まんせいふくびくうえん(ちくのうしょう)
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
急性副鼻腔炎が治りきらずに慢性化したもの。一般的には蓄膿症と呼ばれることも多い
11人の医師がチェック 54回の改訂 最終更新: 2024.10.25

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)とは?

慢性副鼻腔炎ではねばっこい鼻水や色のついた鼻水、咳、頭痛などが2-3ヶ月以上続くきます。蓄膿症という呼び名で馴染みのある慢性副鼻腔炎の症状・原因・治療について説明します。  

副鼻腔炎(ふくびくうえん)は、鼻づまり、鼻水、後鼻漏(こうびろう)、咳などの症状を起こす病気です。

副鼻腔とは鼻に隣接する骨に囲まれた空間です。副鼻腔の中には空気が入っています。正常構造では鼻の中(鼻腔)と副鼻腔が小さな穴や管で繋がっていて、副鼻腔の中の空気は鼻腔を通じて交換されています。

副鼻腔は1か所ではなく、大きく分けて左右に4か所ずつあります。

  • 前頭洞(ぜんとうどう)

  • 上顎洞(じょうがくどう)

  • 篩骨洞(しこつどう)

  • 蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)

図:副鼻腔の解剖イラスト。前頭洞、蝶形骨洞、篩骨洞、上顎洞の位置を示す。

副鼻腔炎といっても炎症が起きている場所により症状が異なってきます。
例えば、前頭洞に炎症が起きている場合は頭痛などが現れ、対して上顎洞に炎症が起きている場合は頬や歯の痛みが現れます。

慢性副鼻腔炎はよく知られた病気なので「副鼻腔炎」と聞くと慢性副鼻腔炎が頭に浮かぶかもしれませんが、副鼻腔炎は慢性副鼻腔炎以外のものもあります。ここからはそれぞれの副鼻腔炎について説明します。

症状が続いている期間による分類

症状が続いている時期に注目すると副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎に分けられます。

  • 1ヶ月以内に症状がなくなるもの:急性副鼻腔炎

  • 2−3ヶ月以上、症状が持続するもの:慢性副鼻腔炎

  • 1ヶ月から2ヶ月の症状の場合:症状、炎症の繰り返し回数、鼻の中の見た目で急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎に分類

副鼻腔炎細菌感染を起こすことは少ないので抗菌薬(細菌を倒す薬)が必要になることは少ないです。しかし、少ないながらも細菌が原因となることもあり、その場合は急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎では治療に使われる抗菌薬の種類や治療期間が異なります。このような理由で急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎に分けられるのは重要です。

特殊な副鼻腔炎

副鼻腔炎の原因はウイルス感染ですが、その他にも特殊なものが原因になることがあります。特殊な原因の副鼻腔炎は主に次のものです。

これらは特殊な治療が必要になることがあるので、一般的な副鼻腔炎と見分けることが大切です。1つ例を挙げると、副鼻腔真菌症であった場合には、真菌に効果の高い抗真菌薬を用いて治療しなければ完治が難しいです。

慢性副鼻腔炎の症状は下記のものがあります

  • ねばっこい鼻水

  • 色のついた鼻水

  • 鼻づまり

  • 後鼻漏:鼻水がのどの奥に流れる症状

  • 痰がらみの咳

  • 頭痛

  • 頰の違和感

  • 嗅覚障害

  • 鼻茸(びじょう/はなたけ;鼻ポリープ):鼻粘膜がむくんでできた粘膜の腫れ

急性副鼻腔炎を繰り返してその後に副鼻腔に分泌液が溜まることによって慢性副鼻腔炎は起こります。

副鼻腔と鼻腔は小さな穴や管(副鼻腔自然口)でつながっています。このつながりを利用して副鼻腔からでる分泌液は鼻腔へ流れて身体の外に出ます。急性副鼻腔炎が長引くと、副鼻腔の粘膜が傷ついたり、むくむことで、分泌液が過剰に出ます。また、むくみにより副鼻腔と鼻腔の穴が狭くなるので増えた分泌液が鼻腔へ流れにくくなり副鼻腔に溜まってしまいます。副鼻腔にたまった分泌液には、炎症を起こす物質が含まれているので、急性副鼻腔炎が落ち着いた後でも、分泌液が溜まり続ける限り炎症が持続して慢性副鼻腔炎の状態になります。

慢性副鼻腔炎の治療は薬剤や局所療法による治療と手術があります。ここではそれぞれの代表的なものについて説明します。

代表的な薬物療法である少量マクロライド療法と粘液溶解療法について説明します。薬物療法については「慢性副鼻腔炎の薬」で詳しく解説しているので参考にして下さい。

慢性副鼻腔炎の薬物治療で中心になるのが少量マクロライド療法です。マクロライド系抗菌薬(商品名クラリス®、クラリシッド®、クラリスロマイシンなど)を常用量の半量で内服します。マクロライド系抗菌薬は抗生物質(抗生剤)です。少量マクロライド療法は、抗生物質の普通の使いかたとは少し違っていますので、用法・用量の説明をよく聞いておいてください。

マクロライドには炎症を起こす物質や分泌液を減らしたり、分泌物を排泄する線毛の運動を促進する効果があります。この効果により慢性副鼻腔炎の悪循環を改善することができるとされています。

