きゅうせいいちょうえん
急性胃腸炎
下痢・吐き気・腹痛などを起こす病気。食中毒やほかの患者からうつることが原因。抗生物質が効くのは一部の場合だけでほとんどは自然に治る
21人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2024.02.21

急性胃腸炎の症状にはどんなものがあるか:下痢、嘔吐、腹痛、発熱など

急性胃腸炎になるとさまざまな症状が出ます。腹痛や下痢などのお腹の症状から発熱や意識朦朧(もうろう)といった全身の症状などがあります。このページでは急性胃腸炎によって起こる症状について説明します。

1. 下痢

急性胃腸炎で下痢はしばしば起こる症状です。下痢とは水分量の多い便を繰り返し排出する状態のことを指します。「1日に排泄する便に含まれる水分量が200mLを超える状態」と定義されます。しかし、実際に便の中に含まれる水分量を計算することは難しいので、水分を多く含む便が1日に3回以上出る場合に症状から下痢と定義します。

何らかの原因で腸がうまく水分を吸収できなくなると便中の水分が増えて下痢が起こります。その原因は、感染を筆頭に薬剤やアルコール多飲など多岐にわたります。

水様便

水様便は下痢の中でも特に水分を多く含んだもので、いわゆるシャーシャーの便のことです。便中の水分含有割合はとても多く、9割を超えます。腸管がほとんど水分を吸収できていない状態です。

下痢と便秘を繰り返す状態

下痢になると便の回数は多くなりますが、便秘はあまり便が出ない状態のことです。この真逆の状態を繰り返すことがあります。この状態の原因には病気が隠れていることがあるので注意が必要です。

急性胃腸炎とは少し話がずれますが、過敏性腸症候群という状態になると下痢と便秘を繰り返します。過敏性腸症候群は重病ではないのですが、ストレスを感じたり身体に負荷がかかったりすると便通の異常が出現するため生活の質を低下させます。

また、大腸がんでも下痢と便秘を繰り返すことがあります。下痢と便秘を繰り返した場合に大腸がんがある可能性が高いわけではありませんが、放置することで治るものも治らなくなることのある病気ですし、早期発見が大切です。下痢と便秘を繰り返す状態に加えて、「便の色が赤かったり黒かったりする状態」や「便が細くなる状態」、「体重減少」がある場合は、必ず医療機関で検査を受けて下さい。

2. 腹痛

急性胃腸炎で腹痛はしばしば起こります。急性胃腸炎で腹痛が起こる原因には次のものが考えられます。

  • 便やガスがうっ滞することで腸管内圧が上昇して、腸管壁が引き伸ばされる
  • 腸に起こった炎症が腸管の神経や周囲の腹膜に影響を与える

腹痛があるときに排便すると腹痛が楽になることは多くの人が経験すると思います。これは排便で腸の中の便の量が減ると、腸の内圧が低下するので腹痛が軽減するという原理です。

3. しぶり腹(テネスムス)

しぶり腹とは便意があるけれどもなかなか排便ができない状態を指します。排便しようと強く力んでも便は出ないあるいは少量しか出ません。便が肛門の手前の直腸に達すると便意(排便欲求)が高まりますが、しぶり腹は便が直腸に達していないのに便意を感じることで起こります。

しぶり腹は炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎クローン病など)で多く出現します。また、大腸がんもしぶり腹の原因になりますので、症状が長く続く場合には一度検査を受けることをおすすめします。

4. 血便・下血

急性胃腸炎で血便下血が起こることがあります。便に血が混じっていたり、便器が赤かったりすると本人はびっくりします。これらの症状は腸に炎症が起こることで腸の血管が破綻して(壊れて)出血することで出現します。

ここで血便と下血は便に血が混じる点は共通ですが、少し異なる点があることを説明します。血便は便に赤い血が混じることを指します。そのため、血便がある時は肛門の出血や大腸からの出血が問題となっている場合が多いです。一方で、下血は黒い血が便に混じることを指します。出血から時間が経ち、血液が酸化して黒くなった状態です。そのため、下血は胃や小腸の出血が問題になっていることが多いです。

5. 悪心(吐き気)・嘔吐

急性胃腸炎で悪心・嘔吐が起こるとき、次のようなことが起こっている場合が多いです。

  • 消化管にある化学受容器(5-HT3受容体など)が刺激を受けて化学受容器引き金帯(CTZ: chemoreceptor trigger zone)を介して嘔吐中枢が刺激される
  • 消化管の動きが低下するあるいは活動していても協調運動していないことによって、内容物が腸管内で停滞する。これにより腸管が伸展し、機械的受容体から信号が出て嘔吐中枢が刺激される

