1. インフルエンザワクチンについて知ろう
その年ごとに人数は異なりますが、毎年多くの人がインフルエンザにかかります。ほとんどの人は特別な治療を必要とすることなく自然に治りますが、一部には死亡する人も報告されています[1]。たとえば、2009年に新型インフルエンザの大流行〔パンデミック(H1N1)〕が起きた際には、日本では2,100万人もの人がインフルエンザにかかり、198人が死亡しました[2]。
そんな少し怖いインフルエンザに対する最良の予防方法はワクチンです。インフルエンザワクチンには、多くのメリットがあること[3]は後述しますが、まずは、ワクチンが身体の中でどのような働きをするかについて説明をします。
インフルエンザワクチンの働き
インフルエンザウイルスの中には多くのタイプがあります。これを株と言います。インフルエンザワクチンには、その年に最も流行が予想される株のインフルエンザウイルスに関連するタンパクが含まれています。2018年では、国内で広く用いられているワクチンには、A型2株(H1N1株とH3N2株の2種類)とB型2株(山形系統株とビクトリア系統株の2種類)の4つの株が入っています[4]。これを4価ワクチンと言います。
インフルエンザワクチンを接種すると、身体の中の免疫細胞が上記のウイルスを覚えて、体内に侵入してきたウイルスを攻撃する抗体を作り出すことができます。予防接種をしてから十分な抗体が作られるまでには約2週間かかります。十分な抗体ができると、ワクチンに含まれている4つの株のインフルエンザウイルスに対する防御機構を獲得することができます。
2. インフルエンザワクチンのメリット
インフルエンザワクチンには以下の6つのメリットがあります。
1)発症を予防する
インフルエンザワクチンの有効性はその年によってさまざまですが、流行したウイルスの株とワクチンに含まれていた株がよくマッチしているシーズンでは、接種をした人の40-60%に発症の予防効果があります[5]。
2)入院リスクを減らす
インフルエンザワクチンを接種した人では、入院リスクを減らすことができます[3,6-8]。
3)子どもの命を救うことができる
ワクチン接種により、子どもがインフルエンザで死亡するリスクを減らすことができます[9]。
4)重症化の予防する
ワクチン接種により、インフルエンザにかかってしまっても重症化するのを防ぐ効果があります[10,11]。
5)妊婦と赤ちゃんを守ることができる
ワクチン接種によって妊婦がインフルエンザ関連呼吸器感染症にかかるリスクを半減させることが可能です。また、妊娠中に予防接種を受けることで、出産後にインフルエンザから赤ちゃんを守ることもできます。(母親は胎盤を通して赤ちゃんに抗体を渡します。)
6)ワクチンによる集団予防効果
予防接種を受けられない人や、免疫力が低下して感染症にかかりやすい人がいます。周囲の人が接種してインフルエンザにかかりにくくなることで、これらの人がインフルエンザにかかってしまうリスクを低下させることができます[12]。これを集団免疫と呼びます。
3. 誰が予防接種を受けるべきか?
6か月未満の赤ちゃん以外の人に対して、毎年インフルエンザワクチンの接種を受けることが勧められています〔米国予防接種諮問委員会(ACIP)〕。多くの人がインフルエンザの抗体を持つことは、個人の観点のみならず社会全体の観点(「集団免疫」の観点)からも重要です。
また、次に当てはまる重症化のリスクが高い人にとっては特に重要です[13]。
【インフルエンザの重症化リスクが高い人[13]】
- 5歳未満の子ども(特に2歳未満)
- 65歳以上の高齢者
- 妊婦(妊婦については接種することで新生児に対する予防効果も期待できる)
- 老人ホーム・長期療養施設に入所中の人
- 以下の病気をもつ人
- 気管支喘息
- 神経疾患
- 慢性肺疾患
- 心疾患(先天性心疾患、慢性心不全など)
- 血液疾患
- 糖尿病などの内分泌疾患
- 慢性腎疾患
- 慢性肝障害
- 免疫機能が低下している人(悪性腫瘍の人、ステロイドを使用中の人、HIVに感染している人)
- 長期アスピリン投与を受けている19 歳未満の人
- 肥満のある人
インフルエンザワクチンには発症を予防するだけでなく重症化を予防する効果もあります。特に上記に当てはまる人やその周囲の人は、毎年流行前に予防接種を受けるように心がけてください。
ワクチンを接種すべきではない人は?
