2018.09.11 | コラム

風疹流行に際し感染症内科医から伝えたいこと:風疹の症状、合併症、ワクチン(予防接種)など

予防接種歴のない30-40代の男性を中心に流行中

風疹流行に際し感染症内科医から伝えたいこと:風疹の症状、合併症、ワクチン(予防接種)などの写真

2018年9月現在、首都圏(主に東京、千葉、神奈川)を中心に風疹(3日ばしか)が流行しています。患者の多くは、予防接種歴がない、もしくは不明の30-40代の男性です。風疹の症状は発熱、発疹、リンパ節腫脹が特徴で多くが軽症で経過しますが、注意したいのは妊婦への感染です。妊娠初期に風疹ウイルスに感染するとお腹の赤ちゃんが先天性風疹症候群を発症する可能性があります。先天性風疹症候群は白内障、先天性心疾患、難聴などの症状を起こします。

また、現在の流行状況は感染者数が14,000人を超えた2012年から2013年の大規模流行前の状況に酷似しており、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの影響も懸念されています。

このコラムでは風疹について、医療者の立場から一般の方々に知っていただきたいポイントを、メドレーコラムでおなじみの感染症内科医伊東と医学生古谷との対話形式で解説していきます。

 

1. なぜまた風疹が流行してしまうのか?

伊東「はぁ・・・。」

古谷「どうしたんですか?ため息なんてついて。」

伊東「風疹が流行しているからだよ。この間の麻疹の流行のときにも言ったけど、風疹もさ、ワクチンで防げる病気なんだよ。でも、結局、喉元過ぎれば熱さを忘れるというか、流行を過ぎてしまうとみんな無関心に戻ってしまうみたいなんだよね。」

古谷「そうですよねー。でも、重要なことだからこそ、何度も情報発信していったらいいじゃないですか!」

伊東「お、意外と前向きな発言。まぁ、そうだね。じゃあ、解説いきますか。」

古谷「お願いします!・・・で、改めて今回の首都圏を中心とした風疹流行の理由は何でしょう?やはり、ワクチンの未接種が関係してますか?」

伊東「残念ながらそのとおりなんだ。日本では2006年4月から麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)が2回接種(1歳の時と小学校入学前1年間の2回)として、定期予防接種になったんだ。けれども、それ以前は接種がされていなかったり、されていても1回接種だったり、女性だけの接種だったんだ(図1)[1]。」

 

 

古谷「ふんふん、なるほど。僕は24歳なので2回接種世代ですが、36歳の伊東先生世代は1回接種のみですね。」

伊東「ま、僕は自分で2回接種したけどね。実際に30-50代の成人男性は風疹の免疫を持っていないことが多くて(図2)[1]、今回の首都圏の風疹患者の多くが予防接種歴がない、もしくは予防接種歴不明の30-40代の男性が中心になっているんだ(図3)[1]。」

 

 

 

古谷「逆に0ではないですけど、今回の流行で感染した患者の中で2回接種の人はかなり少ないですね。やはりワクチンが有効なのですね。」

伊東「そのとおり。ワクチンは1回接種で約95%、2回接種すると約99%の人が免疫を獲得するんだ[2]。ちなみに2012年から2013年の風疹患者数が14,000人を超えた大規模流行は、今回と同様に患者の90%が成人で男性が女性の3倍だったんだ[3]。つまり、今回と本当に状況が似ているんだよ。2014年3月に厚生労働省が風疹に関する特定感染症予防指針をまとめていて、2020年までに日本から風疹を排除しようということになったんだけど、結局、また流行してしまったんだ・・・。」

 

◆ポイント
  • 風疹は予防接種歴がない(もしくは不明の)30-40代の男性が流行の中心になっている。
  • MRワクチンの2回接種は風疹予防の有効性が高い。

 

2. 風疹の症状とは?

伊東「さて、風疹の症状は知っているかな?」

古谷「えーと・・・発熱発疹リンパ節腫脹が有名ですよね。」

伊東「お、いいね。その3つは典型的な症状だね。ただ、風疹の症状は軽度のことが多くて、最大で50%の患者で不顕性感染(症状が出ない)なんだ[4]。」

古谷「そうなのですか。では、症状が出る場合の患者さんの経過はどのようなものですか?」

伊東「良い質問だね。まず、風疹ウイルスに感染した後8日目から後頚部のリンパ節腫脹が現れて、2週間目くらいから熱が出て、発疹が出る、といった経過かな[5]。子どもと違って大人だと、関節痛が出ることも多いよ[4](図4)。」

 

 

