多いです。副作用としてかゆみ、血管拡張作用による顔面紅潮などがあります。

PCSK9阻害薬

PCSK9阻害薬は2016年に発売された脂質異常症の治療薬です。

少し難しい話ですが、PCSK9阻害薬がコレステロールを下げる仕組みについて説明します。肝臓にはLDL受容体と呼ばれる物質があり、LDL受容体は血液中のLDLコレステロールを肝臓に取り込む働きをしています。肝臓のLDL受容体が多いと血液中のLDLコレステロールを肝臓にたくさん取り込むことができるようになり、血液中のLDLコレステロールが下がります。肝臓のLDL受容体はPCSK9という体内物質により分解されます。PCSK9の効果を阻害することで、肝臓のLDL受容体を増やし、血液中のLDLコレステロールを下げる治療薬がPCSK9阻害薬です。

PCSK9阻害薬にはエボロクマブ(商品名:レパーサ®︎)とアリロクマブ(商品名:プラルエント®︎)があります。どちらも皮下注射の製剤です。主な副作用としては注射部位が腫れることや、肝機能障害、筋肉痛などが報告されています。

PCSK9阻害薬はスタチン系薬で効果不十分な脂質異常症または家族性高コレステロール血症のある患者さんの中でも、心臓血管に関連する病気になりやすいと判断された人に対してのみ使用可能となっています。

漢方薬

脂質異常症と深く関わる「肥満」の改善には漢方薬が使われることもあり、特にスタチン系薬を使ってもなかなか改善がはかれない場合や、なんらかの理由によってスタチン系などの薬剤が使いづらい場合の選択肢として有用とされています。

一般的に漢方医学では個々の体質や症状などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、この証に適した漢方薬を用いることで、脂質が留まりやすい体質を改善することが見込めます。ここでは主に肥満の改善効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

◎防風通聖散(ボウフウツウショウサン)

一般的に、お腹に皮下脂肪が多く便秘がちであるような、動悸、肩こり、のぼせ、肥満症むくみなどに用いられる漢方薬です。脂質の代謝を改善し脂肪の燃焼を助ける作用などが期待できます。

防風通聖散は実証といって体力が比較的充実している状態に適する漢方薬で、緩下作用(緩やかにお腹を下す作用)をあらわす大黄(ダイオウ)を構成生薬として含むため、便秘を改善する効果も期待できます。逆に体力が虚弱気味で日頃からお腹が下りやすいような体質がある場合には、下痢などの消化器症状があらわれやすくなることがあります。

また、防風通聖散は一般用医薬品(市販薬)として「ナイシトール®」などの商品名でも発売されています。

◎大柴胡湯(ダイサイコトウ)

比較的体力があり(実証)、便秘がちで、上腹部の張りや苦しさ、耳鳴りや肩こりなどを伴うような症状に適する漢方薬です。柴胡(サイコ)や黄芩(オウゴン)といった脂質代謝改善作用が期待できる生薬を含みます。

この漢方薬にも構成生薬に緩下作用をあらわす大黄(ダイオウ)を含みます。そのため、体力がやや低下していて、お腹が下りやすいなどの体質がある場合には、下痢などの消化器症状が起こりやすくなることが考えられ、注意が必要です。

◎防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)

いわゆる「水ぶとり」を改善する漢方薬です。「脂質異常の改善」とはやや趣旨が異なるかもしれませんが、一般的には色白で水ぶとりがあり、疲れやすい、汗が多いなどがある浮腫や関節痛、倦怠感などに対して用いられます。

漢方医学では体内で「水(血液以外の体液)」が滞っている状態を「水毒(すいどく)」や「水滞(すいたい)」といった言葉であらわしますが、防已(ボウイ)、黄耆(オウギ)、蒼朮(ソウジュツ)といった水分代謝に関わる生薬を含むことからも、防已黄耆湯の「水」への改善効果がわかります。また、先ほどの防風通聖散や大柴胡湯に含まれていた生薬の大黄(ダイオウ)を防已黄耆湯は含んでおらず、先の2種類の漢方薬が「実証(体力が充実している等)」に適するのに対して、防已黄耆湯は「虚証(体力が虚弱気味等)」に適するという違いもあります。

◎その他の漢方薬

その他、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)、大承気湯(ダイジョウキトウ)などの漢方薬が肥満肥満に付随する諸症状の改善に使われることもあります。肥満は脂質異常症だけでなく、高血圧症糖尿病血栓症など多くの病気に関わる因子となります。個々の証に適した漢方薬を効果的に使い体質を改善することで、これらの病気の改善や予防に役立つと考えられます。

◎漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。

ただし、これらの副作用がおこる可能性は比較的まれとされ、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることがあります。

防風通聖散(ボウフウツウショウサン)や大柴胡湯(ダイサイコトウ)の例にもあるように肥満便秘などを改善する漢方薬には大黄(ダイオウ)が含まれることがあり、もともとお腹が下りやすい体質がある場合には下痢などの消化器症状が起こりやすくなることがあります。また大黄は早産流産などの危険性から妊婦に対して特に注意する生薬成分です。加えて大黄の成分の一部は母乳中に移行するため、仮にその母乳を乳児が飲んだ場合、乳児が下痢を引き起こす懸念があり、授乳婦に対しても注意が必要な生薬成分でもあります。

漢方薬は通常、個々の体質や症状などを十分考慮した上で使われ、体質に合わない場合や症状の改善がみられない場合には薬の変更・中止などの適切な対応がとられます。もしも気になる症状があらわれた場合には、医師や薬剤師に相談するようにしてください。

5. 脂質異常症にガイドラインはある?

近年、どこの病院でも一定水準以上の医療を受けられるようにするため、さまざまな病気に対してガイドライン(治療指針)が作成される時代となっています。日常診療ではガイドラインを参考に治療が行われます。脂質異常症の診断・治療の指針は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」として発表されています。