じんうじんえん
腎盂腎炎
腎臓と尿管のつなぎ目にあたる「腎盂」に炎症が起こった状態。原因のほとんどは細菌感染である。
13人の医師がチェック 191回の改訂 最終更新: 2023.04.15

腎盂腎炎(腎盂炎)とはどんな病気?症状・原因・治療など

腎盂腎炎は尿の通り道である尿路の感染症の一つです。腎盂腎炎が起こると発熱に加えて腰背部が痛むことがあります。腎盂腎炎はどのようにして診断して治療するのでしょうか。腎盂腎炎のあらましについて解説します。

1. 高熱が出て背中が痛くなる腎盂腎炎とは?

腎盂腎炎(じんうじんえん)は腎盂という場所に細菌が感染しておこる病気です。腎盂は腎臓の一部分です。腎盂腎炎は腎盂炎と呼ばれることもありますが、細菌による感染は腎臓実質(腎臓の実の部分)にも起きていることが多いので医学的には腎盂腎炎と呼ぶことが一般的です。

腎盂腎炎の症状は高熱や腰背部痛、嘔吐などさまざまな症状が現れます。

2. 腎盂とはどこのこと?:腎臓との位置関係や機能について説明

腎盂と聞いても今一つピンとこない人のほうが多いと思います。腎盂とは何のことで腎臓とはどんな関係があるのでしょうか。

【腎盂の模式図】

図:腎臓と腎盂、尿管の関係。

腎盂は腎臓の一部分を示した言葉です。腎盂は腎臓で作られた尿が集まる場所です。

腎臓の働きは血液から老廃物や水分を抜き出して尿をつくることです。この働きを「血液を濾過(ろか)する」と表現することがあります。血液濾過は腎臓の実の部分(上の図にある腎皮質と腎髄質)で行います。腎臓の実の部分でつくられた尿は受け皿の働きをする場所に集まっていきます。この受け皿になる部分が腎盂です。腎盂は行き止まりではなく尿管とつながっています。尿管は腎盂(腎臓)と膀胱(ぼうこう)をつなぐ通路の役割を果たしています。

3. 腎盂腎炎の種類:急性腎盂腎炎、慢性腎盂腎炎、気腫性腎盂腎炎

腎盂腎炎には種類があります。しかし腎盂腎炎のほとんどが急性腎盂腎炎であり、このページでも急性腎盂腎炎のことを腎盂腎炎として説明しています。ここでは急性腎盂腎炎と慢性腎盂腎炎、気腫性腎盂腎炎についても紹介します。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・大曲貴夫/監, がん患者の感染症診療マニュアル第2版, 南山堂, 2012
・Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition

急性腎盂腎炎

急性腎盂腎炎は細菌が腎盂に感染する病気で発熱や腰背部痛などの症状が現れます。急性腎盂腎炎は単純性と複雑性の2つに分類されます。

【急性腎盂腎炎の分類】

単純性腎盂腎炎 複雑性腎盂腎炎

閉経前の女性

妊娠していない

尿路に解剖学的な異常がない

単純性腎盂腎炎以外

急性腎盂腎炎を2つに分類する理由は、両者で治療の方針が異なるためです。単純性腎盂腎炎は抗菌薬抗生物質、抗生剤)単独で治療が可能なことが多いです。

一方、複雑性腎盂腎炎は通常とは異なる細菌が原因となっていたり、尿の通り道に閉塞などが起きていたりする場合があります。そのため、治療に使う抗菌薬に工夫が必要であったり、体の外から針を刺すなどの特殊な処置が必要になったりすることがあります。

慢性腎盂腎炎(慢性間質性腎炎)

慢性腎盂腎炎は急性腎盂腎炎を繰り返すことなどが原因で起こると考えられています。慢性腎盂腎炎では片側または両側の腎臓に瘢痕化(はんこんか)が起こっています。瘢痕とは「きずあと」のことで、瘢痕化とは腎臓であった部分が線維質に置きかえられた状態のことです。

慢性腎盂腎炎は急性腎盂腎炎と同様の症状が現れることもありますが、症状が軽い、もしくはないことも珍しくはありません。悪化すると急性腎盂腎炎と同じような症状が現れやすくなります。症状がある場合には抗菌薬によって治療が行われますが、症状がない場合には経過観察をすることもあります。

気腫性腎盂腎炎(きしゅせいじんうじんえん)

