きゅうせいすいえん
急性膵炎
膵臓が作り出している消化液(膵液)によって、膵臓の周りにある臓器がダメージを受けてしまう病気
14人の医師がチェック 126回の改訂 最終更新: 2021.11.30

急性膵炎の治療:軽症な場合と重症な場合の治療の違い

急性膵炎の治療にはどのようなものがあるのでしょうか。急性膵炎といっても軽症と重症では必要な治療がまったく異なります。ここでは重症度ごとの治療方法や各治療の内容について解説します。

1. 重症度による治療方法

急性膵炎は軽症の場合と重症の場合では状態が大きく異なります。このため軽症の場合と重症の場合では必要になる治療も変わってきます。軽症の場合と重症の場合に分けてそれぞれに対する治療の概略について解説します。

軽症の場合:絶食・輸液療法など

軽症の場合、急性膵炎を悪化させないことが治療の目的です。膵臓は食べ物を消化する膵液を分泌する臓器です。膵液の分泌に異常が起きて自分の膵臓を消化してしまうのが急性膵炎なので、悪化させないためには膵液の分泌を抑えることが有効です。

軽症の急性膵炎に対する治療は以下の3つが中心になります。

  • 絶食:食事をとらない
  • 輸液治療:点滴で水分を補う
  • 鎮痛剤:薬で痛みを抑える

膵液は胃腸の中に食べ物などが流れこむことによって膵臓から分泌されます。膵液の分泌を抑えるには食事をとらないことが有効です。このため急性膵炎と診断された後には食事を一時的に中止します。

ところが、食事を中止すると身体への水分の供給が少なくなります。したがって体にとって必要な水分量が不足して脱水に陥ることを予防するために、水分を点滴で補います。また急性膵炎はとても激しい炎症が起きます。炎症の影響によって水分が膵臓の周りに集まってしまいます。そのためほかの部分の水分はさらに少なくなります。そこで、点滴で絶食の分に加えてお腹の中に溜まった水分も補うように量を調整します。

さらに症状を軽くする治療も大切です。急性膵炎は「お腹の火傷」にも例えられるほど激しい炎症を起こします。そのため痛みもかなり強くなり、痛みが大きな不安を与える材料にもなってしまい、痛みによるストレスによって病気が悪化することも懸念されます。そこで、できる限り痛みを抑えるように、鎮痛剤(痛み止めの薬)を使って治療します。急性膵炎には様々な鎮痛薬が用いられます。強い痛みなどがあって必要と判断されれば、がん疼痛などに対して用いられる麻薬性鎮痛薬も用いられます。

以上の3つの治療が軽症の急性膵炎に対しては中心的な役割を果たします。そして治療とともに大切なのが重症化を見逃さないことです。急性膵炎が重症化すると血圧が急激に下がったり呼吸状態が一気に悪くなったりして命に危険を及ぼすことがあります。このため治療中も重症度判定といって急性膵炎の状態の評価を繰り返して行います。急性膵炎の程度が悪化していると判断された場合には、治療の長期化やより強力な治療が必要であることを予測できます。では重症化した場合にはどのような治療が必要になるのでしょうか。次に重症化した場合の治療について解説します。

重症の場合

急性膵炎が重症化するとどんな状態になるのでしょうか。急性膵炎が重症化するとその影響は腹部だけに留まらず全身に及びます。具体的には以下のようなことが起こります。

  • 全身を回る血液の量が少なくなる
  • 呼吸状態が悪くなる
  • 腎臓の機能が低下する
  • 感染が起きる

以下ではそれぞれの状態において身体の中でどのようなことが起こっているかやそのときの対応などについて解説します。

■全身を回る血液が少なくなることに対する治療

急性膵炎で起きる炎症が激しいと全身の血管に影響して血管の中から水分がしみ出しやすくなります。血管の中から水分がしみ出すと血管の中の水分が減少してしまいます。血管の中の水分が減少してしまうと全身へ酸素や栄養を届けることが出来なくなり後述する臓器機能の低下など様々な形で全身に悪影響を及ぼします。血管の中の水分の不足は点滴によって補います。点滴で身体の中に入れる水分の量は血圧や脈拍、尿量などをみながら判断します。脈拍や血圧が正常な範囲にもどり、尿量が増えてくれば血管内の血液量は満たされ始めていると考えて水分の量を少し減らすなど調整します。

