まんせいこうまくかけっしゅ
慢性硬膜下血腫
硬膜下(硬膜と脳の間のスペース)で、時間をかけてじわじわと出血して、血が溜まる病気
16人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2022.08.05

慢性硬膜下血腫とはどんな病気か?症状・原因・検査・治療など

慢性硬膜下血腫は、頭を打ったことなどをきっかけにして、頭の中に血液が溜まり認知症麻痺など様々な症状が現れる病気です。手術で血液の塊を取り除くことで症状は改善します。ここでは慢性硬膜下血腫の概要として症状や原因、検査、治療について説明します。

1. 慢性硬膜下血腫とは?

慢性硬膜下血腫は、頭を強く打つことなどをきっかけとして頭の中に血液が溜まった状態です。高齢の人がかかりやすく、麻痺や認知症の原因になります。慢性硬膜下血腫の典型的なエピソードを交えて説明します。

「ここ数日物忘れがひどくなって会話ができません。脳に異常がおきたのか心配です。」

心配そうな家族に連れられて高齢の患者さんが受診します。「どうおかしくなったか?」と聞くと、もの忘れに加えてここ数日で急に歩けなくなったとも家族は説明します。よくよく話を聞くと2ヵ月ほど前に転んで強く頭を打ったというのです。

これは架空の話なのですが、慢性硬膜下血腫が発見される臨床現場での典型的なやりとりです。慢性硬膜下血腫は頭を強く打ったことなどが原因で頭の中に血液がたまる病気ですが、頭を打ってから数ヶ月して症状が現れます。その症状は比較的急に現れるので患者さんや家族は「脳卒中が起きたのでは?」と心配になって来院し発見されることはよくあります。

【脳の断面と慢性硬膜下血腫の模式図】

図:硬膜の下に血液の塊ができている。

脳はいくつもの膜に包まれています。その中でも硬膜という構造物の下に血液の塊ができた状態が硬膜下血腫になります。血液の塊が大きくなると、脳を圧迫し、その影響で様々な症状が現れます。

2. 慢性硬膜下血腫の症状

前述しましたが、慢性硬膜下血腫は硬膜という脳を包む硬い膜の下に血液が溜まる病気です。血液の塊が大きくなると脳を圧迫して様々な症状が現れます。

慢性硬膜下血腫の主な症状

慢性硬膜下血腫の症状は多様ですが、主なものは次のになります。

【慢性硬膜下血腫の主な症状】

  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 麻痺:身体が自由に動かせない
  • 認知症
  • 記銘力障害:もの忘れ
  • 見当識障害:場所や時間がわからなくなる
  • 意識障害
  • 尿失禁:尿漏れ
  • 性格の変化

慢性硬膜下血腫の症状は身体の動きに関わるものから認知症・性格の変化など幅広く現れます。
ただし、これらの症状が全て現れる訳ではなく、決まった順序で現れる訳ではありません。どの症状も慢性硬膜下血腫が発見されるきっかけになることがあります。

慢性硬膜下血腫と似た症状が現れる病気

慢性硬膜下血腫の症状は多様です。このために似たような症状が現れる病気も多くなります。診断のためには似た症状がある以下のような病気と区別する必要があります。

【慢性硬膜下血腫と似た症状が現れる病気】

これらはあくまで一部の例ですが、比較的かかる人が多い病気です。それぞれどんな病気か説明します。

正常圧水頭症
脳の周りや内部には衝撃を吸収するために髄液という液体で満たされているスペースがあります。このスペースを脳室と言います。

水頭症は、髄液が多くなり脳の内部のスペース(脳室)が拡大する病気です。水頭症になると頭の中の圧力が高くなることが多いのですが、正常圧水頭症は、圧力が正常範囲に留まります。正常圧水頭症の症状は認知症や歩行障害、尿失禁などです。この症状は慢性硬膜下血腫でもよく現れる症状です。正常圧水頭症は手術(脳室に多くなった髄液を他の場所に流すためのチューブを挿入する)などによって症状の改善が期待できます。

脳卒中脳梗塞脳出血

慢性硬膜下血腫の症状は急に現れることがあり、脳卒中などと症状が似かようことがあります。特に片麻痺(右もしくは左半身の麻痺)は卒中でも現れることが多いので、症状だけで見分けることは難しいです。脳卒中と慢性硬膜下血腫は頭部CT検査頭部MRI検査などを用いて見分けます。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症アルツハイマー病)は認知症の原因の中では最も多い病気です。認知症は物忘れなど認知機能が低下して日常生活に支障を来す状態のことで、慢性硬膜下血腫の症状でもあります。アルツハイマー型認知症も慢性硬膜下血腫と同様に高齢者に多い病気です。CT検査やMRI検査を用いると慢性硬膜下血腫と見分けることができます。

