きゅうせいすいえん
急性膵炎
膵臓が作り出している消化液(膵液)によって、膵臓の周りにある臓器がダメージを受けてしまう病気
14人の医師がチェック 126回の改訂 最終更新: 2021.11.30

急性膵炎の症状:腹痛・吐き気・嘔吐など

急性膵炎になるとどんな症状が現れるのでしょうか。初期はみぞおちやお腹の痛みなどが中心ですが、炎症が悪化すると全身に影響を及ぼし様々な症状を引き起こします。初期と重症化した場合の症状について詳しく説明します。

1. 初期の症状

急性膵炎の初期の症状は、腹痛などを中心とした局所的なものが多いです。ここでは初期の症状ごとの特徴について解説していきます。

みぞおちの痛み

膵臓は腹部の中でも上の方(上腹部)にある臓器です。このため急性膵炎が起こるとみぞおち周囲が痛みます。痛みは膵炎の程度により、我慢することができる不快感のようなものから持続的に苦痛を伴う種類まで様々です。みぞおちの痛みの原因が急性膵炎の場合、上体を曲げて胸を膝につけるような姿勢をとると痛みが和らぐことが特徴です。痛みは鎮痛剤を用いて抑え、それでも抑えられないような激しい痛みには麻薬性鎮痛剤を使います。

腹痛

急性膵炎による腹痛の原因には3つの要因が考えられます。

1つは急性膵炎の炎症による痛みです。膵臓には消化酵素が多く含まれています。急性膵炎が起きると消化酵素が膵臓や周囲を溶かしてしまい強い痛みを引き起こします。

もう1つは腸の動きが弱くなることによる痛みです。消化酵素は周りにも影響して腸の動きを弱くします。腸の動きが弱くなると腸の中にガスや内容物が停滞します。腸の中身が停滞すると腸が拡張して痛みの原因になります。

最後の1つは腹膜炎です。腹膜炎はお腹全体を覆う腹膜というものにも急性膵炎の炎症が広がった状態です。腹膜炎が起きるとお腹を押したときより離したときに痛みがつよくなるなどの特徴が現れます。この特徴は診察にも応用されます。

腹痛は他にも多くの原因があり腹痛だけで急性膵炎と診断することは難しいです。急性膵炎の腹痛はアルコールや脂肪食で悪化するという特徴もあります。急性膵炎の特徴が明らかであったり、腹痛でもみぞおちの痛みがあるとより急性膵炎である可能性は高まります。とはいえ先に述べたように症状だけで判断することは難しいものです。いつもと様子の違う痛み方や痛みが増してくる、他の症状も現れてきたなどの場合には急性膵炎に限らず身体の中で大きな問題が起きていることも心配されます。このような場合には、速やかに医療機関を受診して腹痛の原因を調べてもらって下さい。

吐き気・嘔吐

急性膵炎のために漏れ出た膵液により腹膜炎が起きたり腸の動きが弱くなったりすることで、吐き気や嘔吐が引き起こされます。腸の動きが停滞すると腸に食べ物などが溜まって腸の壁が引き伸ばされます。腸の壁が引き伸ばされた刺激は、脳の嘔吐中枢という場所に伝えられて吐き気や嘔吐が起きます。

腸の動きの悪さの原因が急性膵炎の炎症の場合はすぐには改善しないこともあるので、吐き気もしばらく続くことがあります。吐き気に対しては、吐き気止めの薬を注射で投与したり鼻から胃に管を挿入して胃の中身を身体の外に出すなどの治療が有効です。

背中の痛み:背部痛

膵臓は腹部の臓器ですが、その中でも背中側にある臓器で、胃の後ろ側にあります。このため急性膵炎の炎症が背中側に広がると背部痛を感じます。

背部痛は急性膵炎の症状として知られていますが、それ以外の病気でも現れることのある症状です。例えば、血管の病気など緊急で対応が必要なものが原因になることもあるので注意しなければいけません。ほかには治療を急がない筋肉の病気などが背部痛の原因のこともあります。

痛みが収まらなかったり強くなったりするなどの特徴があるときは治療を急ぐ病気が原因の可能性もあるので速やかに医療機関を受診することが大切です。

げっぷ

げっぷは胃の中に空気がたくさん溜まることが原因で起こります。急性膵炎が起こると腸の動きが悪くなり腸の中に食べ物やガスが溜まりやすくなります。腸の動きが悪くなると手前にある胃にガスが溜まっていきます。胃の中にガスがある程度溜まるとげっぷが現れます。げっぷは急性膵炎でもありますが、食事中に空気を胃に多く取り込んでしまう呑気症(どんきしょう)などでも現れる症状です。

