2020.09.28 | コラム

インフルエンザ検査は必須?ワクチン、治療はどうなの?

インフルエンザ対策のために知っておきたいこと

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インフルエンザ流行期になると、学級閉鎖や警報に関わるニュースが全国に流れます。多くの医療機関でインフルエンザの検査や治療や予防接種が行われていますが、その価値はいったいどのくらいのものなのでしょうか。

巷で「インフルエンザ」と言えばインフルエンザウイルスによる感染症のことを指します。インフルエンザウイルスにはA型とB型とC型があります。また、A型はウイルスが持つ特徴的な物質によってさらに分類されます。分類に用いられる物質は、赤血球凝集素(H)とノイラミニダーゼの血清型(N)になります。例えば、ときに流行を起こす香港型と言われるインフルエンザウイルスはA型(H3N2)です。

C型が流行することはあまりありません。A型とB型のどちらが流行するかは年によって違います。とはいえ、どのタイプが流行したとしても、インフルエンザの予防方法に大きな差はありません。

 

インフルエンザになると出やすい症状は以下になります。

 

  • 発熱
  • 鼻水(鼻汁)
  • 喉の痛み
  • くしゃみ
  • 咳(せき)
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 全身倦怠感(だるい)

 

これらをみると、一般的な風邪(急性上気道炎)の症状とあまり変わりません。そのため、症状だけでインフルエンザなのか一般的な風邪なのかを見分けることは難しいです。実はこれは当然のことです。風邪症候群というグループにインフルエンザウイルス感染性も入っています。つまり、インフルエンザは風邪の一種です。そもそも見分けられなくて当たり前なのです。

 

インフルエンザに感染してもすぐに症状が出てくるわけではありません。インフルエンザウイルスは主に気道(口や鼻から肺にかけて)から体内に侵入して、しばらく時間が経ってから体内で増殖する段階に入ります。ウイルスが侵入してすぐの期間は症状が出ないため、感染してから症状が出るまでに時間差ができるのです。この時間差のことを潜伏期間と言います。インフルエンザの潜伏期間は1-4日程度で平均3日程度と考えられています。

 

風邪の原因の1つであるインフルエンザはときに重症になります。もちろんインフルエンザ以外の風邪でも重症になることはありますが、インフルエンザが重症化する場合の特徴を知っておくことは大切です。

以下の場合はインフルエンザが重症にならないか注意が必要です。

 

  • 高齢者
  • 免疫力の落ちている人
  • 心臓や肺に病気のある人
  • 子ども

 

それでは当てはまる人についてもう少し詳しく見てみましょう。

 

高齢者がインフルエンザになると重症化することがあります。特に肺炎に注意が必要です。インフルエンザウイルスによる肺炎が起こることもあればインフルエンザウイルス感染の後に細菌性肺炎を起こすこともあります。その際は、肺炎球菌・黄色ブドウ球菌・インフルエンザ桿菌(かんきん)などが原因となることが多いことが分かっています。

なお、インフルエンザ桿菌というのはインフルエンザウイルスのことではありません。名前が似ていますがまったく別の病原体です。インフルエンザ桿菌はインフルエンザの原因ではありません。

 

インフルエンザはウイルスによる感染症です。身体の中にインフルエンザウイルスが侵入してきて増殖することで発病します。インフルエンザウイルスが身体の中に入ってくると、身体はウイルスと戦ってウイルスを排除します。

体が異物を排除する働きを免疫と言います。免疫のしくみは複雑なのですが、インフルエンザウイルスと戦うのは主にリンパ球という細胞です。リンパ球がウイルスと戦うことで簡単にはインフルエンザにかからずに済んでいます。

ところが、リンパ球の数が少なかったり働きが悪かったりする場合はうまくウイルスを排除できずに重症化することがあります。特に細胞性免疫不全と呼ばれる状態では危険性が大きくなります。

細胞性免疫不全は次のような場合に起こります。

  • HIV感染/AIDS
  • 生まれつき免疫力が落ちている病気
  • 長期的にステロイドを飲んでいる
  • 免疫抑制剤を飲んでいる

自分が定期的に飲んでいる薬が細胞性免疫不全を起こす可能性がないか、主治医や薬剤師に聞いてみると良いでしょう。

日常生活の中ではこうした薬ほど免疫が抑えられることはありません。

 

