きゅうせいすいえん
急性膵炎
膵臓が作り出している消化液(膵液)によって、膵臓の周りにある臓器がダメージを受けてしまう病気
14人の医師がチェック 126回の改訂 最終更新: 2021.11.30

急性膵炎の原因:アルコール・胆石・腫瘍など

急性膵炎はどのようにして起るのでしょうか。急性膵炎になりやすい生活習慣や、急性膵炎を引き起こす直接の原因がいくつか知られています。ここでは急性膵炎の原因について解説します。

1. 急性膵炎の原因になりやすい生活習慣

急性膵炎の原因になる生活習慣はいくつか知られています。アルコールをたくさん飲む人や脂肪食をよく食べる人、喫煙者には急性膵炎が多いとされています。以降ではこれらについて個別に詳しく解説します。

アルコール

アルコールの大量摂取は急性膵炎の原因として知られています。アルコールを多くとると急性膵炎が起こるメカニズムについて以下のような仮説が考えられています。

  • 膵液が流れる膵管を締めたり緩めたりする役割をもつOddi括約筋(オッディかつやくきん)が痙攣する
  • 膵管内に液体に溶けない物質ができて膵管を閉塞する
  • 膵プロテアーゼが活性化する

難しい言葉が多いので解説します。

膵臓で作られた膵液は、膵管という管を通って十二指腸に出ていきます。膵管の出口には膵管を締めたり緩めたりする筋肉がありOddi括約筋といいます。食べ物が十二指腸に流れ込むとその刺激でOddi括約筋が緩んで膵液が分泌されます。刺激がないときにはOddi括約筋は締まって膵液を出さないようにしています。

しかしアルコールを大量に飲むとOddi括約筋が痙攣していまい、食べ物が流れ込んでも緩んで膵液を出すことが出来なくなります。行き場をなくした膵液は膵管内に溜まり続けてしまいそのため膵管の圧力が上がってしまいます。膵管内の圧力が高くなると膵液が活性化してしまい膵臓を溶かし始めてしまい急性膵炎が起こると考えられています。

別の説では、アルコールを大量に飲むと膵管内に固形物ができてしまいそのため膵管の圧力が上昇し膵液が活性化するというものや、アルコールそのものが膵プロテアーゼ(タンパク質などを分解する酵素)を活性化してしまい急性膵炎を起こすというものもあります。

詳しいメカニズムは別としても、アルコールの大量摂取と急性膵炎の発生は明らかに続いて起こる関係があります。過去の調査によると1日4ドリンク(エタノール48g)以上の飲酒量で急性膵炎を発症する危険性が高まるとされています。ここでいう1ドリンクを具体的に表現してみます。

【お酒毎の1ドリンクの量】

お酒の種類(%)
ビール(約5%) 250ml(中瓶・ロング缶の半分)
チュウハイ(約7%) コップ1杯または350ml缶の半分
焼酎(約25%) 50ml
日本酒(約15%) 0.5合
ウイスキー・ジンなど(約40%) 30ml(シングル1杯)
ワイン(約12%) ワイングラス1杯弱

大量の飲酒は急性膵炎を発症する危険性を上昇させるだけではなく肝硬変など他の病気の原因にも成りえます。飲酒は適量を守り過度な飲酒をしないようにすることが大切です。

参考文献
・Irving HM, et al. Alcohol as a risk factor for pancreatitis. A systematic review and meta-analysis. JOP. 2009 Jul 6;10(4):387-92.

脂肪食

脂肪が胃や十二指腸に流れ込むと膵液の分泌を促す刺激を与えます。たくさんの油ものを摂取すると膵臓に膵液の分泌を過剰に促してしまい、急性膵炎を起こす危険性がたかまります。脂肪食をどの程度食べれば急性膵炎が起こるかのはっきりとしたデータはないのですが、常識の範囲を超えるような食生活は控えるべきでバランスのとれた食生活を送るのが望ましいでしょう。

バランスのよい食事については、厚生労働省と農林水産省による「食事バランスガイド」などを参考にして下さい。

参考文献
・日本消化器病学会, 胆石症診療ガイドライン2016

喫煙

喫煙者には急性膵炎が多いことが分かってきました。

アルコールは急性膵炎の発症と強い関連があることはわかっているのですが、喫煙について調べようとすると、アルコールをたくさん飲む人が喫煙をしていることが多いため、喫煙が急性膵炎の発症にどれほどの影響を与えるかははっきりしていませんでした。最近の研究結果によると、アルコールの影響を差し引いても喫煙が急性膵炎を発症する原因の一部であることが分かってきました。ただし喫煙がどのような影響を与えて急性膵炎を発症するかははっきりとはわかっていません。