■呼吸状態が悪くなることに対する治療

肺の血管から水分が周りにしみ出していくと、肺胞(酸素と二酸化炭素の交換に直接関わる部分)に水分がたまった状態になります。肺胞に水分がたまると酸素を体内に上手く取り込むことができずに息苦しさが現れます。生命維持が危なくなるほどに悪化することもあり、その場合には人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸は主に口から管を入れる気管挿管という方法で行います。

人工呼吸器も用いることによって自力で呼吸が出来ない人に対して強制的に呼吸をさせたり、自発的な呼吸を楽にするように圧力をかけたりすることができます。

■腎臓の機能が低下することに対する治療

全身に回る血液の量が少なくなると臓器へ酸素や栄養を十分に届けられなくなり、臓器の機能が低下します。特に問題になるのが腎臓の機能が低下することです。腎臓は身体にとって不要な物質を尿にする役割を果たしています。腎臓の機能が低下すると身体に不要な物質が溜まってしまいその影響が現れます。例えば、腎臓の機能が低下するとカリウムという物質が身体に蓄積します。カリウムの濃度が正常範囲を大きく超えると致死的な不整脈が起こる原因になりとても危険です。腎臓が機能しているかどうかは尿量を指標にします。尿量が少なければ腎臓の機能が低下している可能性があり、対応が必要です。腎臓の機能を補うには透析治療という方法を用います。急性膵炎の場合は持続的血液濾過透析(CHDF)という方法を選ぶことが多いです。CHDFについては後述します。

■感染が起こった場合の治療

急性膵炎で激しい炎症が起こると膵臓は膵液によって消化されてしまいます。消化された膵臓には細菌が定着・増殖して感染が起き、の溜まりを作ることがあります。この状態を感染性膵壊死といいます。感染性膵壊死に対しては外科的治療を行います。外科的治療は膿の溜まりに針を刺して中身を身体の外に抜きだす方法と手術の2つです。また同時に感染を起こしている細菌に対して有効な抗菌薬を用いて治療します。膿を取り出した後には、その膿を調べて原因となっている細菌を特定して最適な抗菌薬を選ぶことにもつなげることができます。

2. 輸液治療:点滴による治療

上で説明したように軽症でも重症でも、急性膵炎では輸液治療を行います。ここでは輸液治療に焦点を当てて解説します。

輸液治療は、点滴で水分を血管の中に入れることです。急性膵炎では水分が不足してしまうので輸液治療はとても重要です。急性膵炎で水分が不足する理由は主に2つあります。

  • 絶食による水分摂取の低下
  • 強い炎症によって水分が血管の外に出てしまう

急性膵炎は膵液が膵管の中で活性化されてしまい膵臓そのものを溶かしてしまうことによって起こります。膵液は、食べ物が胃を通って十二指腸に到達すると分泌されます。急性膵炎が起きている状態で膵液がどんどん分泌されてしまうと病状の悪化につながります。このために膵液の分泌を抑えるために絶食をして胃や十二指腸を空にしておきます。絶食の状況下では水分が不足するので、点滴で血管の中に直接水分を供給します。

急性膵炎の炎症は激しくなることがあります。激しい炎症が起こると血管の中から水分がしみ出していきやすくなり血管の中の水分が少なくなってしまいます。この状態を血管内脱水と言います。血管内脱水になると脈が早くなったり血圧が低下したりします。、臓器に十分な血流が届けられずに臓器機能が低下する恐れもあります。血管内脱水に陥らないために点滴による水分の供給を行う必要があります。

輸液の量は尿量などを見ながら調整されます。尿は血液を原料として作られるので、尿が出ているうちは身体の中の血液はまだ不足には至っていないと判断する材料になるからです。逆に尿量が減少してくると身体を巡る血液が少なくなっているとも判断でき、輸液の量を増やすなどの調整をします。

3. 経腸栄養:腸に栄養剤を直接入れる治療

経腸栄養は、鼻から腸まで届く管越しに医療用の栄養剤を流し込む治療です。絶食と輸液による治療の弱点を補う目的があります。膵液の分泌を避けるために経腸栄養は十二指腸の先の腸まで管を通して行います。経腸栄養には2つの効果が期待できます。