高齢者や免疫不全者でなくても、心臓や肺に病気のある人はインフルエンザが重症にならないか注意が必要です。免疫力は正常ですので、インフルエンザが気道(口や鼻から肺にかけて)に入ってくると通常通りリンパ球がウイルスを駆除しようと働きます。しかし、心臓や肺に病気のある人は、元から心肺機能が弱くなっているので、気道感染によってちょっと身体のバランスが崩れただけで重症になってしまいます。

 

子どものインフルエンザではインフルエンザ脳症やライ症候群といった重症の合併症に気をつけなければなりません。

インフルエンザ脳症になるとけいれんや意識障害(意識がなくなることや、異常行動なども含む)などが現れます。また、インフルエンザなどのウイルス感染の際にアスピリンなどサリチル酸系の解熱薬を飲むと、インフルエンザ脳症と同じような症状の出るライ症候群になることがあります。また、NSAIDs(エヌセイズ;非ステロイド性消炎鎮痛薬)と呼ばれる種類の解熱薬は、インフルエンザ脳症全体のリスクを増やすことが知られているため、特に小児がインフルエンザにかかった時にはNSAIDsを飲まないようにする必要があります。

NSAIDsは一般的に使われている解熱薬です。病院で処方される薬にも、薬局などで買える市販薬にも、NSAIDsが入っている薬剤はたくさんあります。特に気をつけた方が良い薬剤の例を以下に並べます。

 

  • アスピリン(商品名:バイアスピリン®、アスピリン®、バファリン配合錠A®、バファリンA®など)
  • サリチルアミド(商品名:PL配合顆粒®、ピーエイ配合錠®など)
  • エテンザミド(商品名:エテンザミド®など)
  • ジクロフェナク(商品名:ボルタレン®、ナボール®など)
  • メフェナム酸(商品名:ポンタール®、ルメンタール®など)

 

 

ここで特に注意するべきことは川崎病の子どもです。川崎病になると日常的にアスピリンを飲むことがあります。アスピリンを飲み続けている状態でインフルエンザにかかってしまうと、想定外に脳症やライ症候群になってしまうことがあります。そのため、日常的にアスピリンを飲んでいる子どもの親御さんは、インフルエンザの流行期になったら、子どもが風邪を引いていないか日常から慎重に観察してあげてください。万が一風邪を引いた場合は、アスピリンを一時的に中断するかどうかをかかりつけの小児科医に相談することが望ましいです。

 

インフルエンザのような症状が出て病院に行ったとき、細い綿棒を鼻に突っ込んでインフルエンザの検査をしたことがある人も多いと思います。あの検査は一体なにをやっているのでしょうか。

現在保険適応でインフルエンザのA型とB型を迅速に検査できるキットがあります。インフルエンザ抗原迅速検査という名前があります。喉の奥の粘膜にある粘液を採取するために細い綿棒を片側の鼻の中に入れます。採取された粘液の中にインフルエンザウイルスが持つ特徴的な物質(抗原)が含まれていれば陽性反応が出ます。

一方で、これ以外にもインフルエンザを診断する方法があり、ウイルス分離法やPolymerase chain reaction (PCR)法を用いて検査をすることも可能です。

しかし、外来や入院中の検査では抗原の検査を行っている場合が圧倒的多数です。その原因は、抗原検査の方が簡単に素早く行うことができるからです。実際に検査は20分程度で判定まで行えることが多く、陽性であればすぐに治療を行うことができます。

ウイルス分離法やPCRは結果が出るまでに少なくとも数日はかかります。もし検査をしても結果が戻ってきた時にはたいていの場合自然に治っています。

 

残念ながらインフルエンザ迅速抗原検査は決して精度の高いものではありません。インフルエンザの人に検査を行っても陰性と出ることもあれば、インフルエンザ以外の人に検査を行って陽性と出ることもあります。インフルエンザ迅速抗原検査の精度をまとめた論文(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22371850)にデータが載っています。