気腫性腎盂腎炎は腎臓内や腎周囲にガスが現れるタイプの腎盂腎炎です。細菌の中にはガスを作り出すものがあります。腎盂に起きた感染による炎症が腎臓実質(腎臓の実の部分)や腎臓の周りの組織に広がって気腫性腎盂腎炎になることがあります。

気腫性腎盂腎炎は深刻な状態のことが多いです。気腫性腎盂腎炎は、糖尿病を持病として抱える人が発症しやすい傾向にあります。抗菌薬と尿のドレナージ(排出させること)を用いて治療します。

4. 腎盂腎炎の症状:発熱・悪寒・腰背部痛など

腎盂腎炎になると発熱や悪寒(おかん;寒気)・戦慄(せんりつ;震え)などの症状が現れることが多いですが、他にも多様な症状があります。

  • 腎盂腎炎の典型的な症状
    • 発熱
    • 悪寒・戦慄
    • 腰背部痛
    • 側腹部の叩打痛(叩くと痛む)
    • 吐き気・嘔吐
  • 腎盂腎炎でときどき現れる症状
    • 頻尿
    • 排尿時痛
    • 血尿

腎盂腎炎の症状は発熱や悪寒、腰背部痛などが特徴的な症状です。頻尿や排尿時痛などの膀胱炎に似た症状が現れることもよくあります。

腎盂腎炎は症状が出てから数時間から1日で進行していきます。腎盂腎炎は血液の中に細菌が入りやすく重い状態に陥りやすいことにも注意が必要です。

腎盂腎炎の症状については「腎盂腎炎(腎盂炎)の症状:発熱・悪寒・腰背部痛など」で詳しく解説しているので参考にしてください。

5. 腎盂腎炎の原因:膀胱炎・尿路結石・神経因性膀胱など

腎盂腎炎はいくつもの要因が重なって発症することがあります。ここでは腎盂腎炎が起こるメカニズムや腎盂腎炎を発症する要因について解説します。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・大曲貴夫/監, がん患者の感染症診療マニュアル第2版, 南山堂, 2012
・Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

腎盂腎炎はどうして起こるのか?

腎盂腎炎は腎盂という腎臓の一部分に細菌が感染する病気です。腎盂腎炎の原因となる細菌は通常腎盂には存在するのでしょうか?

腎盂や尿管、膀胱という尿の通り道には細菌はいないのが正常な状態です。では細菌はどのようにして腎盂に到達するのでしょうか。

細菌などが腎盂に到達するルートは2つ考えられています。一つは外尿意口(尿の出口)から尿の流れに逆らって細菌が腎盂に到達するルートです。もう一つは血液の流れに乗って腎臓に到達するルートです。

細菌が腎盂に到達すると必ず腎盂腎炎になる訳ではありません。人間の身体にはいくつもの防御機構があり、その働きにより腎盂腎炎にはならないようになっています。

腎盂に到達する細菌などの量が多いことや、尿が逆流しやすい形態異常がある、免疫力が低下しているなどの要因が重なり腎盂腎炎は発症します。

腎盂腎炎の発症のメカニズムの詳細は「腎盂腎炎(腎盂炎)の原因:膀胱炎・尿路結石・神経因性膀胱など」で詳しく解説しているので参考にしてください。

腎盂腎炎になりやすい人の特徴 

以下のような特徴をもつ人は腎盂腎炎になりやすいと考えられています。

  • 女性 
  • 妊娠中
  • 膀胱や尿管にカテーテルを挿入中
  • 糖尿病の持病がある
  • ステロイド薬や免疫抑制薬を内服中

【男性と女性の骨盤解剖】

図:女性は尿道が短く膣や肛門の近くに開く。

女性は男性に比べて尿道が短くて外尿道口(尿の出口)が膣や肛門に近い場所にあります。膣や肛門には細菌が多く存在しているので外尿道口の長さや位置の関係で細菌(大腸菌など)が膀胱や腎盂に入り込みやすくなっています。

妊娠中はホルモンバランスの変化と、大きくなった子宮による膀胱の圧迫という2つの要因により膀胱の尿が腎盂に逆流しやすくなっています。膀胱から尿管への逆流は腎盂腎炎を起こす危険性を高めます。

膀胱や尿管にカテーテルなどの異物を挿入していると腎盂腎炎の原因になります。異物があると細菌が繁殖しやすい環境になってしまうためです。

ステロイド薬や免疫抑制薬を内服している間は免疫力が弱くなります。健康な人では多少菌が腎盂に到達しても免疫力によって排除が可能なことが多いです。免疫力が低下していると腎盂での細菌の増殖を許してしまい感染が成立して腎盂腎炎の発症につながってしまいます。

