[医師監修・作成]腎盂腎炎(腎盂炎)の原因:膀胱炎・尿路結石・神経因性膀胱など | MEDLEY(メドレー)
じんうじんえん
腎盂腎炎
腎臓と尿管のつなぎ目にあたる「腎盂」に炎症が起こった状態。原因のほとんどは細菌感染である。
13人の医師がチェック 190回の改訂 最終更新: 2022.01.28

腎盂腎炎(腎盂炎)の原因:膀胱炎・尿路結石・神経因性膀胱など

腎盂腎炎は尿路(尿の流れ道)に異常があると発症しやすいことが分かっています。ここでは尿路の異常に加えて腎盂腎炎が起こりやすいメカニズムや腎盂腎炎になりやすい人、原因になる病気などを解説します。

1. 腎盂腎炎が起こるメカニズム

腎盂腎炎は細菌腎盂で増殖することで感染が成立します。では、その細菌はどこからきたのでしょうか。腎盂には細菌がもともと存在しているのでしょうか? 実は、腎盂には通常、細菌は存在していません。ほかの場所からやってきた細菌が腎盂腎炎を起こします。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・大曲貴夫/監, がん患者の感染症診療マニュアル第2版, 南山堂, 2012
・Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition

細菌はどうやって腎盂に到達するのか?

【尿路の模式図】

図:尿路の説明。腎盂腎炎を起こす細菌は尿道・膀胱・尿管を逆流して腎盂に侵入することが多い。

細菌が腎盂に到達する経路は主に2つ考えられています。

  1. 尿の流れに逆らって外から尿道口→膀胱(ぼうこう)→尿管→腎盂へと細菌が侵入する 
  2. 血液中に侵入した細菌が血液の流れに乗って腎臓・腎盂に到達する

腎盂腎炎の原因となる病原体が腎盂に到達する方法としては、1. の尿の流れに逆らって侵入することが最も多いです。このような感染ルートを逆行性感染といいます。

腎盂腎炎の原因になる細菌

腎盂腎炎の原因となる細菌の侵入ルートについて解説しましたが、では侵入する細菌はどんな種類があるのでしょうか。

  • 腎盂腎炎の原因になる主な細菌 
    • 大腸菌E.coli) 
    • クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae
    • 腸球菌(Enterococcus faecalis
    • プロテウス球菌(Proteus mirabilis) 

腎盂腎炎の原因菌で最も多いのは大腸菌です。尿路に異物や解剖学的異常がある場合や患者さんの免疫力が低下している場合には上記の細菌に加えて他の細菌が感染を起こしていることも想定して治療をします。

腎盂腎炎にならないための身体の防御機能

腎盂に細菌が到達したからいって必ずしも腎盂腎炎が起こるわけではありません。人間の身体には腎盂腎炎にならないように、次のような防御機能が備わっています。

  • 尿の成分
  • 尿の流れ
  • 粘膜の防御機能
  • 免疫システム

一つずつ解説します。

尿の成分:尿に含まれる尿素や、尿が酸性に傾いていることなどは細菌に対して抗菌的に働くことが知られています。つまり尿の中では細菌は増殖しにくくなっています。

尿の流れ:尿の流れも重要です。尿の流れは菌を物理的に押し流す役割を果たしています。流れのある川は流れのない川に比べて汚れが少ないのは目にしたことがあると思います。尿の流れも同じです。尿の流れは細菌などが腎盂に定着するのに予防的に働きます。

【腎盂の模式図】

図:腎臓と腎盂の位置関係。

粘膜の防御機能:腎盂には粘膜という層があります。粘膜は尿と接する側です。粘膜にはその下の層を細菌などから隔てるバリア機能があります。粘膜によって細菌は容易に粘膜の下の層に到達出来ないようになっています。

免疫システム:ここまで説明してきたように、人間の腎盂には各種の防御機能が働いて容易に細菌などが入り込まないようになっています。しかし、これらをかいくぐって細菌などが侵入することがあります。その場合には、免疫システムが細菌などを排除して感染の成立を防ぎます。

このように腎盂腎炎に対して人間にはいくつもの防御機能が働いています。しかし、それでも腎盂腎炎になる人はいます。なぜなのでしょうか? 腎盂腎炎が起こる理由について考えてみます。

腎盂腎炎になるのはどんなとき?