  • 実際に感染しているときに検査が陽性を示す割合(感度):62.3%
  • 実際には感染していないときに検査で陰性を示す割合(特異度):98.2%

つまり、このデータに従うと、インフルエンザ迅速抗原検査を行っても、インフルエンザの人の中の4割ほどを見逃してしまうことになります。

また、インフルエンザにかかりたてで検査すると、さらに検査の感度が下がってしまうことが分かっています。そのため、発熱してから12時間以上経ってからインフルエンザ迅速抗原検査を行うことが一つの目安になっています。しかし、これも絶対的な基準というわけではありません。

 

インフルエンザを疑って検査をしたけれど陰性であったときに、翌日再検査を指示されたことはありませんか?しんどい身体にムチ打って明日も受診しないといけないのかと思った人はいませんか?長い間待合室で待たされる日本の医療状況で、再検査によほどの意味がなければ本当に酷な話です。はたしてインフルエンザの再検査は必要なのでしょうか。

 

結論から言うと、インフルエンザにおいて再検査は必要ありません。検査は治療につながらないと意味がありません。後述しますが、そもそもインフルエンザは脳症や肺炎をきたすほどの重症でない限り自分の免疫で勝手に治る感染症ですので、必ずしも治療は必要ありません。しかもその治療は決して劇的に効くものとは言えません。

再検査が必要ない理由を考えてみます。実際にインフルエンザにかかっている場合とかかっていない場合の両側から見ていきましょう。

 

■1回目の検査は陰性だったけれど実はインフルエンザにかかっている場合

再検査を行ったところインフルエンザ陽性という結果が出たら、「あ〜本当に良かった」と思う方も多いでしょう。本当に良かったのでしょうか。次のことが問題として挙がります。

 

1. 時間が経ちすぎて治療できない場合が多い

実はインフルエンザの治療薬は発症してから48時間経つと有効でなくなります。インフルエンザにかかった人はたいてい鼻水や咳が初発症状となり、その翌日か翌々日あたりに症状が強くなってから受診します。最初の受診は48時間以内だったかもしれませんが、さらに1日経って再受診すると48時間は過ぎている場合が多いでしょう。すると再検査のために受診したのに治療薬を使えないことになってしまいます。

それでも薬を飲んで楽になりたいのが人情かもしれません。症状を和らげる目的なら、カロナール®などの薬が使えます。カロナール®はアセトアミノフェンを有効成分とする解熱剤です。NSAIDsではないので子供に飲ませても脳症の心配はありません。

48時間を過ぎているときに、タミフル®などの抗インフルエンザ薬は決して使ってはいけません。どんな薬にも副作用が存在しますので、効かないと分かっている薬を飲むのは有害です。

 

2. 治療しても効果は大したことがない

タミフル®やイナビル®などの抗インフルエンザ薬のことを特効薬と思っている方は少なくないと思います。もちろん発症してから48時間以内に飲めば効果はあります。しかし、その効果は解熱するのが16時間ほど早くなる程度です。未来に16時間だけ効果のある解熱薬と考えてもあまり変わらないことなのです。

これを聞いてがっかりする方もいると思いますが、薬の効果を正しく知っておくことは大切です。よほどの重症でない限り、抗インフルエンザ薬を飲まないことも立派な選択肢になります。

 

3. インフルエンザの治療には休息が重要である

インフルエンザに限らず体調が悪いときは水分をしっかりとって体を休めることが肝要です。体調が悪いのにわざわざ再受診することで、体力は削られています。ゆっくりと自宅で身体を休めることに専念することは決して無駄ではないのです。

 

■1回目の検査は陰性で、実際にインフルエンザにもかかっていない場合

これは1回目の検査の通りインフルエンザではありませんので、再検査する意味は全くありません。むしろ、しんどい中で翌日にもう一度病院に行かなければならないなんて本当にひどい話です。


インフルエンザの流行期に咳と熱があった場合のインフルエンザである確率(事後確率)は79%というデータ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11088084)があります。つまり、インフルエンザの流行期にインフルエンザに似たような症状が出たら、検査をするまでもなくインフルエンザである確率が高いのです。検査をしてもあまり医学的な判断は変わりません。

検査の結果いかんにかかわらず、インフルエンザのような症状があれば周囲にうつす可能性が高いことは確かです。しっかりと症状が治るまでは自宅で休養することが大切です。

 

