急性膵炎とはどんな病気? 症状・原因・検査・治療など
急性膵炎と聞いてもイメージが湧く人は少ないと思います。急性膵炎は膵臓という臓器に
1. 急性膵炎とは?
急性膵炎は膵臓という臓器に炎症が起きる病気なのですが、膵臓と聞いてイメージが湧く人は多くはないと思います。膵臓は上腹部にあり、胃や十二指腸と接しています。膵臓は食べ物を消化する
膵臓が正常に機能している時は、消化酵素を含む膵液が膵臓自体を消化しないようになっています。しかしアルコールや胆石などの影響で膵液が膵臓やその周りを消化してしまうことがあります。これが急性膵炎という病気です。急性膵炎は、軽症の場合には数日の入院で良くなることもありますが、重症化すると長期間の入院治療が必要になります。
急性膵炎はどのくらいの人が発症するのか?
急性膵炎はどのくらいの割合で発生するのでしょうか。急性膵炎を
急性膵炎は男性に多いのか?女性に多いのか?
2011年に日本で行われた急性膵炎の発症状況の調査によると、急性膵炎は男性に多い傾向にあり男女比は1.9:1でした。急性膵炎は、男性に多いけれども女性にも起こりうる病気だと考えてもらえるとよいでしょう。
急性膵炎は危ない病気なのか?死亡率は?
急性膵炎は命に危険を及ぼすような危ない病気なのでしょうか。2011年に日本で行われた調査によると急性膵炎の全体の死亡率は、2.1%でした。同じ調査で重症の人に限った場合の死亡率は10.1%と報告されています。決して低い数字ではありません。急性膵炎は、重症化した場合には命に影響が及ぶこともある危険な病気です。以下で症状・治療・再発予防などについて説明しますので、もし急性膵炎になったときには、医師などの説明を理解して正しく行動するための助けにしてください。
2. 急性膵炎の症状
急性膵炎ではどのような症状があらわれるのでしょうか。急性膵炎の中でもその程度はさまざまで、軽症の場合と重症の場合で症状が違います。急性膵炎の症状は、膵臓や隣り合った臓器への影響が主な初期からあらわれる症状と、重症化して全身に影響するとあらわれる症状に分けることができます。軽症の場合は、初期からあらわれる症状でとどまるのですが、重症化すると全身にも炎症の影響が及んでさまざまな症状を引き起こします。以下では初期からあらわれる症状と重症化して全身に影響が及んだ時の症状に分けて解説します。
急性膵炎の初期からあらわれる症状
膵臓は上腹部の臓器です。そのため急性膵炎が起きるとみぞおちを中心に痛みがあらわれます。他にも以下のようにさまざまな症状があらわれます。
- 心窩部痛:みぞおちの痛み
- 腹痛
- 吐き気・嘔吐
- 背部痛
- げっぷ
- 下痢
- 発熱
腹部膨満 感:お腹が張った感じ
急性膵炎の初期の症状はみぞおちなどを中心とした痛みが主です。その他にも炎症が影響して腸の動きが悪くなりお腹が張った感じ(腹部膨満感)などの症状があらわれます。腸の動きが弱くなると腹部膨満感の他に吐き気や嘔吐などの症状を引き起こすことがあります。
心窩部痛などは心臓の病気や血管の病気、胃や腸の病気でも起こりうるものです。急性膵炎の症状は比較的急に起きることが知られていますが、症状が何時何分と言えるぐらい明確に突然起きた場合は心臓や血管の病気の可能性を十分に考えないといけません。心臓や血管の病気は急性膵炎にもまして一刻も早く診断し治療を開始しなければいけません。急に強い症状があらわれた場合には身体に深刻な問題が起きている可能性が高いので速やかに受診してください。
心臓の病気の症状については「狭心症の症状」、「心筋梗塞の症状」を、急性膵炎の症状についてさらに知りたい人は「急性膵炎の症状」も参考にして下さい。
急性膵炎が重症化したときの症状
急性膵炎が重症化すると激しい炎症が身体全体に影響を及ぼし、初期からあらわれる症状に加えてさまざまな症状があらわれます。主に以下のような症状があらわれます。
- 脈が早くなる
- ふらつく
- 冷や汗が出る
- 尿量が少なくなる
- 呼吸をするのが苦しくなる
