しょくどうがん
食道がん
食道の表面の粘膜にできたがん。たばこ、飲酒などが一因であると言われている
15人の医師がチェック 235回の改訂 最終更新: 2024.10.29

食道がんとは?食道の場所、食道がんの症状から治療法まで解説

食道は、口と胃の間をつなぐ臓器です。食道がんは、年間約2万人に発生して約1万2千人が死亡しています。食道がんは進行すると治すのが難しい病気です。初期には症状がないことも多く進行して発見されることもあります。  

食道は口の中と胃の間を繋ぐ管の形をした臓器です。長さは30cm程度です。食道の太さは2-3cm、壁の厚さは4mm程です。食道は口から胃へ食べ物を送る働きをしています。

食道の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つに分かれます。食べ物の流れ道である消化管(食道、胃、小腸、大腸)の多くには、漿膜(しょうまく)といって、外膜のさらに外側にもう1つ膜があります。食道には漿膜がないために食道がんは周囲の臓器に浸潤(しんじゅん)しやすいと考えられています。浸潤とはがんが隣り合った組織に入り込みながら広がっていくことです。

食道には部分ごとに分けた呼び名があります。

  • 頸部食道:輪状軟骨下縁より胸骨上縁まで 
  • 胸部食道:胸骨上縁から食道裂孔上縁まで 
    • 胸部上部食道 
    • 胸部中部食道 
    • 胸部下部食道 
  • 腹部食道:食道裂孔上縁から食道胃接合部まで 

食道がんがもっとも発生しやすいのは胸部中部食道です。次いで胸部下部、胸部上部食道の順に続きます。

食道は食べ物を胃に送る働きをしています。食べ物を飲み込むと重力で下側に流れていくとともに、神経や筋肉が連携して食道を動かし食べ物を胃に送り込みます。食道の出口は胃の中身が逆流しないようになっています。

図:食道の場所を示す解剖イラスト。食道は気管の後ろを通る。

食道の周りには重要な臓器がいくつかあります。

  • 気管、気管支 
  • 心臓
  • 大動脈

食道の壁は薄いので食道がんが進行するとがんが壁を破り周りの臓器に浸潤します。ときには気管支や肺と繋がったりして重い症状が現れることがあります。

食道がんの初期には症状がないこともあります。内視鏡で偶然発見されることもあります。

食道がんの初期の症状として、食べ物を飲み込んだ時にちくちくした痛みがあったり、熱いものを飲み込んだ時にしみるような感じを自覚することがあります。痛みを嚥下時痛、しみる感じを灼熱感といいます。はっきりしない違和感程度のこともあります。食事中に嚥下時痛や灼熱感を自覚するときは医療機関で調べてもらうことが重要です。

嚥下とは飲み込むことです。食道がんが大きくなると食道の中(内腔)が狭くなってきて食べ物の流れが悪くなります。食べ物を少し大きな形で飲み込んだ場合に嚥下困難を自覚することが多いです。

食道がんが周りに浸潤して嚥下に関わる神経(反回神経)に影響することでも起きます。

食道がんが進行すると食道の壁の外側方向にがんが浸潤していきます。食道の周りには肺や心臓があります。周りの臓器にがんが影響することで胸の痛みが出ます。

食道は背中側に位置します。食道がんが進行すると食道の外側方向に浸潤していきます。食道がんが背骨や神経まで浸潤することで背中の痛みを感じることがあります。

嗄声はかすれ声のことです。食道がんが進行すると反回神経という神経に浸潤することがあります。反回神経は発声に重要な役割を果たしています。反回神経にがんが浸潤することで声がかすれる嗄声の症状が現れます。

食道がんが進行すると食事がのどにつかえるなどして食事量が減少し、体重が減ることがあります。また、がんは一般にエネルギーを消費することなどによって体重減少を伴うことがあります。

食道がんが気管支などに浸潤すると咳が出ることがあります。食道の周りには肺、気管、気管支など、呼吸をするための臓器があります。がんがこれらの臓器に浸潤することで咳などの症状が出ます。

咳の原因となる病気は他にも多くあります。結核などに気付かないでいる人もいるので、咳が長引くときには医療機関を受診して相談することが大事です。

喀血は肺や気管支から出血して血が口から出てくることです。食道がんが気管支や肺に浸潤して出血すると喀血として現れます。喀血は食道がん以外にも重い病気が原因で現れることがあります。喀血をきたした場合は直ちに医療機関を受診してください。

吐血は食道や胃などの食事の通り道から出血して口から血が出てくることです。食道がんが大きくなると食道の内側に出血して吐血を起こすことがあります。がんは出血しやすい性質があるので吐血の原因になります。吐血の原因は他にも胃がん胃潰瘍などがあります。いずれも治療を要する状態なので、吐血があった場合は直ちに医療機関を受診してください。

食道がんは「最新がん統計」によると26,382人(2019年)に発生して10,981人(2020年)が亡くなっています。食道がんは男性に多い傾向にあります。男女比はおおよそ5:1です。食道がんが発生しやすい年齢は60代から70代ですが、より若い年齢で食道がんになる人もいます。