一方で、ワクチンを接種すべきでない人もいます。
- 6ヶ月未満の子ども
- ワクチンに対してアレルギーがある人
これらに当てはまるかどうかは、ワクチン接種を受ける時に医療機関で聞かれます。
4. インフルエンザワクチンはいつ接種すべきか?
インフルエンザの流行前にワクチンを接種する必要があります。インフルエンザは例年12月から4月頃に流行し、1月末から3月上旬に流行のピークを迎えることが多いため、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましいと考えられます[14]。日本では13歳以上の人は1回接種、13歳未満の子どもでは2回接種が推奨されています。子どもの場合は間隔を2-4週あけて2回の接種が勧められているため、流行時期の前までに接種を計画的に行ってください。
なぜ毎年接種が必要なのか?
麻疹・風疹ウイルスのワクチンは2回接種(赤ちゃんのうちに1回、小学校入学直前にもう1回)でほとんどの人が感染を予防できます。しかし、インフルエンザワクチンは毎年接種する必要があります。それには以下の2つの理由があります。
- ワクチン接種で獲得したウイルスに対する防御機構は時間経過とともに低下してしまうため
- インフルエンザウイルスは絶えず変化しているので、その変化に対応する必要があるため
去年接種したから今年はインフルエンザワクチンを打たなくてもよい、というわけではないのです。
5. よくあるインフルエンザワクチンの疑問にお答えします
インフルエンザワクチンは感染を予防するものです。病気を治したり症状を和らげたりする治療ではないので、その効果をなかなか実感できません。そのため、インフルエンザワクチンに関しては多くの疑問が聞かれます。
ここではその代表的な疑問に関してお答えします。
予防接種していても、インフルエンザにかかってしまう可能性があるか?
残念ながら予防接種を受けていてもインフルエンザにかかってしまう可能性があります。これは、主に以下の理由によります。
- 予防接種を受ける直前または予防接種を受けてから十分な抗体産生がされる前にインフルエンザウイルスにさらされたため
- インフルエンザワクチンに含まれているのとは別の株のインフルエンザウイルスにさらされたため
インフルエンザワクチンは接種した全員に効果が見られるわけではないので、手洗いやアルコール消毒といった一般的な予防対策も欠かさないようにしてください。
インフルエンザワクチンの副反応はあるか?
インフルエンザワクチンで副反応が出ることがあります。比較的多くみられる副反応には、接種した場所の発赤、はれ、痛みなどがあります[14]。接種した人の10-20%に起こりますが、通常2,3日でなくなります。全身性の反応としては、発熱、頭痛、寒気、だるさなどが見られます。接種した人の5-10%に起こり、こちらも通常2,3日でなくなります。ショック、アナフィラキシー様症状といった重篤な症状は通常にまれなので、過剰に心配する必要はありません。
インフルエンザワクチンは完璧ではありませんが、現状では最良の予防法です。接種をした本人だけではなく、周囲の人にもメリットがあります。接種を検討されている人は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
1) 今冬のインフルエンザについて (2016/17シーズン). 国立感染症研究所
2) パンデミック(H1N1)2009発生から1年を経て. IASR Vol. 31 p. 250-251: 2010年9月号.
3) Key Facts About Seasonal Flu Vaccine. CDC.
4) 2018/19シーズン インフルエンザワクチン株. 国立感染症研究所
5) Vaccine Effectiveness - How Well Does the Flu Vaccine Work?. CDC.
6)Ferdinands JM, et al. Effectiveness of influenza vaccine against life-threatening RT-PCR-confirmed influenza illness in US children, 2010-2012. J Infect Dis. 2014 Sep 1;210(5):674-83.
7) Rondy M, et al. Effectiveness of influenza vaccines in preventing severe influenza illness among adults: A systematic review and meta-analysis of test-negative design case-control studies. J Infect. 2017 Nov;75(5):381-394.
8) Study Shows Flu Vaccine Reduces Risk of Severe Illness. CDC.
9) CDC Study Finds Flu Vaccine Saves Children’s Lives. CDC.
10) New CDC Study Shows Flu Vaccine Reduces Severe Outcomes in Hospitalized Patients. CDC.
11) Thompson MG. Influenza vaccine effectiveness in preventing influenza-associated intensive care admissions and attenuating severe disease among adults in New Zealand 2012-2015. Vaccine. 2018 Sep 18;36(39):5916-5925.
12) Reichert TA, et al. The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza. N Engl J Med. 2001 Mar 22;344(12):889-96.
13) People at High Risk of Developing Serious Flu–Related Complications. CDC.
14) インフルエンザQ&A. 厚生労働省.
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。