- 筋肉が痙攣(けいれん)する
急性膵炎ではなぜこのような全身の症状があらわれるのでしょうか。
急性膵炎は「お腹の火傷」とも言われるように激しい炎症となることがあります。激しい炎症が起こると
■脈が早くなる、ふらつく、冷や汗が出る
サイトカインが大量に放出されると血管の中の水分が外にしみ出して血管内の水分が少なくなります。血管の中の水分が少なくなると心臓がそれを補うために脈を打つ回数を多くするので脈が早くなります。身体をめぐる血液の量が足りなくなると血圧が低下してふらつきや冷や汗などの症状があらわれます。血管の中の水分不足は点滴で補います。炎症が強いと点滴をしても水分がどんどん周りにしみ出していくので大量の点滴が必要になることがあります。点滴で補う水分の量は血圧や呼吸の状態を見ながら調整します。なぜなら大量の水分を補うと肺に水分が溜まってしまい呼吸状態が悪くなるなどの影響もあるからです。急性膵炎では治療とともに全身の状態を観察することにも注意を払わなければなりません。
■尿量が少なくなる
尿は血液の不要な水分や老廃物から作られます。そのため尿の原料である血液の量が少なくなると尿量も減少します。尿が作れなくなると身体の中に有害な物質が溜まり続け命に危険を及ぼすこともあります。尿量が減少して、命に危険を及ぼしかねないと判断されるときには
■呼吸をするのが苦しくなる
肺では血管の壁を水分が通過しやすくなった影響で
■筋肉が痙攣(けいれん)する
急性膵炎の影響で膵臓の周りの脂肪が分解されて脂肪酸ができます。脂肪酸は血液中のカルシウムと結合して他の物質になるので、血液中のカルシウム濃度が低下します。カルシウムは筋肉の収縮をコントロールする役割をもつので、カルシウム濃度が低下すると筋肉痛や痙攣、足がつるなどの症状があらわれます。カルシウム濃度の低下に対しては点滴でカルシウムを補うなどの治療を行います。
3. 急性膵炎の原因
急性膵炎はどのような場合に起こるのでしょうか。急性膵炎が起こるメカニズムについては未解明な部分がありますが、急性膵炎を起こしやすい生活習慣や急性膵炎のきっかけになるものは知られています。ここでは急性膵炎の原因になる生活習慣、急性膵炎の原因となる病気、病気以外の急性膵炎の原因の3つに分けて解説します。
急性膵炎の原因になる生活習慣
急性膵炎の原因になる生活習慣はいくつか知られており、それらを持つ人は急性膵炎になりやすいことが知られています。
- アルコールをよく飲む人
- 脂肪食をよく食べる人
- 喫煙者
以下では3つの生活習慣について個別に解説します。
■アルコール
アルコールの大量摂取は急性膵炎の原因として知られています。アルコールを大量に摂取すると急性膵炎が起きる理由については仮説がいくつかあります。
- 膵管を締めたり緩めたりする役割をもつOddi括約筋(オッディかつやくきん)が痙攣する
- 膵管内に液体に溶けない物質ができて膵管を閉塞する
- 膵プロテアーゼが活性化する
難しい言葉が多いので解説します。
膵臓で作られた膵液は、膵管という管を通って十二指腸に出ていきます。膵管の出口には膵管を締めたり緩めたりする筋肉がありOddi括約筋といいます。食べ物が十二指腸に流れ込むとその刺激でOddi括約筋が緩んで膵液が分泌されます。刺激がないときにはOddi括約筋は締まって膵液を出さないようにしています。
しかしアルコールを大量に飲むとOddi括約筋が痙攣していまい、食べ物が流れ込んでも緩んで膵液を出すことが出来なくなります。行き場をなくした膵液は膵管内に溜まり続けてしまいそのため膵管の圧力が上がってしまいます。膵管内の圧力が高くなると膵液が活性化してしまい膵臓を溶かし始めてしまい急性膵炎が起こります。
別の説では、アルコールを大量に飲むと膵管内に固形物ができてしまいそのため膵管の圧力が上昇し膵液が活性化するというものや、アルコールそのものが膵プロテアーゼ(タンパク質などを分解する酵素)を活性化してしまい急性膵炎を起こすというものもあります。