古谷「なるほど。でも、症状だけだと他のウイルス性の感染症と混同してしまいそうですね。」

伊東「そうなんだよ。麻疹のときにも言ったけど、発熱などの症状で病院に来る患者には、予防接種歴と一緒に海外や国内の旅行歴、さらに人が多く集まるイベントに行ったか、周囲に同様の症状の人がいるかなども必ず詳しく聞いて、風疹の感染リスクが高いかどうかを知っておかないといけないね。」

古谷「そうでした。自分が風疹だと思って受診する患者なんてまれですもんね。」

伊東「そうそう。基本的には、医者である僕らが疑って検査しないと診断できないし、感染がどんどん広がってしまう可能性があるから注意が必要だね。」

 

◆ポイント
  • 風疹の症状は発熱、発疹、リンパ節腫脹だが、症状がはっきりしないこともある。
  • 旅行や人が多く集まるイベント、周囲の流行状況は風疹ウイルスへの感染リスクなので、受診時に医療者に伝えるようにする。

 

3. 風疹の合併症と死亡率は?

古谷「風疹に限ったことではないですけど、自然に罹ったほうが予防接種を受けるよりも強力な免疫力がつくので良い、とか予防接種に頼らずに病気をうつしあって免疫をつければよい、なので予防接種は必要ありません!ワクチンは毒です!なんて、言われてしまった場合にはどうしたらいいでしょう?」

伊東「麻疹のときにも言ったけど、それは誤解だよね。風疹は麻疹より軽症で経過することが多いけど、まれに死ぬことがある病気だし、何しろ妊婦さん、特に妊娠初期の妊婦が風疹にかかってしまうと赤ちゃんが先天性風疹症候群にかかる危険性があるってことを知ってもらいたいな。」

古谷「自分だけの問題ではないですからね。」

 

伊東「その通り。特に先天性風疹症候群の問題は深刻で、2012年から2013年の流行の際には、この流行に関連した先天性風疹症候群の子どもが45人と報告されたんだ・・・[6]。ちなみに先天性風疹症候群の症状は分かるかな?」

古谷「はい、白内障先天性心疾患難聴です。」

伊東「その3つが典型的だね。他に緑内障、色素性網膜症、紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞なども起こるし、胎児死亡、自然流産、早産にもつながるんだ[4]。」

古谷「重い症状が多いですよね。」

伊東「そうなんだよ。特に妊娠初期に風疹になると赤ちゃんが重篤になりやすい。」

古谷「妊婦とその子どもは絶対に守らなきゃですね。」

 

伊東「うん。ちなみに風疹に感染した人自身の合併症は、まれだけど大人では見られることがあるよ[4]。」

古谷「実際にどんな合併症があるのですか?」

伊東「一つは、関節痛と関節炎かな。特に成人女性に多くて最大70%の人に起こる。」

古谷「怖い合併症もあるのですか?」

伊東「やはり大人に多いのだけど、約6,000人に1人の割合で脳炎が発症するんだ。死亡率は最大で50%!」

古谷「めちゃくちゃ怖いですね。ワクチンで予防できるのなら予防したいですね。」

伊東「うん、ちなみに表1に3種混合ワクチン(MMR:麻疹、ムンプス、風疹)の副反応をまとめるね[7]。」

 

表1:MMRワクチンの副反応(文献7より)

副反応の症状 頻度
発熱 5-15%
皮疹 5%
血小板減少 1/30,000-40,000接種
リンパ節腫脹 まれ
アレルギー反応 まれ

 

古谷「ワクチン自体の副反応は軽微なものが多いですね。感染した時の危険性を考えると、接種を勧めない理由はないですね。」

伊東「そのとおりだね。でも、妊婦をはじめとして風疹ワクチンを接種することができない人、いわゆる接種不適当者がいるから注意が必要だよ。これは後で説明するね。」

 

◆ポイント
  • 妊婦が風疹に罹患すると胎児に感染し先天性風疹症候群を引き起こす。
  • 白内障、先天性心疾患、難聴は先天性風疹症候群の3大症状。
  • 妊娠初期の風疹罹患で胎児が重篤になりやすい。

 

4. 風疹の感染経路と感染力は?

