腰痛の治療:痛み止め、装具、認知行動療法、マインドフルネス、手術など
腰痛の治療法は、腰痛持ちの人にとって非常に重要なトピックです。ここでは主に、医療機関で行う腰痛の治療法について詳しく解説します。
目次
1. 腰痛に病院でできる治療
腰痛が治らないときは医療機関で相談できます。腰痛の治療で使われる薬と治療法を挙げます。
- 痛み止めの薬(鎮痛薬)
NSAIDs (エヌセイズ)- アセトアミノフェン
- ワクシニア
ウイルス 接種家兎炎症 皮膚抽出液
抗不安薬 - 抗うつ薬
- 筋弛緩薬
- オピオイド
神経ブロック 注射- 物理療法
- 装具(コルセットなど)
- 温熱療法
- 牽引療法
認知行動療法 - マインドフルネス治療
- 手術(外科的治療)
次にそれぞれについて詳しく説明します。
2. 痛み止めの薬(鎮痛薬)
NSAIDs(エヌセイズ)
NSAIDsはアセトアミノフェンとともに市販薬でもよく使われている痛み止めの成分です。
- ケトプロフェン(商品名:モーラス®パップ、モーラス®テープなど)
- NSAIDsの中でも皮膚から吸収されやすく、貼り薬などの
外用薬 としてよく使われています - 副作用として、貼った場所や周りに日光を浴びると
発疹 が出ることがあります(光線過敏)。使用後4週間は貼った場所を覆うべきとされます - モーラス®パップXRは1日1回貼付で効果が持続します
- NSAIDsの中でも皮膚から吸収されやすく、貼り薬などの
- インドメタシン(商品名:インテバン®クリーム、カトレップ®パップなど)
- パップ剤、テープ剤、クリーム剤、ゲル剤など多くの製剤があります
- ロキソプロフェンナトリウム(商品名:ロキソニン®など)
- 飲み薬のほか、ロキソニン®ゲル、ロキソニン®テープなどの塗り薬・貼り薬もあります
- ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン®など)
- 飲み薬、坐剤、テープ剤などがあります
- フェルビナク(商品名:セルタッチ®パップ、ナパゲルン®ローションなど)
- 主に外用製剤の成分として使われているNSAIDsです
- パップ剤、テープ剤、液剤(ローション剤)、スプレー剤(スミル®外用ポンプスプレー)もあります
- サリチル酸メチルの湿布薬(MS温湿布、MS冷湿布)
- NSAIDsの湿布薬です
- 「温」はトウガラシエキスを含みます
- 「冷」はl-メントール(ハッカの成分)を含みます
- 一般に、急性の痛みは冷やし、
慢性的 な痛みは温めるのが適するとされます
- セレコキシブ(商品名:セレコックス®)
アセトアミノフェン
アセトアミノフェンも解熱鎮痛薬として市販薬でも処方薬でもよく使われる成分です。
- アセトアミノフェン(商品名:カロナール®、コカール®など)
- 飲み薬と坐剤があります
- 一般に副作用が少ないとされます
- PL配合顆粒などの総合感冒薬にも含まれています
- オピオイド(トラマドール)との配合剤であるトラムセット®配合錠にも含まれています
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液
- ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名:ノイロトロピン®️など)
- 飲み薬と注射薬があります
3. 抗不安薬
筋肉の緊張を緩めることで、筋肉の張りによる痛みや痛みによる精神的な不安を軽減する効果が期待できます。
抗不安薬は通常、不安障害や心身症、神経症、睡眠障害などの治療薬として使われていますが抗不安作用の他にも筋肉の緊張を和らげる筋弛緩作用をあらわす薬もあります。
腰痛の中でも特に慢性腰痛に対しては有効な薬の一つとされ、腰痛症の
抗不安薬は全般的に眠気、ふらつきなどの副作用があらわれる場合があり、特に高齢者への使用は転倒・骨折などの観点からも注意が必要となります。
4. 抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SNRIなど)
うつの治療には