どの説でも、アルコールの大量摂取による急性膵炎の発症を完全には解明できていませんが、事実としてアルコールの大量摂取と急性膵炎の発生は明らかに続いて起こる関係があります。過去の調査によると1日4ドリンク(エタノール48g)以上の飲酒を習慣とする人は膵炎を発症する危険性が高まるとされています。1ドリンクがどれくらいのアルコールに相当するかは、「このページ」を参考にしてください。
■脂肪食
脂肪が胃や十二指腸に流れ込むと膵液の分泌を促す刺激を与えます。大量の油ものを摂取すると膵臓に急激な負担がかかってしまうことが急性膵炎の原因になると考えられます。脂肪食をどの程度に加減するべきかについて、はっきりとしたデータはないのですが、常識を超えたような食生活は少なくとも慎むべきだと考えられます。
■喫煙
喫煙者では急性膵炎が多いことが知られています。喫煙者はアルコールをよく飲む人が多いので、喫煙とアルコールのどちらが影響しているかは見分けにくいのですが、アルコールの影響を差し引いても喫煙は急性膵炎を増やすことがわかっています。ただ喫煙がどのようにして急性膵炎を引き起こすかのメカニズムについてはまだ不明です。
もし禁煙を考えているのであれば実行することをお勧めします。喫煙は他にもいくつかの病気の危険性を上昇させることがわかっていて、禁煙をすると肺気腫や肺がん、喉頭がんの危険性を下げることも期待できます。禁煙を達成するのは難しいことがあるので、禁煙外来などの利用も検討してみて下さい。禁煙外来を行っている医療機関は「禁煙外来を行っている医療機関」で調べることができます。
急性膵炎の原因になる病気
急性膵炎の原因になる病気にはどのようなものがあるのでしょうか。
- 慢性膵炎
- 膵臓にできる
腫瘍 - 膵臓がん
- IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))
免疫 の異常- 自己免疫性膵炎(じこめんえきせいすいえん)
- 膵臓の先天異常
- 膵・胆管合流異常症(すいたんかんごうりゅういじょうしょう)
- 膵管癒合不全(すいかんゆごうふぜん)
- 輪状膵(りんじょうすい)
- 胆石
まず全体に共通することを説明します。
急性膵炎の原因になる病気は数多くあります。原因がはっきりとしている場合には治療により再発する危険性を下げることができます。例えば胆石が原因の急性膵炎であれば胆石を除去すると再発の可能性は低くなります。
このため急性膵炎を起こした後には原因となる病気について調べますが、必ずしも原因が見つかる訳ではありません。急性膵炎はこれらの原因がなくてもアルコールの大量摂取だけでも発生することがあります。調べた結果特に原因がはっきりしない場合は、再発予防を目的に生活面の見直しなどが検討されます。
再発を予防する生活上の注意点については「このページ」を参考にして下さい。
■慢性膵炎
慢性膵炎は膵臓に炎症が持続することで膵臓の組織が変化したり機能が低下したりする病気です。慢性膵炎の主な原因はアルコールの多飲です。慢性膵炎は長く続くことが多く、急性膵炎を引き起こすことがあり、繰り返して起こすこともあります。
慢性膵炎では急性膵炎を起こさないようにすることが治療の目的の1つです。症状に応じて、以下のような薬物療法や生活習慣の改善をまず行います。
- 薬物療法
- 消化酵素の内服
- 生活習慣の改善
- 禁酒
- 禁煙
- 脂肪食の制限
薬物療法や生活習慣の改善にも関わらず症状が改善しない場合には、痛みの原因となっている膵臓を取り除くために手術を行うこともあります。慢性膵炎について詳しく知りたい人は「このページ」も参考にして下さい。
■膵臓にできる腫瘍
膵臓にできる腫瘍は、まれに急性膵炎の原因になります。急性膵炎の原因になる腫瘍は膵臓がんとIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))が知られています。膵臓がんもIPMNも膵臓の中にある膵管という場所に発生する腫瘍です。膵臓がんは