大人の腎盂腎炎の原因となる病気

成人の腎盂腎炎の原因となる主な病気は以下になります。

【尿路の模式図】

図:尿路は腎盂、尿管、膀胱、尿道から成る。

膀胱炎は腎盂腎炎と同じ尿路感染症に分類される病気です。膀胱と腎盂は尿管という管を介してつながっています。膀胱炎が起こると膀胱内は細菌の数がとても多くなります。細菌の

数が多くなると尿管を介して腎盂に到達する危険性が高まります。このため膀胱炎から腎盂腎炎に進行してしまうことがあります。

腎盂腎炎の原因の一つに尿の流れの停滞があります。尿の流れが停滞する病気はいくつかありますが前立腺肥大症神経因性膀胱尿路結石などが代表的です。

子供の腎盂腎炎の原因となる病気

小児(子供)の腎盂腎炎の原因には原因となる病気が隠れていることがあります。隠れている病気を治療しないと腎盂腎炎を繰り返すことがあります。小児の腎盂腎炎の原因となる主な病気は以下のものです。

子供の腎盂腎炎の原因となる病気は尿路の先天異常と呼ばれるもので生まれ持った病気です。尿路の形が生まれつき普通と違っていることで、尿が腎盂に逆流しやすくなったり、尿に最近が入りやすくなったりします。

これらの病気は腎盂腎炎のみならず長期的には腎臓の機能にも影響します。腎盂腎炎の予防と腎臓の機能を守るために尿路の先天異常に対する治療を検討します。治療は主に手術を中心にして行われます。

6. 腎盂腎炎の検査:尿検査・血液検査・細菌検査など

腎盂腎炎を疑った時の診察や検査の目的は、腎盂腎炎の診断を確定することに加えて、感染を起こしている細菌の種類や腎盂腎炎がおこる背景の有無などについても調べることです。

  • 診察
    • 問診
    • 身体診察
  • 尿検査
  • 血液検査
  • 細菌検査
    • 尿の塗抹検査(にょうとまつ検査)
    • 尿の培養(にょうばいよう)検査
    • 血液の培養検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査

検査結果などにもとづいて治療に用いる抗菌薬などを決めます。診察や検査については「腎盂腎炎(腎盂炎)の検査:尿検査・血液検査・細菌検査など」で詳細に解説しているので参考にしてください。

7. 腎盂腎炎の治療:抗菌薬・尿管ステント・腎瘻など

腎盂腎炎の治療にはどのようなものがあるのでしょうか。腎盂腎炎は主に細菌による感染症です。細菌による感染症は抗菌薬による治療が効果的です。

抗菌薬以外の治療が必要なこともあります。腎盂腎炎の原因の一つに尿の流れの停滞があります。停滞した尿は感染源になりえます。尿の停滞が腎盂腎炎の原因になっている場合には停滞した尿を身体の外に出す治療を行います。この治療を尿のドレナージといいます。

腎盂腎炎の治療は抗菌薬治療を主体にして必要に応じて尿のドレナージを行います。

次は抗菌薬治療と尿のドレナージをそれぞれ解説していきます。

腎盂腎炎の抗菌薬治療

腎盂腎炎の抗菌薬治療はどのようにして行うのでしょうか。まずは治療に用いる抗菌薬を紹介します。

【腎盂腎炎の治療に用いる抗菌薬の例】

  • セフェム系抗菌薬
    • セフトリアキソン
  • ペニシリン系抗菌薬
    • タゾバクタム・ピペラシリン
  • ST合剤
  • ニューキノロン系抗菌薬
    • レボフロキサシン
    • シプロフロキサシン
  • カルバペネム系抗菌薬
    • メロペネム
  • アミノグリコシド系抗菌薬
    • ゲンタマイシン
    • アミカシン

腎盂腎炎の治療に用いる抗菌薬は紹介したようにたくさんの種類があります。ここで紹介した薬以外のものが用いられることがあります。

たくさんある抗菌薬から最適なものを選択するにはどうすればいいのでしょうか。抗菌薬を選ぶときには細菌検査の結果や患者さんの状態、背景(抱えている持病など)などから総合的に判断することになります。患者さんの状態は一人ひとりで異なるので最適な抗菌薬も一人ひとりで違うことがあります。