発熱

急性膵炎で起きる炎症が強いと膵臓の周りだけではなく全身に影響を及ぼします。全身に及ぼす影響は様々な形で現れますが、その1つが発熱です。別の理由でも発熱は起こります。急性膵炎が起きると膵臓の一部は溶けてしまうことがあります。溶けたものは膵臓として機能することは出来ないのですがその場に残ります。少量であれば身体に吸収されたりするのですが、量が多いとそこに細菌が定着・増殖して感染を起こし感染性膵壊死という状態になります。感染性膵壊死は発熱の原因になります。

感染性膵壊死には抗菌薬が溜まっているところに針をさして中身を抜くなどの治療をします。

腹部膨満感

腹痛とともに腹部が膨らんで苦しさが現れることがあります。この症状を腹部膨満感といいます。腹部膨満感の原因は腸の中に空気が溜まって腸が拡張することで、このために痛みや張った感じを自覚します。腹部膨満感はどのようにして起こるのでしょうか。急性膵炎は強い炎症がお腹の中で起こっています。強い炎症は腸にも影響し、腸の動きを弱くします。動きが弱くなると腸の中には食べ物や空気が停滞して腹部の張りにつながります。

腹部膨満感は、急性膵炎が落ち着いて腸の動きがよくなると腸の流れが改善するので和らいでいきます。腹部膨満感は食事を中止することで良くなることが多いのですが腸の張りが強い場合には鼻から管を入れるなどの処置を行うことがあります。

2. 重症化した場合の症状

急性膵炎が重症化するとどうなるのでしょうか。急性膵炎は「お腹の火傷(やけど)」と呼ばれるようにとても強い炎症が身体の中で起きています。強い炎症が起きると身体の中でサイトカインという物質が作られ、サイトカインは全身に影響を及ぼすことがあります。急性膵炎が重症化すると身体全体に大きな影響を及ぼし、初期の症状に加えて様々な症状が現れます。

脈が早くなる

急性膵炎が重症化すると膵臓の周りを中心に強い炎症が起きます。強い炎症によってサイトカインという物質がたくさんつくられて全身に様々な影響を及ぼします。サイトカインの影響の1つとして血管の壁から水分が染み出しやすくなり、血管の中から多くの水分が失われます。血管の中の水分が少なくなるとそれを補うために心臓が頑張って脈を打つ回数を増やして対応しようとします。このために脈が早くなります。脈が早くなっている原因は、血管の中の水分が不足していることなので点滴で水分を補います。

ふらつく、冷や汗が出る

血管の中の水分が少なくなると最初は心臓が頑張って鼓動を打つ回数を増やすことで対応しますが、それでも補えなくなることがあります。そうなると血圧が低下して様々な症状が引き起こされます。血圧が低下するとふらつきや冷や汗などの症状が現れます。血圧の低下は血管内の水分不足が原因なので、対応は点滴で水分を補います。

尿量が少なくなる

尿は血液から不要なものを腎臓で取り除いて作られています。急性膵炎の影響で血管の中の水分が外に出て少なくなると、腎臓に流れ込む血液の量も減少します。血液は尿の原料です。原料である血液が少なくなるとそれに伴って尿量が少なくなります。尿は水分を身体の外に出す役割だけではなく、身体にとって害になるような物質を排泄する役割も果たしています。尿量が少ない状態が続くと身体の中に有害な物質が溜まります。状況によっては命に危険を及ぼすような不整脈などを引き起こし危険な状態にもなってしまいます。腎臓の機能が低下して命に危険を及ぼすことが懸念される場合は、血液を一度取り出して機械によって有害物質を取り除いて再び身体に返す透析治療が必要になることがあります。

呼吸をするのが苦しくなる

急性膵炎の激しい炎症は肺にも影響を及ぼします。肺にサイトカインが影響して血管から水分が染み出しやすくなると水分が肺にたまってしまい酸素を体の中に取り込みにくくなります。酸素の取り込みが悪くなると呼吸をするのが苦しくなるなどの症状が現れます。酸素の取り込みの悪さが生命を維持できないほどに悪化すると人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸器を自力で呼吸が出来ない人に用いると強制的に呼吸をさせたり、自発的な呼吸を楽にするように圧力をかけたりすることができます。

筋肉が痙攣(けいれん)する

急性膵炎は、重症化すると膵臓だけではなく周りの脂肪も溶かしてしまいます。少し難しい話になりますが、脂肪組織は溶けると一部は遊離脂肪酸に分解されます。遊離脂肪酸は血液中のカルシウムと結合して他の物質になります。血液中の遊離脂肪酸が多くなるとカルシウムはどんどん消費されていき、カルシウム濃度が低下します。

血液中のカルシウム濃度が低下すると筋肉痛や痙攣、足がつるなどの症状が現れます。血液中のカルシウム濃度が低下している場合は点滴で補うなどして治療します。

参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015