膵管内に腫瘍ができるとなぜ急性膵炎が起るのでしょうか。膵管は膵液を通す管で、膵液は膵管から腸に出るとタンパク質や脂質を消化する働きをします。腫瘍が大きくなり膵管が閉塞すると膵管内で膵液が活性化してしまい膵臓を溶かしてしまうのではないかと考えられています。
膵臓がんについてさらに詳しい情報は「膵臓がんの知識」を参考にして下さい。
IPMNについてさらに詳しい情報は「膵臓がん以外の膵臓の病気」を参考にして下さい。
■免疫の異常
人間の身体には
免疫は身体を守るために大切なものなのですが、有害に働いてしまうこともあります。つまり何らかの原因によって免疫が自分の身体を攻撃してしまうのです。これを
自己免疫性膵炎の治療では、免疫による攻撃を抑えるために主に
■膵臓の先天異常
膵臓が胎児の体内でできていく過程で、普通とは少し違った形にできてしまうことがあります。これを膵臓の先天異常と言います。
膵臓の先天異常は特に症状がなく偶然発見されることもあります。先天異常の種類やその状態によっては
膵臓の先天異常で急性膵炎の原因になるものは主に以下の3つが知られています。
- 膵・胆管合流異常症(すいたんかんごうりゅういじょうしょう)
- 膵管癒合不全(すいかんゆごうふぜん)
- 輪状膵(りんじょうすい)
以下ではそれぞれの先天異常について説明します。
膵・胆管合流異常症は膵管と
正常なら膵管と胆管は十二指腸乳頭部という場所で合流します。膵管には膵液が流れ、胆管には胆汁が流れます。十二指腸乳頭部ではOddi括約筋(オッディかつやくきん)という筋肉の働きにより胆汁や膵液の流れが正常に保たれていて、逆流したり違う管に流れ込んだりしないようになっています。
膵・胆管合流異常症では胆管と膵管が十二指腸乳頭部より手前で合流しています。するとOddi括約筋の働きが及ばなくなり胆汁や膵液の逆流が起きてしまいます。膵・胆管合流異常症は急性膵炎だけではなく胆道がんなどを起こす危険性を上昇させることが知られているので胆汁や膵液の流れを正常化する手術が検討されます。
膵管癒合不全は膵管の異常です。身体が作られる正常な過程では膵管のもととなる管が2本でき、2本が合わさって膵管ができます。膵管癒合不全は、この2本の管がうまくつかずに膵管が不十分な形で出来上がってしまった状態です。膵管癒合不全は症状がほとんどないこともあるのでその程度によって膵管の形を整える手術が検討されます。
輪状膵は膵臓の一部(膵頭部)が十二指腸を輪っかのように取り囲んでいるものです。膵臓と十二指腸は本来は接しているだけなので、膵臓が十二指腸の周りを取り囲むことはありません。輪状膵は、膵臓が先天異常のために浮き輪のような形になったものです。急性膵炎をきっかけにして輪状膵が見つかることもあります。輪状膵の程度やその影響であらわれる症状の程度などから、膵臓の形を整える手術をするかどうかを判断します。
■胆石
肝臓では胆汁という脂肪の吸収に関わる液体が作られています。胆汁は胆道という道を通って膵臓の中を通過し、十二指腸に流れ込みます。十二指腸と胆道のつなぎ目はファーター乳頭といい胆道は膵液が流れる膵管と合流します。
胆汁は濃度が高くなったりすると固形化して石の様になることがあり、こうしてできたものを胆石といいます。胆石は症状を起こさないこともあるのですが、胆道に詰まってしまうと腹痛などの症状があらわれます。胆石が詰まる位置によっては膵液の流れにも影響してしまいます。胆石によって膵液の流れが滞ると膵液が流れる膵管の圧力が上昇して、膵液が活性化して急性膵炎が起こります。胆石が原因の膵炎は胆石性膵炎といい、治療には
病気以外の急性膵炎の原因
病気以外にも急性膵炎の原因になるものがあります。以下が主なものになります。
- 内視鏡を使った検査・治療
- 内視鏡的逆行性胆道膵管
造影 (ERCP : endoscopic retrograde cholangiopancreatography) - 内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES: endoscopic sphincterotomy)