伊東「じゃあ、古谷くん、風疹がどうやって感染するかは知っているかな?」

古谷「感染経路ですか。飛沫感染接触感染です[4]。」

伊東「いいね、じゃあ、飛沫感染を説明できる?」

古谷「えーと、咳やくしゃみをした時に飛び散った唾液などの飛沫が近くの人の鼻や口に入り込んで感染すること・・・でしょうか?」

伊東「すばらしい。じゃあ、接触感染は?」

古谷「皮膚や粘膜の直接的な接触、もしくは手や環境表面(手すりやドアノブなど多くの人が触れるもの)を介しての間接的な接触で感染することです。」

伊東「OK!なので、予防にはマスクと手洗いが重要だね。ちなみに、基本再生産数はどれくらい?」

古谷「・・・基本再生産数って何でしたっけ?」

伊東「おっと。基本再生産数というのは、感染者1人が他人へ感染させる平均人数のことで、感染力の高さの指標のことだよ。麻疹の基本再生産数が12-18くらいととても高くて、インフルエンザは2-3。風疹の基本再生産数は5-8だから、それなりに感染力は高いと考えられるかな[8,9]。」

古谷「そういえば麻疹の時に教えてもらいましたね。」

 

伊東「ちなみに感染者の身体からウイルスが排出される期間は発疹が出る前後1週間で、学校保健法では発疹の消失までを出席停止期間として設けているんだ。大人の場合もそれに準じて発疹が消失するまでは出勤停止が必要だね。ちなみに、風疹の感染症は最大で50%が不顕性感染と言ったけど、実は症状がなくても風疹ウイルスを排出しているんだ。」

古谷「えー!じゃあ、感染に気づかずにウイルスを排出してしまうことがあるってことですか。怖いですね。やはりワクチン接種をして免疫をつけることが重要ですね。」

 

◆ポイント
  • 風疹ウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染。
  • 風疹の基本再生産数(感染者1人が他人へ感染させる平均人数)は5-8。
  • 風疹の予防にはワクチン以外にもマスク、手洗いが有効。
  • 発疹が消失するまでは出席・出勤停止。
  • 症状が出ない不顕性感染でも風疹ウイルスが排出される。

 

5. 風疹の発症と感染の拡大をどのように予防するのか?ワクチン(予防接種)の重要性

伊東「さて、ここまでの話で風疹の予防に最も大切なことはもう分かったよね?」

古谷「ワクチンですね。」

伊東「その通り。繰り返しになるけど風疹はワクチンで予防可能だからね。ちなみに、麻疹ワクチンを1歳以上で2回受けたことがない場合は、風疹予防と麻疹予防の両方の観点からMRワクチンを接種すると良いね。ただ、さっき言ったように接種不適当者がいることには注意が必要だ。」

古谷「具体的にはどんな人ですか?」

伊東「まず、妊婦。先天性風疹症候群のことは心配だと思うけれども、当の妊婦は妊娠中は風疹含有ワクチンの接種は受けられないんだ。あと、受けた後は2か月間妊娠を避ける必要がある。だから、妊娠の予定がある女性は前もってワクチン接種をしておくべきなんだ。詳しくは、国立感染症研究所の「麻疹・風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方」[10]にある接種不適当者を参考にしてほしい(表2)。」

 

表2 接種不適当者(文献10より)

  • 明らかな発熱を呈している者
  • 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
  • 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
  • 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
  • 妊娠していることが明らかな者
  • 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

 

古谷「特に優先して接種すべき人を教えてください。」

伊東「定期接種対象者(1歳児と小学校入学前 1 年間の幼児)と妊娠を予定している女性以外だと、妊婦の周囲の人、特に妊婦の家族かな。妊婦はワクチン打てないからね。あとは、30-50代の男性で風疹にかかったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMR ワクチンを受けておくことが奨められるね。」

 

古谷「ちなみに、ワクチンを打ったかどうか接種歴がわからない人にワクチンを打ってもよいのでしょうか?」

伊東「再度予防接種をうけても特別な副反応が起こることはないので、母子手帳みたいなきちんとした接種記録がなければ接種すべきだね[2]。ほら、人の記憶はあてにならないからさ。」

古谷「過去にかかったことがあると言われている人も打ったほうが良いですか?」

伊東「風疹と言われていても実は風疹じゃなかったということもあるし、風疹にかかったことが血液検査で証明されて十分な抗体を持っているのでない限りやっぱり打ったほうが良いね[2]。」

古谷「なるほど。」

 

伊東「今回の話をまとめると、風疹予防にはワクチンが重要だよってことなのだけれども、本音としては、こうしてニュースになる前、つまり非流行時にきちんとワクチンを打っておいて欲しいんだよね。流行してから接種しようとしてもワクチンが品薄になって打てなくなる人がでるし、なにしろ、風疹から赤ちゃんを守りたいからね。」

 

◆ポイント
  • ワクチン接種の不適当者に該当しないことを確認した上でワクチン接種が必要かを検討する。
  • 妊娠の予定がある女性、妊婦の家族、30-50代の男性で風疹にかかったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は早めのワクチン接種が推奨される。

 

風疹はワクチンで予防できる病気です。赤ちゃんを先天性風疹症候群から守るためにも、本コラムをぜひ参考にして必要に応じてワクチン接種を検討してください。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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