三環系抗うつ薬
抗うつ薬の中では初期に開発された薬で、鎮痛補助薬としてはアミトリプチリン(商品名:トリプタノール®など)などが使われています。
セロトニンやノルアドレナリンに対する作用などにより、神経障害による痛みに対して効果が期待できます。中でもアミトリプチリンは神経が障害されてあらわれる痛みに効果が期待できる他にも、頭痛(主に慢性頭痛)の予防薬などにも使われていて「痛み」に対して有用な抗うつ薬の一つです。
三環系抗うつ薬は他の種類の抗うつ薬に比べると、一般的に抗コリン作用(体内物質
SNRI
SNRIとはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の略称です。その名前の通り、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質に関わり、うつに対してだけでなく痛みに対しても有用な薬です。
中でもデュロキセチン塩酸塩(商品名:サインバルタ®)は痛みに対して有用な薬で、慢性腰痛症、線維筋痛症に伴う
SNRIは三環系抗うつ薬などに比べて一般的に抗コリン作用などの副作用が軽減されている薬ですが、排尿障害や眼圧上昇などの面から前立腺肥大や緑内障(主に閉塞隅角緑内障)などが持病の人は注意が必要とされています。
5. 筋弛緩薬
筋肉の緊張を和らげる作用により、筋肉の張りや緊張などを伴う痛みに対しては特に効果が期待できる薬です。慢性腰痛に対しては急性腰痛ほどのはっきりとした効果は確認されていませんが、選択肢の一つとなることが考えられます。
- エペリゾン塩酸塩(商品名:ミオナール®など)
- チザニジン塩酸塩(商品名:テルネリン®など)
- 中枢神経(主に脊髄)のα2受容体という物質に作用し筋肉の緊張を和らげる薬
- α2受容体は血圧変動にも関係するため、服用中の血圧低下などには注意が必要です
- クロルフェネシンカルバミン酸エステル(商品名:リンラキサー®など)
これらの筋弛緩作用をあらわす薬は、頻度は稀ですが、筋肉の緊張が緩むことで脱力感や眠気などがあらわれる場合もあり、特に車の運転など危険を伴う作業を行う場合には注意が必要です。
6. オピオイド:ひどい痛みにはオピオイドも選択肢の一つ
オピオイドとは、中枢(脳や脊髄)の痛みに深く関わるオピオイド受容体に作用する物質の総称です。
オピオイドと呼ばれる物質の中には、「麻薬及び
オピオイドは強い鎮痛作用をあらわすため、他の薬を用いても痛みがおさまらない場合などにおいては選択肢の一つとなっています。よく使われるオピオイドの例として以下が挙げられます。
- トラマドール(非麻薬性オピオイド)
- トラマール®、ワントラム®:トラマドールのみを鎮痛成分とする製剤
- トラムセット®配合錠:トラマドールに加えアセトアミノフェンが配合され、鎮痛効果の増強が期待できます
- ブプレノルフィン(非麻薬性オピオイド)
- レペタン®坐剤
- レペタン®注
- ノルスパン®テープ
- 皮膚(胸や背中など)に貼り付けることで、効果が長時間持続します。通常「1週間に1回、貼り替えて使用」します
- フェンタニル(麻薬性オピオイド)
- デュロテップ®MTパッチ:通常「3日1回(約72時間ごと)に貼り替えて使用」します
- ワンデュロ®パッチ:通常「1日1回(約24時間ごと)に貼り替えて使用」します
- コデイン(麻薬性オピオイド)
- モルヒネ塩酸塩(麻薬性オピオイド)
多くのオピオイド鎮痛薬に共通する副作用として以下があります。
- 眠気
- 便秘
- 吐き気
- 薬への依存性
- 呼吸の抑制
フェンタニルによる不整脈など、それぞれの薬剤に特徴的な副作用もあります。
貼付剤のような以前にはなかった剤形の開発により、ある程度副作用が抑えられてきている面もありますが、貼付剤にはかぶれなどの皮膚症状といったように、飲み薬にはないデメリットもあります。
7. 神経ブロック注射
腰痛を引き起こす原因となっている神経やその周りに局所麻酔薬や
神経ブロックの中でも比較的イメージしやすいのが、腰などの痛いところを押して痛みを感じる部位(トリガーポイントと呼びます)に局所麻酔薬を注入するトリガーポイントブロックです。
