はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 357回の改訂 最終更新: 2024.10.08

肺小細胞がんの治療

肺がんにはいろいろな種類があります。肺小細胞がんは肺がんの中で3番目に多いがんです。肺がんの種類を知ることは非常に重要です。がんの種類によって性質が違い、治療方針も変わってくるからです。このページでは肺小細胞がんの治療について説明していきます。

目次

1. 小細胞がんと非小細胞がんの違い

小細胞癌の特徴

肺がんはよく、小細胞がんと非小細胞がんという2種類に大別されます。非小細胞がんというのは「小細胞がん以外の肺がん」のことです。小細胞がんと非小細胞がんで、治療法と治療効果が大きく違います。

治療による効果の違い

肺小細胞がんは抗がん剤放射線療法が効きやすいです。これは非小細胞がんと違う大きな点です。

基本的に手術が可能であれば手術を行うことになりますが、肺小細胞がんは症状が出にくいうえに進行が早いため手術が行えることは少ないです。手術ができるのは、腫瘍が5cm以下でリンパ節転移遠隔転移もない状態で、全身状態も良好な人のみになります。

手術ができない人は薬物療法や放射線療法を行うことになります。小細胞がんは薬物療法や放射線療法が効きやすいですが、再発も起こりやすいです。

治療方針の違い

小細胞がんであろうと非小細胞がんであろうと基本的な治療方針は変わりません。治療としては手術が最優先で、手術ができなかった場合に化学療法や放射線療法を行うことになります。

しかし、以下の2点は違います。

  • 小細胞がんでは全身状態が悪くても化学療法を行うことがある
  • 小細胞がんでは頭に明らかな転移が見つかっていなくても予防的に頭の放射線療法(予防的全脳照射)を行うことがある

それぞれ説明します。

全身状態が悪い場合、非小細胞がんでは化学療法を避けることが多いですが、小細胞がんでは化学療法を行うことがあります。

抗がん剤治療をすると体力が奪われるため、非小細胞がんの治療では全身状態が悪いときは抗がん剤治療を行うことは難しいです。しかし、小細胞がんは抗がん剤治療の効果が出やすく、がん細胞が効果的に駆逐されることで、急速に体調が改善されることがあります。そのため、肺小細胞がんの患者さんは、肺がんによって全身状態が悪い場合は化学療法を行うほうが良い場合があります。

全身状態の評価にはPS(パフォーマンスステータス)という評価方法が使われます。PSは次の5段階で評価します。

  • 0:全く問題なく日常生活ができる
  • 1:軽度の症状があり激しい活動は難しいが、歩行可能で、軽作業や座って行う作業はできる
  • 2:歩行可能で自分の身のまわりのことは全て行えて日中の50%以上はベッド外で過ごすが、時に軽度の介助を要する
  • 3:身のまわりのことは限られた範囲しか行えず、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
  • 4:自分の身のまわりのことは全くできず、完全にベッドか椅子で過ごす

PSが3か4のときに、小細胞がんと非小細胞がんで治療方針が大きく違います。

予防的全脳照射

小細胞がんの治療では予防的全脳照射をすることも非小細胞がんと違います。

肺がんが頭に転移して症状が出たときや、転移した肺がんが急速に大きくなって症状が出てきそうな場合には、小細胞がんでも非小細胞がんでも、頭に放射線療法を行うことがあります。

さらに、肺小細胞がんの治療では、脳転移が見つかっていない場合でも頭に放射線療法を行うことがあります。予防的全脳照射と言います。

予防的全脳照射を行う場合は、リンパ節にあまり転移がない限局型肺小細胞がんで、化学療法が有効だった場合です。非小細胞がんでは予防的全脳照射は行いません。

脳転移に対する通常の放射線療法は、がんだけを狙って放射線を当てます。対して予防的全脳照射では脳全体に放射線を当てます。正常な脳細胞に放射線を当てると一部の細胞が死んでしまうため、正常な脳細胞には極力放射線を当てないほうが良いのですが、肺小細胞がんは進行が早くどこにがん細胞がいるのかが分からないため、予防的に全ての脳細胞に放射線を当てます。

2. 小細胞がんは限局型(LD)と進展型(ED)に分けられる

がんにはステージという考え方があります。腫瘍の大きさ、リンパ節転移の様子、遠隔転移の有無でステージが決まります。

小細胞がんではステージのほかに、限局型(LD)と進展型(ED)という分類があり、治療の選択肢が変わってきます。リンパ節転移が腫瘍と同じ側の胸郭内リンパ節・両側縦隔リンパ節・両側鎖骨上窩リンパ節までに限られている状態で、胸水や心嚢水のない場合が限局型と呼ばれます。

限局型と進展型で大きく違う点は、放射線療法を行えるかどうかです。進展型の肺小細胞がんに対して放射線療法を行うと、放射線が当たる範囲が広くなってしまうので、放射線による肺へのダメージ(放射線性肺臓炎)のリスクが高くなりすぎてしまいます。