喫煙と急性膵炎の関係について不明な点はありますが、喫煙している人には急性膵炎が多いのは事実です。

喫煙は肺がん肺気腫などの肺の病気や咽頭がん喉頭がんなどの喉の病気の発生に強く関わっていることが知られています。禁煙することにより多くの病気の危険性から身を遠ざけることが出来ます。禁煙を考えているのであれば是非取り組んでみて下さい。禁煙には禁煙外来を活用するのも良い案です。禁煙外来に興味がある人は、禁煙外来を行っている医療機関のページなどでお近くの医療機関を探してみて下さい。

参考文献
・Lindkvist B, et.ai. A prospective cohort study of smoking in acute pancreatitis. Pancreatology. 2008;8(1):63-70.
・Sadr-Azodi O, et al. Cigarette smoking, smoking cessation and acute pancreatitis: a prospective population-based study Gut. 2012 Feb;61(2):262-7.

2. 急性膵炎の原因になる病気

ここまでは急性膵炎につながる可能性がある生活習慣を紹介しました。ほかにも、急性膵炎の直接の原因になる病気があります。どんな病気があるのでしょうか。

  • 慢性膵炎
  • 膵臓にできる腫瘍
    • 膵臓がん
    • IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))
  • 免疫の異常
  • 膵臓の先天異常
    • 膵・胆管合流異常症(すいたんかんごうりゅういじょうしょう)
    • 膵管癒合不全(すいかんゆごうふぜん)
    • 輪状膵(りんじょうすい)
  • 胆石

急性膵炎の原因となる病気は、胆石、慢性膵炎などが多いです。ほかにも多くはありませんが腫瘍が隠れていることや、先天異常によって急性膵炎が引き起こされることもあります。以下ではそれらについて詳しく解説します。

慢性膵炎

慢性膵炎は膵臓に炎症が持続することで膵臓の組織が変化したり機能が低下したりする病気です。腹痛や体重減少、下痢などが主な症状です。慢性膵炎の主な原因はアルコールの多飲です。慢性膵炎は長く続くことが多く、急性膵炎を引き起こすことがあり、繰り返して起こすこともあります。

慢性膵炎では急性膵炎を起こさないようにすることが治療の目的の1つです。症状に応じて、以下のような薬物療法や生活習慣の改善をまず行います。

  • 薬物療法
    • 消化酵素の内服
  • 生活習慣の改善
    • 禁酒
    • 禁煙
    • 脂肪食の制限

薬物療法や生活習慣の改善にも関わらず症状が改善しない場合には、痛みの原因となっている膵臓を取り除くために手術を行うこともあります。

慢性膵炎について詳しく知りたい人は「このページ」も参考にして下さい。

膵臓にできる腫瘍

膵臓には腫瘍ができることがあり、急性膵炎の原因にもなります。膵臓の主な腫瘍は膵臓がん、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))などです。膵臓がんとIPMNについて説明します。

膵臓がん

膵臓がんは膵臓の中の膵管という場所から発生する悪性腫瘍です。膵管は膵臓から消化液が出ていく通り道です。膵臓がんが大きくなり膵管を閉塞すると急性膵炎を引き起こすことがあります。

膵臓がんは、腹痛や食思不振、体重減少、下痢などをきっかけに発見されることがあります。膵臓がんによって急性膵炎が起きた場合は、まずは急性膵炎の治療をして炎症を抑えます。急性膵炎の治療を行った後にがんの進行度に合わせて治療方法を選択します。

がんが膵臓にとどまっている早期の段階であれば手術によって治療することができ、膵臓から離れた所に転移をしている場合には抗がん剤などで治療をします。膵臓がんについてさらに詳しい情報は「このページ」を参考にして下さい。

■IPMN:膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)

図:IPMNは膵管を塞ぐことがある。

膵管内乳頭粘液性腫瘍という病気も急性膵炎の原因になることがあります。一般的には英語のIntraductal Papillary Mucinous Neoplasmを略してIPMN(アイピーエムエヌ)と呼ばれることが多いです。IPMNは、膵管から発生して乳頭状の形をしています。見た目から「いくら」や「ブドウの房」に例えられることがあります。

