まんせいこうまくかけっしゅ
慢性硬膜下血腫
硬膜下(硬膜と脳の間のスペース)で、時間をかけてじわじわと出血して、血が溜まる病気
16人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2022.08.05

慢性硬膜下血腫の原因:頭部打撲・高齢者・アルコールをよく飲む人など

慢性硬膜下血腫は、頭の中に血が溜まって様々な症状が現れる病気です。慢性硬膜下血腫はなぜ起こるのでしょうか。慢性硬膜下血腫が起こりやすい人の特徴とともに解説します。

1. 慢性硬膜下血腫が起こるメカニズム

慢性硬膜下血腫はどのようにして起こるのでしょうか。慢性硬膜下血腫は脳の表面にある架橋静脈という血管からの出血を原因とすると考えられています。特に硬膜という脳を覆う硬い膜に付着している部分からの出血が多いです。脳に強い衝撃が加わると硬膜と脳にずれが生じて、そのずれによって架橋静脈が裂けてしまい出血すると考えられています。

図:硬膜の下に血腫(血の塊)ができている。

2. 慢性硬膜下血腫が起こりやすい人

慢性硬膜下血腫が起こりやすい人は、高齢者やアルコール多飲者、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人などです。これらの条件に当てはまる人はなぜ硬膜下血腫が起きやすいのでしょうか。それぞれの原因について解説します。

高齢者

高齢者は慢性硬膜下血腫ができやすいことが知られています。その原因は脳の大きさと周りのスペースにあります。年齢を重ねるとともに脳は縮んでいき、これを萎縮と言います。萎縮が進むと脳の周りの隙間は大きくなります。

慢性硬膜下血腫は、頭に強い衝撃が加わった影響で脳の表面の血管が傷ついて出血したことから発生します。出血があったとしても、脳の周りにスペースがない場合は血液が溜まりにくく慢性硬膜下血腫にはならずにそのまま血が止まり吸収されます。

ところが血液が溜まりやすいスペースがあると血がどんどんとそこに溜まっていきます。身体は血液を吸収しようとするのですが、その量を超えて出血をしていると時間の経過とともに血の塊はゆっくりと大きくなります。

慢性硬膜下血腫が起こるのは脳の周りのスペースと大きく関係があります。高齢者は脳の萎縮により脳の周りにスペースがあることが多いので頭を打った後は慢性硬膜下血腫の発生に注意が必要です。

アルコール多飲者

アルコール多飲者も慢性硬膜下血腫が起こりやすいことが知られています。その理由は、高齢者と似た理由です。アルコールを普段からたくさん飲む人の脳は萎縮しやすいことが知られています。脳が萎縮すると脳の周りにスペースが出来てしまい出血が起これば血が溜まりやすい環境が出来上がっています。アルコールをたくさん飲む人はそうでない人に比べて脳が萎縮している可能性が高いので、頭を強打した後に慢性硬膜下血腫が起きやすいのです。アルコールの多飲を避けることで完全に慢性硬膜下血腫を避けられる訳ではありませんが、その危険性は下げられるかもしれません。またアルコールは他にも急性膵炎や肝臓の機能を低下する原因になるので常識を外れた量は避ける方がよいでしょう。飲酒は適量を守って楽しむことが大切です。

血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人

心筋梗塞脳梗塞などの後には再発を防ぐために血液を固まりにくくする薬(以下抗血栓薬)を服用することがあります。抗血栓薬はその後の病気の再発を予防するために重要な薬なのですが、副作用として出血が止まりにくくなります。実際に抗血栓薬を飲んでいる人が打ち身をすると内出血しやすかったりします。内出血は頭の中でも起こり慢性硬膜下血腫を起こしやすくなると考えられています。血液を固まりにくくする薬は心臓や脳の病気を治療するために必要な一方で、副作用についても知っておくことが大切です。頭を強く打った場合には慢性硬膜下血腫が通常より高い確率で起こってしまうかもしれないと憶えておいて下さい。

血液が固まりにくい病気の持病がある人

血友病血小板減少症などの病気は血液を固まらせる力が低下します。このため正常な人では問題にならないようなわずかな傷でも止血が得られにくいためにじわじわと出血して慢性硬膜下血腫の原因になります。

血液が固まりにくい病気の持病がある人が頭を打つと必ず慢性硬膜下血腫になる訳ではないのですが、病気をもたない人に比べて出血しやすいのもまた事実です。血液が固まりにくい病気の持病がある人で頭を打ったりした後はその後の経過について慎重に観察をして、頭痛や嘔吐などの症状がある場合に医療機関を受診して調べてもらうことが大切です。

3. 慢性硬膜下血腫の原因になるもの

慢性硬膜下血腫は脳の中に出血が起こることを原因とします。頭の中の出血はどんな原因によって起こるのでしょうか。主な原因について解説します。

頭部外傷:頭を強打する

頭を強打して頭の中の血管が破れると、頭の中に血液が少しずつ溜まっていきます。一定以上の血液が溜まると脳を圧迫して様々な症状が現れます。この頭の怪我(頭部外傷)をきっかけにして慢性硬膜下血腫が現れることがもっとも典型的な病気の経過ともいえます。

ただ頭部外傷の直後に慢性硬膜下血腫になる訳ではなく頭を強打してから3週間から3カ月後の期間の間に発症することが多いです。

脳動静脈奇形:脳の血管の異常

脳動静脈奇形は、脳の血管の異常で動脈と静脈のつながり方が通常とは異なります。脳動静脈奇形は脳の一部分に発生します。簡単に動脈と静脈のつながり方について解説します。

  • 正常な場合
    • 動脈→毛細血管→静脈
  • 脳動静脈奇形の場合
    • 動脈→静脈

特別な場合を除いて動脈と静脈の間には毛細血管という構造が挟まります。動脈が徐々に別れながら細くなって毛細血管になります。その後毛細血管は次第にあつまり静脈になるという具合です。動静脈奇形は動脈と静脈が毛細血管を介さずにつながっています。毛細血管を介さないために動脈と静脈がつながった部分が徐々に大きくなり破裂してしまうことがあります。この血管の破裂が原因で慢性硬膜下血腫が起こることがあります。

動静脈奇形は一度破裂した後には再出血しやすい傾向にあるので手術で動静脈奇形の部分を摘出したり血管の中に詰め物をして血液の流れを止める治療をします。この他にも大きかったり手術が難しい場所にできているケースではγナイフ(ガンマナイフ)という放射線治療の一種を用いることもあります。

髄膜腫(meningioma):良性の脳腫瘍

髄膜腫良性脳腫瘍くも膜の表層細胞から発生します。良性腫瘍なので周りの脳細胞などを破壊することはありません。髄膜腫は血液の流れが非常に豊富な腫瘍です。髄膜腫が大きくなると出血することがあり、慢性硬膜下血腫の原因になることがあります。

がんの脳転移

がんは悪性の腫瘍で、転移や浸潤(周りの臓器を破壊しながら入り込んでいくこと)をします。がんは脳にも転移をすることがあり、脳転移は肺がんが最も多く乳がん大腸がんなどがそれに続きます。がんはもろく出血しやすいので、がんの脳転移から出血すると慢性硬膜下血腫の原因になります。