しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 235回の改訂 最終更新: 2024.10.29

食道がんの放射線療法:化学放射線療法やPDTなどの解説

食道がんの放射線療法は、手術の代わりになることもあれば症状を緩和する目的でも重要な選択肢です。目的によって考え方が違います。放射線療法が適した状況や効果、副作用などを解説します。 

まず食道がんの治療の選択肢を示します。

食道がんの治療チャート

ステージとはがんの進行度を大まかに分類したものです。ステージ0が最も早期で、数字が大きいほど進行しています。詳しくは「食道がんのステージとは?ステージの決め方や治療法についての解説」で説明しています。

食道がんの治療で放射線療法は多くの場面に登場します。

  • 化学放射線療法として根治を狙う

  • 食道がんによる食道の狭窄などを予防する

  • 転移した部位の痛みを緩和したり神経への影響を回避する

放射線療法は症状を緩和する治療というイメージを持たれる人がいると思います。しかし食道がんに対する化学放射線療法はがんを身体からなくす目的の根治療法です。つまり治療の目的は手術と同じです。

放射線療法は食道がんの治療に欠かすことができません。放射線がどのようにしてがん細胞に効果を示すかを解説します。やや専門的な内容を含んでいます。

放射線とは電離作用(原子の電子軌道から電子をはじき飛ばす作用)を持つ電磁波と粒子の総称です。人工物がなくてもあらゆる場所で微量の放射線が飛び交っています。自然に存在する物質が放射線を出す能力(放射能)を持っていることや、太陽など宇宙からも放射線が降り注いでいることによります。人類が放射線を発見するよりも前から、自然界に放射線はつねに存在し、すべての人の体内から放射線が発生していました。

医療用途で最も一般的に使われている放射線は、リニアックという装置を用いて電子を加速して発生させるX線と電子線です。他にはγ(ガンマ)線やβ(ベータ)線が治療に用いられることがあります。現時点で標準的にはなっていませんが、陽子線や重粒子線を治療に用いる試みもあります。

放射線療法の分量にはGy(グレイ)という単位が用いられます。Gyは吸収線量の単位です。吸収線量とは、放射線を照射された物質が単位質量あたりで吸収するエネルギー量を指します。2011年の原発事故以来、Sv(シーベルト)という単位がよく報道にも現れるようになりました。Svは線量当量・等価線量・実効線量などの単位です。1GyのX線は1Svに相当します。

放射線療法では50Gyから60Gyといった大量の放射線を体に浴びせます。一度に全身に浴びせると命に関わる量です。がんがある場所だけを狙って、少しずつ分割して浴びせることで、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がんを攻撃する効果を得ることができます。

環境から来る放射線はおおむね1時間あたり0.1μSv程度です。「μ(マイクロ)」は1,000,000分の1という意味です。1Sv=1Gyと考えると、放射線療法では環境から来る放射線の数万年分を治療期間の数週間ほどで当てる計算になります。それほどの量を使っても深刻な副作用が現れる人は限られています。

放射線ががん細胞を攻撃する効果は細胞のDNAを損傷させることで発揮されます。DNAの損傷は正常細胞とがん細胞の両方で発生します。このために正常組織を避けつつ標的となるがんに対して十分に放射線を当てる必要があります。

実は放射線療法をしなくても細胞のDNAはつねに少しずつ損傷を受けています。自然環境から放射線を浴びていることのほか、さまざまな原因によりDNAが損傷します。しかし、細胞は自然に傷付いたDNAを修復する機能を持っています。このため日常生活の中でDNAの損傷が病気に結び付くことはほとんどありません。

放射線療法によりDNAが損傷しても、自然に修復する機能が働きます。しかし修復不能な場合には細胞死に至ります。

放射線によるダメージの強さは、放射線を浴びた細胞の種類によって差があります。経験上、放射線による損傷を受けやすい細胞には次の特徴があることが知られています。

  • 細胞分裂の頻度が高いもの

  • 将来行う細胞分裂の数の多いもの 

  • 形態および機能において未分化なもの

この3点の法則をベルゴニエ・トリボンドーの法則(Bergonié-Tribondeauの法則)と言います。

がん細胞は以上の3つによく当てはまります。実際に、放射線をがん細胞に照射することで、がん細胞を死滅させる効果が現れます。

食道がんの放射線療法は2ヵ月程度かかることが想定されます。食道がんの治療で使われる放射線の量は合計で50.4-60Gy(グレイ)です。1回に照射する量は1.8-2Gyなので休日などを考えると1ヵ月半から2ヵ月程度の期間が治療に必要です。