- 内視鏡的逆行性胆道膵管
- 手術の影響
- 腹部の外傷:お腹を強く打つ
- 薬の副作用
■内視鏡を使った検査・治療の影響
内視鏡を用いて膵臓や胆道の病気の検査や治療を行った後に急性膵炎が起ることがあります。内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography)や内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES: endoscopic sphincterotomy)がこれに当たります。
内視鏡の治療や検査では造影剤という薬を膵管や胆管に注入するのですが、その際にかかる圧力などが急性膵炎のきっかけになっていると推測されています。このため膵臓や胆道を内視鏡で調べた後には血液検査や
■手術の影響
胃や膵臓、腎臓などの腹部の手術では膵臓の周りを剥がしたり膵臓の一部を切り取ったりします。手術操作が影響して急性膵炎が起こることがあります。手術の後、血液検査をしたり超音波検査をしたりするのは急性膵炎が起きていないかも確認しています。
■腹部の外傷:お腹を強く打つ
急性膵炎は、お腹を強く打つ怪我(腹部外傷)の後にも起きることが知られています。膵臓は、上腹部の臓器なので腹部を強く打った影響で急性膵炎が起こります。外からの衝撃がどのようにして急性膵炎の発症に影響しているかのメカニズムはまだ詳しくはわかってはいません。
■薬の副作用
他の病気の治療のために使う薬の副作用で急性膵炎が起ることがあり、原因となる薬は多岐に渡ります。
4. 急性膵炎の検査
急性膵炎の診断には以下の診察や検査を用います。
問診 - 身体診察
- 血液検査
- 画像検査
腹部超音波検査 腹部CT検査 (造影CT 検査)腹部MRI 検査
これらの検査を用いて腹痛などの原因を調べ、急性膵炎と診断した後にはその重症度を判断します。
急性膵炎は軽症の場合には食事を一時的に中止して膵臓を休めてあげることで数日で回復することもあります。一方で重症化した急性膵炎は全身に影響が及び治療に苦心することも珍しくはありません。重症化する可能性を見逃さないためにも急性膵炎と診断された後に検査などで状態の変化を把握することが大切です。例えば診断時に軽症とされていても重症化の傾向がある場合には、しばらく食事を開始する時期を伸ばすこともできますし、急性膵炎が全身に影響したことを予想して治療の準備を進めることもできます。
急性膵炎の検査や診断基準の詳細は「このページ」で解説しているので参考にして下さい。
5. 急性膵炎の治療
急性膵炎は軽症の場合と重症の場合では状態が大きく異なります。このため軽症の場合と重症の場合では必要になる治療も変わってきます。それぞれのケースの治療の概略について解説します。
軽症の場合:絶食・輸液療法など
軽症の場合は炎症が膵臓に留まっていて全身への影響は少ない状況です。軽症の場合は急性膵炎を悪化させないことが治療の目的になります。
急性膵炎は膵液が活性化してしまう異常が起こり自分の膵臓やその周りを消化してしまう病気です。膵液は胃や十二指腸に食べ物などが入ってくる刺激によって分泌されます。したがって、膵液の分泌を抑えるには胃や十二指腸を刺激しないことが大切です。具体的には食事を一時的に中止して膵液の分泌を抑えます。
また、急性膵炎では主に2つの理由で体の中の水分量が不足する状態に陥りやすくなります。1つは絶食の影響です。膵臓を休めるために絶食をすると当然ながら水分の不足が起きてしまいます。また急性膵炎で激しい炎症が起きている部分には全身から水分が集まってきます。そのため身体全体に行き渡る水分量は少なくなってしまいます。この2つの理由で急性膵炎が起こると脱水の状態に陥りやすくなります。
脱水の状態が続くと身体の維持に必要な水分が不足してしまい臓器の機能や意識状態が低下してしまいます。このため脱水はすみやかに改善しなければなりません。脱水は点滴で水分を血管の中に注入して治療をします。