腸の動きや炎症が改善されると悪心・嘔吐は軽快していきます。

6. 発熱

腸管の炎症が強くなり全身に炎症が及ぶと発熱することがあります。発熱は炎症に対する身体の正常反応です。高熱(38.3度以上が目安)は重症の可能性がありますが、高熱でない限り発熱に対して慌てることはありません。しかし、発熱に加えて脱水などの重症を示唆する症状が見られた場合は、医療機関を受診するようにしてください。

7. 頭痛

全身の炎症の症状あるいは脱水によって頭痛が起こることがあります。急性胃腸炎で頭痛がひどい場合は重症になっていることがあるので、医療機関で診察を受けたほうが良いです。

8. 特に気をつけなければならない状態

急性胃腸炎では脱水に特に注意が必要です。食欲が落ちることで水分摂取量が減りますし、嘔吐や下痢が起こると体内の水分が失われます。脱水になると身体のバランスを乱しやすくなるため、重症になりやすいです。

ここでは脱水になった場合に感じやすい症状について説明します。

ふらつき

脱水になるとふらつくことがあります。寝ている状態でふらふらする場合は重症ですので医療機関を受診するようにして下さい。また、脱水の自覚がなくても立ち上がった際にふらつくことがあります。この場合も、軽度から中等度の脱水が存在する可能性が高いので、飲水が難しければ医療機関を受診することが望ましいです。

頻脈

脱水の程度が強くなると頻脈(脈拍数が100回/分以上)になることがあります。この状態も重症が示唆されますので、水が飲めない場合は医療機関を受診するようにして下さい。ただし、発熱がある場合には、熱によって脈が早くなるので注意が必要です。熱によってどのくらい脈が早くなるかに関しては諸説ありますが、ここでは簡易的に次のように考えます。平温と比較して1度体温が上昇することに脈が10回/分ずつ早くなるのを目安として、それでも脈が早い場合は脱水があると考えて良いです。

例えば、平温が36度で脈拍数が70回/分の人が、体温40度で脈拍数110回/分の場合は脱水よりも熱によって脈が早くなっていると考えます。一方で、同じ人が体温37度で脈拍数が110回/分の場合は脱水があると考えます。この考え方は目安ですので、計算式上は脱水がないように見えても、他に明らかな脱水症状がある場合は医療機関を受診したほうが良いです。

汗が出ない・口が乾く

体内の水分が枯渇すると汗が出なくなったり口の中が渇いてしょうがなくなったりします。また、皮膚が渇いたりシワが多くなったりすることもあります。

これらの症状を自覚する場合は診察を受けに行くようにして下さい。

意識朦朧(もうろう)

急性胃腸炎で意識朦朧とする場合は必ず医療機関にかかってください。意識朦朧は極度の脱水や感染の悪化を示唆します。意識朦朧状態かどうかは本人よりも周囲の人のほうがわかりやすいです。なんだかいつもと違う感じを覚えたら、急性胃腸炎が重症になっているサインの可能性があります。

9. 感染性胃腸炎において原因微生物ごとに症状が出るまでの時間(潜伏期間)はどのくらい異なるのか

胃腸炎において感染が原因となることは多いです。一方で、原因微生物によって症状の出方は異なります。また、感染が起こり始めてから症状が出るまでの時間(潜伏期間)も異なります。これらを知っておくと、原因が何なのかを探るヒントになります。

以下に原因微生物と平均的な潜伏期間について表にまとめます。

【原因微生物と潜伏期間について】

原因微生物 潜伏期間
黄色ブドウ球菌 3-6時間
腸管毒素原性大腸菌(ETEC) 2-3日
腸管出血性大腸菌(EHEC) 3-5日
腸チフスパラチフス 1-2週間
非チフスサルモネラ腸炎 12-48時間
赤痢菌 1-2日
カンピロバクター 2-7日
腸炎ビブリオ 数時間から数日
コレラ 1-3日
エルシニア菌 2-10日
ノロウイルス 1-2日
ロタウイルス 2-4日
アデノウイルス 3-10日

原因微生物によってどんな症状が出やすいのかなどについてもっと詳しく知りたい方は「急性胃腸炎の原因は?感染性胃腸炎、薬剤性胃腸炎、異物による胃腸炎など」のページを参考にして下さい。