とっぱつせいほっしん(しょうにばらしん)
突発性発疹(小児バラ疹)
発熱と発疹を伴う感染症。多くの小児が一度は経験する
13人の医師がチェック 95回の改訂 最終更新: 2024.06.04

子どもが突発性発疹にかかったらどうなる?

発疹は子どもにとても出やすい症状です。代表的な原因が突発性発疹です。自然に治る病気ですが、似た病気の中には怖いものもあります。突発性発疹とはどんな病気なのか、架空の例をもとに考えてみましょう。

1. 3歳半の元気な子どもが風邪をひいた

突発性発疹にかかるとどうなるか、架空の患者の例で紹介します。

埼玉県に住んでいる3歳半の男の子、悠真くんの身体に赤い斑点が出てきました。お母さんは心配になって、病院に連れて行ったほうがいいのか考えています。

悠真くんは、砂場遊びの好きなごく普通の男の子です。

いつもは元気ですが、通っている保育園で風邪が流行ると、誰かにうつされるのか、風邪をひいてしまうこともときどきあります。そんなときは保育園をお休みして家で寝ています。何日か休むと元気になって、また保育園に行けるようになります。

今から5日前に、悠真くんに鼻水、のどの痛み、38℃台の高熱が出たので、お母さんはいつもの風邪だと思って保育園をお休みにしてもらい、家で寝かせていました。病院には連れていきませんでした。

3日休むと、熱は36℃台に下がりました。まだ鼻水は出ています。のども痛いようで、機嫌は悪く、しんどそうにしています。お母さんはもう1日保育園を休ませることにしました。

ここまでは普通の風邪とあまり変わらなかったのですが、様子が違ってきたのはその次の日からでした。

2. 熱が下がったら赤い斑点が出てきた

熱が出てから4日目にあたる昨日、悠真くんのお腹と背中に、見たことのない赤いポツポツした斑点が出てきました。

お母さんは少し心配になったのですが、熱も下がっているし、斑点があるところは痛くもかゆくもないようなので、自然に消えるものかなと思ってもう1日様子を見ることにしました。

今朝になって見てみると、斑点は消えていませんでした。むしろ昨日よりも増えて、かなり広い範囲に出ています。

お母さんは、これ以上様子を見ても自然に治るのかどうかわからないし、もし怖い病気だったらひどくなる前に治さなければ…と思い、悠真くんを近くの小児科に連れて行きました。

このお母さんのように「小児科に行ったほうがいいのかな?」と迷う場面はよくあります。突発性発疹に関係することでは、3つのポイントに気を付けましょう。

ポイント1:風邪をしょっちゅうひいていないか

ひとつめのポイントは、「風邪をひきやすいか」です。しょっちゅうというのは曖昧な表現になりますが、数ヶ月に1度程度風邪を引いているくらいでは当てはまりませんが、毎週風邪を引いているようであればしょっちゅうに当てはまります。 子どもはよく熱を出しますが、免疫がしっかりと働いていて生後6ヶ月以上の子どもなら、風邪の熱は3日ほどで下がります。保育園で流行っているわけでもないのに何度も風邪をひいたり、熱がなかなか下がらなかったりすることが多ければ、早めに病院に行くようにしてください。

ポイント2:全身がぐったりしていないか

病気が重いときや体力を消耗したとき、子どもはぐったりした様子になります。ひとつひとつの症状よりも、全身の状態を反映して「ぐったりしている」かどうかが大事なポイントです。ぐったりとは明らかに元気がないことを指しますが、具体的には「話しかけても振り向けない」、「起きてもすぐに寝てしまう」、「水も飲めないくらい衰弱している」などが当てはまります。

子どもは大人よりも全身状態が悪くなりやすいので、ぐったりしていたら急いで病院に行ってください。

ポイント3:症状はどのように出てきたか

皮膚に症状(皮疹)が出て心配になったときは、皮膚を見るだけではなく、ほかにも発熱や鼻水などの症状があるか、皮疹に気が付いたのはどんなときか、皮疹が出る前に変わったことがなかったかを思い出してください。ふだんから子どもを一番よく見ていて、いつもの様子を一番よく知っているのは、一番近くにいる家族です。「いつもはどんな子なのか」、「今は何がいつもと違うのか」が、診察を受けるときにとても大事な情報になります。

3. 予防接種は打っていますか?

病院の待合室でも悠真くんはまだ機嫌が悪く、つらそうです。順番が来て診察室に案内され、お母さんはお医者さんに「子どもに赤い斑点が出てきたんです。」と伝えました。

いつも風邪を引いているわけではないこと、先に熱が出て熱が下がってから斑点が出たことも説明しました。

すると、お医者さんは「予防接種は打っていますか?」と聞きました。お母さんは今までに打った予防接種をきちんと記録していたので、ひとつひとつ答えていきました。

【3歳までに受けることが推奨されている予防接種】

これらは3歳までに受けるべきワクチンです。

4. ここまでで診断にあと一歩

お母さんからここまでの話を聞いたお医者さんの頭の中には、実はもう「この病気かもしれない」という病名が浮かんでいます。診断がつくまであと少しです。どうやって考えたのでしょうか。お医者さんの頭の中をのぞいてみましょう。

ポイント1:しょっちゅう風邪をひいていないか

風邪をひきやすいのかどうかは、病院に連れて行くかどうかでも大事になりますが、何の病気かを診断するうえでもまた大事なポイントです。

お医者さんはこの情報から、悠真くんの免疫が正常に働いているらしいと考えます。すると免疫がしっかりしている子どもがかかりやすい、小児科医がよく見かける病気を主に思い浮かべることになります。