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍がんが脳に転移したものです。脳転移を起こしやすいのは肺がん乳がん大腸がんなどです。脳転移が起きた場所によっては頭痛や嘔吐、麻痺などの症状が現れます。症状の現れ方によっては慢性硬膜下血腫と似た症状に見えることがあります。

3. 慢性硬膜下血腫の原因

慢性硬膜下血腫は主に脳の表面にある架橋静脈という血管からの出血から起こります。出血の原因はいくつかありますが、最も多いのが頭を打つことです。特に硬膜(脳を覆っている硬い膜)にくっついている部分からの出血が原因となることが多いです。

頭に強い衝撃が加わると、硬膜と脳にずれが生じます。硬膜と脳の間に生じたずれによって架橋静脈が裂けて出血が起こり、じわじわと血液が溜まって慢性硬膜下血腫になります。とはいえ、頭を打つと必ず慢性硬膜下血種になるわけではありません。頭を強く打った経験は多くの人がするものですが、それに比べると慢性硬膜下血腫になった人は少ないです。その一方で、頭を打った記憶がなくても慢性硬膜下血腫が起きることがあるので、慢性硬膜下血種かどうかを判断する際に、「頭を打ったかどうか?」ということだけに注目するわけではありません。
次に慢性硬膜下血腫が起こりやすい人の特徴や原因になるものについて解説します。

慢性硬膜下血腫が起こりやすい人

慢性硬膜下血腫が起こりやすい人の特徴として次のものが知られています。

【慢性硬膜下血腫が起こりやすい人の特徴】

  • 高齢者
  • アルコール多飲者
  • 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人
  • 血液が固まりにくい持病を持つ人

高齢者やアルコールの多飲者は脳が萎縮して(小さくなること)いることが多く、そのため脳の周りのスペースが大きくなっています。脳の周りにスペースがあるのは血液が溜まりやすい環境であり、出血が起こるとじわじわと溜まっていき時間の経過とともに血液の塊はゆっくりと大きくなっていくきます。

薬や持病の影響で血液が固まりにくくなっている人がいます。血液が固まりにくくなっている人では、頭の中で出血をすると血液が固まらずにじわじわと出血が続くことがあります。出血が止まらないと血液の塊が大きくなり慢性硬膜下血腫になります。

慢性硬膜下血腫の原因になるもの

慢性硬膜下血腫は、頭の中に血液の塊が溜まる病気ですが、どのようにしてそれは起きるのでしょうか。慢性硬膜下血腫の原因は以下のものが考えられています。

最も多い原因は頭部外傷です。頭を強く打って数週間から数カ月後に慢性硬膜下血腫が見つかるのは典型的な経過です。高齢者の場合には記憶にも残らないような軽い衝撃でも原因になりえます。

頭部外傷以外の原因の頻度は比較的少ないです。

脳動静脈奇形は、脳の血管の一部に異常が起きて動脈と静脈のつながり方が正常とは異なる病気です。脳動静脈奇形が起きている部分は血管が裂けやすくなっています。血管が裂けて血液が頭の中に溜まると慢性硬膜下血腫の原因になります。

良性の脳腫瘍である髄膜腫やがんの脳転移は出血をすることがあります。腫瘍やがんがある場所によっては慢性硬膜下血腫の原因になることがあります。

慢性硬膜下血腫の原因について簡単に説明しました。より詳しい解説は「このページ」を参考にして下さい。

4. 慢性硬膜下血腫の検査

慢性硬膜下血腫が疑われる場合には以下のような検査を用いて診断します。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 頭部CT検査
  • 頭部MRI検査

問診や身体診察で状況や背景の確認をします。

血液検査は慢性硬膜下血腫かどうかを判断するためではなく、主に全身状態を把握するために用いられます。慢性硬膜下血腫は手術により治療しますが、手術に先立って血液が固まりにくくなっていないかや臓器の機能は調べておかなければならないものです。

頭部CT検査は放射線を用いた検査で、頭の中の出血の有無や脳の形、脳の周りのスペースを観察するのに向いています。頭で出血が起こるとCT検査では白く映し出され、慢性硬膜下血腫が起こると白い三日月のような形の血液の固まりを見ることができます。

慢性硬膜下血腫は、頭部CT検査でほとんどの場合は診断できることが多いのですが、中には判断がしづらいケースがありその場合は頭部MRI検査を用います。

頭部MRI検査は、磁気を用いた検査の方法で、CT検査のように身体の断面ごとに画像化することができます。それぞれの検査には得意不得意があるのですが慢性硬膜下血腫に関してはMRI検査の方が向いているとされています。