腎盂腎炎に対する防御機構が備わっていることを説明しましたが、逆の見方をするとこのどれかが上手く機能しなくなると腎盂腎炎を発症する危険性が高まります。

例えば尿の流れが滞ったりする尿路結石がある時、免疫力が低下しているときなどです。

防御機能の低下以外の要因としては、膀胱から腎盂に大量の細菌などが逆流して防御機能の力を上回ってしまうことも考えられます。

以下では個別に腎盂腎炎を起こしやすい人の特徴を見ていきましょう。

2. 腎盂腎炎になりやすい人:女性・妊娠中の人など

以下の条件に当てはまる人は腎盂腎炎を起こしやすいと考えられています。

  • 女性 
  • 妊娠中の人 
  • 膀胱や尿管にカテーテルを挿入中の人
  • 糖尿病の持病がある人 
  • ステロイド薬や免疫抑制薬を内服中の人

腎盂腎炎にかかりやすい人の条件として細菌などが腎盂に到達しやすい状況であったり感染に対して抵抗力が弱くなっている場合があります。以下でそれぞれの原因について解説していきます。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・大曲貴夫/監, がん患者の感染症診療マニュアル第2版, 南山堂, 2012
・Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

女性

【男性と女性の骨盤解剖の模式図】

図:尿路の男女比較。女性は尿道が短く膣や肛門の近くに開く。

腎盂腎炎は男性に比べて女性に多いことが知られています。

男性と女性では尿道の形や長さに大きな違いがあります。尿道とは膀胱から体の外まで尿を運ぶ部分のことです。男性の尿道は陰茎の中を通っておりその長さは16-20cmあります。対して女性の尿道は3-5cmと短いのです。膀胱までの距離が短いと細菌が入り込みやすいです。

もう一つの要因は、女性の外尿道口の周りに細菌が多く存在していることです。

女性の外尿道口は肛門や膣に近い場所にあります。膣や肛門には腎盂腎炎の原因になる細菌が存在しています。膣や肛門の細菌は外尿道口に付着しやすいです。

まとめると女性の尿道は短く、周りに細菌が多くいます。この2つの要因により細菌が膀胱や腎盂に入り込みやすく腎盂腎炎が起こりやすくなっています。

妊娠中の人

妊娠中の人は腎盂腎炎を発症しやすくなります。それには2つの理由が考えられています。

一つは妊娠中に多くなるホルモンの影響で平滑筋という筋肉が緩むことです。尿管の平滑筋が緩むと尿管が拡張したり尿が逆流しやすくなったりします。

もう一つは子宮による膀胱の圧迫です。胎児の成長にしたがい子宮は大きくなります。大きくなった子宮は膀胱を圧迫します。膀胱は圧迫を受けると中の圧力が高まり尿が逆流しやすくなります。

妊娠中は身体の変化により膀胱の尿が逆流しやすくなっています。尿の逆流は膀胱の中に入り込んだ細菌を腎盂に運んでしまい腎盂腎炎が起こる危険性が高まります。

膀胱や尿管にカテーテルを挿入中の人

かかえている病気などのために尿道やお腹から膀胱まで管(カテーテル)を通して管越しに排尿をしている人がいます。排尿のためのカテーテルを使っている人は腎盂腎炎になる危険性が高いと言われています。

排尿のためにカテーテルは大事ですが体にとっては異物です。異物は細菌が繁殖する温床になってしまうことがあります。このために膀胱にカテーテルを挿入している人は膀胱内に細菌が繁殖しやすくなっています。繁殖した細菌が腎盂に達すると腎盂腎炎を発症します。

膀胱に挿入するカテーテル以外にも尿管に挿入するカテーテルもあります。尿管に入れるカテーテルはステントといいます。

膀胱や尿管にカテーテルを挿入している人に発熱などの症状が現れたときには腎盂腎炎を発症した可能性を考えます。

糖尿病の持病がある人

糖尿病の持病がある人は腎盂腎炎を発症しやすいです。

糖尿病を持っている人は免疫力が低下していることがあります。特に糖尿病の治療が不十分な場合にはそれが顕著になります。

人間には免疫機能が備わっているので、腎盂に細菌が到達しても必ず腎盂腎炎が起こるわけではありません。免疫によって細菌が排除されて、腎盂腎炎を発症しないことがあります。糖尿病の持病がある人は免疫により細菌を排除する力が健康な人よりも低下しているので腎盂腎炎には注意が必要です。

ステロイド薬や免疫抑制薬を内服中の人

ステロイド薬や免疫抑制薬は自らの免疫によって引き起こされる病気の治療に用いられる薬です。ステロイド薬や免疫抑制薬は自らの免疫を抑えるので細菌などに対する防御機構も低下します。