少量マクロライド療法を行う場合は、14員環マクロライド系抗菌薬(商品名クラリス®、クラリシッド®など)を通常の治療量(常用量)の半分を目安として、8−12週間内服します。

効果のある人の場合は、内服開始してから2-4週で効果が出てきます。2-3ヶ月で効果は上限に達します。3ヶ月ほど内服しても効果がない時は、他の治療法を検討します。鼻ポリープのない慢性副鼻腔炎では、3か月のマクロライド少量長期投与でQOL(生活の質)の改善に有効という報告もありますが、効果がないという報告もあります。

効果判定には、鼻水などの自覚症状を指標にします。画像検査は必須ではありません。慢性副鼻腔炎が続いていると画像にも特徴が現れますが、症状が改善すれば画像も遅れて改善します。症状が軽くなってきたころに画像に変化がなくても「効いていないのではないか」と心配する必要はありません。

副作用として下痢が起こりやすいことや、長期間の抗菌薬内服による耐性菌の増加の可能性の問題あり、個々の症状に応じて、マクロライド少量長期療法を行うか検討が必要です。

現在、抗菌薬の不適切使用が問題となっています。抗菌薬は特効薬ではありませんので、上手に使わないと副作用ばかり起こることがあります。抗菌薬を使う場合には本当に必要なのかを一度立ち止まって考えてみることが大切です。自分の症状やその強さを医者に伝えて、状況を一緒に考えてみて下さい。

少量マクロライド療法は、次の病態に対しては効きにくいとされています。

これらに対しては、マクロライド以外の抗菌薬や手術が優先して検討されます。

粘液溶解薬は、粘液産生を促進する物質に作用して、鼻水の粘稠度(ねんちょうど;粘り気)を下げる効果があります。

粘液溶解薬をマクロライドと併用することで、マクロライド療法のみより効果があることがわかっています。粘液溶解薬に分類されるシステイン製剤(商品名ムコダイン®、カルボシステイン、シスダイン®など)は、添付文書上の効能・効果として「慢性副鼻腔炎の排」などがあります。

ほかに去痰薬(商品名ムコソルバン®など)も有効です。また、フドステイン(商品名クリアナール®など)は慢性副鼻腔炎でもみられる鼻やのどの症状に対する作用があります。

病的な分泌液を排除するための処置を行い、副鼻腔炎の悪循環をきたす物質を減らします。局所療法については「慢性副鼻腔炎の治し方」で詳しく説明しているので参考にして下さい。

鼻腔内を洗浄し、鼻腔内の粘性鼻汁を除去します。炎症を起こす物質を含んだ分泌物を流しだす効果があります。食塩水を使用して行います。

内服加療で改善しない場合や、大きい鼻茸や、副鼻腔真菌症や、好酸球性副鼻腔炎などの場合は手術治療を行います。手術治療には鼻から内視鏡を用いて行うものが現在は主体ですが、再発性のものなどでは、歯茎を切ったり、眉毛の下を切って行う手術などもあります。手術に関しては「慢性副鼻腔炎の手術」で詳しく解説してあるので参考にして下さい。

内視鏡を用いて、鼻の穴から道具を入れて行います。局所麻酔で行うこともありますが、全身麻酔で行うことがほとんどです。鼻腔と副鼻腔をつなげる副鼻腔自然口の狭窄や閉鎖が原因であることから、自然口を大きく広げて副鼻腔内の貯留液の排泄を促すことで、慢性副鼻腔炎悪化の悪循環を改善します。手術は入院で行う病院がほとんどですが、日帰り手術などを行っている病院もあるので、問い合わせてみましょう。

慢性副鼻腔炎の手術を以前に行ってからの再発などの場合は、内視鏡手術ではなく、歯茎や眉毛の部分を切開する手術を行うことがあります。Caldwell-Luc手術は、以前によく行われた手術で、歯茎をきって、上顎洞という頬の空間に到達する手術です。Killian手術は、眉毛の下を切開し、前頭洞という額の空間に到達します。それぞれ上顎洞の再発病変、前頭洞の再発病変に行います。

副鼻腔炎は治るものと、治らないものがあります。通常の慢性副鼻腔炎では局所治療や、薬物治療で治ることがあります。内服治療で改善しない場合は、手術治療で症状を改善させることができます。

しかし、いったん治った慢性副鼻腔炎でも、かぜなどをきっかけに再発することもあります。再発した場合はその前の治療と同じ方法または別の方法で治療を行い完治を目指します。

大きな鼻茸を伴う場合や、副鼻腔真菌症など特殊な場合は薬物治療での改善が難しいことがわかっているので、手術治療を行います。

慢性副鼻腔炎は治療が長くなったり再発を繰り返すので治ることが難しいと感じている人も多いかもしれません。確かにそれは事実なのですが、1日1日の治療の積み重ねが完治への道を開きます。長丁場な治療はつらいものですが腰を据えて治療に向き合ってみて下さい。そして、治療中につらくなったらお医者さんに不安に思っていることや悩みなどを相談して解決してみて下さい。

慢性副鼻腔炎があっても、成人するまでに自然に治癒する人がほとんどです。子供の頃に慢性副鼻腔炎と診断された場合でも、12-13歳で半数が治ります。ただし、鼻茸による鼻閉が強い場合や、粘っこい鼻汁が長期間におよぶ場合は、手術を行うことがあります。