IPMNは時間とともに大きくなり膵管を塞いでしまうことがあり、その影響で急性膵炎が起こります。IPMNは無症状であることが多く検診などをきっかけにして発見されます。IPMNの中には悪性化するタイプがあり、検査結果で手術をした方がよい(手術適応がある)と判断される場合があります。手術が望まれるIPMNは以下の条件に当てはまる場合です。

【IPMNの手術適応】

  • 主膵管が10mm以上に拡張している場合
  • 閉塞性黄疸の症状がある
  • 造影CT検査で造影される血流のある結節(塊)がある

IPMNは悪性化が懸念される場合や閉塞性黄疸を引き起こしている場合には手術が必要になります。閉塞性黄疸は胆汁がIPMNにせき止められて流れが悪くなった状態のことで、皮膚が黄色くなったり身体が痒くなったりします。IPMNは悪性度の高い膵臓がんと比べると生存率は高く、早期に治療をすることで順調な経過も望めます。また、治療をせずに経過を見ることができるタイプもあります。

IPMNが原因で急性膵炎が起きた場合には、炎症を抑える治療を行いその後、検査によって適した治療を選びます。

参考文献
・Lindkvist B, et.ai. A prospective cohort study of smoking in acute pancreatitis. Pancreatology. 2008;8(1):63-70.

免疫の異常

自己免疫性膵炎

免疫は人間の身体に備わっているもので感染症やがんなどから身を守るための役割を果たしており、数多くの種類の細胞が関わっています。

自分の身を守るのに役立つ免疫ですが、有害に働いてしまうこともあります。何らかの原因によって免疫が自らの身体を攻撃してしまうのです。これを自己免疫疾患といいます。自己免疫疾患の多くは原因がわかっていません。自己免疫性膵炎もそのひとつです。自己免疫性膵炎は、免疫が膵臓を攻撃する病気で、急性膵炎として現れることもあります。症状は軽度のこともありますが、重症化して腹痛や腹部不快感、黄疸などの症状が強く出ることもあります。

自己免疫性膵炎の治療には炎症を抑えるためにステロイドを用います。黄疸が出ている場合には内視鏡治療や身体の外から針を刺して胆汁を身体の外に出す治療を行います。

膵臓の先天異常

先天異常は臓器などの形が正常とはことなる異常のことです。先天異常は様々な臓器に起こりえて膵臓にも起きます。膵臓の先天異常はいくつかあり、その中でもいくつかは急性膵炎の原因になります。

膵・胆管合流異常症(すいたんかんごうりゅういじょうしょう)

膵・胆管合流異常症は膵管と胆管の形に異常がある状態です。正常ならば、膵管と胆管は十二指腸乳頭部という場所で合流します。膵管には膵液が流れ、胆管には胆汁が流れています。十二指腸乳頭部ではOddi括約筋(オッディかつやくきん)という筋肉の働きにより胆汁や膵液が正しい向きに流れます。つまり、胆汁・膵液が逆流したり違う管に流れ込んだりしないようになっています。

ところが、胆管と膵管が十二指腸乳頭部より手前で合流している人がいます。こうした人では、Oddi括約筋の働きが及ばないので胆汁や膵液の逆流が起きてしまいます。これが膵・胆管合流異常です。

膵・胆管合流異常症は腹痛やお腹のしこりなどの症状をきっかけに発見されることが多く、そのまま経過を見ていると胆道がんや急性膵炎になりやすいことが知られています。このために膵・胆管合流異常症の人に対しては手術をして膵管と胆管を正常に近い形に修復します。

■膵管癒合不全(すいかんゆごうふぜん)

身体が作られる過程で、膵臓の中には膵管のもととなる管が2本でき、それが合わさって膵管になります。膵管癒合不全は、膵管のもととなる2本の管がうまくつかずに膵管が不十分な形で出来上がってしまった状態です。

膵管癒合不全がある人は急性膵炎を起こしやすいことが知られています。膵管が正常な形をしていないために膵管の中の圧力が高くなることなどが急性膵炎を起こす理由として考えられています。

そこで、急性膵炎を防ぐ目的や膵管癒合不全自体の症状の改善目的で、手術や内視鏡治療が検討されます。

ただし膵管癒合不全にも程度があり、異常の程度が軽い場合には、積極的な治療をしなくてもよいことがあります。一方で痛みなどの症状がある場合や膵炎を繰り返す場合は手術や内視鏡治療を行います。