CT検査で慢性硬膜下血腫と診断できている場合にはMRI検査を行わないこともあります。

5. 慢性硬膜下血腫の治療

慢性硬膜下血腫の治療は、手術が中心です。手術で血液の固まりを取り除くと脳の圧迫がとれて症状が改善します。他の治療として保存的治療やリハビリテーションも重要です。

  • 手術(穿頭血腫除去術):血液の塊を手術で取り除く
  • 保存的治療:血液の塊が自然に吸収されるのを待つ
  • リハビリテーション

頭の中に溜まった血液を取り除くというと大手術を思い浮かべると思いますが、手術は30分から1時間で終了することが多いです。また血液の塊が小さかったり症状が軽かったりする場合は、身体が自然に血液の塊を吸収するのを待つ方法も選べます。保存的治療といいます。

慢性硬膜下血腫の症状は治療によって改善が見込めますが、治療後にも手足の動かしにくさなどの症状が残ることがあります。これらの症状はリハビリテーションによって改善を目指します。

以下ではそれぞれの治療について個別に解説していきます。

手術(穿頭血腫除去術):血液の塊を手術で取り除く

慢性硬膜下血腫の手術は穿頭血腫除去術といいます。穿頭は頭に穴をあけるという意味です。穿頭血腫除去術は、局所麻酔で行うことが多いですが、身体の安静が保てない場合などには全身麻酔で行うこともあります。以下は手術を行う際の手順の例です。

【穿頭血腫除去術の手順】

  1. あらかじめ印をつけておいた場所の皮膚をメスで3cm程度切ります
  2. 皮膚から出血するので止血してその下にある筋肉を切ります
  3. 頭の骨が見えたら骨の表面を専用の機械で削ります
  4. 骨にドリルの様なもので親指程度の大きさの穴を開けます
  5. 硬膜を確認してメスで十字に切開します
  6. 硬膜に穴を開けた場所からチューブ(ドレーン)を挿入します
    1. チューブは必要な本数だけ使います
  7. チューブに注射器をつなげて生理食塩水を入れたりして洗浄します
  8. 洗浄液が無色透明に近づくまで洗浄を繰り返します
  9. チューブを残したまま骨と皮膚を元通りに修復します

手術は30分から1時間程度で終わることが多いです。準備などの時間も含めると2時間程度が目安になります。

手術の後には頭の中から血液の塊を外に出すためのチューブ(ドレーン)が入っています。

このドレーンには再出血が起きた時にいち早く気づく役に立ったり溜まった液体を抜きとったりするなど重要な役割があります。

手術後の数日は頭の中に入れている管とともに生活をする必要があります。管が皮膚にこすれたりして痛むことがありますが、そのときには痛み止めを使うことで和らげることができます。

手術から数日経過し頭に入れた管から出てくる液体が少なくなると管を取り外します。管が抜けて退院に問題がない状態まで身体が回復すると退院になります。退院後は傷の状態の確認や再出血がないかを調べるために数回受診をします。

保存的治療:血液の塊が吸収されるのを待つ治療

保存的治療は、手術をせずに血液の塊が身体に吸収されるのを待つ治療です。身体の表面に起こる内出血と同様に頭の中の出血も吸収されます。症状が軽く血液の塊が小さいときには吸収を待つのも一つの方法です。保存的な治療を選んだ後に回復しなかったり逆に症状が悪化する場合には手術をする方針に変更することもあります。

リハビリテーション

慢性硬膜下血腫の症状が治療後も後遺症として残ることがあります。後遺症が強いとその後の生活に支障を来すこともあります。後遺症をできるだけ軽くするためにリハビリテーション(リハビリ)を行います。リハビリテーションは歩行訓練や箸などを使う訓練(作業療法)など様々です。

リハビリテーションは医療機関だけではなく自宅でも行うことができます。少しの時間でもよいので日々の生活の中にリハビリテーションを取り入れてみて下さい。地道な積み重ねが成果につながります。日常生活でどのようなリハビリテーションができるかを理学療法士や作業療法士などから指導を受けるとさらに効果が期待できます。

6. 慢性硬膜下血腫を治療した後の注意点

慢性硬膜下血腫は手術後に再発することがあります。どのくらいの人が再発してどの時期に注意が必要なのでしょうか。

慢性硬膜下血腫の再発率は5-30%とされており、治療から1-8週間後に多いとされています。慢性硬膜下血腫の再発が多いのは、高齢や血腫に厚みがあった、両側に慢性硬膜下血腫が出来ていたなどの条件があてはまる場合です。これらの条件に当てはまる人は特に再発に注意が必要です。退院後は症状などに注意して過ごして下さい。再発は前回のときと異なる症状で現れることもあります。例えば初回は認知症がきっかけで見つかった人が再発時には麻痺症状で見つかることも有り得ます。今一度慢性硬膜下血腫の症状をみてどんな症状が出たら再発を疑わなければならないかを確認して下さい。

参考文献
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