まんせいへいそくせいはいしっかん
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
気管支や肺胞が炎症で変化し、正常な呼吸ができなくなっている状態。喫煙が原因で起こることがほとんどである
21人の医師がチェック 143回の改訂 最終更新: 2018.08.01

肺気腫・COPDの急性増悪に対する治療は?

COPDは基本的には月から年の単位で進行していく病気ですが、数日単位で、しばしば入院を要するほど状態が悪くなることがあります。これを急性増悪といい、命に関わることも多い状態です。急性増悪に対する治療法を解説します。 

COPDは息切れ、しつこい咳と痰を主な症状として、基本的には年単位で進行していく病気ですが、数日あるいは週単位で急激に状態が悪くなり、追加での治療が必要になることがあります。これを急性増悪(きゅうせいぞうあく)といいます。急性増悪をきっかけとして一気に状態が悪化してCOPDが進んでしまう、あるいは亡くなってしまう方もいるので、十分に注意が必要です。入院が必要になることもあります。
急性増悪の原因としてはやはり肺炎などの感染症が最も多いので、急性増悪とは肺炎のこと、と思っても完全に間違っているわけではありません。しかし、ただの風邪で急性増悪することもあれば、大気汚染が原因で急性増悪することもあります。また、急性増悪のうち約30%では原因が特定できないと言われています。

参照:Thorax 2006; 61: 250-8.
 

急性増悪の治療としては、ABCアプローチと言われる治療法がスタンダードとなっています。

A:Antibiotics(抗菌薬
B:Bronchodilators(気管支拡張薬)
C:Corticosteroids(ステロイド薬

まずはAの抗菌薬(抗生物質、抗生剤)についてです。COPD急性増悪は必ずしも肺炎などの細菌感染症によるものではないので、抗菌薬を常に使用すべきかどうかは議論のあるところです。どろっとした痰の量が増えている場合や熱が出ている場合などでは1週間前後の抗菌薬投与が行われることが多いです。
Bの気管支拡張薬について、COPD患者さんは普段から長時間作用性抗コリン薬(LAMA: Long-Acting Muscarinic Antagonist)や長時間作用性β2刺激薬(LABA: Long-Acting Beta2 Agonist)を使用していることが多いですが、これに加えて短時間作用性β2刺激薬(SABA: Short-Acting Beta2 Agonist)を使用して呼吸困難の緩和を図ることが多いです。
Cのステロイド薬に関しては、急性増悪の際に使用することで呼吸機能や低酸素血症をより早く回復させることが示されています。ステロイド薬を使用する期間としてはデータは少ないですが、5日-14日程度使われるケースが多いです。

参照:Lancet 1999; 354: 456-60.
N Engl J Med 1999; 340: 1941-7.

COPDの急性増悪を発症してしまった場合に、入院すべきかどうか絶対的な基準はありません。次のことを考慮して、総合的に判断されます。

  • 肺のダメージによってどれくらい体が酸素不足に陥っているか(酸素投与が必要か)
  • 体内に不要なガスである二酸化炭素が溜まっているか
  • どれくらい辛い症状があるか、COPDに伴った合併症がどれくらいあるか
  • もともとのCOPDがどれくらい重症か

また患者さんの背景によって入院治療が考慮されることもあります。

  • 外来での治療がうまくいっていないケース
  • 高齢のケース
  • 自宅でのサポートが乏しいケース
  • 患者さんやご家族の不安が強いケース

このように、入院するかどうかは総合的な判断になりますが、在宅酸素(HOT)を普段使っていない方が、「動脈血液ガス分析でPaO2が60Torr未満になっている場合」や「パルスオキシメータでSpO2が90%未満になっている場合」などは、持続的に酸素を吸入する必要があるため、入院したほうが勧められることがあります。

COPDで検査入院をすることや、在宅酸素療法(HOT)を使い始めるために入院することはありますが、COPDでの入院の多くは急性増悪を治療するための緊急入院です。重症度や年齢によって入院期間が大きく変わってくるので、治療費もかなりの幅があります。

COPD急性増悪でも軽症であれば数日から1週間くらいで退院する方もいますし、集中治療室に入るような重症の方であれば1ヶ月以上の入院が必要になる方や亡くなる方もいます。

したがって、非常に大雑把な数字しかここではお伝えできませんが、保険が効かない場合には1-2週間の入院では数十万円、1ヶ月ほどの入院では100万円前後というくらいの相場になるでしょう。もちろん健康保険が適用になりますし、収入にもよりますが高額療養費制度による還付があるので、実際に1ヶ月に負担する金額が数十万円以上になること等は基本的に無いと考えて良いでしょう。病状や、保険の種類、収入などに大きく依存しますが、実質的な支払いは1回の入院で5-15万円くらいになる人が多いと思われます。