ここまでインフルエンザの再検査は意味があまりないことを説明してきました。それなのにどうして再検査をしようという話が出てくるのでしょうか。

インフルエンザの再検査を行うと医療機関が儲かるから再検査をするのだと邪推する人もいます。こうした狙いをもって再検査を指示する医療機関もないとは言えませんが、患者さん自身が別の理由を持っている場合もあります。例を挙げて説明します。

 

再検査を擁護する理由の1つとして、インフルエンザは「発症してから5日以上」かつ「解熱してから2日以上」経っていないと周囲にうつすので検査しておくことで自宅待機できるということを言う人が一部にいます。しかし、残念ながらこれはあまり本質的な議論ではありません。

確かに学校保健安全法では、インフルエンザにかかった場合は「発症してから5日以上」かつ「解熱してから2日以上」経たないと出席できないとしています。しかしこの基準は「このくらい経てば周囲にうつす可能性が低くなるであろう」という予測で決めているだけです。微生物学的な明確な定義ではありません。

そもそもインフルエンザであろうとなかろうと、かぜは人にうつります。インフルエンザであれば周りにうつさないように気をつけるけれどもかぜであれば気にしないという考えは非常におかしな話です。

また、診察に来る時には周囲にウイルスを撒き散らしていることも忘れてはいけません。もちろん意味のある検査に来院することは大切ですが、あまり意味のないことをしにいくために周囲の人を感染の危険にさらすのはなんだか自己中心的にも見えてきます。

学校の内申書で病欠と出席停止の扱いが違うから…というのも、内申書が気になる受験生にとっては大事な問題でしょうが、そのようなルールを決めている学校にも問題があります。インフルエンザだけを特別扱いするルールは合理的とは言えません。

 

おそらく再検査をする理由として最も多いものは治癒証明書の存在だと思います。

インフルエンザがもう治って周りにうつさないから出席あるいは出勤できるということを証明する紙が治癒証明書になります。しかし、どんなに優秀な医者でももう周りにうつさないから大丈夫と断言することは難しいです。もちろんマスクをするなど配慮をすることでうつしにくくすることはできるのですが、いつになったらもううつさないという断定は非常に難しいのです。結局のところ、学校保健安全法に従って機械的に5日以上経ったから治癒証明書を出しましょうとしているのが現状です。これではわざわざ医者が治癒証明書を出している意味がありません。そもそも学校保健安全法は学生に対する法律ですので、社会人にとっては効力がありません。

 

治癒証明書をもらうために半日外来で待ったという経験をしたことはありませんか?これは本当に無駄です。上で述べたような形骸化している治癒証明書をもらうために半日を費やすくらいなら、「発症してから5日以上経ちましたし2日以上前に解熱しました」と言って出勤するほうがよっぽど会社のためになります。学生は勉強の遅れを取り戻すためにも、社会人は早く会社に戻るためにも半日を無駄にしてはもったいないです。

 

インフルエンザには治療薬があります。以下がインフルエンザに用いられる主な治療薬です。

 

 

これ以外にもアマンタジン塩酸塩(シンメトレル®)という薬がありますが、インフルエンザB型に効果がないことと耐性のインフルエンザウイルスが増えているので、実用性は低いと考えられます。

 

インフルエンザになった時、薬を飲んだら直ちに良くなったという経験をした方はいるでしょうか。実は抗インフルエンザ薬を飲んでもそういった即効性は期待できません。なぜならタミフルなどの治療薬にそういった特効薬的な力はないからです。

「でも、このあいだインフルエンザになって薬を飲んだらすぐ治ったけど」と思う方がいるかもしれませんが、インフルエンザは放っておいても数日で治ります。

インフルエンザの治療薬の力はせいぜい症状のある期間を1日程度短くするくらいです。もちろん重症になるのを防ぐ効果は決して小さくありませんが、そもそもたいていの人でインフルエンザは重症になりません。そのため、高齢者や持病のある人のような重症になりやすい人以外では抗インフルエンザ薬は要らないのではないかという意見もあるくらいです。