  • 腸から栄養を吸収できる
  • 腸を使うことで粘膜の萎縮を防ぎ感染が予防できる

急性膵炎は、膵管内の膵液が活性化されて起こる病気です。膵液は胃や十二指腸に食べ物が達した刺激により分泌されます。急性膵炎が起きている状態で膵液がさらに分泌されると急性膵炎は悪化するので胃や十二指腸を食べ物が通過しないように絶食します。しかし絶食すると身体には悪影響が起きます。

一つ目には身体に行き渡る栄養が不足することです。絶食すると栄養はほぼ点滴を介して得ることになりますが、点滴による栄養の補給は自然に近い形ではないので血糖値が急激に上がったり肝臓に負担をかけてしまったりします。肝臓に負担がかかっている場合には投与している栄養素を少なくしたりする必要があり栄養が不足することがあります。経腸栄養は管越しであっても腸に栄養剤を流し込むので自然に近い形で栄養摂取ができる点が優れています。

また、長い間腸を使わないと腸の粘膜が萎縮してしまったり腸の中の細菌が増殖したりします。腸の粘膜は正常であれば細菌が腸の壁へ侵入するのを防ぐ役割を果すのですが、萎縮するとその防御力が弱くなり細菌が腸の壁に侵入して感染を起こします。腸の壁に侵入した細菌は血流にのって全身を巡り危険な状態を引き起こします。経腸栄養は、腸へ栄養剤を送り込むので腸の粘膜の萎縮を防ぐと考えられており、細菌感染の予防にも期待ができます。

4. 薬物療法

急性膵炎の治療にはいくつかの薬が用いられます。主に用いられる鎮痛剤と蛋白分解酵素阻害薬について解説します。

鎮痛剤

急性膵炎では上腹部痛を中心とした痛みが現れ、その痛みはかなり強くなることがあります。痛みは患者さんにとって不安を与えるのは言うまでもなく、そのストレスが病状の悪化にもつながることが懸念されているのでできるだけ除痛をしなければなりません。そこで鎮痛剤(痛みを抑える薬)を使います。急性膵炎の治療にはモルヒネなどのオピオイド性鎮痛薬が用いられることもあります。

蛋白分解酵素阻害薬

膵液にはタンパク質を溶かす蛋白分解酵素が含まれており、急性膵炎は蛋白分解酵素が活性化されることによって起こります。蛋白分解酵素は膵臓やその周りを溶かします。蛋白分解酵素阻害薬は蛋白分解酵素の働きを抑える効果があるので、腹痛や吐き気などの症状を改善することが期待されます。

5. 透析治療:CHDF(持続血液濾過透析)

重症の急性膵炎では激しい炎症の影響で血管の中の水分が周りにしみ出しやすくなっています。このために血管内の水分量が不足してしまい臓器の機能が低下してしまいます。臓器の機能の低下で特に問題になるのが腎臓の機能低下です。腎臓は身体にとって不要な物質を尿にする役割を担っているので、腎臓の機能が低下すると有害な物質が身体に溜まり悪影響が現れます。腎臓が生命を維持するに十分な役割を果たせていないと判断された場合には透析治療を用いてその機能を補います。

急性膵炎でよく用いられるのはCHDF(持続血液濾過透析)という方法です。CHDFは他の透析治療の方法に比べると血圧の変動が小さいなどの利点があるので、血圧が変動しやすい急性膵炎の治療に選ばれることが多いです。CHDFは血管に細い管を挿入して血液を取り出し、機械によって血液をきれいして、再び管を通して身体に返します。CHDFは通常、急性膵炎がよくなって低下した腎臓の機能が十分に回復するまで続けて行われます。

6. 内視鏡治療:胆石が原因の場合の治療

胆石が原因の急性膵炎は、胆石性膵炎と呼ばれ、治療には内視鏡が用いられます。以下では胆石性膵炎に対する内視鏡治療について解説します。

肝臓で作られた胆汁は胆道という道を通って十二指腸に分泌されます。胆汁の成分が固まったものが胆石です。胆汁が流れる胆道と膵液が流れる膵管は十二指腸乳頭という場所で合流します。胆石が十二指腸乳頭に近い位置で詰まってしまうと膵管の流れにも影響して急性膵炎の原因になります。