ただし、入院中の差額ベッド代(個室料金など)等は医療保険の対象外なので、高額療養費制度も対象外となり、注意が必要です。特に差額ベッド代は、安いものでは1日あたり数百円、高いものでは1日あたり数十万円、平均的には1日あたり5,000-6,000円ほどと入院費を大きく左右することがあります。COPDの急性増悪では緊急入院となることがほとんどなので、大部屋など差額のかからない病床を希望しても空いていないことがしばしばあります。そういった場合には差額ベッドでの緊急入院を打診されるかもしれませんが、経済的に余裕が無い場合には率直に病院スタッフに相談してください。無差額病床が空いている他院を紹介してくれるケースや費用減免での入院を検討してくれるケースもあります。

人工呼吸器を使うかどうか、使うならどの種類にするかはきわめて重大な判断ですので、あらかじめ家族やかかりつけ医と相談しておくと良いです。
COPDが急性増悪すると、上で述べた「急性増悪治療のABC」や酸素投与が行われます。しかし、「通常の酸素投与では血液中の酸素濃度が十分に維持できない場合」や「不要なガスである二酸化炭素の貯留が多い場合」などは、患者さんの呼吸状態を総合的に判断して人工呼吸器の装着を検討することになります。

人工呼吸器にはどんな種類があるのあるのか?

人工呼吸器の種類としては大きく分けて2種類あります。マスク型の人工呼吸器(NPPV: Non-invasive Positive Pressure Ventilation)と、空気の通り道である気管に口から管を入れて、つまり気管挿管して行うタイプの人工呼吸器(IPPV: Invasive Positive Pressure Ventilation)があります。

NPPVのメリットとデメリット

NPPVのメリットとしては、装着がIPPVに比べて簡単で、なんとか会話や飲水ができ、状況に応じていつでも中止できるなどの点があります。また、NPPVは施設にもよりますが、集中治療室(ICU)でなく一般病棟で使えることもメリットです。しかしデメリットとして、患者さんが苦しくて自分でマスクを外そうとしてしまう場合などは使えないことが挙げられます。また、IPPVよりも看護師や医師が痰を吸引するのが難しいので痰詰まりになりやすい点もあります。マスク脇からの空気漏れの問題などもあります。

IPPVのメリットとデメリット

IPPVのメリットは、確実に空気の通り道が確保できて痰詰まりの危険がNPPVよりも減ることです。また、自分でマスクを外してしまうといった心配もありません。しばしば鎮静薬も併用して、NPPVよりも安定した状態で装着し、呼吸を補助します。しかしデメリットとしては、鎮静薬を使うことになるので意思疎通がやや困難になりますし、気管挿管中は水を飲んだり食事は出来なくなります。基本的には集中治療室への入室も必要になります。
気管挿管が長期に及ぶ場合(目安としては2週間程度)には、首の正面を数cmほど切開して、その穴から直接人工呼吸器を接続する小手術(気管切開)が必要になります。気管切開をすることで、口の中を清潔にできますし、患者さんの苦痛が減るからです。患者さんの状態がそれなりに良ければ、気管切開後には口から食事を摂ることもできます。

人工呼吸器を選択する上で気をつけて欲しいこと

上で述べたようにメリットやデメリットをそれぞれの患者さんの状況に合わせて考慮し、人工呼吸器を選びます。一方で、人工呼吸器をどう使うかで、生命の終わりの迎えかたが決まってしまう可能性があるという点には気をつけなければなりません。人工呼吸器をつけるかつけないかはきわめて重大な判断です。
前提として、IPPVが必要なほど重症のCOPD急性増悪は、生死の瀬戸際です。ある統計によれば、生きて退院できた人の割合は82%、なんとか入院を乗り切っても2年以内に死亡した人が半数などと報告されています(日呼吸管理会誌 1998; 8: 123-8.)。人工呼吸器を使えば必ず重症のCOPD急性増悪を乗り切って元の生活に戻れるとは限りません。

人工呼吸器を使っても乗り切れず亡くなる人もいます。また、急性増悪をきっかけに、人工呼吸器を使い続けないと呼吸が維持できない状態になってしまうこともあります。「もう生きていても辛い。人工呼吸器を外してほしい」と家族や患者自身が医師に頼むような状況は、とても辛いことですが実際にあります。そうした場合、日本の医療の現状では、一度装着した人工呼吸器は患者さんの病状が回復して人工呼吸器が不要にならない限り外すことは難しいです。

もちろん、人工呼吸器を一時的に使うことで回復し、人工呼吸器から離脱して退院できる望みはあります。しかし、希望と隣り合わせに、患者さんが苦しむだけの結果に終わってしまう可能性があります。どちらになるかはやってみなければわからない要素が大きいのです。
人工呼吸器をつける以外には人工呼吸器をつけないという選択肢しかありません。もちろん人工呼吸器を検討されている状況ですので、人工呼吸器を使わないと決めることは、もし状態が改善しなければ苦痛を取ることに専念する、場合によってはそのまま看取るという判断を意味します。こちらも楽に選べることではありませんが、「人工呼吸器を使って最後まで治療を続ける」と決めない限りは、いつかこの決断を迫られることになります。

急性増悪で緊急入院するという緊迫した状況で、人工呼吸器をつけるかつけないかという重大な判断をすぐにするのは難しいと思います。重症のCOPDの場合は、いざ人工呼吸器が必要となったらどうするか、普段から家族やかかりつけ医と相談しておくことが大切です。「NPPVは行うがIPPVは行わない」などの選択を、あらかじめ周囲の人と相談しつつ伝えるようにしてください。