抗インフルエンザ薬はタミフルもほかの薬も同程度の効果しかありません。抗インフルエンザ薬は特効薬と考えるのは難しいです。また、症状が出てから48時間以内に使わないと効果に乏しいことも分かっていますので注意してください。

 

抗インフルエンザ薬の副作用も無視できません。タミフルを用いて治療した人のデータ(https://medley.life/news/item/553615f3c05ced5a01ca90a0)では、タミフルを飲むことで確かに症状は1日程度早く消えていますが、吐き気が1.6倍に、嘔吐は2.4倍に増えたという結果でした。

また、抗インフルエンザ薬を使用した人が異常行動を起こした例も報告されています。突然興奮状態になったり、飛び降りようとしたりすることが実際にあったようですが、これは薬のせいなのかインフルエンザの脳への影響のせいなのかは現段階で定かではありません。いずれにせよ、薬を飲んだか飲まないかにかかわらず、インフルエンザでは異常行動が出ることに注意するべきです。

少なくとも抗インフルエンザ薬の副作用として吐き気や嘔吐があるのは事実です。効果が出ないで副作用だけが出るといった事態を防ぐために、不必要な薬の使用は避けなくてはなりません。

 

インフルエンザにかかった場合に漢方薬が効くといった話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実は麻黄湯(マオウトウ)という漢方薬がインフルエンザに有効であると言った報告(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22350323)があります。ここではタミフルよりも麻黄湯の方が発熱期間を短くする効果があったとされています。インフルエンザに麻黄湯を使用するのも一つの手段になります。

しかし、麻黄湯にも副作用があります。主な副作用は以下になります。

 

  • 吐き気
  • 食欲低下
  • 発疹
  • 動悸
  • 発汗過多

 

副作用によってさらに衰弱してしまうことも考えられますので、これらの症状を感じたらすぐに飲むのをやめて医師や薬剤師に相談してください。

 

感染症は周囲に伝染します。伝染力は病気ごとに異なります。例えば、HIV感染症は日常生活で手を触れた程度でうつることはまずありませんが、麻疹(はしか)は感染力が強いため患者が近くにいるだけで周囲に伝染します。

感染症において周囲への伝染力の強さを数字化したものに基本再生産数と言うものがあります。基本再生産数は1人の感染者が現れた場合に、周囲の何人に感染をうつすかを表したものです。主な感染症の基本再生産数は以下になります。

 

【感染症ごとの基本再生産数】

感染症

基本再生産数

インフルエンザ

2-3

百日咳

16-21

麻疹

16-21

風疹

7-9

水ぼうそう(水痘)

8-10

おたふく風邪(ムンプス)

11-14

 

インフルエンザの基本再生産数は2-3ですので、1人が感染すると周囲の2-3人に感染をうつすという計算になります。

ここで基本再生産数を3と仮定してみましょう。1人がインフルエンザにかかると3人にうつします。するとその3人が3人にうつして9人になりといったように、3倍3倍で感染者が増えていきます。しかし、もし周囲の人がワクチンを打っていればインフルエンザをうつされる人の数は減ります。後ほど詳しく説明しますが、ワクチンは自分が感染しない意味もありますが感染を広めないという意味でも重要です。

 

また、インフルエンザの症状が出てから3-7日間程度は体外にウイルスが排出されていると考えられています。そのため、学校保健安全法では出席停止期間を「症状が出てから5日」かつ「解熱から2日(幼児は3日)」としています。しかし、インフルエンザウイルスが盛んに排出されるのは症状が出てから24-48時間程度がピークとされていますので、そうした状況を鑑みて学校保健安全法の登校禁止期間は定められています。

 

インフルエンザにはワクチンがあります。ワクチンを打てばインフルエンザ対策は万全なのでしょうか?ワクチンを打ってしまえばインフルエンザにはかからないと期待してしまいがちですが、必ずしも安心とは言い切れません。

 

麻疹のワクチンは感染をほとんど予防できますが、インフルエンザワクチンは残念ながら万全ではありません。インフルエンザワクチンを打ってもインフルエンザにかかることはあります。

2015年度からインフルエンザワクチンは4価ワクチンになりました。4価ワクチンとは多くの種類があるインフルエンザウイルスの中でも最も流行りそうな4種類のウイルスの型が含まれているということです。WHO(世界保健機構)が世界各国の感染状況の情報を集めて、流行を予測して決め手となりそうな4つの種類を決めています。