■輪状膵(りんじょうすい)

輪状膵は膵頭部の一部が十二指腸を輪っかのように取り囲む先天異常です。膵臓と十二指腸は本来は接しているだけで、膵臓が十二指腸の周りを取り囲むことはありません。

輪状膵は、十二指腸という管の横に接する膵臓が先天異常のために浮き輪のような形になって、十二指腸を取り囲んでいるものです。正常な膵臓に比べて輪状膵は急性膵炎を起こしやすいと考えられており、急性膵炎をきっかけに輪状膵が発見されることもあります。

輪状膵は症状がない場合もあり経過観察できることもありますが、膵管が狭くなっている場合や膵臓に他の病気がある場合には手術による治療を検討します。

胆石

胆石は胆汁という脂肪の吸収に関わる液体が固形化したものです。

胆汁は肝臓でつくられて胆道という管を通って膵臓の中を通過し、十二指腸に流れ込みます。十二指腸と胆道はつながっていてつなぎ目をファーター乳頭といいます。実は膵液が流れる膵管もファーター乳頭とつながっていて胆道が十二指腸とつながる直前に合流します。

胆石ができて十二指腸の近くで詰まりを起こすと膵管の流れにも影響を及ぼしてしまいます。膵液の流れが悪くなると膵管の中の圧力が上昇して急性膵炎を起こすきっかけになると考えられています。

胆石が原因の膵炎は胆石性膵炎といい、内視鏡などを用いて胆石を除去します。胆石が取り除かれれば膵液の流れが改善して急性膵炎は回復に向かいます。胆石性膵炎の治療については「急性膵炎の治療」で解説しているので参考にして下さい。

3. 病気以外の急性膵炎の原因

病気以外にも急性膵炎の原因になるものがあります。主な原因は以下のものになります。

  • 内視鏡を使った検査・治療の影響
    • 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography)
    • 内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES: endoscopic sphincterotomy)
  • 手術の影響
  • 腹部の外傷:お腹を強く打つこと
  • 薬の副作用

これらの原因について以下で詳しく解説をしていきます。

内視鏡を使った検査・治療:内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography)・内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES: endoscopic sphincterotomy)

内視鏡を使った治療や検査の後に急性膵炎が起きることがあります。急性膵炎の原因になる内視鏡検査・治療は胆道や膵臓の病気を調べるために行われるのものです。内視鏡を使って膵管や胆道に管を挿入して検査や治療を行います。検査や治療では膵管や胆管に管越しに造影剤という薬を注入することもあります。膵管に管を入れたり造影剤を注入する操作が急性膵炎を起こすきっかけになることがあります。

内視鏡検査後の急性膵炎は、検査や治療に特に問題がなくとも一定の確率で起ることがあるので注意しなければなりません。このために検査や治療の後には採血や必要に応じて画像検査(超音波検査やCT検査)を行いその後の様子を慎重に観察します。

手術の影響

胃や膵臓、腎臓などの腹部の手術では膵臓の周りを剥がしたり膵臓の一部を切り取ったりします。手術操作が影響して急性膵炎が起こることがあります。手術の後、血液検査をしたり腹部超音波検査をしたりするのは急性膵炎が起きているかどうかを調べることも目的の1つです。

腹部の外傷:お腹を強く打つ

急性膵炎は、お腹を強く打つ怪我(腹部外傷)の後にも起きることが知られています。外からの衝撃がどのようにして急性膵炎の発症に影響しているかのメカニズムはまだ詳しくはわかってはいませんが、腹部を強く打った後には急性膵炎が起きることは事実として知られています。腹部に強い衝撃を受けた後に急激な腹痛が現れた場合、腹痛の原因として急性膵炎は注意が必要なものの1つです。

薬の副作用

薬の副作用で急性膵炎が起きることがあります。薬剤性の急性膵炎が起きた場合は原因となる薬をやめなければなりません。多くの薬が急性膵炎の原因と成りうるので、急性膵炎と診断された後には服用している薬を医師などに伝えるようにしてください。薬と急性膵炎の関係については開始した時期なども伝えると因果関係がより見つけやすくなることがあります。

参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015
日本消化器病学会, 慢性膵炎診療ガイドライン, 2015
・神澤輝実, 膵胆管形成異常の臨床, 日消誌 2008;105:669-678