また症状を楽にすることも大切です。急性膵炎は軽症の場合でも強い痛みを伴うことが多いです。痛みがあるといっそう不安になってしまうこともありますし、痛みによるストレスによって病気の状態そのものが悪化することも懸念されます。可能な限り痛みはとる必要があります。急性膵炎では激しい痛みが出ることも多いので、痛みをとるにはがん性
軽症の場合の治療について解説しました。治療のポイントは以下の3つになります。
- 絶食:食事をとらない
輸液 治療:点滴で水分を補う- 鎮痛剤:薬で痛みを抑える
軽症の急性膵炎の場合は治療とともに大切なのが重症化を見逃さないことです。急性膵炎が重症化すると血圧が急激に下がったり呼吸状態などが一気に悪くなったりして命に危険を及ぼす場合もあります。重症化を見逃さないために、急性膵炎と診断された後にも血液検査やCT検査などを用いて重症度の判定を繰り返して行います。
急性膵炎の検査や診断基準の詳細は「このページ」で解説しているので参考にして下さい。
重症の場合
急性膵炎が重症化するとその影響は腹部だけに留まらず全身に及びます。具体的には以下のようなことが身体に起こります。
- 全身を回る血液の量が不足する
- 呼吸状態が悪くなる
- 腎臓の機能が低下する
- 感染が起きる
以下ではそれぞれの状態において身体の中でどのようなことが起こっているかやそのときの対応などについて解説します。
■全身を回る血液が不足する
急性膵炎の激しい炎症が全身に影響すると血管の中から水分がしみ出しやすくなってしまいます。すると血管の中の水分が少なくなります。つまり血液の量が少なくなってしまいます。血液の量が不足してしまうと全身へ酸素や栄養を届けることが出来なくなり臓器機能の低下などにつながります。血管の中の水分の不足は点滴などによって補われますが、血管の中に水分を入れても外にしみ出しやすい状況は変わりがありません。このためにかなり大量の水分が必要になります。
点滴で補う水分の量は血圧や脈拍、呼吸などの状態を見ながら調整します。大量の水分を補うと肺に水分が溜まってしまい呼吸状態が悪くなるなどの影響もあるからです。
■呼吸状態が悪くなる
肺の血管から水分が周りにしみ出していくと、肺胞(酸素と二酸化炭素の交換に直接関わる部分)に水分が溜まっていきます。肺胞に水分が溜まると酸素を体内に上手く取り込むことができずに息苦しさがあらわれます。酸素の不足は生命の危機に陥るほどに悪化することもあり、その場合には人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸器は自力で呼吸が出来ない人に対して強制的に呼吸をさせたり、自発的な呼吸を楽にするように圧力をかけたりすることができます。
■腎臓の機能が低下する
全身に回る血液の量が少なくなると臓器へ酸素や栄養を十分に届けられなくなり、臓器の機能が低下します。特に問題になるのが腎臓の機能の低下です。腎臓は身体にとって不要な物質を尿にする役割を果たしています。腎臓の機能が低下すると身体に不要な物質が溜まってしまいます。例えばカリウムという物質が身体に蓄積します。カリウムの濃度が正常範囲を大きく超えて溜まると致死的な不整脈が起こる原因になりとても危険です。腎臓が機能しているかどうかは尿量を目安にします。尿量が少なくなった時は腎臓の機能が低下していることを想定して詳しく調べます。腎臓の機能が低下していることがわかった場合は腎臓のキノの代わりをする透析治療という方法を用いて血液の中から不要な物質を取り除きます。
■感染が起こる
急性膵炎で激しい炎症が起こると膵臓は膵液によって消化されてしまいます。消化された膵臓には
6. 急性膵炎の再発予防
治療の効果が出て一度は治っても、急性膵炎は一定の割合で再発することが知られています。再発を予防するにはどうすればいいのでしょうか。
急性膵炎の再発率
急性膵炎の再発率はどのくらいなのでしょうか。