限局型と進展型の治療法をそれぞれ説明します。

3. 限局型肺小細胞がんの治療

まずは限局型小細胞がんの治療について見ていきます。

ステージ1-2Aで手術が可能な場合

腫瘍の大きさが5cm以下でリンパ節に転移がない状態(TNM分類で1期)であれば、全身状態を加味して手術を検討することができます。

小細胞がんではどんなに腫瘍が小さくて病期が進行していなくても、手術後に化学療法が行える場合には化学療法を行います。化学療法の内容は全身状態によってアレンジされますが、主に使われるのはシスプラチン+イリノテカン、シスプラチン+エトポシド、カルボプラチン+エトポシドの3パターンのいずれかになります。

手術の後にシスプラチン+エトポシドを使用した際のデータがあります。臨床病期(画像検査から推定した予想病期)で1A期及び1B期の3年生存率が68%で、病理病期(手術で採取したリンパ節を顕微鏡で調べた確定病期)1Aの5年生存率は73%でした。また、局所再発率が10%という結果でした。

手術が不可能かつPS 0-2の人

ステージによらず限局型で手術が難しい場合は、化学療法や放射線療法を行います。また、全身状態が許容できる場合は化学療法と放射線療法の両方を行うことが多いです。

化学療法と放射線療法を同時に行う場合は、抗がん剤はシスプラチン+エトポシドを用いることが標準となっています。放射線療法は、3週間1日に2回ずつ放射線を当てる方法が有効とされています。

PS 3-4の人

肺小細胞がんに対して化学療法は非常に有効であることから、この場合でも化学療法は行うことも多いです。しかし、がん以外の原因で衰弱している場合は化学療法を行っても状態が改善する見込みが無いので、化学療法を行うことは避けるべきです。

予防的全脳照射(PCI)

肺小細胞がんは脳に転移しやすいです。そのため常に脳の状態には注意していく必要があります。突然、しびれやしゃべりづらさなどの症状が出てきた場合は、頭のMRI検査を行って脳の状態を調べる必要があります。

肺小細胞がんの治療を行って見た目上完全に腫瘍が消えた場合(これをCRと言います)は、予防的に頭に放射線療法(予防的全脳照射)を行います。予防的全脳照射は、化学療法を行ってから6ヶ月以内のできるだけ早いタイミングで行うのが良いとされています。予防的全脳照射は合計10回に分け、2週間かけて行うことが多いです。 この治療は次に述べる進展型肺小細胞がんでは行わないので注意が必要です。

4. 進展型肺小細胞がんの治療

小細胞がんがリンパ節に広範囲に転移している状態の治療についてです。この状態を進展型肺小細胞がんと言います。治療は薬物療法のみを行います。

PS 0-2の人

年齢が若く全身状態がよい場合には、従来使用されていた抗がん剤に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せして使用します。PS 0-1の人のデータで有効であることがわかっています。

  • カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ
  • カルボプラチン/シスプラチン+エトポシド+デュルバルマブ

免疫チェックポイント阻害薬が登場する前には、以下の抗がん剤の組み合わせが中心でした。

  • カルボプラチン/シスプラチン+エトポシド
  • カルボプラチン/シスプラチン+イリノテカン

抗がん剤の副作用として、吐き気や下痢が起こりやすく、血液中の白血球赤血球血小板を減少させてしまうことも多いです。また、間質性肺炎といった非常に重い副作用を起こすこともあります。

PS 3の人

全身状態が思わしくない人に対する治療です。寝たきりではないが日中の半分以上をベッドで過ごすレベルの全身状態であれば化学療法を行うことができます。

シスプラチンを分割して用いたり、カルボプラチン+エトポシドを用いることが推奨されています。

PS 4の人

全身状態がさらに悪化する危険性が高いので、化学療法は行いません。

5. 小細胞がんは再発するか

小細胞がんは再発を起こしやすいです。治療によって腫瘍が消えたように見えても、しばらくしたらまた腫瘍があらわれるということがしばしば起こります。

ここでは再発してしまった際の治療はどうしていくのかを説明していきます。

再発の治療は大きく2つに分けて考えます。治療を終えてから90日以上経ってから再発した場合をセンシティブ・リラプス(Sensitive Relapse)、89日以内の再発をリフラクトリー・リラプス(Refractory Relapse)と言います。

センシティブ・リラプス

化学療法を行ってしばらくしてから再発した場合(目安として前回の治療を行った最終日から90日以上経ってから再発した場合)をセンシティブ・リラプスと言います。「治療に反応があったあとの再発」という意味です。

以下のような治療法があります。

  • ノギテカン
  • シスプラチン+エトポシド+イリノテカン
  • アムルビシン
  • カルボプラチン/シスプラチン+エトポシド

ノギテカンは吐き気や倦怠感が強く出ることがあるので注意が必要で、使用を継続できることはあまり多くありません。センシティブ・リラプスであれば、前回使った抗がん剤を再度使っても効果を発揮するという報告もありますので、一つの選択肢になります。

リフラクトリー・リラプス

化学療法を行ってからあまり間隔がなく再発した場合(目安として前回の治療を行った最終日から89日以内に再発した場合)をリフラクトリー・リラプスと言います。「治療が効きにくかったときの再発」という意味です。

リフラクトリー・リラプスであれば全身状態を考えて、可能であれば化学療法を行うことになります。

抗がん剤としてアムルビシンが推奨されています。副作用として吐き気や脱毛や倦怠感が出現します。さらに血液中の白血球や赤血球や血小板が減少することも多く、使用後に感染症や出血に細心の注意を払う必要があります。