重症COPDの経過の中では予想しなかったこともしばしば起こります。あるとき「人工呼吸器はつけない」と決めて治療を続けていたとしても、状況が変われば気持ちが変わるかもしれません。もちろん逆もありえます。医師に一度伝えた希望をあとで変えることはできます。最後には患者さん本人や家族の価値観が決断の決め手になります。気持ちが変わったときにはもう一度話し合うこともできるでしょう。できるだけ現在の状況で納得できる選択を考えてください。

COPDは重症の呼吸器疾患です。COPDの急性増悪によって亡くなる人も多いです。

COPDは近年、日本人の死亡原因トップ10に毎年ランクインしており、2015年のCOPDによる死亡者数は日本国内で15,756人と報告されています。このようにCOPDが命に関わる危険な病気であることは間違いありません。

しかし、COPDの患者さんの余命を予想することは非常に難しいことです。COPDはがんのように月単位で少しずつ進行する病気ではありません。安定していた状態から急性増悪を反復して一気に悪化することも多い病気です。このため、余命がどれくらいか予想することは経験豊富な医師でも非常に難しいことです。がんの余命でも医師の予測は大きく外れることがありますが、COPDについてはさらに不確実と言えるでしょう。

海外のやや古いデータではありますが、ステージIのCOPDの患者さんはCOPDの無い方に比べて死亡率が1.2倍、ステージIIでは1.6倍、ステージIIIでは2.7倍とした報告があります。別の報告では、在宅酸素療法を使用するほどの重症患者さんでは5年間生きられる割合(5年生存率)が40%とされています。
一般的には急性増悪での入院を繰り返し、息苦しさ、咳、痰などが増加し、次第に介護が必要になってくるような段階になると、最期の迎え方を考えておく必要があるといえるでしょう。

参照:

Thorax 2003; 58: 388-93.
Am J Respir Crit Care Med 1995; 152: 972-6.
治療 2010; 92: 1842-7.

COPDの終末期には息苦しさや咳、痰など呼吸に関連した苦しい症状はもちろん、疲労感、やせ、睡眠障害、窒息への恐怖感、うつ状態、活動性の低下、経済的な困窮、社会的な孤立、など様々な辛い症状を抱えることになります。呼吸の辛さや活動性低下、うつ症状の程度は肺がん以上であるとも言われています。しかし、日本のホスピスは現状では主にがんを対象としています。現時点(2017年5月時点)では、保険診療上でホスピスのケアはがんとエイズに対して認められますが、COPDはカバーされていません。そのため、COPD終末期の患者さんの苦痛にどのように対処していくか、ということに関して決まった対処方法は乏しいのが現状です。

吸入薬やリハビリなどでCOPDそのものの治療をしっかりやっていくことはもちろんですが、それでも呼吸が荒く、苦しさがひどい場合には、飲み薬や注射でのモルヒネなどを使用することもあります。モルヒネというと「使うとすぐに亡くなってしまう」「使うともう会話ができなくなる」といった怖いイメージを持たれる人も多いと思います。がんの場合と比べて、COPDの終末期におけるモルヒネの使い方は確かに難しいところです。モルヒネには呼吸をゆっくりにさせる作用がある点には注意するべきと考えられます。

適切な量のモルヒネを使うことによって、ひどく意識状態を悪くしてしまうことなく、息苦しさを緩和しながら厳しい状態を過ごしやすくすることができます。適切な緩和ケアを受けることは、必要以上の苦しみを味わうことなく人間らしく過ごすことに貢献してくれます。
治療の面以外にも、終末期に際してどのように対応していきたいのかを考えておく必要があります。COPDという病名はがんのように耳にする機会が多くないかもしれませんが、実際には毎年多くの方がCOPDで亡くなっています。自分がどれくらい危ない状態なのかを的確に認識しておくことは大切です。

自分が死に近づきつつあると考えるのは辛いことです。しかし、苦痛を避けてよりよい状態で終末期を迎えるためには、あらかじめ「もしもの時にはどうするか」を考えておくことが役に立ちます。極端な例で言えば「治療の効果が得られず死が目前に迫った時に、心肺蘇生措置を希望するかどうか」といったことを、リビングウィルという文書に書き記して医療者に伝えることで、知的・精神的判断能力が保たれているうちに自分の意志で治療方針を選べます。

終末期の治療を決めるのは患者本人だけではありません。患者を支える周囲の人(医療者や家族など)にとっても、COPDの自然経過として死があるという認識をご本人と共有することが重要です。判断の前提となる病状に関しては医療者と十分に話し合ってください。リビングウィルを作成するときにもあらかじめ家族などと相談しておくことが望ましいです。
終末期の治療について一度意志表示をしてもあとから取り消すことはできます。終末期が近付くと想定外の事態はえてして起こります。患者さんや家族などの価値観に合う治療方針はどんなものかをよく考えてください。

参照:Arch Intern Med 2006; 166: 326-31.