食道がんは緩やかに増えています。高齢化が進んでいるので食道がんが発生しやすい年齢の人が増加していることも原因の一つです。

高齢化の影響を除いてみても食道がんは緩やかに増加している傾向があります。高齢化の影響を除いてみるには年齢調整罹患率に注目します。年齢調整罹患率は、人口の年齢分布が昭和60年と同じになったらと仮定して計算します。罹患率(りかんりつ)とは、年間に新しく食道がんと診断される人の割合を指します。

食道がんの罹患率の統計は男女別のデータがあります。

食道がんの罹患率

男性では時代が進むにつれて罹患率(粗罹患率)が増加しています。年齢調整罹患率を計算しても、やはり増加する傾向にあります。女性でも粗罹患率はやや増加しています。しかし、年齢調整罹患率は1975年以来ほとんど変化していません。

食道がんに限らずがんは様々な要因が重なり発生するので原因を一つに特定することは困難です。しかしながら食道がんが発生する危険性が上昇するものはいくつか知られています。

食道がんには扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと腺がんというタイプがあります。日本人に多いのは扁平上皮がんですが、近年腺がんも増えてきています。

食道がんの発生しやすさと関連があるとされるものの例を挙げます。

がんなどの病気が発生する危険性を上昇させるものをリスクファクターといいます。それぞれのリスクファクターが食道がん発生に与える影響は「食道がんの原因は?」で解説しています。

食道がんの治療法を決めるためにステージを分類します。ステージとはがんの進行度を指す言葉です。食道がんのステージは大きくステージIからステージIVに分類されます。ステージIVはさらにIVaとIVbの2つに分類されます。

食道がんのステージは「がんの根の深さ(T)」、「リンパ節転移の有無・個数(N)」、「遠隔転移の有無(M)」の3つを評価してその組み合わせで決定します。

組み合わせとステージの対応は表のとおり決められています。

  N0 N1 N2 N3 N4 M1
T0、T1a 0 II II III IVa IVb
T1b I II II III IVa IVb
T2 II II III III IVa IVb
T3 II III III III IVa IVb
T4a III III III III IVa IVb
T4b IVa IVa IVa IVa IVa IVb

以下で3つの要素の意味を説明します。

図:食道がんの深達度分類のイラスト。T1a-EP(Tis)からT4までの例。

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。食道壁でのがんの深さを表しています。医学用語としては病変の深さのことを深達度(しんたつど)と言います。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T因子は原発巣の評価です。

食道がんのT因子はがんの大きさではなく食道壁に浸潤する深さで決定されます。正確には以下のとおり決められています。

  • TX:腫の壁深達度が判定不能
  • T0:原発巣としての癌腫を認めない
  • T1a:癌腫が粘膜内にとどまる病変
    • T1a-EP:癌腫が粘膜上皮内にとどまる病変(Tis)
    • T1a-LPM:癌腫が粘膜固有層にとどまる病変
    • T1a-MM:癌腫が粘膜筋板に達する病変
  • T1b:癌腫が粘膜下層にとどまる病変
    • T1b-SM1:粘膜下層を3等分し、上1/3にとどまる病変
    • T1b-SM2:粘膜下層を3等分し、中1/3にとどまる病変 
    • T1b-SM3:粘膜下層を3等分し、下1/3にとどまる病変
  • T2:癌腫が固有筋層にとどまるもの(MP)
  • T3:癌腫が食道外膜に浸潤している病変(AD)
  • T4:癌腫が食道周囲臓器に浸潤している病変
    • T4a:胸膜、心膜、横隔膜、肺、胸管、奇静脈、神経に浸潤する癌腫
    • T4b:大動脈、気管、気管支、肺静脈、肺動脈、椎体

浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織を破壊しながら中に入り込んで広がっていくことです。食道がんでは深い範囲に浸潤を認めるほどに進行していると判断されます。

Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。リンパ節転移の程度を評価したものです。

全身の臓器には血管と同じようにリンパ管がくまなく分布しています。がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管は全身で網のようにつながっています(リンパ網)。ところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも感染症などがあります。がんのリンパ節転移は大きくなると1cmを超え、典型的な例として硬いなどの特徴があります。

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移として別に扱います。

食道がんの領域リンパ節は、第1群から第3群の3つに分類します。第1群が食道に近く、数字が大きくなるほど食道から離れています。離れたリンパ節に転移があることは病気も進行していることを表しています。

食道がんができた場所によって第1群から第3群の定義が違います。どの群までリンパ節転移があるかによってN因子を決めます。

  • NX:リンパ節転移の程度が不明である
  • N0:リンパ節に転移を認めない
  • N1:第1群リンパ節に転移を認める
  • N2:第2群リンパ節まで転移を認める
  • N3:第3群リンパ節まで転移を認める
  • N4:第3群リンパ節より遠位のリンパ節(第4群)に転移を認める

図:血行性転移の概念のイラスト。がん細胞が血管を通ってほかの臓器にたどり着く。

MはMetastasis(転移)の頭文字です。遠隔転移を評価します。食道から離れた臓器に胃がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。