このために腎盂に細菌が到達した場合には健康な人に比べて自らの免疫で排除することが出来ないことがあり腎盂腎炎が起こる危険性が高いと考えられています。

3. 大人の腎盂腎炎の原因になる病気:膀胱炎・前立腺肥大症など

腎盂腎炎の背後には原因となる病気が隠れていることがあります。隠れている病気が原因で腎盂腎炎になっている場合には隠れている病気をしっかり治療しないと腎盂腎炎が再発したりなかなか治らなかったりすることがあります。

参考文献 ・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

膀胱炎

腎盂腎炎は細菌が腎盂に入り込み感染が起こる病気です。腎盂腎炎の原因となる細菌は膀胱から腎盂の方向に移動して腎盂に達して感染を起こします。膀胱の中で細菌が増殖している膀胱炎が腎盂腎炎の原因になることは有り得る話です。膀胱炎から腎盂腎炎に発展することを予防するには膀胱炎に対して適切な治療をすることです。

前立腺肥大症

【男性の骨盤の解剖図】

図:男性の膀胱の周り。前立腺肥大症では膀胱から尿が出て行きにくくなる。

前立腺肥大症は、前立腺という膀胱の出口にある臓器が大きくなり尿の出づらさや排尿の勢いが弱くなるなどの症状が現れる病気です。

感染を起こす細菌は尿道から尿の流れに逆らって侵入しようとします。しかし尿道に細菌が入り込んでも容易には膀胱にはたどりつくことはできません。人は排尿によって細菌を押し流すことで細菌の侵入を阻んでいます。前立腺肥大症では排尿の勢いが落ちているので細菌が侵入しやすくなっており、尿路感染も起こしやすくなっていると考えられます。

神経因性膀胱

神経因性膀胱は膀胱を収縮させる神経に異常が起こり膀胱から先に尿を送り出せなくなる病気です。神経因性膀胱が重い状態になると膀胱から先に尿が流れなくなりいわば尿の交通渋滞のような現象におちいることがあります。膀胱の中に大量の尿がたまると尿管は拡張し膀胱からの尿が逆流します。膀胱の尿に細菌があるとこの逆流が容易な環境のために細菌が腎盂に達して腎盂腎炎が起こります。

尿路結石

尿路結石は尿路にできる結石のことです。尿路は腎臓-腎盂-尿管-尿道という尿が流れる一連の臓器のことを指します。尿路結石ができると尿の流れがとどこおったり結石に菌が付着して繁殖したりと腎盂腎炎の原因になることがあります。

4. 子供の腎盂腎炎の原因となる病気:膀胱尿管逆流症・腎盂尿管移行部狭窄など

子供の腎盂腎炎の原因の一つに尿路の先天異常があります。腎盂腎炎をきっかけにして先天異常がみつかることもあります。主な病気は以下のものになります。

尿路の先天的な異常が原因で腎盂腎炎が起こる場合には、尿路の形を正常な状態にする手術や、機能を補うような手術が必要になります。以下ではそれぞれの病気について解説します。

参考文献
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

膀胱尿管逆流症

膀胱尿管逆流症は、膀胱の尿が尿管に逆流する病気です。

膀胱と尿管はつながっていますが、膀胱の中の尿は正常な状態なら尿管に逆流しないようになっています。しかし膀胱と尿管のつなぎ目に異常が起きると膀胱の尿が尿管に逆流してしまいます。尿中の細菌が多いと逆流によって多くの細菌が腎盂に到達してしまい感染が成立する可能性が高くなり腎盂腎炎が起こる危険性が高まります。

腎盂尿管移行部狭窄

腎盂と尿管のつなぎ目が極端に狭くなることがあります。腎盂尿管移行部狭窄(きょうさく)といいます。腎盂尿管移行部狭窄は先天的な病気です。腎盂尿管移行部狭窄があると尿の流れが悪くなり細菌などの増殖しやすい環境がつくられます。細菌の数が多くなると腎盂腎炎が起こる危険性が高くなります。

異所開口尿管

尿管は腎盂と膀胱をつなぐ管です。腎盂から出た尿管が膀胱ではなく他の場所とつながっている状態を異所開口尿管といいます。異所開口尿管は尿管が膀胱以外の場所とつながっているので細菌が入り込みやすく、菌が腎盂まで達すると腎盂腎炎が起こります。

異所開口尿管は女児に多い傾向にあり、腎盂腎炎以外にも尿失禁などの症状が現れることがあります。

重複尿管

尿管は本来は左右に一本ずつですが、尿管が形成される過程の異常で片側の尿管が2本になることがあります。これを重複尿管といいます。本来ないはずの尿管は、膀胱の尿が尿管へ逆流するのを防ぐ機能が不十分なことがあります。このために膀胱の尿が尿管に逆流しやすく細菌も腎盂に達してしまう可能性があります。