ポイント2:何の予防接種をいつ受けたか

予防接種をきちんと受けていることも大事です。予防接種がある風疹麻疹などの病気は、もしワクチンを打たなければ子どもがかかりやすい病気なのですが、ワクチンを打てばかかりにくくなります。

つまり、いま悠真くんに出ている症状の原因は、ワクチンを打って予防したはずの病気よりも、ワクチンがない病気の可能性が大きいということです。

ポイント3:一度熱が出て下がり、その後に赤い皮疹が出た

発熱は全身の炎症を反映する症状です。熱が出る病気はとても多く、同じ病気でも人によって体温が高めなったり低めになったりします。このため体温が何度まで上がったらこの病気だと決めることはできません。

ただ悠真くんの場合は、「一昨日熱が下がって、昨日から赤い皮膚の症状が出てきた」という特徴があります。実はこれが非常に大きなヒントとなります。子どもがかかりやすい病気の中で、熱が下がった後に赤い皮疹が出る病気は少ないのです。この場合に当てはまるのは突発性発疹と麻疹です。

ここで「予防接種は受けている」という情報が役に立ちます。これまでに受けた予防接種の中に麻疹もありました。ということは、悠真くんは麻疹にはかかりにくいはずです。

突発性発疹かな?

こう考えると、突発性発疹の可能性が強そうだということになります。

けれども、病気の出方は人によっていろいろと違います。突発性発疹以外の病気でも、熱が下がってから発疹が出ることが絶対にないわけではありません。ワクチンを打ったのに麻疹にかかってしまう子どもも完全にゼロではありません。それに、お母さんが一番心配していた皮膚の症状は、突発性発疹の症状と考えればちゃんと説明がつくのでしょうか。

そこでお医者さんは悠真くんのお腹と背中の症状を観察しました。

5. 皮膚の赤い変化がお腹と背中を中心に多数見られているが水ぶくれはない

皮膚には赤い斑点(紅斑)が出ています。皮疹が出ている場所はお腹から背中にかけてがほとんどで、顔にも少しだけ出ています。

大きさは数mm程度です。一部ではわすかに盛り上がっているもの(丘疹)があります。水ぶくれ(水疱)はありません。悠真くんに「痛い?」と聞くと首を横に振ります。「かゆい?」と聞いても同じです。

ポイント1:皮膚はどういうふうに変化しているか

皮疹が出る場所、色、大きさ、盛り上がっているかなどの特徴が手掛かりになります。病気によって症状の特徴が違うので、出ている症状に似た症状が出る病気はどれかを考えることになります。

たとえば水ぼうそうなら痛みやかゆみを伴う水ぶくれができることが多いですが、悠真くんは水ぶくれがないので水ぼうそうらしくはありません。突発性発疹の特徴とよく一致します。麻疹風疹の症状とも似ています。

しかし、麻疹風疹は予防接種を受けています。予防接種を受けたのに麻疹風疹にかかってしまう子どもはごくわずかです。一方で突発性発疹はほとんど全ての子どもが一度はかかる病気です。どっちだろう、と考えると、突発性発疹のほうがありえそうです。

ポイント2:皮膚以外に症状があるのか

熱はもう下がっています。鼻水とのどの痛みがあります。突発性発疹では鼻水やのどの痛みが必ず出るわけではありませんが、出てもおかしくありません。

ここまで調べて、お医者さんは「突発性発疹でしょう。」と言いました。続けて「この病気は特効薬がないので薬も熱冷ましが使われるくらいです。風邪と同じようにほとんどみなさんゆっくり休んでいるうちに治る病気です。皮膚の症状が出た時には概ね治っているので、悠真くんはもう安心です。お薬は要りません。見た目が元気になったらいつも通りの生活をして構いませんよ。」と言いました。

お母さんは少し気が楽になったのですが、本当に大丈夫だろうかと思ったので、「元気になるまでは何に気を付ければいいでしょうか?」と聞いてみました。お医者さんは「ほかの子どもにうつる病気なので、身体に触ったらせっけんで手を洗ってください。」と教えてくれました。

6. 家に帰ったらどうする?

お母さんはまだなんとなく心配だったので、皮疹が出ていたところを毎日調べました。皮疹は少しずつ薄くなっていきました。身体に触ったときは、言われたとおりこまめに手を洗いました。

病院に行ってから3日目に、皮疹はほとんど見分けられなくなりました。同じころには鼻水ものどの痛みもなくなって、悠真くんは元気に歩き回っていました。

お母さんはもう大丈夫かなと思って、次の日に悠真くんを保育園に送っていきました。悠真くんは久しぶりに友達に会えたので喜んで、さっそく砂場遊びを始めました。その姿を見てお母さんはやっと安心しました。

7. ほとんどの子どもが経験する突発性発疹に詳しくなろう!

これは突発性発疹にかかった子どもの典型的な例です。この例ではお母さんが予防接種をきちんと受けさせて記録もつけていたこと、症状がどのように出てきたかを詳しく伝えたこと、突発性発疹と言われてから気になることを遠慮せず質問したことで、納得できる結末になりました。この話はフィクションで、悠真くんもお母さんも実在しない架空の例ですが、突発性発疹のイメージが湧いてきたのではないでしょうか。

実際には典型的な症状と少し様子が違っていたり、お医者さんにも予想できないことが偶然起こったりすることもないとは言えませんが、大事なことはあれもこれもと心配しすぎることではなく、様子が変わってきたことに素早く気付いて相談することです。

このサイトでは、例の中に出てきたことはもちろん、ほかにも突発性発疹について心配になりそうなことを詳しく説明しています。ぜひリンクをたどって、ほとんどすべての子どもに一度は起こる突発性発疹のことを知ってください。ここに書いてあることを知っておけば、いざ子どもに赤い斑点が出てきたときに、あわてずに対処できるようになるはずです。