2017.04.22 | ニュース

がん終末期はどう迎えたいですか?緩和ケアが促した対話

350人の治療で比較

from Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology

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がん治療に欠かせないのが緩和(かんわ)ケアです。根治目的の治療が難しくなった段階では特に緩和が大切になります。緩和ケアを強化することでがん患者が得られる効果の研究結果が報告されました。

アメリカの研究班が、がんの緩和ケアを強化することで生活の質(QOL)などを改善する効果を検討し、結果を『Journal of Clinical Oncology』に報告しました。

肺がん、膵臓がん、食道がん、胃がん、肝臓がんなどを診断され、根治目的の治療が難しい状態の患者が対象とされました。

350人の患者が参加しました。参加者はランダムに2グループに分けられ、強化緩和ケアのグループ、通常ケアのグループとされました。

強化緩和ケアのグループでは、研究参加から死亡まで最低でも月に1回、緩和ケア担当者が面談しました。入院治療となった場合、院内の緩和ケアチームが入院期間のすべてを通じて関与しました。

通常ケアのグループでは、患者・家族・主治医から希望が出されたときにだけ緩和ケア担当医の診療を受けられることとされました。

効果判定のため、研究参加から12週後、24週後の生活の質の変化などが評価されました。生活の質の評価には患者が記入するアンケート用紙が使われました。

 

次の結果が得られました。

介入群の患者は、ベースラインから24週の間のQOLにおいて通常のケアよりも大きい改善を報告したが(1.59 vs -3.40、P=0.010)、12週時点では差がなかった(0.39 vs -1.13、P=0.339)。

介入群の患者は、通常ケアの患者に比べて、腫瘍内科医と死が近付いた場合の希望について話し合うことが多かった(30.2% vs 14.5%、P=0.004)。

12週後の生活の質には強化緩和ケアによる差がありませんでした。24週後の生活の質は、強化緩和ケアのグループのほうが改善していました。また、参加者が腫瘍内科医と、死が近付いた場合の希望について話し合った割合は、通常ケアのグループでは14.5%でしたが、強化緩和ケアのグループでは30.2%に増えていました。

 

緩和ケアの効果についての研究を紹介しました。

がんがある程度まで進行するとしばしば強い症状が現れます。緩和ケアによって苦痛を減らすことが、生活の質を維持するためにとても大切になります。当初目標とされた12週という短期間では強化緩和ケアによる効果向上が確かめられませんでしたが、24週時点で差が出ていることから、役に立つ場面もあると考えられます。

 

世の中では緩和ケアが誤解されている場面もあります。実際の緩和ケアはどんなものでしょうか。

  • 緩和ケアは末期がんだけでなく、がんと診断されたときから受けることができます。
    • 緩和ケアを勧められても「余命が短い」という意味ではありません。
  • 余命を延ばすための治療と緩和ケアは同時に行われるべきものです。
    • 抗がん剤の副作用を抑える薬なども緩和ケアの一種です。
    • 苦痛があることで治りがよくなりはしません。苦痛を減らすことも大切な治療です。
    • 苦痛が除かれることによって、積極的治療に前向きになれる人もいます。
  • 緩和ケアに使うモルヒネなどの薬で意識がなくなったりすることはありません。
    • 緩和ケアに使う薬は副作用も把握され、リスクを管理しながら使われます。
    • モルヒネの主な副作用は吐き気・便秘などです。
  • 緩和ケアは身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛などさまざまな面から苦痛を和らげます。
  • 緩和ケアは患者だけでなく家族や周りの人もケアの対象とします。
  • 緩和ケア病棟に入院することも、自宅で在宅の緩和ケアを受けることも自分で選べます。
  • 緩和ケアは、一人一人の患者が生活の中で大切にしたいことを実現する助けをします。

 

上に紹介した研究では、緩和ケアを強化することで終末期の希望について話し合うことが増えた点も報告されています。現代の医学でもがんは難しい病気です。完全に症状も消えて治療を完了できる人がいる一方で、がんによって亡くなる人が多いのも現実です。終末期を自分らしく過ごすために主治医の協力を得ることはとても大切ですが、通常ケアのグループで話し合えていた人は14.5%にとどまっていました。ここにも緩和ケアが果たせる役割があるのかもしれません。

 

緩和ケアについての情報はほかのページに詳しくまとめています。関心のある方はぜひ一緒にご覧ください。

関連記事:緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Effects of Early Integrated Palliative Care in Patients With Lung and GI Cancer: A Randomized Clinical Trial.

J Clin Oncol. 2017 Mar 10.

[PMID: 28029308]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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