遠隔転移がある食道がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした抗がん剤治療を行います。

  • MX:領域リンパ節以外の転移の有無が不明である
  • M0:領域リンパ節以外に転移を認めない
  • M1:領域リンパ節以外の転移を認める

ステージ

5年生存率(%)
ステージI 78.8
ステージII 51.3
ステージIII 26.8
ステージIV 9.2

「がんの統計 2022」では5年生存率が公開されています。「がんの統計 2022」をもとにして作成したのが上の表です。

この数字を参考にするときは注意点があります。まずここに示した数字は2012−2013年の間に食道がんと診断された人の生存率です。食道がんの治療は10年前と比べて進歩しているのでこの数字通りの生存率が今に当てはまるとは限りません。

それ以上に、統計データから一人ひとりの経過を正確には予測できません。同じステージに分類される人でも、がんの状態や全身の元気さなどは一人ひとり違ってきます。同じ治療をしたあとの経過にも大きな個人差があります。

がんの診断を知らされると「生きられるのか?」と思ってしまうのは無理もないことですが、統計を気にするよりも、目の前の状況に対してできることは何かを考えることが大事です。

食道がんの治療には内視鏡治療、手術、放射線治療などがあります。食道がんの治療はステージをもとにして決められます。

図:食道がんの治療の選びかた。

食道がんの一部に対して内視鏡治療が可能です。食道がんで内視鏡治療が提案されるのは粘膜に病変がとどまり食道の周りのリンパ節への転移の可能性が低いと考えられる場合です。内視鏡でがんを取り除き、顕微鏡でがんを切り取った縁を観察して、がんが取り切れていることが確認できれば、追加の治療は必要がありません。

食道がんは治療後に時間が経ってから再発することがあります。このために定期的に内視鏡検査で再発がないかを確認します。再発した場合には再び内視鏡で治療をしたり手術で食道を取り除いたりします。

食道がんの手術は食道の壁の深くまでがんの根が達している場合に行われます。食道がんの手術は食道を全て摘出し、一緒に食道の周りのリンパ節を摘出します。食道を摘除した後は食道の代わりとなる食べ物の通り道を胃や腸などを用いて作り直します。

食道がんの手術は身体への負担が大きいので手術に耐えられるかどうかなどを慎重に検討し、手術が向かないと判断された場合は化学放射線療法で治療します。

手術の詳細は「食道がんの手術②」で解説しています。

食道がんのステージII、IIIに対して手術が予定される人は手術の前に抗がん剤治療をすることでその後の生存率が上がることがわかっています。手術前に抗がん剤治療をしてがんが小さくなれば、その分手術でがんを取り切れる可能性が高まります。がんを手術で取り除くときにはがんと一緒にある程度周りの正常に見える組織を取り除くほうが効果は高まります。

手術後にも抗がん剤治療をすることがあります。手術前に抗がん剤治療をしなかった人が対象になります。手術前に調べた結果でがんの根がそれほど深くないと診断されたときには抗がん剤治療をしない場合があります。手術前の予想は完全ではないので手術後に摘除した食道を調べるとがんが予想より深くまで達していることはあり得ることです。この場合は抗がん剤治療が検討されます。

食道がんの治療では放射線治療は多くの場面に登場します。

  • 化学放射線療法
  • 食道がんによる食道の狭窄などを予防する
  • 転移した部位の痛みを緩和したり神経への影響を回避する

化学放射線療法は、身体の健康状態が悪くて手術ができないと考えられる人やがんの広がりが大きくて手術ではがんが取り切れないと考えられる場合に選択されます。放射線治療というとがんを治すイメージよりは痛みなどに対して緩和的な治療のイメージがあると思いますが食道がんの場合は化学放射線治療によって根治が期待できます。根治とはがんを身体からなくすことで、それを可能にする治療を根治治療といいます。食道がんの根治治療は手術と化学放射線療法です。

食道がんで抗がん剤治療単独で治療をするのは遠隔転移がある場合です。食道から離れた場所に転移がある場合を遠隔転移といいます。遠隔転移は食道がんが診断された時点ですでにあることもあれば手術や化学放射療法後の再発で確認されることもあります。このような場合は抗がん剤による治療が適しています。遠隔転移がある状況は全身にがん細胞が散らばっていると考えて全身をカバーできる抗がん剤治療が理にかなっています。

対症療法は症状に対する治療です。症状の原因に対する治療というよりも症状をどれだけ抑えるかを考えて治療します。食道がんが進行した場合には様々な症状がでます。例えば食道が狭くなって食事が摂れなくなったときには、食道を広げる食道ステントを挿入したり放射線を照射したりして、なんとか食事が取れるように手を打ちます。食道がんが転移した場合には痛みが出ることもあります。痛みに対しては麻薬性の鎮痛剤の使用や放射線治療で痛みを和らげることが期待できます。痛み以外にもがんが進行すると食事が摂れなくなったり、眠れなくなったりもします。症状に対して最適な治療を選択していきます。同時に緩和医療が治療の主体となってきます。緩和医療に関しては肺がんの特集ページの「緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?」で詳細に解説していますので合わせて参考にしてみてください。