腎盂腎炎の抗菌薬治療については「腎盂腎炎(腎盂炎)の治療:抗菌薬・尿管ステント・腎瘻など」や「感染症治療薬ガイド」で詳しく紹介しているので合わせて参考にしてください。

尿の流れを改善する治療:尿のドレナージ

【閉塞部位と尿のドレナージの方法】

図:尿路は腎盂、尿管、膀胱、尿道から成る。

ドレナージは体の中にたまった液体を体の外に出す処置のことを指します。尿の停滞が腎盂腎炎の原因になっているときは尿の停滞を解決しなければ治療が不十分になることがあります。腎盂腎炎に対する尿のドレナージの方法は主に4つあります。

  • 尿のドレナージの方法と使い分け
    • 尿道カテーテル
      • 膀胱から尿道の間で尿が停滞しているときに用いる 
    • 膀胱(ぼうこうろう)
      • 膀胱から尿道の間で尿が停滞してるときに用いる。尿道カテーテルの挿入が不成功に終わった時に行う
    • 尿管ステント
      • 腎盂と膀胱の間(尿管)で尿が停滞しているときに用いる
    • 腎瘻(じんろう)
      • 腎盂と膀胱の間(尿管)で尿が停滞していて尿管ステントによる治療が困難なまたは不成功に終わった時

ドレナージの方法は停滞が起こっている場所や程度によって使い分けます。原則としては身体に負担の少ないものを優先的に選ぶのが一般的です。

尿のドレナージの方法の詳細は「腎盂腎炎(腎盂炎)の治療:抗菌薬・尿管ステント・腎瘻など」で詳しく解説しているのであわせて参考にしてください。

8. 腎盂腎炎が重症化した場合に起こる合併症:菌血症・DIC・腎膿瘍 

腎盂腎炎が進行すると起こる合併症がいくつかあります。合併症はある病気に引き続いて起こる病気のことです。ここでは腎盂腎炎の合併症として代表的な菌血症・DIC腎膿瘍について解説します。

参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

菌血症(きんけつしょう)

腎盂腎炎が重症化すると菌血症になる場合があります。

菌血症は全身に細菌が回っている状態です。菌血症は全身に炎症を起こし血圧の急激な低下や呼吸状態の悪化の原因になります。

菌血症を起こした腎盂腎炎に対しては強力な抗菌薬による治療と必要に応じて尿のドレナージを行います。尿のドレナージの方法は、いくつかありますが全身状態を考慮しながら最適な方法でドレナージを行います。

菌血症は呼吸状態や循環状態(血圧、脈拍など)が悪化することもあり、状態によっては集中治療室での治療が必要になることがあります。

DIC(Disseminated Intravascular Coagulation:播種性血管内凝固症候群)

腎盂腎炎から菌血症が起きてさらに重症になると、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)という状態になることがあります。

播種性血管内凝固症候群は、英語でDisseminated Intravascular Coagulationといいます。略してDIC(ディーアイシー)と呼ばれることが多いです。

DICは全身の血管の中で血栓(血の塊)ができる状態です。血栓がいろいろな臓器の血管を塞いでしまい、臓器にダメージを与えます。さらに、大量の血栓ができることにより、血液を固めるために必要な物質が消費されてしまいます。血液を固める物質の不足のために血液が固まりにくくなることもあります。

DICが改善しないと、いろいろな臓器が血栓によって血の流れが悪くなり機能しなくなります。多臓器不全という危険な状態です。多臓器不全は「多くの臓器が機能を失う」という意味です。

DICの状態を改善するには血栓ができるのを極力防ぐための薬を投与しつつ、原因である腎盂腎炎をしっかりと治療することが重要です。

腎膿瘍(じんのうよう)・腎周囲膿瘍(じんしゅういのうよう)

腎盂腎炎が重い状態になると腎膿瘍や腎周囲膿瘍が続いて起こることがあります。膿瘍とはのたまりのことです。膿瘍は持続的に激しい炎症が起きることで形成されます。

腎臓の実質(腎臓の実の部分)に膿瘍ができると腎膿瘍、腎臓の周りに膿瘍ができると腎周囲膿瘍になります。

腎盂腎炎の治療を開始してもなかなか症状が改善しないときには腎膿瘍や腎周囲膿瘍になっていることがあり詳しく調べる必要があります。

腎膿瘍や腎周囲膿瘍は抗菌薬治療に加えて膿瘍を体の外に出す治療をしないと改善が期待できません。膿瘍を体の外に出す方法として針を直接刺したりします。

9. 腎盂腎炎にならないための注意点

腎盂腎炎にならないためにはどうすればいいのでしょうか?これをすれば確実に腎盂腎炎にはならないという生活習慣などはあるとはいい難いですが、腎盂腎炎の原因から予防について考えてみます。

腎盂腎炎はなぜ起こるのか?