また化学放射線療法の場合は同時に抗がん剤を投与するために入院が必要になります。

放射線療法は、がん細胞の死滅を目的とした治療ですが、がんだけではなくがん以外の部分にも影響を与えます。その意味で放射線療法にも副作用があります。副作用と聞くとかなり厳しい症状を想像するかもしれませんが、放射線療法の副作用は症状としては比較的軽いものが多いです。放射線療法が外来通院でも可能なのは、入院治療が必要になるほどの急変が少ないからという見方もできます。

副作用について理解するだけで不安感が少しは和らぐと思います。副作用は症状が出て来る時期によって早期障害と晩期障害に分けられます。それぞれ解説します。

早期障害(そうきしょうがい)とは放射線療法中から放射線療法終了までの間に生じる副作用のことです。出やすい症状の例を挙げます。

  • 放射線を当てた部分の皮膚が赤くなる

  • 放射線を当てた部分に痛みが生じる

  • 喉の違和感や飲み込みにくさなどが生じる

放射線療法による早期の皮膚の障害は、ひどい日焼けのような状況と思うと想像しやすいと思います。つまり赤くなったり痛みが出たりします。食道に放射線を当てると病変の部分が一時的にむくんで飲み込みにくさがひどくなることもあります。食事が摂れなくなると全身の栄養状態が悪化します。食事が摂れない場合は入院して栄養状態の改善を図ります。

早期障害は治療が終了すると大部分が改善します。

もし症状や体調の変化を感じたら、主治医や放射線療法の担当医に相談してください。自分で解決しようと一人だけで苦労する必要はありません。

晩期障害(ばんきしょうがい)とは、放射線の照射が終了してから数か月経って初めて現れる症状です。出やすい症状の例を挙げます。

  • 皮膚が縮み、固くなる

  • 食べ物が飲み込みにくくなる

  • 食道に潰瘍(かいよう)ができる

  • 肺に水が溜まって呼吸がしづらい(胸水

  • 身体を動かすと息切れがひどい(収縮性心膜炎、心嚢水貯留など)

  • 咳や微熱(放射線肺臓炎

晩期障害では、皮膚が固くなることが大きな変化の一つです。放射線が当たった皮膚は皮脂から出る分泌物が減少します。分泌物が減少すると皮膚が乾燥しかゆみの原因になります。症状を改善する方法としては、保湿剤を塗ることなどが有効です。

食道が放射線の影響で狭くなるなどの原因で、食べ物を飲み込みくくなる場合があります。食道に潰瘍ができることもあります。黒い便が長く続いたりするときには食道の潰瘍の可能性があります。

心臓にも放射線の一部が当たるので、あとになって心臓を包む膜が硬くなったり、心臓の周りに水が溜まったりすることもあります。こうした場合の症状としては、心臓の動きが悪くなることにより少し動いただけで息切れがするなどがあります。

晩期合併症の中でも特に注意が必要なのが、放射線性肺臓炎です。放射線性肺臓炎は軽症のことが多いのですが、まれに重症化する人がいます。ひどい場合は命に関わります。

放射線療法の終了後に咳や発熱を感じたときにまずするべきことは放射線性肺臓炎の疑いがあるのか、また疑わしいときにはどの程度の重症度なのかを把握することです。我慢せず医師に相談することが大事です。

放射線療法にかかる費用は一概には言えません。

放射線療法は抗がん剤治療と同時に行われることが多いです。これを化学放射線療法と言います。化学放射線療法のために入院が必要になることが多いので、入院期間などによって負担する金額がかなり違います。

治療費は大切な心配事の一つです。患者さんの経済状況によっては家計に対する費用の負担が大きいことも考えられます。医療費が高くなる場合は後述する高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)などを利用することで負担額が軽減することがあります。また病院によっては医療福祉相談室などの専門の窓口が設けられているので相談しておくといいでしょう。

高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)とは、収入に応じて医療費の自己負担額に上限を定めている制度です。

医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払った後に、月ごとの支払いが自己負担限度額を超える部分について払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。

たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(総医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。

この人に対して医療費が1,000,000円発生したとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。

払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。所得によって自己負担最高額は35,400円から252,600円+(総医療費-842,000円)×1%まで幅があります。

高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

参照:高額療養費制度を利用される皆さまへ(厚生労働省)

あらかじめ医療費が高額になることが見込まれる場合は「限度額適用認定証」を申請し、認定証を医療機関の窓口で提示することで、自己負担分の支払い額が一定額まで軽減されます。高額療養費制度で支払われる還付金の前払いといった位置づけになります。保険外の費用(入院中の差額ベッド代や食事代など)は対象外となります。