急性膵炎の再発率は原因によって異なります。アルコール性急性膵炎の患者を対象とした調査で、再発率は46%だったという報告があります。同じ調査ではそのうち80%が4年以内に再発したとされています。胆石を原因とする急性膵炎で胆石の治療が行われなかった場合の再発率は、過去の報告によれば32-61%とされています。原因となった胆石を治療しなければ高い割合で再発することが予想できます。そこで再発予防を目的とした治療も考えることになります。次に説明します。
原因になる病気の治療
急性膵炎は明らかな原因がない場合もあるのですが、明らかな原因となる病気がある場合は積極的に治療をすることで再発率を下げる効果が期待されています。
1つ例をあげてみます。急性膵炎の原因となる病気としては胆石が知られています。胆石性急性膵炎は胆石を治療しないと高い確率で再発をしてしてまうことがわかっているので治療をした方が再発は減らすことができます。胆石は内視鏡治療や手術などで治療します。
胆石を例にしましたが他にも腫瘍や先天異常などが原因で急性膵炎が起こることがあります。急性膵炎が治った後には原因がなかったのかを画像検査などを用いて調べておくことは再発予防に有利に働きます。
日常生活で行うべきこと
日常生活の中にも再発予防に期待ができるものがあります。
最も重要な点として、アルコールの大量摂取は急性膵炎を引き起こす恐れがあるので避けなければなりません。
どの程度にアルコールを制限するべきかの見解ははっきりとしていないのですが、急性膵炎の発症と関係がある1日4ドリンク(エタノール48g)以上の飲酒は控えるべきでしょう。1ドリンクが実際の飲み物でどのくらいに相当するかは「このページ」を参考にしてください。ただし急性膵炎での膵臓のダメージは人それぞれなので、もっと厳格に制限が必要な場合もあるかもしれません。急性膵炎が治った後には自己判断で飲酒量を決めるのではなく膵臓の状態をよく把握している医師に意見を仰ぐようにしてください。
また膵液の分泌を促すものとして脂肪食があります。脂肪食をどの程度摂取すると急性膵炎が起こるかははっきりとはわかってはいませんが常識を超えない範囲で脂肪食はとる方がよいでしょう。食事でどの程度の栄養をとるかは意外と難しいものです。自分だけで頑張るのもよいですが、管理栄養士などの助言も参考にして下さい。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015
・Irving HM, et al. Alcohol as a risk factor for pancreatitis. A systematic review and meta-analysis. JOP. 2009 Jul 6;10(4):387-92.
・Lindkvist B, et.ai. A prospective cohort study of smoking in acute pancreatitis. Pancreatology. 2008;8(1):63-70.
・Sadr-Azodi O, et al. Cigarette smoking, smoking cessation and acute pancreatitis: a prospective population-based study Gut. 2012 Feb;61(2):262-7.
・神澤輝実, 膵胆管形成異常の臨床, 日消誌 2008;105:669-678
・J Gastroenterol 2000;35:552-555Pelli H, et al. Long-term follow-up after the first episode of acute alcoholic pancreatitis: time course and risk factors for recurrence. Scand J Gastroenterol. 2000 May;35(5):552-5.