胆石性膵炎は、胆石を取り除くことで改善が望めます。胆石を取り除く治療は内視鏡を用いて行うもので、内視鏡的乳頭括約筋切開術(以下ES: endoscopic sphincterotomy)といいます。

ESは内視鏡とX線の両方を使って行う治療です。内視鏡を身体の中に入れて操作しているところにX線を当て続けることでレントゲン写真を動画にしたような様子をリアルタイムで観察することができます。この観察方法を透視と言います。透視をしながら造影剤という薬を用いることで胆石の状態を詳細に調べることができます。造影剤は透視で白く写るので、胆石の周りの造影剤の様子から胆石の状態がわかります。造影剤を使う検査方法を造影検査といいます。

胆石の位置などを造影検査で確認した後に内視鏡を見ながら十二指腸乳頭に切り込みを入れて胆石を出しやすくして回収します。胆石が胆管から取り除かれれば膵液の流れも改善し、急性膵炎の状態も良くなることが期待できます。

他の原因による急性膵炎は基本的には急性膵炎が悪化するのを防いで、全身状態を安定させることが治療の中心です。説明してきたように胆石性膵炎は積極的な治療により原因が除去できる点が異なります。原因が除去できるといっても急性膵炎が起きていることには変わりがないので、内視鏡治療と併行して輸液治療なども行います。

7. 外科的治療

急性膵炎では外科的治療が必要になることがあります。ここでいう外科的治療とは手術と身体の外から針を刺す治療のことを指します。

急性膵炎が悪化した場合には、膵臓が壊死(組織の一部が死滅すること)します。壊死した部分は再生することはありません。壊死した膵臓には感染が起きやすく、感染が起きると膿の溜まりをつくる感染性膵壊死の状態になります。感染性膵壊死は膿の部分を取り除くことが治療になります。膿の大きさやその状態によって針を刺す方法もしくは手術を選びます。

8. 急性膵炎の入院期間はどれくらいか?

急性膵炎の入院期間は重症度によって決まります。軽症の場合には1週間程度の入院で済むこともありますし、かなり重症化している場合には数ヶ月に及ぶことがあります。

急性膵炎のように深刻な状態に陥る可能性がある病気になると、医師からの説明も最悪の事態を想定した説明が行われます。説明を受けた後は「本当に退院できるのだろうか?」と不安に思うかもしれません。病気が深刻な方向に向かうことは一定の割合であるので、もしそうした状況に陥るとなおさら不安が増すかもしれません。その気持ちはよくわかります。不安がある場合は医師などのスタッフに何を不安に思っているかを告げてみて下さい。今後の見通しなどについて確認すると気持ちの重さがとれるかもしれません。不安はどんなときにもあるとは思いますが日々、自分の状況に向き合って治療を進めることが大切です。

9. 急性膵炎の治療に使うガイドラインはあるか?

ガイドラインという言葉は耳にしたことがあるかもしれません。様々な病気に対して診療ガイドラインが作成されています。ここではガイドラインの役割などについて考えてみたいと思います。

診療ガイドラインは、治療などにあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などが作成の目的です。急性膵炎では「急性膵炎診療ガイドライン」があり臨床現場でも活用されています。

医学は日々進歩を遂げているので、ガイドラインは数年に1回程度のペースでその中身が見直されて更新されています。日々情報が更新されているガイドラインですが、医学の進歩が改定するペースを上回ることもあり、その場合はガイドラインにはまだ反映されていない情報が一般的な治療として認知されて実践されていることも珍しくはありません。

ガイドラインは医師が治療を組み立てる上で役に立つものですが、ガイドライン通りにことが進まないこともまた事実です。臨床の現場では、ガイドラインを尊重しつつも患者さんの状況やその時の最新の知見を加えてアレンジして治療をすすめることが多いです。もしご自身でガイドラインを見る機会があれば自分に行われた治療と照らし合わせてみるのもよいでしょう。そして治療を選ぶ際には提示された治療法にどのような根拠がありどのような効果が期待されるかを医師に尋ねてみてください。ガイドラインは医療者向けに書かれたものなので、難しい言葉がわからなくてもそれは当たり前のことです。素朴にわからないことも含めて医師に聞いてみると、よりご自身やご家族の病気や現状の理解が深まることにも期待できます。

参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015