化学放射線療法とは抗がん剤治療と放射線療法を組み合わせた治療法のことです。抗がん剤は入院で体に投与します。ステージによって抗がん剤の使いかたが異なります。

ステージIに対する化学放射線療法のスケジュールの例を示します。

食道がんの化学放射線療法スケジュール

化学放射線療法は抗がん剤と放射線治療を併行して用います。抗がん剤治療はFP療法という方法を2サイクル行います。抗がん剤治療は28日を1サイクルとしています。放射線療法は30日間に分けます。FP療法はフルオロウラシルとシスプラチンという抗がん剤を組み合わせた治療です。抗がん剤治療は入院して行いますが、体の状態が上向き次第退院できます。退院後は外来通院で放射線治療を続けます。

ステージII、IIIに対する化学放射線療法のスケジュールの例を示します。

食道がんの化学放射線療法スケジュール

化学放射線療法は抗がん剤と放射線治療を併行して用います。抗がん剤治療はFP療法という方法を2サイクル行います。抗がん剤治療は28日を1サイクルとしています。放射線療法は30日間に分けます。FP療法はフルオロウラシルとシスプラチンという抗がん剤を組み合わせた治療です。

抗がん剤治療は入院して行いますが、体の状態が上向き次第退院できます。退院後は外来通院で放射線治療を続けます。ステージII、IIIの場合は放射線治療が終わった後に抗がん剤治療を2サイクル追加します。追加の抗がん剤治療もFP療法です。

参照:
Int J Radiat Oncol Biol Phys.2011;81;684-690​
Ann Surg Oncol.2012;19:68-74

食道がんにおける化学放射線療法は根治が可能な治療法です。根治とはがんを身体からなくすことです。根治が可能な治療法を根治治療といい、食道がんの根治治療は手術と化学放射線療法があります。ステージIからIVの一部まで化学放射線治療で根治が可能な場合があります。ステージごとに化学放射線療法の効果について解説します。

ステージIでは手術も治療の選択肢になります。食道がんの手術は体への負担が大きいので体の状態が悪く手術が適しない場合があります。そのときには化学放射線療法が有力になります。

臨床試験でのステージIに対する化学放射線療法の治療効果は治療後4年の生存率が80.5%だったとする報告があります。抗がん剤治療は28日を1サイクルとして2サイクル行います。放射線療法は30日間に分けます。

化学放射線療法により食道が残ることは生活の質という点では優れてはいます。一方で食道を残すことで再発する危険性も考えられます。

参照:Jpn J Clin oncol.2009;39:638-43

ステージIIに対する治療で、手術に耐えうる健康状態が保てていない人には化学放射線療法が選択肢として挙げられます。

ステージII、IIIの化学放射線療法はステージIより長く続けます。放射線療法の期間はステージIと同じですが、抗がん剤治療をさらに2サイクル追加します。抗がん剤治療は28日を1サイクルとして合計4サイクル行います。放射線療法は30日間に分けます。臨床試験では化学放射線治療後の5年生存率は36.8%だったとする報告があります。

参照:
Ann Surg Oncol.2012;19:68-74

Int J Radiat Oncol Biol Phys.2011;81;684-690

ステージIVはステージIVaとステージIVbに分けられます。ステージIVaは、転移はないものの周りの臓器への広がり方からすぐには手術ができない状況です。ステージIVbは、食道から離れた位置のリンパ節転移(領域リンパ節以外)や離れた臓器の転移(遠隔転移)がある状態です。

化学放射線療法が用いられるのはステージIVaです。ステージIVbに対しては抗がん剤を主体として治療します。ステージIVaに対して、化学放射線治療により2年生存率が31.5%だったとする報告があります。抗がん剤治療は28日を1サイクルとして2サイクル行います。放射線療法は30日間に分けます。効果をみ抗がん剤治療を2サイクル追加します。抗がん剤治療は合計4サイクルになることがあります。

ステージIVaに対する化学放射線療法は合併症には注意が必要です。ステージIVaは周りの臓器へ広がっているので完治を目指して放射線を照射すると周りの臓器に強く影響してしまう可能性があるためです。

参照:Jpn J Clin Oncol.2004;34:615-9

化学放射線療法後は再発の有無を内視鏡CT検査で定期的に確認します。

  • 治療後2年目までは3−4か月毎

  • 治療後3年目以降は6か月毎

化学放射線療法後に食道にがんが再発した場合は、再発した病変を詳しく調べることから始めます。がんの状態に合わせて内視鏡または手術で治療します。

化学放射線療法後のような根治的治療を行ったあとの再発に対する治療を救済治療といいます。救済治療として手術、内視鏡治療と後述する光線化学療法(PDT)も選択肢とされる場合があります。