腎盂腎炎はなぜ起こるのでしょうか?詳しくは「腎盂腎炎(腎盂炎)の原因:膀胱炎・尿路結石・神経因性膀胱など」で解説していますが、予防法を考える時に注目したい腎盂腎炎の原因は尿の流れの停滞と膀胱での細菌量の増加です。

腎盂腎炎の多くは外尿道口から侵入した細菌が膀胱を経て腎盂にたどり着いて増殖し感染が成立します。尿の流れは細菌を押し流す働きをしており細菌を腎盂に到達させないためにも重要です。

腎盂腎炎の原因となる細菌は多くの場合は膀胱の中に存在するものが逆行性に移動して腎盂に到達します。膀胱内の細菌などは少ないほうが腎盂に到達する可能性は小さいです。

まとめると細菌などをできるだけ腎盂に到達させないようにするためには以下の2点が重要です。

  • 尿の流れを保って細菌を押し流して腎盂に到達させないようにする 
  • 膀胱などに存在する細菌の量をできるだけ少なくする

この2点を実行するべく日常生活などの工夫を考えてみたいと思います。また尿路(尿の流れ道)の形は男女で異なるので男女別の注意点についても解説します。

男女に共通した注意点

尿の流れをしっかりと保つにはどのようにすればよいのでしょうか。腎臓は体の体液量を一定に保とうとする働きがあります。つまり体に水分が多くなれば尿量が増加して、体の水分が少なくなれば尿量が減少します。適度な尿量を保つには水分を適度にとることです。適度な水分を摂取し尿の流れを保つことは腎盂腎炎の予防にはよい効果が期待できます。

排尿を我慢すると膀胱炎や腎盂腎炎を発症する危険性が上昇すると考えられます。

もともと膀胱には細菌はほとんどいません。細菌は外尿道口から侵入して膀胱に到達します。膀胱に到達した細菌が増殖して感染が成立すると膀胱炎や腎盂腎炎を発症します。

排尿には細菌を押し流す効果が期待できます。排尿を長期間我慢すると尿の流れが無いがために細菌が尿路を逆行して膀胱や腎盂へ侵入しやすくなってしまいます。

長時間、排尿を我慢するのは精神的にもよくないですし、腎盂腎炎の予防の観点からもいいことではありません。排尿を我慢しないで済むようにこまめに排尿をするなどの工夫が望ましいでしょう。

男性の注意点

男性は腎盂腎炎を起こさないために前立腺肥大症などの排尿障害の治療をすることが大切です。前立腺は男性に特有の臓器です。男性は加齢とともに前立腺が大きくなり排尿障害などの症状が現れます。排尿状態が悪くなると尿とともに細菌を押し流す力が弱くなり細菌が膀胱や腎盂に侵入しやすくなります。このために男性が前立腺肥大症を治療してしっかりと尿が出せるようになると腎盂腎炎に至る可能性は減らすことができると考えられます。

女性の注意点

女性は体の作りなどの理由で男性に比べて膀胱炎や腎盂腎炎などを発症しやすくなっています。女性が腎盂腎炎を予防するには何に注意をすればいいのでしょうか?

腎盂腎炎の原因となる細菌は外尿道口から侵入してくることが多いです。腎盂腎炎を予防するには細菌を膀胱や腎盂に侵入させないことです。女性の場合、ウォシュレット®のような温水洗浄便座の使用や性行為などが細菌の侵入の原因として知られています。

女性の肛門と外尿道口は近い位置にあるので温水洗浄便座を用いると大腸菌が外尿道口に混入する可能性が高くなります。温水洗浄便座を使用する際には洗浄力などを弱くして使うなどの工夫が腎盂腎炎の予防には有効な可能性があります。

性行為にも注意が必要です。膣と外尿道口はかなり近い位置にあるので性行為により膣の細菌などが外尿道口に混入することがあります。性行為の前後では外尿道口の周りを清潔に保つなどの工夫が腎盂腎炎の予防に有効だと考えられます。