痛みがあらわれている部位では、局所的に血流が減少して組織の酸素が足りていなかったり老廃物が蓄積している状態になっていることがあります。この状態では痛みを引き起こす物質が作られやすい状況にもなり、さらに痛みが増していくという悪循環に陥ります。神経ブロックには、痛みを和らげることで筋肉の緊張をほぐし、血流を改善して悪循環を断つという狙いもあります。
腰痛に対して行われる神経ブロックにはいくつかの方法があります。
- トリガーポイントブロック
- 腰などの押すと痛むポイント(トリガーポイントと呼びます)に局所麻酔薬を注入します
硬膜 外ブロック- 脊髄の周囲を包む硬膜という膜の外側に局所麻酔薬などを注入します。腰痛のある椎間板ヘルニアや
脊柱管 狭窄症などに使われています
- 脊髄の周囲を包む硬膜という膜の外側に局所麻酔薬などを注入します。腰痛のある椎間板ヘルニアや
- 神経根ブロック
- 脊髄の神経を麻酔します
- 関節ブロック
- 関節内に局所麻酔薬などを注入します
交感神経 ブロック- 血管に働きかける交感神経を遮断し血行障害を改善します
どの神経ブロックを使うかは腰痛の状態、症状の程度、痛みがあらわれてからの期間、診断結果などを考慮して決められます。
8. 物理療法
装具(コルセットなど)
腰痛への対処法として、装具の使用があります。コルセットは装具の代表例で、腰を安定させ、痛みを軽減する効果が期待できます。また、履いている靴を見直すことで腰痛の改善がみられるという報告があります(詳しくは関連記事「腰痛にはどんな靴を履くと良い?」をご覧ください)。
一方、「腰痛
温熱療法
腰を温めることで腰痛の緩和を期待する治療法です。急性の腰痛に対しては、運動療法と併用することで、痛みを軽減したり機能を回復する効果があると考えられています。しかし、慢性の腰痛に対しては効果が乏しいため、腰痛の状況を見ながら温熱療法を行うかどうかを見る必要があります。
牽引療法
牽引療法は、腰椎を上下に引っ張ることで骨の並びを改善し、腰痛を緩和することを狙う治療です。「腰痛診療ガイドライン2019」、「
9. 認知行動療法
腰痛は心理的な状況とも関連があると言われています。その心理的な状況に対する治療法が認知行動療法です。人間の気分や行動は、その人のものの考え方や受け取り方などによっても異なり、その違いが腰痛に影響を与えている可能性を探して修正していく治療法です。
具体的には、痛みへの不安が痛みを増強させてしまっている場合に、痛みへの注意をそらしたり、痛みが出てもコントロールできるという自信をつけて、痛みへの恐怖や不安を改善していきます。
この方法を実践することで腰痛が改善することも少なくありません。
マインドフルネスは効果的?
マインドフルネスは、心身の状態を高めることを指し、瞑想やヨガを取り込んだ治療です。これまでに、うつ症状やストレスに対する効果が研究されており、腰痛に対する効果も報告されています。
マインドフルネスは、リフレッシュやリラックスの効果があるため、腰痛の原因となっているストレスや心の状態を改善する可能性があります。
また、痛みに対する認知を改善する確立された方法(認知行動療法)と同等の効果があるとも言われており、注目されている方法です。
10. 手術療法(外科的治療)
腰痛の原因を取り除く手術は、やれば必ず腰痛が取れるというものではありません。手術を受けても痛みが取れないこともあれば、逆に痛みが悪化したということも少なくありません。そのため、腰痛に対する手術療法を行う場面は限られており、実際には手術を行わないと重篤な状況に発展してしまう可能性がある場合に行うことになります。具体的には、腰痛に加えて以下の症状がある場合です。
- うまく歩けない
- 足のしびれがとれない
- 排尿しづらくなった
- 排便しづらくなった
これらの症状がある場合は手術療法を行うことも選択肢として挙げられるため、必ず医療機関を受診するようにしてください。
参考文献
・日本整形外科学会,日本腰痛学会/監修, 腰痛診療ガイドライン2019, 南江堂, 2019