化学放射線療法後の再発に対して、内視鏡治療が適していない場合もあります。再発が明らかに粘膜下層まで届いている場合です。そうした場合の救済療法としてPDTが選択肢となります。

PDTはphotodynamic therapy(光線力学療法)の略です。光線力学療法はレーザー光によって引き起こされる化学反応を治療に利用します。薬を体に投与したうえで、がんにレーザー光を当てて反応を起こします。この反応によって治療効果を狙います。保険適用でPDTを受けることができます。

食道がんが以下の条件すべてに当てはまる場合がPDTの対象になりえる(適応)と考えられます。

  • 食道の病変が頸部食道に及ばない

  • 救済内視鏡切除術の適応とならない

  • 腫瘍の深達度がT2

  • 腫瘍の長径が3cm以下および周在性が1/2周以下の病変

専門的な内容なので解説します。

食道は頸部食道、胸部食道、腹部食道の3つに分けられます。頸部食道に病変があるときには原則としてはPDTの適応にはなりません。

化学放射線療法や放射線療法後に再発した場合に内視鏡での切除も選択肢になります。現在の所、PDTは内視鏡治療が適応にならない場合に考慮されます。つまり救済内視鏡治療の適応はがんが粘膜にとどまる場合に限られるので、粘膜下層まで浸潤していることが明らかな場合や化学放射線療法の影響で食道の組織が固くなって内視鏡的切除ができない場合などはPDTの適応が検討されます。

腫瘍の深達度でT2は筋肉の層まで浸潤しているという意味ですが、筋肉の層まではPDTのレーザーが及ばないので効果が期待できません。

今までの治療実績から、がんの広がりは3cm以下で、かつ食道の周りの1/2周以下の範囲にとどまる場合がPDTの適応になりえるとされています。

PDTは内視鏡を用います。手順は以下のようになります。

  • タラポルフィンナトリウム(商品名レザフィリン®)という物質を注射で投与します。副作用の一つである光線過敏症を予防するために日焼け止めクリームを体に塗ります。

  • 注射から4-6時間後に内視鏡で病変を確認してレーザーを照射します。

  • 十分に病変が焼けたことと出血などの問題がないことを確認して終了します。

過去の報告でPDTの副作用にはリンパ球の減少、光線過敏症などが知られています。リンパ球は白血球の一種で身体をウイルスなどの異物から守る働きの一部を担っています。PDTで使うタラポルフィンは光線過敏症の原因にもなります。光線過敏症は光が皮膚に当たると皮膚が異常な反応を起こしてひどい日焼けのような状態になるという症状です。このためにPDT後は光をできるだけ避けるなどの工夫が必要です。

治療後にがんが残っていないかを確かめるため、治療翌日に内視鏡で観察します。残っていた場合、再度PDTが検討されます。またタラポルフィンナトリウムによる光線過敏症を予防するために1-2週間個室で過ごします。その間も光が当たり過ぎていないかを確認するために照射量を測定して500ルクス以下で生活するようにします。ルクスは明るさの単位です。500ルクスは室内で読書ができる程度の明るさです。光線過敏症の予防に関しては退院前に自分で注意することなどの説明をしっかりと聞いておいてください。

参照:Oncotarget. 2017;28:22135-22144

光線力学を利用したがん治療薬で、その成分であるタラポルフィンナトリウムは植物クロロフィル(葉緑素)由来の光感受性物質を元に造られています。

がん細胞に集まりやすい性質を持ち、レーザー光に反応し、がん細胞を壊死させる作用をあらわします。

もう少し詳しく作用の仕組みをみていきます。

タラポルフィンナトリウムを投与した後に波長664nmのレーザー光を照射すると、腫瘍細胞内に取り込まれたタラポルフィンナトリウムが励起(れいき)状態という基底の状態よりもエネルギーが高い状態になり、腫瘍細胞内で活性酸素の一種である一重項酸素と呼ばれる物質を生成します。一重項酸素は強い酸化作用があります。酸化作用により直接的に腫瘍細胞に障害を与える作用や、腫瘍血管に対して障害を与え腫瘍血流を阻害する作用により抗腫瘍効果をあらわすと考えられています。

タラポルフィンナトリウム製剤であるレザフィリン®(注射用レザフィリン®100mg)は元々2003年に早期肺がん病期0期又はI期の肺がん)に対して承認された薬剤です。2013年には原発性悪性脳腫瘍(腫瘍摘出手術を施行する場合に限る)に対しても承認されました。