 

子どもではワクチンを打つと20-50%程度インフルエンザにかかりにくくなると言われており、18-64歳の大人では70%程度、65歳以上で34-55%程度インフルエンザにかかりにくくなると考えられています。また、ワクチンの最大の効果は重症化を防ぐことと考えられています。特に高齢者や免疫不全患者や心臓・呼吸器に持病のある人、子どもはワクチンを打って重症化を予防するべきです。

 

インフルエンザワクチンはインフルエンザの持っている情報(ここでは抗原)を免疫細胞に覚えさせることを行っています。抗原の情報を覚えた免疫細胞は、次に同じ抗原が入ってきてもそれに対する効果的な対策が取れるようになります。この流れのことを抗体獲得といいます。

しかし、インフルエンザウイルスは非常に変異するスピードが早いことが分かっています。つまり、ウイルスは自分を常に変化させており、ウイルスの抗原を決定するタンパク質を支配する遺伝子を変化させながら生きています。この遺伝子が大きく変わる場合を不連続抗原変異(antigenic shift)といい、小さな変化を連続抗原変異(antigenic drift)といいます。

インフルエンザワクチンはインフルエンザの抗原情報を免疫細胞に覚えさせるのですが、ウイルスはこれを回避するかのように抗原を変化させているのです。いわばワクチンとウイルスのいたちごっこが起こっているのです。

 

インフルエンザワクチンを打つと、インフルエンザにかかりにくくなり、インフルエンザにかかっても重症になりにくくなります。実はこれ以外にもインフルエンザワクチンの重要な価値があります。

それは集団免疫と呼ばれる効果です。これは多くの人がワクチンによるインフルエンザに対する免疫を持つことで、周囲にうつさないようにすることです。

つまり、社会全体で感染する人を減らす効果があり、特に高齢者などの免疫の落ちている人をインフルエンザから守ってあげる効果があります。

 

だれでもインフルエンザにかかりたくはありません。高熱や関節痛と言った症状は非常につらいものです。ここではいかにインフルエンザにかからないようにするかを説明していきます。

 

インフルエンザの流行期は12月から翌年の2月であることが多いです。しかし、この時期以外にもインフルエンザにかかることはあります。沖縄では夏でもしばしばインフルエンザが流行します。ほかの都道府県でも季節外れの流行はときどき現れます。現在日本全土で簡単に行き来できる交通網がありますので、いつどこでインフルエンザの季節外れの流行が起こってもおかしくありません。

 

インフルエンザを予防するおすすめの方法を挙げます。

  • 手洗い
  • うがい
  • マスク
  • インフルエンザワクチン

手洗い・うがいは習慣にするといいでしょう。マスクも流行を広げないために役立ちます。特にインフルエンザが流行する兆しが見えたら、これらを徹底することが重要です。

インフルエンザワクチンは毎年打つことをおすすめします。自分自身を守る意味でも社会全体を守る意味でもワクチンをみなで打つという考え方が大切です。

 

インフルエンザウイルス感染に限らず、どんな病気においても正しい知識を持つことは大事です。病気の正しい情報を知らないまま想像だけで対策を考えたところで、生活の幅が狭くなることはあっても、効果を期待できるとは言えません。現代の医療は進歩しており、病気の知識(原因、感染性、治療法、予防法など)について分かっていることも多いです。ぜひ病気の正しい知識を知っておくようにしてください。

とはいえ、インターネットや書籍、テレビ、新聞などの中には、残念ながら不適切な医療情報も多く存在しています。その中から正しい情報だけを抜粋することは簡単ではありません。つまり、正しい知識を得ようと情報を探しても、どれが正しい知識なのかなかなか見分けがつかないというジレンマがあるのです。

そこでメドレー社では、「病気のことならメドレー」と思って使ってもらえるよう、より正しい情報を分かりやすく発信していくことに尽力しています。弊社の情報を読むことがみなさんにとっての安心になるようにこれからも創意工夫してまいります。

ロキソニンに関する質問を頂いたので一部追記しました。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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