同じような作用の仕組みによって食道がんなどの治療に使われていた薬でポルフィマーナトリウム(商品名:フォトフリン®)という薬剤がありますが、光線過敏症を引き起こす可能性により、治療後に一か月半程度の遮光期間が必要であるなどのデメリットがありました。これらを鑑み、より負担が少ない治療法の一つとしてタラポルフィリンナトリウムの有用性などが考えられ、2015年に化学放射線療法や放射線療法を行った後に局所に残存したり再発した食道がんに対する治療薬としてタラポルフィンナトリウムが承認された経緯があります。

タラポルフィンナトリウムは、ポルフィマーナトリウムに比べれば光線過敏症に対する負担の軽減が期待できますが注意は必要です。

食道がんに対する臨床試験では、手掌背部(手の甲)を直射日光に曝露して実施した光線過敏性試験の結果、約7割の被験者が薬剤投与後1週間程度で反応がみられなくなり、残りの被験者においても薬剤投与2週後には反応が消失し、また反応がみられた場合でも多くの被験者でわずかな反応しかみられていないことが確認されています。

光線過敏症への対策としてタラポルフィンナトリウムを使用後2週間は原則として、直射日光を避け遮光カーテンなどを用いて照度が500ルクス以下に調節した室内で過ごしたり、使用後3日間はサングラスをかけるなどの対処が必要です。また使用から2週間後に指、手掌背部に直射日光を5分間あてたときの反応を確認し、過敏反応などの状態によってはさらに1週間ごとの確認を行っていきます。光線過敏症がみられなくなってもタラポルフィンナトリウムの使用後4週間以内の外出時には帽子、手袋、サングラスなどを着用するといった日光を避ける対処が必要です。光線過敏症の対策に関して医師などからしっかり説明を聞いておくことも大切です。またクロレラ加工品などの食品の摂取や一部の抗菌薬などの薬剤を併用することで光線過敏症を引き起こしやすくなる可能性もあり注意が必要となります。

他にも発熱、食道痛、嚥下障害、吐き気などの消化器症状、咳や痰などの呼吸器症状、肝機能障害などには注意が必要です。

参照:「注射用レザフィリン®100mg」インタビューフォーム

化学放射線療法は抗がん剤治療と放射線療法を同時に行う治療です。食道がんの手術前に行う場合もあります。

欧米では手術の前に化学放射線療法をすることが一般的です。しかし、日本では食道がんの手術前の治療としては抗がん剤治療を優先する意見があります。

手術の前に治療をする目的は、がんを小さくして手術できる限りがんを取り逃さないようにすることです。がんの手術ではがんの部分だけを切り取るわけではありません。がんは目に見えるところだけではなく目に見えない小さながん細胞がその周りにも広がっていることが考えられます。このため手術では大きな範囲でがんを切除すると効果的と考えられます。食道がんは壁が薄いので周りに浸潤しやすいです。このためにがんと切除する範囲の間に十分な距離がとれないことがあります。加えて食道の周りには血管や気管などの重要な臓器があるので、ぎりぎりのところでがんを剥がさないといけないことも想定されます。このため手術をするときにはできるだけがんが小さいほうが有利です。

日本では手術の前に抗がん剤でがんを小さくして手術をすることが標準的な治療です。化学放射線療法は、抗がん剤の効果だけではなく放射線療法の効果も加える狙いがあります。一方では手術前の治療として化学放射線療法を使うとその手術の合併症が多いという意見もあります。

放射線があたると食道の周りの組織が固くなってその部分が正常に戻るのに時間がかかったりすることが合併症の多さと関係していると推測されています。手術はがんを切り取ることも大事ですが合併症をできるだけ少なくすることも大事です。手術前の治療も、がんを小さくすることと同時に、合併症の危険性を抑えることが大事です。放射線を使わないという選択肢は合併症を減らすという考え方を重視したものです。

がんが食道の周りの臓器に浸潤している場合には、がんをより小さくする狙いで化学放射線療法が提案されることはあります。

実際の治療結果としては、手術前の治療として抗がん剤のみの治療と化学放射線療法のどちらが優れているかをはっきりと示した国内の研究データはありません。

化学放射線療法は手術前の治療として使われていないわけではありません。一人一人の状態に応じて効果と合併症のバランスを考えて、最終的には患者さん本人や家族などの価値観もふまえて判断されます。

参照:
N Eng J Med. 2012;366:2074-84
Br J Surg. 2014;101:321-38